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高市首相は「存立危機」を根本から誤解していたのか?国際社会に“日本参戦シナリオ”を誤送信した重大失態

高市首相の「台湾有事は存立危機」発言により、もはや収集がつかない状況に陥っていると言っても過言ではない日中関係。そもそも首相の答弁内容は、事実認識として正確なものだったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、高市氏の発言をあらためて検証するとともに、重大な「誤り」を指摘。その上で、日本の存立危機を本当に避けるために必要な外交姿勢について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:再々論・高市発言/「存立危機事態」の理解は酷く間違っているので、謝罪し撤回し(誠実な心を持つなら)辞任すべきである

プロフィール高野孟たかのはじめ

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

謝罪した上で撤回し辞任すべし。高市「存立危機事態」の酷く間違っている理解

「存立危機事態」についての高市早苗首相の国会答弁の問題は、本当のところ何が問題なのかはっきりしないまま、波紋ばかりが大きく広がっていくという不健全な様相を呈しているので、しつこくて申し訳ないが、もう一度、彼女が何を言い、そのどこが間違っているのかを検討したい。

結論から言うと、彼女の「存立危機事態」についての理解は酷く間違っており、中国、台湾、米国のみならず国際社会に誤解を広げたので、これは謝罪し撤回するしかない。国家存亡に関わる事態について一知半解の理解と言うにとどまらない丸っきりの誤解しか持たず、それを国会の場で露呈し、国内にとどまらず国外、それも全世界と言えるほど広く知らしめてしまったというのは相当酷い恥晒しであり、普通なら辞任してしかるべきだが、彼女は多分そうは思わないのだろう。

問題の焦点は、岡田克也元外相との次のやりとりである。1カ月近くかかってようやく衆議院事務局による正式の議事録が公開されたので、その部分を次に引用し、また参考のため、岡田とのやりとりの「存立危機事態」についての部分の全文を《資料》として文末に添付する。

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高市発言「台湾有事は存立危機」が全世界に与えた無用の誤解

問題になった発言部分は(正式の議事録によると)次のとおりである(下線は引用者による)。

高市 「先ほど有事という言葉がございました。それはいろいろな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国、北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれないし、それから偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、それはいろいろなケースが考えられると思いますよ。だけれども、(A)それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。

実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府が全ての情報を総合して判断するということでございます。実に(B)武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高いというものでございます。法律の条文どおりであるかと思っております。

岡田 「ちょっと最後の表現がよく分からなかったんです。武力攻撃が発生したら存立危機事態に当たる。どういう意味ですか。(C)武力攻撃が誰に発生することを言っておられるんですか。

高市 「(D)武力攻撃が発生をして、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合という条文どおりでございます。

さあて、これは一体、一知半解と言うくらいでは済まない知識の重大な欠落なのか、それとも世を欺く意図的な虚言なのか。

(A)も(B)も、誰が読んでも、中国が台湾に対して武力攻撃を開始した場合、それは直ちに日本の「存立危機事態」となる可能性が高いと高市が考えていると、受け止められるだろう。

ところで「存立危機事態」というのは、従来の「専守防衛」の観念をブチ破って、米軍と一緒であれば日本自衛隊が台湾海峡にとどまらずホルムズ海峡でもどこでも戦闘行動に出て構わないとする概念であるから、高市が「武力攻撃が発生したら存立危機事態に当たる可能性が高い」という短絡的な言い方をすると、中国も全世界も「中台間で武力紛争が始まった途端に日本は軍事介入するつもりなのか」と驚いたのである。

そのことに対し、高市は自分の言葉のどこが間違っていてそのために無用の誤解を全世界に与えたのかの事情説明をした上で、謝罪し、辞任すべきなのだ。

事を理性ベースで議論するキーは、上の議事録の中にも含まれていて、(C)の岡田の問いは大事である。高市は一貫して無限定的に「武力攻撃」と言うが、これはあからさまに「中国が台湾に対して」と明言するのはさすがに控えたいからに違いないが、しかし中国と台湾の間で軍事紛争が起きて武力攻撃が起きても、それ自体は日本の「存立危機事態」とはまだ直接には関係がない。

