【モスクワ発】苦境のロシア・・・なぜ国民はプーチン支持をやめないのか?

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聞かれないプーチン批判

それでも、驚くことに、「プーチン批判」はあまり聞かれません。いえ、正確にいうと、批判を聞くことはあるのですが、「怨嗟の声が国に満ち満ちている」という感じではない。

正しい表現をすれば、「プーチン批判を聞くことは、稀だ」となるでしょう。(もちろん、「反プーチン派」の集まりにいけば、たくさんきけるでしょうが。)

世論調査によると、プーチンの支持率は80%だそうです。そして、私の知人、友人に聞いてみても、「だいたいそんな感じだろう」と思います。

なぜ生活が苦しくなっているのに、国民は「プーチンを批判しない」のでしょうか? 私がモスクワに住んで思うことは、以下の三つです。

1、「クリミア併合=正しいこと」と、信じられている

今回のロシアの苦境。発端は、「クリミア併合」でした。

これは、ウクライナや、日本、欧米では、「絶対悪」とされています。ところが、ロシアでは、真逆で「絶対善」とされています。なぜ?

クリミア半島は、エカテリーナ2世時代の1783年から1954年までロシアのものだった。1954年、ロシアからウクライナに管轄が移っています。理由は、ソ連のフルシチョフ書記長が、クリミアをウクライナに「プレゼントした」から。

当時はロシアもウクライナも、同じソ連の一部。「東京の土地の一部を、埼玉の管轄にした」ぐらいで、大きな問題にならなかった。

しかし、ソ連崩壊後、クリミアは、ロシア領ではなくウクライナ領になった。この時、ロシア国民は、「おいおいクリミアは、ロシアの領土だろ!」と憤った。

プーチンは、その「歴史的不正」を「正した」。・・・とまあ、こんな論理なわけです。

皆さん、日本の総理大臣が、北方領土や竹島を、「サクッと」「無血」で取り戻したら、「英雄」になるでしょう? 今のプーチンも、そんな感じで、「歴史的偉業を成し遂げた英雄」という感じなのです。

「プーチンは正しいことをしたのだから、多少生活が苦しくても我慢しましょう」・・・そんな感じ。

2、ロシア国民の怒りは、プーチンではなく、○○○○にむかう

日本や欧米から見ると、今回の問題は、「クリミア併合」から起こっています。しかしロシアでは、「危機の起点」が違うのです。

ロシアでは、「今回の危機のきっかけは、アメリカがウクライナでクーデターを起こし、民主的に選ばれた親ロシアのヤヌコビッチ政権を打倒したことだ」と認識されている。

クリミア併合は、2014年3月。ヤヌコビッチ政権崩壊は、2014年2月。つまり、ロシア国民は、「先に手を出したのは、アメリカだ!」と信じている。

「ウクライナのクーデターは、アメリカの仕業」・・・このこと、プーチンは、クリミアを併合した2014年3月から、くりかえし、くりかえし発言しています。

日本人からしたら、「陰謀論」でしょう。しかし、最近「オバマ自身も、ウクライナ革命はアメリカがやったこと」を認めたそうです。

昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。

恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。

CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」と認めた。

別の言い方をすれば、彼は、ウクライナを極めて困難な状況に導き、多くの犠牲者を生んだ昨年2月の国家クーデターが、米国が直接、組織的技術的に関与した中で実行された事を確認したわけである。

これによりオバマ大統領は、今までなされた米国の政治家や外交官の全ての発言、声明を否定した形になった。

これまで所謂「ユーロマイダン」は、汚職に満ちたヤヌコヴィチ体制に反対する幅広い一般大衆の抗議行動を基盤とした、ウクライナ内部から生まれたものだと美しく説明されてきたからだ。

米国務省のヌーランド報道官は、すでに1年前「米国は、ウクライナにおける民主主義発展のため50億ドル出した」と述べている。
(「ロシアの声」2015年2月3日より)

オバマさんが話している映像はこちら。

まあ、それはともかく、ロシアでは、「私たちが苦しいのは、プーチンのせいではない。わるいのは全部アメリカだ!」というプロパガンダが、完全に浸透しきっている。

それで、生活が苦しくなったロシア国民の怒りは、プーチンではなくアメリカにむかうのです。

3、ウクライナ、革命後の悲惨

ロシアのテレビニュースでは、去年からいままでずっと、「これはウクライナのテレビ局?」と思えるほど、「ウクライナのニュース」が多いです。あたかも「ロシア国内には何もニュースがない」がごとし。

で、ウクライナ関連のニュースの内容は?

●ウクライナ東部で、民間人を大虐殺するウクライナ軍
●ウクライナ軍に攻撃され、苦しむドネツク、ルガンスクの善良な人々
●ウクライナ軍に子供を殺され、嘆く母親たち
●馬鹿なポロシェンコ大統領と、その側近たち
●デフォルトに陥りそうで悲惨なウクライナ経済

などなど、とにかく「ウクライナ=悲惨」という印象を与える放送が多い。

そして、「アメリカに革命を起こされた国の悲惨さはどうですか?ロシアでも、アメリカの革命を許せば、内戦になりますよ。だから、私たちはプーチンを支えていくしかないのです」 ・・・とまあ、こういう結論。

ロシアは、世界における情報戦でかなり劣勢ですが、国内の情報戦においては、がっしり固めているようです。

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