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株急落「餃子の王将」は美味しい銘柄?バフェット流12の視点で分析=八木翼

ファーストフード中華業界のドンである餃子の王将。店舗には行ってみれば、確かに混み合っていますし、「きっと儲かっているんだろうな…」とは、思っていました。しかし、売上は伸びていますが、どうも利益は伸びていない。ついでに株価も伸びていない。

一体何が原因なのでしょうか?今回は王将が伸び悩んでいる要因を分析し、不適切会計問題で株価が暴落した現在および将来の企業価値を検討してみたいと思います。

不適切会計で思い出されるのはオリンパスです。2011年に不適切会計で暴落したオリンパス株を買っていれば、今は少なくとも3~4倍程度になっていました。こういう時は、財務健全性を見極めながら、しっかりと企業研究をしたいですね。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)

会社名:王将フードサービス<9936>
現在株価:3390円(4月18日終値)

社長暗殺でも不適切取引でもない、王将が儲からない本当の原因

Q1:その企業は消費者独占力を持っているか

王将の強みは中華を代表するチェーン店という立場を欲しいままにしていることですね。中華は、高糖質、高脂質、であり、個人的には太る要素しかない場所で、正直行くのは避けたいの場所ですが、間違いなく料理はうまいですね。

材料の配送にこだわりを持っていて、冷凍品ではなく、店で作ることに重点を置いています。

確かに王将の料理はおいしいです。また量も多く、安価であるため、低所得者層には、かなりの人気があります(学生なども含まれますね)。中華という分野でかなりの消費者独占力を持っていると言えそうです。

Q2:その企業を理解しているか

何度も行ったことがあり、理解しています。中華料理を提供することに特化したビジネスを持つ企業です。

Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか

王将が陳腐化する原因は、2つ考えられます。

1つは中食のさらなる発達です。外食よりも、家で食べれるコンビニのお弁当にかなりのシェアを奪われる可能性があります。これはかなり脅威ですが、コンビニより出来たての方がおいしいですし、コンビニと共存できていますので、問題はないでしょう。

2つ目が中華料理自体の衰退です。確かに中華料理は安くておいしいですが、健康にいいとは言えません。そういう点では心配しないわけではありませんが、ハンバーガーが売れまくっていて、健康に悪いことが分かっているタバコも吸われている今の時代には、別に意識すべきことではないのかもしれません。

Q4:その企業はコングロマリットか

中華料理事業に特化しており、コングロマリットではありません。

Next: Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか



Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか

決算年度 EPS(円/株) 前年比成長率
2014 186.78 -12.8
2013 214.28 -12.2
2012 243.98 2.4
2011 238.22 -9.6
2010 263.64 8.7
2009 242.45 64.6
2008 147.31 18.5
2007 124.32 8.9
2006 114.18 90.8
2005 59.85

年平均EPS成長率:12.1%

高いですね。年12%の利益成長率というのはなかなか達成できるものではありません。

しかし、明らかに途中から減収に傾いています。リーマンショックがあったのは、2009年以降なので、2011年から減収に傾くというのは、少し違和感がありますね。

ちなみに、売上は一貫して伸び続けているのです。

売上が伸びているのに、利益が伸びていない原因として考えられるのは、コストが増加していることです。何のコストが増加しているのでしょうか?

飲食店のコストの主な要因は3つだけです。

このうちどれが上昇しているのでしょうか?

売上高に対して、どのくらいの割合で数値が上昇しているのか見てみましょう(単純な数字だけ見ても、売上高が伸びているのであれば、材料費が増えるのは当然です。売上が増えた時に、一定の比率を保てていることが大事なのです)。

1.原材料費

まずは原材料費から見てみます。

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
売上高 68290 70947 74307 76222 75772
原材料費 19978 21009 21749 23089 22686
売上高に対する
原材料費の割合
29.25% 29.61% 29.27% 30.29% 29.94%

ここに関しては、そこまで大きな変動はありませんね。ただし、豚肉が高騰していることから、2015年あたりは、一時上昇する可能性があります。ただし、過去5年は心配するほどのぶれはなく、安定しています。そこまで大きな問題とは言えないでしょう。

また、最近は円高傾向にあります。円の実質実効レートは円高がまだ続くことを示していますので、長期的には、原材料費の調達は、安く済む可能性が高いと考えます。
実質実効レートで「円の真の実力」を知る – 日経電子版

2.人件費

次に人件費を見てみましょう。

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
売上高 68290 70947 74307 76222 75772
役員報酬(a) 326 329 335 321 295
給料手当(b) 8194 8563 9083 9567 10156
雑給(c) 9623 10187 10906 11191 11464
福利厚生費(d) 2762 3051 3417 3629 3709
人件費(a+b+c+d) 21494 22756 24406 25393 26326
売上高に対する
人件費
31.47% 32.07% 32.84% 33.31% 34.74%

