和平に向けた交渉が難航し、今この時も一般市民が命を落とし続けているウクライナとガザ地区。世界はなぜ、このような明らかな「国際法違反が疑われる行為」を止めることができないのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、かような状況を招いている関係各国の動きと思惑を専門家目線で分析。その上で、トランプ政権に求められる役割と世界的な戦争連鎖を食い止めるために必要な条件を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:見えてこない和平への道筋-具体策なき“仲介”と“綱引き”が生み出す複雑な混乱の図式
具体策なき“仲介”と“綱引き”。ウクライナでもガザでも見えぬ和平への道筋
行き詰まる交渉。ウクライナ戦争を巡る仲介と綱引き
「アメリカが仲介するロシア・ウクライナ間の和平交渉を邪魔するのは欧州。結果としてこのプロセス全体を阻止し、いかなる可能性を潰している。アメリカとロシアが話し合い、受け入れ可能な案を編み出したら、欧州が横やりを入れてきてロシアに拒否させ、失敗の責任を全てロシアに押し付けようとしている。決して受け入れられない」
「ロシアは欧州と戦争をするつもりは毛頭ない。すでに何度も戦ってきたからだ。しかし、もし欧州がロシアに刃を剥けるのであれば、ロシアはいつでも欧州と戦う準備が出来ている。その場合、欧州は壊滅的な状況を覚悟しなくてはならない。欧州はその後“和平”を望んだとしても、ロシアの交渉相手は存在しないことになるだろう」
12月2日にアメリカのウィトコフ特使やクシュナー氏などがモスクワを訪れ、ロシアサイドにジュネーブおよびマイアミでのウクライナ側との協議の結果を伝えたことを受け、プーチン大統領がメディアに対して行った記者会見の一部です。
欧米メディアや日本の報道では「28項目の内容が19項目にまで整理された」と“成果”をアピールするような傾向が目立ちましたが、ロシアが重要視する【ウクライナ東南部の割譲を含む領土問題】や、【ウクライナがNATOに未来永劫加入することがないことの保証】といったcriticalかつデリケートな内容はトランプ大統領とゼレンスキー大統領の首脳間での協議に丸投げされ、実情は28項目が提示された際から何も進展していないと思われます。
ウィトコフ特使などとの協議においても「“ウクライナとの協議・調整内容の報告”を受けたのみで、米ロ間の協議は行われていない」というのがロシア側のスタンスで、アメリカ側がブレイクスルーと見なすトランプ大統領とプーチン大統領の首脳会談の開催予定も未定のままにされており、正直なところ、「交渉はスタックしている(行き詰っている)」というのが認識です。
就任当初は「24時間とは言わないが、すぐに解決に導くことができる」と自信を匂わせていたトランプ大統領も、すでに就任からほぼ1年を迎える時期まで何ら進展を導き出せていないのは(ただし、プーチン大統領を直接協議の場に引きずり出してきたことと、和平協議のプロセスを再稼働させたことは成果だと思いますが)、元々詳細なゴールのイメージがあったわけではなく、「とにかく一旦戦いを止めろ」という一点突破で、時折出されるXX項目も、あまり深く分析された結果出されてきているものではなく、必ず仲介国である米国が何らかの利益を得るような内容が含まれることから、フォーカスがズレていることは否めず、ロシアに付け入る隙を与え、加えて超ロシア寄りのウィトコフ特使という人選の誤りがさらにロシア贔屓の内容を生み出すという悪循環が繰り返される結果になっています。
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ウクライナで勃発した対ロ抗戦に影響を与えかねない事態
プーチン大統領は欧州の姿勢を非難していますが(そして私も読者の方たちから指摘されるように欧州の姿勢には批判的ですが)、原理原則を前面に押し出して、ウクライナを盾にロシアが作り出す不公正を正そうとする姿勢は評価できますが、どこまで本気でロシアと対峙してでもウクライナを守る気があるかという覚悟は感じられないのが実情です。
欧州国内ではすでにウクライナ離れが起きていることと、ロシア・ウクライナ戦争によって経済が停滞し、インフレ状態が継続していることへの苛立ちと怒り、そしてロシアを敵に回した際に、自国を防衛するリソースをこれ以上削るべきではないという声の拡大などが見られ、口先だけの介入に留まりがちというのも、ロシアに好き放題非難される隙を与えているものと考えます。
そのような中、ウクライナの対ロ抗戦に大きな影響を与えそうな事態がウクライナ国内で起きています。
