ガザへの軍事行動をめぐりICCの逮捕状発出や欧州各国の態度変化が相次ぎ、かつてない四面楚歌の状況に追い込まれつつあるネタニヤフ首相。これまでイスラエル擁護の姿勢を取り続けてきたトランプ大統領ですが、ここに来て重大な選択を迫られる事態となっています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ネタニヤフ政権への圧力を強める国際社会の動きと、ウクライナ戦争を含む複数の紛争が連動する構図を詳しく解説。その上で、トランプ政権に求められる役割と世界的な戦争連鎖を食い止めるために必要な条件を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:Checkmate for Netanyahu?! 秒読みに入った第5次中東戦争とジレンマを抱えるトランプ外交
止まらないイスラエルの暴走。秒読みに入った第5次中東戦争とジレンマを抱えるトランプ外交
“Israel has written one of the darkest pages of human history and the World is still holding the pen.”
(イスラエルは人類史におけるもっとも暗い1ページを記しているが、世界は未だペンを握りしめたまま、何も行動を起こすことが出来ていない)
被占領パレスチナに関する国連特別報告者(Special Rapporteur on the Human Rights in the Palestine Territories)を務めるフランチェスカ・パオラ・アルバネーゼ女史が、「終わることないイスラエルによるガザ地区における非人道的な行為と国際社会の無力さ」を非難している一言です。
アメリカ政府では、トランプ政権になって以降、アルバネーゼ女史に対して、【特別報告者として中立の立場を取らなくてはならないにもかかわらず、反イスラエルの立場を助長している】と非難し続けてきましたが、今回出された最新の報告書とICC(国際刑事裁判所)からのネタニエフ首相とガラント元国防相に対する逮捕命令(罪状はガザ地区におけるジェノサイド)が発出されたことをきっかけに、アメリカ連邦議会議員27名が(賛同する議員数は、超党派で増え続けているとのこと)「ネタニエフ首相は明らかに無差別殺戮と人道支援の提供義務を怠り、パレスチナ人を絶滅と絶望の淵に立たせる先頭に立ち、いろいろな口実をつけて、今なお殺戮を続けている」としてネタニエフ首相およびその側近たちに対して即時辞任と国際的な裁きの場に出頭するように要請する立場の変更を行い、非常にイスラエル寄りとされるトランプ大統領および政権に強大な圧力をかけ、トランプ大統領を非常に困難な立場に追いやっています。
来年秋に議会中間選挙を控え、このところトランプ大統領と共和党に対する支持率低下が顕著になってきている状況下では、逆風にあえて顔を向けず、これまで通り票田としてのユダヤ人グループとキリスト教福音派からの支持を取りに行くか、それとも、あまり期待はできませんが、ついにイスラエルとの関係を切りにかかるか、とても難しい選択が迫られています。
唯一と言っていい(アルゼンチンという例外を除き)イスラエル支持国であるアメリカが対応を国内外から迫られる中、国際社会はじわりじわりとイスラエルに対する包囲網を狭め、ネタニエフ首相とその政権を追い込もうとしているように見えます。
例えば、昨年にICCがネタニエフ首相とガラント国防相にたいして逮捕状を発出して以来、その逮捕勧告を支持する国は増えており、トルコやカナダ、フランス、英国、オーストラリア、オーストリア、スペイン、メキシコ、ニカラグア、そしてコロンビアなどが「もしネタニエフ首相とガラント元国防相が入国した場合には、国境において(空港において)即時に逮捕する」と明言しているほか、ノルウェーが今週に入り、「ネタニエフ氏は一刻も早く逮捕されるべきであり、関係機関に対して即時対応を求める。さもなければ、国際法による統治の原則、およびRule of Lawの原則は根本から崩れ、国際社会はダブルスタンダードの非難を逃れることはできない」と非常に強い宣言を行い、“人道に対する罪を犯し続けるイスラエルとそのリーダーであるネタニエフ首相などの責任論を一刻も早く問うべき”との議論を再燃させています。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
