中国経済はコロナ禍からの完全復活を遂げたように見えますが、ショッピングモールは不振が続いています。つまり、コロナ無関係に苦境にあるのです。この原因を理解することが、日本のショッピングモール業界を守ることに繋がります。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年2月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
中国経済はコロナ以前にほぼ元通り
今回は、ショッピングモールの苦境についてご紹介します。
中国の新型コロナ感染状況は、突発的に小規模クラスターがあるものの、終息をしたといっていい状況になっています。しかし、感染予防策は緩めてはいません。健康コードは相変わらず使われていますし、店舗を利用するにはマスク着用と体温測定が基本になっています。繁華街の人出は以前と変わらなくなっていると言いますが、それでもみな真面目にマスクをして歩いているそうです。
特に大きいのが長距離移動の制限です。都市外、省外へ移動して、戻ってきたら2週間程度の自己隔離が必要になります。自宅隔離でもいいという都市もありますが、中には指定のホテルで隔離をし、宿泊代は自分持ちという都市もあるそうです。
どの都市でも、今年は春節の帰郷を自粛するように勧告しています。
経済の方は多くが以前の状態に戻っています。戻っていないのは旅客関係ぐらいになりました。
飲食店も客足は8割程度の戻りですが、フードデリバリーや外食の小売化などの手法を使って、飲食業の売上としては2020年10月以降、前年を上回るようになっています。
ショッピングモールの不振が目立つ
その中で、不振が続くのがショッピングモールです。
空き店舗率は上昇する一方で、今後も上昇することが懸念されています。感染拡大期には、屋内で三密になる場所であるので、人々が避けるのは仕方のないことですが、市民の間で終息感が広まる中、どうして不振が続くのでしょうか。
中国の小売業では、利便性を上げるために、人と商品の距離をいかに縮めていくかということがこの10年以上、大きなテーマになっていました。都市型スーパー、コンビニ、新小売といった手法は、この距離を縮めるものです。
しかし、ショッピングモールは体験型にすることで集客をすることに意識が向かい、この距離を縮める努力をしてきませんでした。
つまり、ショッピングモールの不振は、コロナ禍のせいだけでなく、大きなトレンドに追従するための努力を怠り、コロナ禍により、そのトレンドが加速をしたために、ショッピングモールの弱点が露わになってしまったのです。
では、なぜ、ショッピングモールは、大きな小売業変革のトレンドに追従しなかったのでしょうか。
ショッピングモールの苦境を知ることで、中国小売業の大きなトレンドが見えてきます。今回は、ショッピングモールの不振から見える小売業の変革トレンドをご紹介します。
Next: 増える空き店舗。ショッピングモール不振は日本にも当てはまる
増える空き店舗。中国ショッピングモールは苦しんでいる
中国のショッピングモールが苦しんでいます。
「2020H1一二線都市ショッピングモール空き店舗率報告」(WIN DATA)によると、2020年上半期の空き店舗率が8.88%となりました。これは、19の主要都市の5万平米以上のショッピングモール1,116カ所に対する調査結果です。
広州、杭州、重慶などの8つの都市では、空き店舗率が10%を超えています。しかも、ショッピングモールの店舗には契約期間があるため、その期間が終了しなければ退去することができません。これにより、2020年下半期ではさらに空き店舗率があがっているのではないかと懸念をされています。
実際、すでに空き店舗率が50%を超えてしまい、存続そのものが難しくなっているショッピングモールが出始めているようです。
ショッピングモールが増えすぎた?