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虚偽でしかない「条文どおりでございます」という高市の言明

なぜかという理由は、次の高市の(D)の説明に端的に表れている。この説明は致命的な部分を(わざとかどうか)欠落させていて、「条文どおりでございます」という言明は虚偽である。

毎度の引用で恐縮だが、「事態対処法」の2条4項は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」としている。

ところが高市はこの規定の最初の部分「我が国と密接な関係にある他国に対する」を省略しているので「武力攻撃」が誰の誰に対するものかが分からなくなっている。そのため、何にせよ「武力攻撃」が起きればもうすぐに日本の存続に関わる大事であるかに聞こえてしまう。

この「我が国と密接な関係にある他国」とは、言うまでもなく米国で、米軍の艦船などが武力攻撃を受け、そこで敗退すれば日本の存続が危険に晒される明白な危険があると判断される場合、日本は米国に対して集団的自衛権を発動して自衛隊を参戦させるのである。

逆に言えば、

(1)中台紛争が起き、
(2)米軍が介入し、
(3)米艦船などが武力攻撃を受けて劣勢に陥り、
(4)そこが決壊すると日本の存続が危うくなると判断される――

という、極めてレアな状況でのみ「存立危機事態」が発生するかもしれないというのが事の真実であって、誰の誰に対する武力行使であるかの見極めもなしに日本がいきなり台湾戦域に突入するという勇ましい話ではない。

しかも、もう1つイヤな話を付け加えれば、「存立危険事態」と判断したとしても、(5)米軍がやられてしまいそうなところへ自衛隊が駆けつけて何か役に立つのかというのは全く未知数で、自衛隊が助っ人に出ていけば米軍が救われ、存立危険事態が回避されるという保証は何もない。

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そもそも「2%程度」でしかない中台戦争が起きる確立

理性ベースで言うと、存立危機事態が起こりうるにはいくつもの前提が必要で、まず第1に、中台戦争が起きなければならないが、その確率は私の説では2%程度で、1%は台湾の過激な独立派が政権を握り、米国の援助なしに「独立」を叫んで決起した場合で、これはたぶん簡単に制圧される。

もう1%は偶発戦争で、これは予測不能なだけに厄介だが、私は中台間には実は危機回避の連絡メカニズムが敷設されていると見ていて、大戦争は回避されるだろう。

中国から平地に波乱を起こすが如きに軍事侵攻を仕掛ける理由が何もないことについては、これまでも散々論じてきたのでここでは省略する。中台戦争は極めて起こりにくいが、それでも98%を99%、100%と詰めて行って絶対に起こらないないようにしていくことが東アジア共通の外交課題である。

中台戦争が起きなければ、「存立危険事態」も何もないのだが、それでも起きてしまって、そこで第2に、果たして米軍は介入するかどうかである。

トランプ政権の間は介入の可能性は0%と考えていいが、その先はどういう政権が出てくるかわからないので予測不能。しかし一般論として、国際法上は「内戦」に過ぎない中台戦争に外から介入すればそれは侵略であり、ウクライナの東部ロシア系住民の自治権保証をめぐる内紛にロシアが外から介入したのと同じ誤りを犯すことになる。

それでも介入するという場合は、米中の核を含む全面戦争に直結することを覚悟しなければならないので、どんな政権であるにせよ、全面介入を決断することは極めて難しい。確率は10%以下か?

第3に、それでも米軍が介入したとして、米艦船などが中国軍に攻撃されて劣勢に陥ることはあるだろうが、それだけでは必ずしも存立危機事態にはならない。そこで米軍が敗れると決壊状況となって日本が存立危機に陥ると判断した場合に限って、自衛隊が出動するのだが、さて果たして自衛隊が中国軍と戦いながら米軍を救済し、戦線を立て直すほどの力量を持つのかどうか、私は知らない。以上の全てが単なる机上の空論に過ぎないような気がしてならない。

《資料》岡田克也と高市早苗のやりとりの内「存続危機事態」に関する部分の議事録――(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年12月1号より一部抜粋・文中敬称略。資料「岡田克也と高市早苗のやりとりの内『存続危機事態』に関する部分の議事録」を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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