一枚岩の対応で完成しつつある対イスラエル包囲網
ノルウェーの隣国スウェーデンはここにきて公式にパレスチナ国家の樹立を支持すると表明し、「もしイスラエルがその当然の権利(self-determination)を引き続き妨害し、危害を加え続けるのであれば、スウェーデン政府はイスラエルとの一切の外交的なつながりを絶たざるを得ない」と、すでにイスラエルの凶行を強く非難し、パレスチナ国家の樹立を支持しているフィンランドやデンマークと併せ、北欧・スカンジナビア半島の諸国は全て一枚岩の対応を推し進めることになりました。
さらには、ICCがネタニエフ首相に逮捕状を発出した際には「国際社会は法の支配の原則に基づき、冷静な対応が必要」と距離を置いていたのですが、今週に入り中国政府は公式にネタニエフ首相に対して「ICCおよびICJによる裁定を尊重し、ガザに対するいかなる武力行使も、また非人道的な行為も、即時に停止しなくてはならない。そしてこれまでの非人道的な行いを先頭に立って指揮してきたリーダーの責任は免れることは出来ず、しかるべき形で法による裁きを受けなくてはならない」と、イスラエルに対する態度を硬化させたことには非常に驚いています(一説によると、今、ongoingの米中間の綱引きにおいて、対アメリカ攻撃要素の一つとして、アメリカによるイスラエルへの対応の矛盾を指摘しているという分析もありますが、実際のところは私にも分かりません)。
そして極めつけは、これまでイスラエルに対しては、ホロコーストの罪滅ぼし的な感覚もあって、いろいろな行いを大目に見て、常に「ドイツ国家が存在する理由」として支持してきたドイツ国内で大きな転換が起きてきています。
最も顕著なのが、今週ミュンスターの行政裁判所上級審は「国内においてすべての反イスラエルデモを犯罪として禁止するblanket banは行き過ぎであり、それは国民に認められるfreedom of speechの権利を侵害するものだと考えられる。明らかな行き過ぎやイスラエルの排除を求めるようなメッセージを掲げるデモについては禁止されるべきものと考えるものの、パレスチナ国家の樹立を支持するメッセージを掲げるデモや、イスラエルによるガザ市民への凶行に抗議する集会などは、国家権力によって一律に抑圧すべきものではない」という評決を発し、司法当局として、政府に対して対イスラエル政策および姿勢の再考を促すという動きです。
現時点ではメルツ政権は公式な反応は示していませんが、パレスチナ国家の樹立については言及していないものの、イスラエルによる明らかな人権侵害や非人道的な行為に対しては非難し、即時停止を要求する姿勢をより鮮明にしています。
このドイツの“変心”が、同じくG7内でイスラエルと距離を置きつつ、パレスチナ国家の樹立を明言してこなかったイタリア政府(でもレバノンにおける国連暫定軍とイタリア軍部隊に対する攻撃を行ったイスラエルには怒り心頭)の態度にも変化が見られています。
じわりじわりと欧州における対イスラエル包囲網が固まり、一枚岩の対応を取ってイスラエルに圧力をかける仕組みが完成しつつあります。
そしてその波はイスラエル外のユダヤ人コミュニティーにも広がってきています。
例えば、一応、ネタニエフ首相がポーランド系ユダヤ人であることから、ポーランド政府はこれまでシンパシーを示してきたようですが、さすがに堪忍袋の緒が切れたようで、ネタニエフ首相が法の裁きを受け、同時に即時にガザに対する蛮行を停止するように要求し始めました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、自身がユダヤ人ですが、対ロ戦争の真っただ中にありつつ、イスラエルによる蛮行には嫌悪感を示しており、イスラエルの権力層に多くのウクライナ系ユダヤ人がいるにもかかわらず、決して与せず、非難を強めています(ただし、まだプロ・イスラエルのトランプ大統領の関心を惹きつけておくために、表立った非難は控えているようですが)。
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一触即発の状況が再現されかねぬイスラエルとアラブ諸国