その最たるものは、ゼレンスキー大統領の右腕で、影の大統領とまで言われ、和平協議のウクライナ側首席代表も務めたアンドリー・イェルマーク大統領府長官が汚職疑惑で解任され(辞任し)、その解任劇を巡って議会の与野党から「ゼレンスキー大統領の政治的リーダーシップに大きな疑念が生じた」として「大統領職を直ちに辞任すべき」との声が上がっていると言われている状況です。
議会側は「辞任の上、次の大統領選に出ることは止めない」としつつも、今年に入って高まるゼレンスキー大統領と政権運営に対する非難の高まりを受け、今後、どのような内政状況が生まれるかは未知数となっています。
議会からの非難が行われた際は、確かゼレンスキー大統領はパリでマクロン大統領と対ウクライナ支援および対ロ和平協議について話し合っていたはずですが、頻繁な外国出張が何ら前向きな結果をウクライナにもたらしていないことに対して、国内で不満と非難の声が高まっていると言われており、このままだとロシアという大敵からのプレッシャーを跳ね返すための後ろ盾(国内の支持と欧米からの支援など)と政治的基盤(これまでイェルマーク氏に委ねていた)を失い、四面楚歌の状況に追い込まれ、ウクライナはそのまま倒れてしまうことになるかもしれません。
和平に乗り出したトランプ大統領のゴールは、いろいろと聞くところによると、「いち早く戦争を終わらせ、ロシアとエネルギー関連でのビジネス拡大の協議を行いたい」というものらしく、あまり戦争を終わらせた後、どうするのか?に関心はない模様です。
もちろん、どのような形でも戦争が終われば、即戦後復興のプロセスが始まることになりますが、そこにはまた複雑に絡み合う利害を持った国々とステークホルダーが密集することは必然ですので、仮に戦争が終わっても、かなりの混乱が予想できます。
現時点ではロシアはまだ戦争を有利に進め、手の内をすべて明かしているわけではないことから、プーチン大統領の戦略は、アメリカからの仲介の申し出を有り難く利用し、和平協議への前向きな関心は示し続けつつ、和平合意のベースとなる“現況”を可能な限り有利な内容にするか、または一方的な内容をウクライナおよび背後にいる欧州にのませるべく、対ウクライナ攻撃を強化して、軍事的に解決してしまう選択肢(プーチン大統領の表現では“対ウクライナ外科手術”)も引き続き追及することだと見ています。
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調停の現場に流れる「欧州は口出しするな」という空気
ではプーチン大統領から非難の対象となった欧州各国の反応はどうでしょうか?
予想通り対ロ非難を繰り返していますが、「じゃあ、それに対してどうするのか?」という具体的な答えは見当たりません。
NATOのルッテ事務総長は「ロシア、特にプーチン大統領が発言するたびに反応はしないが、ロシアがアメリカを通じてウクライナに押し付けようとしている内容は、NATOの総意ではない」と述べるだけですし、EUのフォンデアライデン委員長については欧州の一枚岩での対応を謳い、「欧州はロシアの脅しに屈することは無いし、正義を貫く」と発言していますが、ここでもまた具体的な動きは見られません。
唯一、controversialな反応を見せたのがドイツのメルツ政権で、以前から予定していたイスラエルからの防空システムの購入と導入を発表し、ロシアからの来るべき攻撃に対応する方針を明らかにしていますが、その発表の際、「ロシアによる欧州への攻撃は、今後はシナリオ上のお話しではなく、近年中に起こる可能性が高い現実の脅威である」との認識を示していますが、“ウクライナ”への支援の継続については明言を避けているように見えます。
今後、ウクライナの命運は「アメリカによるコミットの本気度合い」と「ウクライナ国内政治情勢の行方」にかかっていると思われますが、今後、早急に和平をもたらすためには、ロシアからの脅威に直接さらされている欧州各国が一旦「絶対に欧州も中心的な役割を果たさなくてはならない」というプライドに似た思いを横に置き、ウクライナの背後に控えてウクライナの交渉パワーの拠り所になる必要があると考えます。
仲介や調停に係る協議に臨席して感じることは、大事なことが話し合われ、何とか落としどころが探られている際に横やりを入れて議論をsquare one(振り出し)に戻すのが欧州各国の特徴で、アメリカやウクライナ、NATOの非欧州メンバーを苛立たせることが多く、表立っては言いませんが、「いろいろと口を挟み、正義や公平性を説くのは結構だが、その実施のために何も行わないし、いざという時に振り返ってもそばにはいないことが多い。何もしないなら、口出しはしないでもらいたい」という空気が流れています。
「この戦争を止めてその後どうしたいのか?」
その答えをロシアもウクライナもそれぞれに鮮明に描き、そのためのプロセスをちゃんと考えられているのか?そのプラン・プロセスを実行するために、他の協力国がそれぞれに何をどういつまでに行うことが求められるのか?そのためにはどれほどの時間とお金がかかるのか?
