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中国ITの急成長を支える「残業地獄」1日12時間・週6日労働が蔓延、休めぬ事情とは=牧野武文

中国で「996工作制」が問題になっています。996とは、朝9時から夜9時まで週6日労働のこと。過労死も出て大きく報道されましたが、経営者の意識は改善されません。日本でも問題となっている長時間労働に解決策はあるのか。中国テック企業の労働環境の実態を紹介しつつ、経済発展との両立方法を探ります。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年2月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国で社会問題化「朝9時出勤、夜9時退勤、週6日間勤務制度」

みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。今回は、996工作制についてご紹介します。

996工作制とは「朝9時出勤、夜9時退勤、週6日間勤務制度」のことで、2019年に996ICU問題として大きな話題になりました。

テック企業では長時間労働があたりまえのことになり、996を続けていたらICUに入院することになると、匿名のエンジニアが声をあげたところ、主要テック企業の多くで長時間労働が常態化をしていることが発覚した問題です。

ネットでは匿名の内部告発が続き、大きな話題であり続けたものの、労働仲裁院などの公的機関に対する告発は少なく、事態が動く様子はありませんでした。そして、新型コロナの感染拡大が起こり、この996問題はかき消されたかのように見えました。

それが現在、再燃しています。

ひとつはリモートワークが普及し、自宅で働きすぎる「隠れ残業」に対する不満が強くなっていることがあります。さらに、ソーシャルECで成長をした「ピンドードー」で、深夜に帰宅中の女性従業員が倒れて急死をするといった事件や、従業員が自宅マンションから投身自殺をするといった事件が相次ぎ、再び996問題がクローズアップされています。

最も大きな問題は、ネットでの匿名による内部告発は多いものの、どこまでが真実であるかを見極めるのが難しいことです。そこで、公的機関も実態調査に乗り出しています。

今回は、ピンドードーに起きた事件の顛末をご紹介し、実態調査の報告から996問題がどうなっているのかをご紹介します。

テック企業に蔓延する「996工作制」

996とは、「朝9時出勤・夜9時退社の週6日勤務」ということで、いわゆる長時間労働のこと。

元々、テック企業では長時間労働が常態化をしていましたが、2019年にプログラミングコードの共有プラットフォームであるGitHub上に996.ICUというリポジトリが匿名のエンジニアによって開設されました。

996.ICUとは、996で働いていたら、病気になってICUに入院することになるという意味です。

すると、ファーウェイ、アリババ、アントグループ、京東、58同城、蘇寧、ピンドードーなどの社員から「うちも996になっている」という通報が相次ぎました。

中国の「中華人民共和国労働法」に定められた労働時間の規定は、常識的なものです。第36条には、1日の労働時間は8時間を超えて定めてはならず、1週間の労働時間は44時間を超えて定めてはならないと規定されています。

また、第41条には、残業に関しては、労働者の健康をそこなわない条件で、1日に3時間、月に36時間を超えてはならないとされています。

この労働法によると、1月(4週間)で最大に働いても212時間となります。しかし、996では288時間にもなります。労働法で許された最大限の働き方よりも、1日あたり3時間近くも長く働いていることになります。

Next: 成功したいなら長く働け? アリババ創業者が「996」肯定発言



ジャック・マーが「996」肯定発言

この問題が大きな社会的な関心を呼んだのは、テック企業の経営者たちのあまりにもかけ離れた考え方でした。

この996ICUが話題になった直後の2019年4月11日、アリババの創業者ジャック・マーは996を肯定する発言をアリババ内部で開催された従業員との対話集会の中で語りました。これが大きな議論を呼んだのです。

もちろん、「ジャック・マーはひどすぎる経営者だ。従業員の命をなんだと思っている」という非難が大半です。しかし、ごく少数ですが、「ジャック・マーの言うこともわかる」と理解を示した人もいます。