今、ロシア・ウクライナ戦争の“仲介”を行っているウィトコフ特使も、ロシア側のウィシャコフ大統領補佐官・ドミトリエフ特使もユダヤ人でありますが、「ユダヤ人とイスラエル人を切り離したい」という意図で共通していると思われ、ウィトコフ特使については、トランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏(同じくユダヤ人で、かつイスラエル人でもある)と共に中東和平の協議にもコミットしているにもかかわらず、自身のユダヤ人としてのバックグラウンドを、あえてイスラエルとは分離するような姿勢を示すようになっています。
この姿勢は、あくまでも個人的な意見ですが、調停・仲介上は“いいこと”なのですが、イスラエル政府はそのウィトコフ特使のデリケートな距離感にもっと注意を払うべきかもしれません。
まさにイスラエル政府・軍、そしてネタニエフ首相は四面楚歌の状況が日に日に鮮明になってきているわけですが、かといってネタニエフ首相も、自身の政治生命への強いこだわりと、訴追されることを回避したいという保身から、あえて耳を貸さず、意に介さないように振舞っています。
常日頃から「イスラエルは単独でも自国の防衛に全力を尽くすし、国家・国民に対するいかなる脅威とも戦い、排除できる」と対決姿勢を示さず、困った状況になると使い古されたanti-Semitismや反シオニズム運動という切り札を使い、攻撃者を非難してきたネタニエフ首相ですが、このところさらに旗色が悪くなったのを感じ取ったのか、国際社会が求め、10月10日に発効している停戦合意にも含まれたガザに対する人道支援の即時実施という合意を覆し、ガザに対するすべてのチェックポイントを閉鎖するという蛮行に打って出ました。
これを受けて、アメリカのトランプ大統領の働きかけでイスラエルとの融和の道を模索してきたサウジアラビア王国も、モハメッド・ビン・サルマン皇太子(MBS)が公式に「サウジアラビア王国はイスラエルに対する外交的・経済的なチャンネルを未来永劫閉鎖する」と述べ、【アブラハム合意を通じたイスラエルとアラブ社会の関係改善の道(トランプ大統領が強く求めていた)をアラブ側から拒絶する決定】を行いました。
これにより、すでにイスラエルとのアブラハム合意を締結していたUAEもその破棄を宣言し、バーレーンもそれに続くことが予想されるため、イスラエルとアラブ社会の対立が今後、さらに強まり、一触即発の状況が再現されることになると懸念しています。
すでにアラブ諸国はトルコやイラン、そして“なぜか”アゼルバイジャンやパキスタンを含んだ協議を緊急に行い、今後の対応について話し合っている模様ですが、その中で、トランプ提案のISFへの参加を表明していたトルコは、まだその可能性を堅持しつつ、“イスラエルとハマス双方が合意を履行し、人道支援が即時に実施され、人道的な危機が回避されること”を条件として掲げ、イスラエルとアメリカにプレッシャーをかける姿勢を、まだ持っていますが、現在、マルチフロントで協議を行っているトルコ政府のカウンターパートによると、「その呼びかけの消費期限はさほど長くはなく、トルコをはじめとする協力国の部隊の安全の確保と武力衝突の停止が保証されない事態が表出した場合には、合意を覆し、部隊の派遣を見送るだけではなく、合意の履行に対する協力も見直さざるを得ないことをイスラエルも、アメリカも理解しないといけない」とエルドアン大統領が指示しているらしく、トランプ大統領が“成功”とアピールするガザ停戦ディールの命運も付きつつあることが覗えます。
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「停戦に向けた譲歩」を行うことなど考えられないロシア
トランプ大統領としては、まだ公的に非難はしていませんが、イスラエルにメンツをつぶされた形になり、すでに関心がロシア・ウクライナ戦争の終結に向けられていたにもかかわらず、再度、中東案件に引き戻され、明らかにご立腹だという情報が入ってきていますが、それがどのような影響を及ぼすことになるのか心配です。
現行のロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた合意内容は、米ロ間で水面下で進められた28項目(米国政府内でも否定的な見解あり)を、欧州の支援を得たウクライナが押し返して、ジュネーブのアメリカ政府との協議で19項目にまで絞り込んだと言われていますが、まだ領土割譲や“ウクライナのNATO非加盟”については合意できておらず、今後、首脳間での交渉に委ねられるとのことで、まだ合意には至っていません。