その話し合い・協議が進まず、具体的な像・ゴールが見えない中、4度目の厳しい冬がロシアとウクライナを襲い、終わりの見えない戦争はまだまだ続きそうです。
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話し合いは物別れに。見通せぬガザにおける悲劇の終焉
「57か国のアラブ・ムスリム諸国は一致して、パレスチナ国家の樹立を支持し、支援することを明言する。
そのためにはイスラエルは一切の攻撃と蛮行を停止し、皆が合意に至った1967年のラインまで撤退する必要がある。
そのための道筋が鮮明に描かれ、そして実行に移されない限りは、我々は今後、何もネタニエフ首相と話し合うことはない。
また、今日、ネタニエフ首相と会ったが、“イスラエルは、イスラエルの存在を壊滅したいと願う国々囲まれていて、その脅威に立ち向かう必要がある”と言っていた。
イスラエルがこれまでアラブに対する緊張を高める理由にしてきた“イスラエル国家と国民の安全に対する脅威”は、今、ここで明言するが、存在しない。
我々は挙ってイスラエル国家の存在を認め、イスラエル国民の安寧と平和を保障するが、イスラエルもアラブの平和と安寧を尊重し、その実現に努めなくてはならない。
イスラエルは今、ガザを破壊し、レバノンに攻撃を仕掛け、シリアを不法に侵略し、アラブ諸国の地において”安全保障・自衛“の名の下、暗殺を実行し、自らテンションを高め、怒りを引き起こしているが、イスラエルは今後、どのような地域を作り、どのような世界を作りたいのか?というプランが全く見えてこない。
我々は地域の平和実現のために話し合う用意があるが、果たしてイスラエル政府の誰とその話が出来るのか分からない。
ネタニエフ首相が繰り返し私たちに伝えるのは、平和と安寧のためには脅威を取り除く必要があり、それはハマスの壊滅であり、ヒズボラの崩壊以外に手段はなく、イスラエルは必然的に武力を通じてその実現に邁進するということだが、彼の頭には戦争を継続することしかなく、何のグランドデザインもないことが分かった。
ボールはイスラエル側にあるが、イスラエルが和平について本気で話し合い、地域のあるべき未来の姿を具体的に我々と描くつもりがあれば、アラブ諸国はいつでも対話の扉を開く。
しかし、その“相手“はネタニエフ首相ではないだろう」
これは今週開かれたMuslim-Arab Committeeの首脳級・閣僚級会合の後、ヨルダンの外務大臣であるAyman Safadi氏が“57か国を代表して”プレスに示したスタンスです。
「ネタニエフ首相と話した」とありますが、これは彼がこの会合に招かれて協議に加わったのか、それともオンラインでの参加となったのかは分かりませんが、話し合いが物別れに終わり、ガザにおける悲劇の終焉が見えなかったことを暗示していると考えます。
この結果を受けて、サウジアラビア王国はモハメッド・ビン・サルマン皇太子が「ネタニエフ首相との間で今後、何かしらの話し合いが行われることはないし、かつネタニエフ首相が率い、ガザを蹂躙し、明らかに1967年合意を無視して領土的な野心を明らかにする行動を取る限り、サウジアラビア王国がイスラエルとアブラハム合意について議論することはない」と発言していますし、UAEもヨルダンも、そしてカタールも「パレスチナ国家の樹立を含む二国家並立による和平が実現するならば、我々はイスラエルが恐れるような事態に加担しないし、地域における平和的共存を支持する」と述べ、「しかし、それは明確にパレスチナ国家の樹立を馬鹿げたアイデアと非難し、アラブ社会全体をハマス、テロリストと非難を続けるネタニエフ首相が、アラブのカウンターパートになることはない」と非難しています。
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トランプにも一蹴されたネタニヤフの哀れな「命乞い」
そして域外ですが、中国の習近平政権は「イスラエルはこれまでに国際法を何度も蹂躙し、無視し、非人道的な行為を繰り返してきたことを自覚しなくてはならない。一刻も早くガザに対する蛮行を停止し、人道支援を邪魔しないことが必要だが、恐らくそれはネタニエフ首相の下では行われないだろう」と、これまで見たことがないくらい踏み込み、ポジションを取った発言を行っています。