ここ数年で中国の都市を訪れたことがある方の中には、ショッピングモールの多さに驚かれた方もいるのではないでしょうか。大都市はモールだらけといってもいいほどです。
実際、2019年にはすでにモールの過当競争が大きな課題になっていました。明かに多すぎるのです。
しかし、人は新しくできたモールに行きたがるので、過当競争を勝ち抜くには、新しいモールを作るしかない。単なる買い物センターではなく、有名飲食店が入り、シネコンなどの映画館、観覧車などの本格的な遊戯施設があるのも当たり前、さらにはオフィス棟、住居棟なども併設される例も増えていました。
モールには、都市型モールと郊外型モールがあります。都市型モールは都市内にあるもので、郊外型モールは市外に広大な敷地をとって半日そこで遊べるというものです。このうち、都市型モールはそれなりに利用されているようです。スーパーやカフェもあり、地下鉄の駅から徒歩圏内で、通勤経路の途中にあるため、日用品を買うのに使われているからです。
厳しさが増しているのは郊外型モールです。郊外型モールは、わざわざ行かなければならないため、コロナ禍による外出自粛で客数が大きく減ることとなりました。
もう新型コロナは過去のもの
コロナ禍による業績悪化はどうしようもないことです。どの業種も大きな痛手を被っています。
しかし、中国の感染拡大は厳しかったものの、他国よりもいち早く終息しています。2020年の3月には終息が見えてきて、6月には市民感覚ではほぼ終息をしたと感じ、9月には中央政府が、人民大会堂で、感染対策に貢献をした人への表彰が行われ、事実上の終息宣言をしました。
もちろん、それ以降も、無症状感染者が見つかったり、小規模クラスターの発生は断続的に続いています。そこには対策チームが急行し、その地区を封鎖し、住民、関係者を一斉にPCR検査をするという手法で、最後の掃討戦を行っています。
市民感覚としては、もう新型コロナのことは過去のものになっているようです。
ただし、感染予防対策は続いています。多くの都市で、公共交通機関を利用するには健康コード(感染リスクを緑、黄、赤の3段階で表示する仕組み)の提示が必要ですし、店舗を利用するにはマスク着用と体温測定、さらには長距離移動をした場合は、戻ってから14日間程度の自己隔離が必要になります。
そのため、毎年、故郷に帰る人で空港、鉄道、高速道路が大混雑となる春節も、今年は故郷に帰らなかったという人が多かったようです。各都市の政府も春節で故郷に帰らないことを推奨しています。
このような制限はまだあるとはいうものの、人出の賑わいは各地で戻っています。
最近使われるようになった言葉が「内循環」です。つまり、長距離移動には制限があるため、制限を受けない同じ都市の中、同じ省の中でレジャーを楽しむというものです。
人気になっているのは、フィールドアスレチックやキャンプ、サイクリングなどのアウトドアアクティビティです。家に閉じこもっている期間が長かったため、広い場所で思いっきり体を動かしたいのだと思います。スポーツが苦手な人も、景観の美しい場所、広い公園などにいくという傾向が高くなっているようです。
Next: コロナ無関係に落ち目のショッピングモール。復活への道は?
中国経済は完全復活
経済も完全に復活をしているといっていい状態です。
中国のGDP成長率は、感染拡大期にあたる2020年Q1(第1四半期)には−6.8%という大きな落ち込みになりましたが、Q2には+3.2%と復活し、Q3は+4.9%、Q4には+6.5%となりました。2019年のGPD成長率は6.0%前後を推移していたので、2020年Q4には再び成長軌道に乗ったといってもいいほどです。
社会消費品小売総額(日本の個人消費に相当)も2020年9月に前年を上回り、それ以降、わずかとは言え成長をしています。
特に目覚ましいのがネット売上で、2020年はコロナ禍があったにもかかわらず10.9%の成長となりました。ネット小売の中で、最も成長をしたのが食品で30.6%の成長です。
一方、最も低調だったのが衣類で5.8%の成長にとどまりました。
このように経済が以前の水準に戻っている中、戻り切れていないのが旅客関係と大型小売店です。旅客関係は、長距離移動が制限されているので致し方ありません。といっても、移動制限が解除されるにつれて遅れて戻っていくことは確実なので、業界関係者は大いに期待をしているでしょう。
問題はショッピングモールなどの大型小売店です。
なぜ復調しない?コロナ無関係に落ち目のショッピングモール
なぜ、モールだけが復調できないのでしょうか。
それはコロナ禍による影響だけではありません。不運なところもありますが、時代の流れを読み違えていたことも大きな原因です。モールの不調を調べることで、モールだけではなく、中国の小売業に大きな変化が起きていることがわかってきます。
中国の小売業はこの20年、大きな変化トレンドの中にあって、コロナ禍は突発事態というよりも、そのトレンドを加速したにすぎないと見ることもできるのです。モールは時代に合わせた業態変革に遅れていたところにコロナ禍が襲ってきたために、致命的な打撃を受けたと見ることができます。
・SARS流行で急成長した国内系の都市型スーパー
・ECが小売業の世界を大きく変えた
・ショッピングモールが林立した理由
・過当競争の追い撃ちをかけたコロナ
・アリババが「買い物」を変えた。
・「新小売」に対応できない業態は廃れていく
・ショッピングモールに立ちはだかる大きな障害
・「新小売」と短距離配送の波は日本にも来るか?
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『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年2月22日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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