さらには米ロ間での“作文”を否定されたロシア政府側としては、新しい修正案の受け入れに対しては非常に否定的な姿勢を明確にしていることもあり、非常に楽観的な報道とは裏腹に、状況は全然前進していないものと思われます。
トランプ大統領が関与した他の和平合意と同じく、ロシア・ウクライナ間の停戦合意の内容も非常に表面的なもので、かつ抽象的な表現が目立ち、仮に“合意”に至ったとしても、実際のExecutionに向けた協議はこれからで、まさに総論賛成・各論反対という状況が表出し、仮にすべてがうまく進んだとしても、短く見積もって1年から2年間は要するような交渉が容易に予想できますが、早急に成果を欲するトランプ大統領としては、そんなには待つことが出来ず、合意を急ぐため、確実にロシアの思うつぼになると考えられます。
そうなるとまたアメリカ政府はロシア・ウクライナとイスラエル・ガザという2正面作戦を強いられ、外交的な資源が枯渇することも予想され、それがまた”抑止力を堅持できる圧倒的な力の不在”という恐ろしい状況を招くことになります。
その場合、すでにここ15年から20年間がそうであったように、アメリカの力の空白を中国とロシアが埋め、じわりじわりと勢力圏を拡げていくという状況がさらに顕在化することとなりますが、それを絶対に避けたいトランプ大統領としては、対応の優先順位をつけなくてはならなくなります。
その場合、果たしてアメリカは常にネタニエフ首相の友人かどうかは疑問です。
もし国内での選挙対策でユダヤ人層と福音派を繋ぎとめるために、プロ・イスラエルを続けることにするのであれば、ロシアとウクライナの戦闘はさらに長期化することが必然ですし、仮にイスラエルを見捨てるか、イスラエルと距離を置き、中東地域をデリケートな安定状態に置きつつ、本腰はロシア・ウクライナ戦争の仲介に置くのであれば、非常に困難な状況が予想できます。
ロシアとしては、一応、国内外に対して対ウクライナ戦争の戦況を有利に進めており、負けていないどころか勝利しているというプロパガンダ戦略を実施しているため、現時点での停戦には関心がなく、「停戦を望んでいるのは、ウクライナであり、アメリカ、そして欧州だろう。ロシアの提示する条件をすべて受け入れるのであれば、停戦に応じる準備がある」という非常に強い立場で交渉を行うことができるため、欧州各国がいくらバックグラウンドで叫び散らしても、ウクライナのゼレンスキー大統領がいろいろな場に出向き支援を訴えても、そしてトランプ大統領の気まぐれな発言と動きで揺さぶりをかけても、十中八九、停戦に向けた譲歩をロシアサイドが行うことはないと言えます。
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退くに退けない泥沼にアメリカをはめてしまったトランプ
トランプ大統領の呼びかけでロシアのエネルギー資産(原油と天然ガス)の禁輸措置が欧米諸国とその仲間たちを中心に実施され、ロシアからの原油や天然ガスの供給が止まりそうな親ロシア諸国(セルビアなど)には表面的な影響が出始めてはいるものの、インドや中国という制裁逃れの国々が乱立しているため、その制裁の影響も限定的なものとなり、ロシアは変わらずエネルギー資源の輸出による収入を得ると同時に、アメリカ・欧州と距離を置き始めたOPEC諸国とのつながりの強化を通じて新たな経済圏を構築できるため、欧州が口先ではウクライナ支援の継続を謳いつつも、「明日は我が身」とロシアによる報復攻撃を恐れ、実質的に行動できない状況が続く限りは、ロシアとしては戦争を続け、長期化させることに対するインセンティブが維持・拡大されるしかないものと考えます。
つまり、解決の日の目を見ることがない2つの紛争調停にトランプ大統領は首を突っ込み、どれほど不可解な発言を行ってみたところで、すでに退くに退けない泥沼にアメリカをはめてしまったことになります。
欧州各国は取り残されることと面子ばかりを重んじて実質何もせず、何もできないため頼りになりませんし、目にかけてきたイスラエルのネタニエフ首相も面従腹背で、平気で自身の政治生命の延命のためにトランプ大統領の顔に泥を塗っていますし、プーチン大統領も習近平国家主席も、笑顔でトランプ大統領からの非難の矢をのらりくらりとかわし続け、結果としてアメリカの力を過剰に分散させて、実際には何も起こりえない状況を作り出すことに繋がりそうです。