少し長くなりますが、ジャック・マーの発言をご紹介します。ぜひ、ご自身で、ジャック・マーの発言に納得がいくかどうかを判断してみてください。

「996について、国内で話題になっている。私個人の見方だが、996は一種の大きな福だと思っている。なぜなら、多くの企業、多くの人は、996が絶好のチャンスだとは考えていないからだ(ライバル企業に勝てるチャンスになるという意味)。若い時に996をやらなくて、いつやるのか?一生996をしないで生きてきたことが、自慢になるのか?この世界では、誰もが成功しようと思い、誰もが美しい生活をしたいと願い、誰もが尊敬されたいと願っている。みなさんに問いたい。人よりも努力をし、人よりも時間を注ぎ込まないで、どうやって成功できるのだろうか?

996の話は今日以降しない。でも、私自身は12時間労働を週に12日やってきた。この世界に996の人はたくさんいるが、1日12時間、13時間働く人もたくさんいて、私たちよりも苦労をし、私たちよりも努力をし、私たちよりも聡明な人がたくさんいる…<中略>

アリババとはどんな企業か。この世から不可能なビジネスをなくす(すべての社会課題をビジネスによって解決できることを実証するという意味)。それがアリババのミッションだ。そのために私たちはつらい仕事をしている。あなた方に、アリババは楽な仕事だなどと言って騙したことは一度もない。「不可能なビジネスをなくす」などと言うことは信じられないだろうか。私たちはそれをやってきた。

今日、私たちはこれだけ大きな企業になり、遠大なミッションを持っている。それを実現するために、代価を払わないなどということが可能だろうか。絶対に不可能だ。だから、私たちは、アリババにくるなら、毎日12時間働くつもりできなさいと言っている。それが嫌なら、あなたはアリババにきて、いったい何をするつもりなのだろうか。私たちは8時間しか働かないお気楽な人たちではないのだ」。

ジャック・マーはこの問題に興奮をしたようで、発言全文はこの3倍ほどあります。

ジャック・マーが従業員を鼓舞するために、大袈裟、強い言葉を使っていることは割り引いて考えなければなりませんが、要は人より努力しなければ成功はおぼつかないという話です。

一方で、過労死をしかねない長時間労働を推奨ではなく、当然と考えているところは、多くのネット民から批判をされ炎上をしました。

Next: リモートワークで長時間労働問題が再熱。ピンドードー社では死亡事例も



ピンドードー社では死亡事例も

この996問題は、時間とともに沈静化をしてきましたが、コロナ禍により再燃しています。

それは多くの企業でリモートワークが導入され、自宅で長時間労働するという「隠れ残業」が問題になってきたからです。

そして、2020年12月末に、ピンドードーの女性社員が亡くなるという痛ましい事件が起き、996問題が再燃しています。

さらに、ピンドードーでは、飛び降り自殺をする従業員も出て、ネットには労働環境の悪さを指摘する内部告発の書き込みが相次いでいます。

今回は、このピンドードーにまつわる事件をご紹介し、そして、北京義聯労働法援助研究センターが行った「ハイテク企業従業員労働時間調査研究」から見えてきたテック企業の労働環境の実態をご紹介します――

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・ピンドードーの23歳女性従業員が過労死?「996死」として炎上
・「みな命をお金に変えている」ピンドードー公式アカウントの発言で火に油
・中国の労働法では違法。なぜまかり通る?
・ネット上の内部告発は多数も、労働行政部門への告発は少ない
・プレッシャーに潰される労働者たち。成績下位の何%かは自動的に解雇される
・自然淘汰の敗者が恨みの内部告発?「996問題」は複雑化
・改善しない労働環境。完全フレックスではかえって働きすぎになる傾向も
・リモートワークで事態はさらに悪化
・どうしたら996問題を解決できるのか? 2つの提言
・両立困難? 996問題の解決か、中国経済の発展か
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  • vol.014 1日で4.1兆円売り上げる「独身の日」は、どのように生まれたのか?(4/6)

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image by:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年2月1日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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