アラブ社会からの反ネタニエフ首相の発言が相次ぎ、ネタニエフ首相のイスラエルとの協力は不可能と認識がアラブから示されたことを受け、トランプ政権が何らかの反応や発言をする前に、中国が非難を行ったことは非常に珍しいことであり、驚いています。
トルコのエルドアン大統領やブラジルのルラ大統領がネタニエフ首相をヒトラーに擬え、「今、イスラエルが行っているのは明らかなジェノサイド」と非難しているのは、ちょっと慣れっこになってきましたが、ついに静観を決め込んでいたはずの中国まで反イスラエル(というよりは、ネタニエフ首相批判)に加わったことで、国際社会におけるイスラエルの孤立がさらに厳しくなってきていることが分かります。
そのような中、トランプ政権はネタニエフ首相に対して、ガザ案件ではなく、イスラエルがアメリカからの要請を無視して進めるヨルダン川西岸における入植拡大の動きと、シリアに対するゴラン高原の不法占拠を今すぐ止めるように要請し、それが行われなければ、アメリカが仲介してまとめた和平案に基づくガザの再建および地域の安定化のためのISFの組織などはキャンセルする旨、突き付けたのは、非常に注目に値します。
この“アメリカ案”は、すでに国連安保理決議として承認されており、アラブ諸国もISFの派遣と“アメリカによるガザ管理”というアイデアを呑む代わりに、イスラエルの蛮行の停止と、地域における不安定要因の除去などに対して、アメリカがイスラエルにプレッシャーをかけることを条件に成り立っていますが、その実施が危ぶまれる状況が生まれてきています。
イスラエル国内でもネタニエフ首相の退陣を求める動きが拡大し、一刻も早く10月7日の対応の不手際とこれまでの汚職疑惑についての公の説明を行うように求める声が高まっていますが、当のネタニエフ首相は大統領に対して恩赦を求め、「今はテロとの戦いに、イスラエルの生存に対する闘争に集中させてほしい」と懇願する動きに出ました。
しかし、ヘルツォッグ大統領は恩赦について「ネタニエフ首相が政治生命を諦め、10月7日の出来事について公の場で説明し、謝罪を行うことが条件」と返答し、事実上、拒否する姿勢を鮮明にしました。
これについては、サポーターであるはずのトランプ大統領も「恩赦云々の件はあくまでもイスラエル国内の話であり、アメリカが介入するべき問題ではない」と突き放し、ネタニエフ首相は追い詰められている状況です。
ここで起こりうることは、【周囲からの圧力に負けて政治生命を閉じることで、訴追を免れるという自身の保身の確保】か、【来年までは総選挙を引き延ばせることを逆手に取り、より右傾化して、自らの任期中にガザ、パレスチナ全域、シリア、レバノンなどを軍事的に制圧し、ヨルダンやエジプトなどと極度の緊張状態に陥り、アラブ社会とムスリム社会を敵に回して、自らイスラエル存亡の危機を作り出す】という選択肢だと考えます。
個人的には前者であってほしいのですが、恐らくこれまでの言動を見る限り、後者に傾き、実力行使によって“勝利を収め”、ネガティブな反応を押しのけていく選択を行うのではないかと懸念しています。
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アラビア半島を舞台にした世界戦争が起こる可能性も
そうなった場合、いつまでアメリカがイスラエルを庇うのかにもよりますが、確実にアラブ諸国とパキスタンやインドネシア、マレーシアなどの域外ムスリム諸国は挙って反イスラエルで固まり(すでに今週、パキスタンのアリ国連大使がイスラエルをジェノサイド実施国と激しく非難しています)、軍事的に一触即発の状態が生まれることになります。
その場合、イランやトルコ、パキスタンなども加わるのみならず、アゼルバイジャンなどのイスラム教国もイスラエルへの対抗軸となるでしょうし、何よりもすでに中東アラブ諸国と軍事面での相互戦略協定を結ぶ核保有国パキスタンが加わり、そこに中国とロシアがアラブ側に付くことで(台湾がなぜかイスラエルにシンパシーを示したことから、中国は反イスラエルの立場を鮮明にしたと言われている)、アラビア半島を舞台にした世界戦争が引き起こされることも予想されます。
そのような状況下でどれだけアメリカがイスラエルとの特別な関係に拘ることができるか?
