不正会計問題に揺れる東芝ですが、もう1つ経営陣の頭を悩ませているのが、子会社であるアメリカの原発設備会社WH社株の売却が難航している件。不正会計により見込まれる巨額の損失に備えて保有資産を売却する必要があるのですが、これについて世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者・中島聡さんは「足元を見られて買い叩かれる上に、これらの『含み損』がさらなる損失として計上されるという悪循環が始まる」と指摘します。
東芝が弄する不誠実な詭弁
東芝による Westinghouse Electric の買収は、国際的な「原発ババ抜き」の結果だということは以前にも指摘しました。東芝は、Westinghouse だけでなく、原発事業そのものへも莫大な投資をしており、それらが巨額の「含み損」となっているのです。
今回の不正会計問題で、東芝は巨額の損失を計上することになりますが、それに伴って保有資産を売却すると、足元を見られて買い叩かれる上に、これらの「含み損」がさらなる損失として計上されるという悪循環が始まります。
ちなみに、日本の原発外交とは、日本政府が ODA などの名目で貸したお金(もしくは日本政府が債務保証する形で日本の銀行が貸したお金)で現地に原発事業会社(発電会社)を作らせ、さらにそこに日本の原発メーカーが出資して共同経営者になった上で、そこから原発の発注を受けるという非常なリスキーな仕組みで成り立っています。
すべてうまく行けば、借金も返してもらえるし、原発メーカーも潤うのですが、なんらかの理由で事業計画そのものが破綻したり中止になると、日本政府が貸したお金(日本国民の税金)は返って来ないし、原発メーカーは巨額な損失を被ることになります。
ちなみに、東芝は、福島第一原子力発電所の事故後に Westinghouse Electric の持分を67%から87%へ増やすという不思議なことをしていますが(参照)、当時の東芝のプレスリリースを見ると、20%の株を持っていた The Shaw Group Inc. と東芝の間にはプットオプション契約があり、The Shaw Group はその権利を行使しただけだったのです。
このプレスリリースには、この権利の行使に関して「今回のショーのプットオプション行使の決定は、昨今の急激な円高により同社の為替差損が増大したことなどによるものと、当社は認識しています」と書いていますが、これは非常に不誠実な詭弁です。The Shaw Group が権利を行使した理由は、事故を発端にして、原発事業が世界的に停滞すると見たからに他なりません。
image by: Wikipedia
著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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