トランプと習近平が“次なる覇権”を賭けた「新たな戦場」。米国よりも中国で先に可視化され始めた「AIが人間の雇用を奪う」現実

 

IT系企業においても例外ではないAIによる人間の雇用縮小

聞こえてくるのは無機質な機械音だけ。見えるのは機会が作動していることを示す小さなランプだけ。

工場の中ではロボットが885台作業していて、それを管理する人間は100人と圧倒的に少ない。

工場長はロボット化を進めた理由をこう語る。

「人件費を削ることができるということもありますが、人間だと流れ作業でミスが出るので、機械の方がいい。だからZEEKRの工場は最初からロボットのために造られました」

人間には休息も必要だが、機械ならば24時間稼働させることもできる。

工場長は続けて言う。

「100%自動化され、AIが制御するのが、われわれが描く未来の工場です」

驚いたのは、そこで働くベテラン労働者の言葉だ。自動車メーカーの現場で経験を積んだベテランだが、彼はテレビの取材に「我々の仕事はいまやロボットの手助けをすること」と言い切るのだ。

すでにZEEKRは同じようなダークファクトリーを100カ所近く稼働させているというから、進化のスビートを意識しないわけにはいかない。

現状、人間の仕事は、主に故障やトラブルへの対処と、最終的な品質のチェックだけだというが、こうした作業もAIがどんどん進化することによって、いずれは任せられる時代が来るのかもしれない。

複雑の作業を担えるか否かの未来を決定するのが、AIの開発競争によって決まるのである。

一方、AIに圧されて人間の雇用が縮小されるという現実は、生産現場だけで起きているものではない。IT系企業においても例外ではないようだ。

中国のメディア『財新』は、11月29日にアップした記事「中国・百度が新たな人員削減、AI活用で余剰に?従業員の15~30%をカット、検索など旧来部門から新事業へのシフト鮮明」で、そのことに触れている。

記事の中では「AI時代に入った現在、従来型ネット企業は生産性や組織のあり方を見直さねばならなくなっているという。AIが人間に取って代わった結果生じた余剰人員が削減対象になっている」と断じているのだ。

アメリカに話を戻せば、気まぐれなトランプ大統領も、AIに関する政策ではブレることなく邁進している。

トランプ大統領のインタビューを読んでも、最新の『国家安全保障戦略2025』を見ても、そのことはよく分かる。

バイデン時代の「慎重な見極め」の雰囲気は完全に消えることになるのだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年12月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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