ロシアは対ウクライナ戦争を継続し、ネタニエフ首相は国際社会からの非難を尻目に、「どうせ非難しても何もできないだろう」と高を括って、中東地域随一の軍事力を駆使して、勢いに乗って、“大イスラエルの実現”という宿願の達成に邁進し、アラブ諸国との隔絶による孤立の時代か、または終わることのない戦争に突入するかという選択を迫られることになるでしょう。
このような状況が続いていると、今、日本の報道では大きな話題になっている(でも中国国内を含め、さほど報じられていない)危機存立事態を巡る日中対立や米中経済対話などに関心を惹きつけつつ、来るべきアジア太平洋地域における軍事大国としての地位確立を2026年に控える中国政府は、台湾カードをチラつかさせながら、アメリカや欧州、国際社会からの関心とフォーカスを最小限に抑え込み、着々と力を蓄えていくことが中国には可能な環境が用意されることになります。
加えて、トランプ大統領の仲介の下、成立したはずのタイとカンボジアの和平合意も、ここ最近頻発する国境地帯での散発的な軍事衝突と、カンボジアが中立地帯に新たに敷設したと言われている対人地雷による被害に見舞われたタイ国軍の憤りにより、紛争が再燃しそうになってきていますし、アルメニアとアゼルバイジャンの間の確執は、今のところはまだ表出していませんが(アラートレベルではないと思われますが)、ここでも米ロアルメニアvs.トルコ・アゼルバイジャンという構図が出来てきており、何らかの偶発的な事態が起こった場合には、アルメニアがリベンジをかけ、アゼルバイジャンが勢力拡大を図るという対立が起きる可能性も否定できません。
そうなると、トランプ大統領が「就任以来、私は8つの戦争を止めた。あと1つだ」と豪語する状況が一瞬にして消え去り、制御不能な戦争状態が生じることも予想しなくてはならないでしょう。
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「恐怖のドミノ」防止のためトランプに求められる姿勢
今、この恐怖のドミノを防止するには、アメリカがイスラエルとの関係を見直し、ネタニエフ首相を罰して蛮行をすぐにやめさせ、中東和平に本腰を入れてコミットすることが必要となります。
それは、ガザ地区のアメリカによる暫定統治も含みますが、それは現行案が謳うハマスの抑止ではなく、イスラエルの野心に対する抑止と、極限まで上がってきている緊張の緩和と対立の鎮静化のための確固たるプレゼンスを意味します。
実質的な行政はアラブ諸国に任せるにしても、その背後にはアメリカが控えているという状況を作り出す必要があります。
ロシア・ウクライナ戦争の終結が実質的に期待できない中、まずは本気で本格的にもう1つの大きな紛争の種を抑え込み、世界戦争に発展する可能性の芽を摘み取る必要がありますが、果たしてトランプ大統領のアメリカと、国際社会にイスラエルを抑制し、アラブ諸国の怒りを鎮め、協調の下に中東地域の和平を再構築するという試みが必要になると考えます。
恐らくこのメルマガが皆さんの元に届くころには、ロシア・ウクライナ戦争の停戦合意の行方が少し見えてくることかと思いますが、恐らくロシア側の否定と遅延工作により、戦闘が続いたまま、ロシアによるウクライナ侵攻から4年を迎えることになりそうです。
「戦争を早急にやめるように」とロシア・ウクライナ双方に求め続ける姿勢は必要ですが、個人的には、様々な要素に鑑みると、今はアメリカの影響力を最大限用いてイスラエルの蛮行を止め、ガザ地区に対する人道支援を早急に再開し、アラブ諸国に全面的な権限移譲を行って、一旦、中東情勢を落ち着かせる必要があります。
ネタニエフ首相がどこまでまともにトランプ大統領の言うことを聞くかは、正直不安ですが、国際社会から総スカンの状況に自らを追い込んだイスラエルを説得し、蛮行を停止させ、緊張を緩和する方向に導き、ネタニエフ首相またはほかのリーダーが、一度振り上げた拳を穏やかに下ろすための機会を提供できるのは、トランプ大統領のアメリカしかないだろうと考えます。
紛争調停官としては、12月および1月と、非常に忙しい日々を送ることになりそうですが、求められる限りは最大限の努力を惜しまずにつぎ込みたいと考えています。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年11月28日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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