※金額は全て百万円
※雑給は、直営店におけるパートタイマー給与

こちらは上昇し続けています。特に、給料手当て、雑給の伸びが激しく、売上の増加に対しても、明らかに人件費がかさみ過ぎています。

ブラック企業として選ばれてしまったり、裁判を起こされてしまったりと、いろいろなことが重なり、人件費が高騰しているわけですね。

ただし、何も対策を取っていないわけではありません。

2016年2月のニュースによれば、埼玉県の工場が4月稼働し、ギョーザの製造工程を店舗から移して効率化することのこと。これにより、労働環境も改善するとのこと。

これが人件費を抑えることにつながれば、強みを増すでしょうね。

私はその可能性はあると考えています。特に王将は、餃子という共通のメニューを作っているだけに、大量生産できる部分はまだまだあると考えられます。積極的に人件費削減への努力をして欲しいですね。

Next: 3.光熱水費~売上アップでも利益減少の理由が明らかに



3.光熱水費

結論からいえば、コチラも増えています。

日本では、東日本大震災が2011年に起こった後、原発停止などで、電気代が上昇し続けています。
電気料金の水準(スライド8ページ) 平成27年11月18日 資源エネルギー庁[PDF]

また、同様に資源価格も上昇を続けています。
50年あまりのガス料金の推移をグラフ化してみる(2015年)(最新) – ガベージニュース

このように、コスト増加が直撃してきたと見てよいでしょう。売上高に対する管理費(光熱水費と運搬費)を比較してみると、コストが上昇し続けていることが良く分かります。

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
売上高 68290 70947 74307 76222 75772
光熱水費(a) 3221 3567 3942 4402 4528
運搬費(b) 1195 1290 1407 1496 1574
管理費(a+b) 4416 4857 5349 5898 6102
売上高に対する
光熱水費
6.47% 6.85% 7.20% 7.74% 8.05%

※金額は全て百万円

これが、2010年から2014年にかけての、売上は伸びているのに利益が減少している理由と言えるでしょう。

売上高に対する光熱水費というのは、2014年を例に上げて、簡単に言えば、100円売上るのに8.05円かかっていたことになります。

2014年の売上に対して、2010年の「100円売上るのに6.47円かかる」という条件を仮定してみると、管理費は、

6102×(6.47/8.05)=4904百万円

で済んでいたと考えられます。

つまり

6102-4904=約1200百万円

なんと、約12億円も儲かっていたことになります。2014年度の純利益が47億円ですので、純利益の25%ものお金を生み出せていたことになるのです。

そう考えると、今の王将の不調は、社長が暗殺されたことや、ニュースなどとは関係なく、実は、単純なコストの増加によるものであったと考えるのが妥当だと考えられます。

光熱水費については、シェールガス、シェールオイルの登場で、上値が抑えられています。

OPECが協調して価格を上げても、サウジアラビアは強調しない姿勢を見せていますので、たかが知れているでしょう。

そう考えれば、王将にとってはポジティブです。円高になれば、当然、石油価格も安くなりますし、日本国民の可処分所得も上昇します。

王将にとっては、円高はポジティブ材料です。最近の円高で得するのではないでしょうか?

売上を1%伸ばしても、その1%の売上を伸ばすために、売上に対して90%の経費を使っているのであれば、実際の利益は、売上の10%しか伸びません。しかし、コストは削減した分がそのまま利益になります。1%コストを削減すれば、その分は、丸々利益です。

これが、私が売上よりもコストを重視する理由の1つです(もちろん売上も大事なんですが)。

Next: Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか



Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか

決算年 ROE
2014 8.7%
2013 10.6%
2012 13.3%
2011 14.4%
2010 18.2%
2009 18.9%
2008 13.3%
2007 12.0%
2006 11.6%
2005 6.4%

平均ROE:12.7%

ROEは、低下傾向ですね。EPSでも述べたとおり、人件費、光熱水費が重くのしかかっています。人件費の節減、光熱水費の減額は、十分起こりうる事象ですので、現状も運営状況は悪くないと思います。

Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか

財務基盤を見る際は、自己資本率が良く使われますが、それはバフェット的にはNGです。長期債務に対して、どれだけ稼ぐ力を持っているかが重要と考えています。

今期の長期負債(百万円) 4,896
今期の税引き後利益(百万) 3,675
長期負債/税引後利益(年)
(長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)
1.33

