高市首相の訪米は本当に「無傷」だったのか?トランプと習近平の間で揺れる“日本外交の実像”

 

中国には慎重、日本には圧力。アメリカ外交の非対称性

肝要なことは、やはりなぜこの時期に訪米を強行したのか、である。

この点を踏まえてトランプ大統領が訪中を延期したことを考えると、日本に対するアメリカの姿勢と、中国に対するそれとの違いがより鮮明に見えてくるのではないだろうか。

トランプ大統領の訪中延期については、英『フィナンシャル・タイム』(FT)が同大統領の言葉として、ホルムズ海峡に艦船を派遣しない中国に苛立ち、「訪中を見直す」と語ったと伝えている。

ただ報道は直後からトランプ政権の高官たちによって否定され、最後はトランプ本人が「訪中延期はホルムズ海峡とは無関係」と語り、誤報扱いとなった。

私は、個人的にはFTの記事は誤りでなかったと考えているが、このケースで重要なのは正誤ではない。アメリカ側の素早い反応によってきっちり情報が修正された点にある。

これらの動きから、トランプ大統領本人も政権も、中国に気を使っていることがうかがえるのだ。さらに言えば首脳会談を行う雰囲気やタイミングについて神経を使っていることも示唆している。

これは中国側も同じだ。

トランプ大統領が訪中するとなれば中国側は歓待するだろうが、イランの状況を考えれば「もろ手を挙げて」というわけにはいかない。首脳会談では中国が従来から主張している通り、アメリカの行動に苦言を呈する場面も予想されたのである。

習近平国家主席が「国際法違反」とか「覇権主義」などといった言葉で直接非難するとは思えないにしても、「軍事行動の即時停止」や「対話と交渉の再開」を求めることは十分に予想できたからだ。

ということは、逆に考えれば戦闘を停止し、話し合いの目処が立った段階で訪中すれば、中国側がそれを口にすることもなくなるということでもある。

中国の対外政策は、基本的に国連中心で大きくぶれることはないだけに読みやすい。たとえ今後「関係を深めてゆきたい」と考えるアメリカが相手であっても、原則は曲げないことは、アメリカのベネズエラ攻撃への反応でも、イラン攻撃に対する反応を見ても明らかだ。

冒頭でメディアが高市訪米を「無傷で乗り切った」と評価したことを取り上げたが、これは要するに、日本が目の前の問題に拘泥し、原則を曖昧にする国と言っているに等しいことだ。

そのことは日本と同じくミドルパワーの国で、アメリカの同盟国で、米軍事基地を国内に抱えるイタリアのジョルジャ・メローニ首相の対応と比べるとよくわかる。

相手によって武力行使を非難したり肯定したりする国だと世界に見せることは、決して「外交的な成功」ではないし、それ以前に、イラン攻撃が始まった瞬間に訪米を一旦保留するという選択肢はなかったのだろうか。

もし日本が紛争を抱えた国とは一旦距離を置くという原則を常に対外的に示してきていれば、そういう選択をしても摩擦は起きなかったに違いない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年3月22日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: 首相官邸

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • 高市首相の訪米は本当に「無傷」だったのか?トランプと習近平の間で揺れる“日本外交の実像”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け