そして本気でアメリカをまた中東地域に引き戻すという地獄を再現する覚悟があるのか?
その答えによっては、ネタニエフ首相が強調する“存亡の危機”が本当にイスラエルを襲う可能性が出てくるかもしれません(それでもまた、欧州は口だけ出して何もしないのでしょうが)。
今のところ、ガザ情勢の仲介を行っているウィトコフ特使とクシュナー氏はロシア・ウクライナ戦争の仲介に携わっているため、2正面での激しい仲介・調停は実質上不可能で、アメリカの早期コミットメントが期待できない中、誰が音頭を取って、危機を収めるのか?正直なところ、見当たりません。
ではアラブ・ムスリム諸国57カ国からの呼びかけに応じて、イスラエルがネタニエフ首相を排し、パレスチナ国家の樹立に向けたプロセスに合意すれば、この地を紛争地にした根本的な危機・原因を除去し、平和が訪れるのか?
歴史的な背景を見てみると、決してそんなに単純な話ではないようです。ちなみに“パレスチナ”は、一度も国であったことは無く、あくまでも【西アジアの東地中海海岸一帯を指す地域名】に過ぎません。
かつてはローマ帝国が統治し、その後、オスマン帝国の支配下にあった地域で、その後、第1次世界大戦でオスマン帝国が崩壊し、その後は欧米列強の欲と口八丁手八丁によって蹂躙され、気が付けばパレスチナ地域のど真ん中に、欧米の支援を受けてユダヤ人がついにホームランド、つまりイスラエルを1948年に建国すると宣言するのと並行して、アラブコミュニティーがアラブの国の建国を謳ったのが、今のパレスチナ問題の根本と言えるかと思います(かなり端折っていますが)。
今のアラブ諸国は、このパレスチナ地域の外にあり、それぞれが英国の企てを受けて建国できたのですが、このパレスチナ地域に至っては、アラブ諸国の統治下に置くべきとの主張を高め、【アラブ同胞の苦難を除去するために、イスラエルの存在を認めない】のがこれまでの流れとなっています。
ゆえに、57か国のムスリム・アラブ諸国からのイスラエルへの呼びかけは、一見、平和に向けた呼びかけでそれを受け入れないイスラエルとネタニエフ首相は悪というナラティブが作られていますが、その提言のauthenticityについては、詳細な分析が必要だと考えていることを申し添えておきたいと思います。
そして“アラブ諸国”自体、歴史上、“パレスチナ人(パレスチナ地域に住む人たち)”は、実は各国の国内治安を脅かす存在と認識されてきた背景があり、常に“アラブ同胞の保護”という建前と、“できればパレスチナ人には関わりたくない”という本音が入り混じっている心理も、現在のパレスチナ問題を見るにあたっては、頭の片隅に入れておかなくてはならないと考えます。
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未だ整っていない「最悪の事態」に対する準備
ガザ問題とパレスチナ情勢については、アメリカのresolutionが決議されたことで久々に国連に脚光が当たっていますが、ハマスの同意がなく、イスラエルの国内の受け取りもさまざまである、当事者が納得しきれていない状況で、とにかく前進あるのみと、ISFの設置や、タブーとされたアメリカによるガザの管理といった要素の実施を、10月10日の和平合意に基づいて、その第2段階として推し進めようとしていますが、イスラエルの攻撃的な傾向や、アラブ社会からの圧力、欧州の横やり、トランプ政権の見通しの甘さなどが相まって、非常にリスキーなプロセス下に置かれているため、何かしら偶発的な事態が引きおこった場合には、先ほど述べたようなエスカレーション傾向が表出することになるのではないかと恐れています(正直なところ、その最悪の事態に対する準備はまだできていません)。
非常に混乱極まる国際情勢の典型例です――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年12月5日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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