2年以内で返せますね。大きな問題はありません。

Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か

自社保有株式は、発行していないとみなしています。

今期発行済み株数 23,286,000
6年前の発行済み株数 23,286,000
過去10年間に減少した株数 0.00
減少した割合 0.00

これまではしてきていませんが、2015年は、22億9500万円の自社株会をすると宣言しています。今後は期待できる可能性が高いです。

Next: Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか



Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか

値上げも実施しています。人件費や光熱水費が上昇している中では、当然と言っていいでしょう。日本がデフレの中、価格を維持し、売上を伸ばし続けているので、インフレ率を上回っていると言えるでしょう。

Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか

PER:15.39倍

日経新聞から引っ張ってきた2015年度の利益予想を基にしたPERです。高くはないと言えそうですね。

また、貸借取引で注意喚起とされています。どうやら、1993~2006年に利益がなかったように見せかける不適切会計があったようです。これについては、今後も揉める可能性があり、下落余地はありますね。ちょっと待ってもいいと思います。

Q11:株式の利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ

以下は計算です。

【1.予想成長率を求める】

まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。

(必要な値)
10年平均ROE:12.7%
配当性向:50%

(式)
株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)

(答え)
株主資本の予想成長率:6.4%

【2.予想BPSを求める】

さらに、今求めた、株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。

(必要な値)
直近のBPS:2,174.84
株主資本の予想成長率:6.4%

(式)
10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10

(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 ¥4,032.9

【3.予想EPSを求める】

この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。

(必要な値)
10年後の予想BPS:¥4,032.9
10年平均ROE:12.7%

(式)
10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE

(答え)
10年後の予想EPS:¥513.79

【4.10年後予想株価を求める】

さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。

(必要な値)
10年平均PER:12.6
10年後の予想EPS:¥513.79

(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS

(答え)
10年後予想株価:¥6,456.67

【5.年間期待収益率を求める】

10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。

(必要な値)
10年後の予想株価:¥6,456.67
現在の株価:¥3,435

(式)
年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
年間期待収益率:6.5%

【結果】

低いですね。しかしこれは、配当性向が高いことが起因しています。現在の株価で見てみると、配当利回りは3.6%となっています。

こんな誰もが知っている会社で、これだけ高い配当性向は、マイナス金利の日本ではほぼないでしょう。これはかなりお買い得と言ってもいいかもしれません。

ただし、不適切会計に関しては私は分かりません。そこらへんのリスクが顕在化してからでも、買うのは遅くないと思います。

Next: Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ



Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ

【1.10年後BPSを求める】

まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。

(必要な値)
年平均EPS成長率:12.1%
現在BPS:2174.84

(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS

(答え)
10年後BPS(円/株):6787.2

【2.10年後EPSを求める】

今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。

(必要な値)
過去10年平均ROE:13%
10年後BPS(円/株):6787.2

(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE

(答え)
10年後EPS(円/株):864.7

【3.10年後予想株価を求める】

さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。

(必要な値)
過去10年平均PER(倍) :12.6
10年後EPS(円/株):864.7

(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)

(答え)
10年後予想株価:10,866.3

【4.年間期待収益率】

この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。

(必要な値)
10年後予想株価(円/株):10,866.3

(式)
年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
期待収益率(%/年):12.2%

【結果】

こちらは素晴らしい上昇率ですね。ただし、これは、配当性向を考慮していないからです。王将が配当性向を上げ始めたのは、平成25年度くらいからですので、EPSの成長率は、鈍化しています。

それを考慮すれば、成長率はQ11と大差ないでしょう。

ただし、配当として還元していますので、これを再投資に回していけば、大きな投資資金となることは間違いありません。

Next: 結論:王将フードサービスへの投資はあり?なし?



結論:王将フードサービスへの投資はあり?なし?

現時点としては、保留です。

というのも、不適切会計の内容が明確にあってからでも買いに入るのは遅くないからです。

PERは15倍と高くなく、配当利回りも3.6%と高いので、悪くはありませんが、不適切会計の内容次第では、下落余地があります。

労使問題だったり、中国進出問題だったりと、話題になりやすい企業なだけに、急な下落には注意が必要です。

ただし、財務内容はいいです。人件費の節約も合理化を進めていますし、光熱水費についても、円高+原油安で、上値は限られています。そういう意味では、今は悪くない投資機会だとも言えます。

そして、この記事を執筆中に入ってきたニュースですが、どうやら石油産出国は、産出量制限の合意に失敗したようですね。王将にとっては円高はポジティブ材料でしょう。

編集後記

王将には昔良く行っていました。確かに、そんなにきれいなイメージはありませんが、「それこそが王将!」という特別な地位にありますので、ある意味美味しいポジションですよね。

ただ、最近は床の掃除もしっかりしているようです。掃除も行き届いていました。個人的には、好きな店ですね。

継続は力なり!ダメでもともと(笑)八木翼でした。

【関連】苦境のユニクロは「買い」なのか? バフェット流12の視点で分析する

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年4月19日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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