今月16日に日米首脳会談が行われるが、中国はこれを警戒している。対外政策で深みにはまった習近平は会談結果を受けてどう出るか。2つの相対立する見方がある。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2021年4月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
菅・バイデン会談に注目集まる
日米首脳会談が4月16日、ワシントンで開催される。
米バイデン大統領が、対面で初めて臨む海外首脳会談相手が菅首相である。日米会談は、インド太平洋の平和維持構想でさらに踏み込んだ合意に達するか、世界が関心を持っている理由だ。
バイデン大統領は、これまでオンラインによる「クアッド」(日米豪印)の合意で日米協調の大枠ができあがっている。
これを基礎にして、3月16日の日米外務・防衛「2+2会議」で台湾や尖閣諸島の防衛で協力する旨を確認している。
こうした実績の上に、菅・バイデン首脳会談が行なわれる。
王毅外相の日本威嚇発言
中国は、この会談の行方に最大の関心を寄せている。
日中外相電話協議が4月5日、中国側からの要請で行なわれた。この日は、中国が先祖を弔うため墓に参る大切な清明節の連休最終日に当たっていた。1時間半もの長時間会談になったが、中国の王毅外相は茂木外相を次のように威嚇した。
「複雑な国際情勢に対し、中国と日本は長い間隣国であり、世界第2、3位の経済大国として時代の流れと国際情勢に順応しなければならず、日本は大国の対決に干渉するな」と、極めて無礼な発言をした。これは、中国外交部発表の中にあった文言である。
中国の漢族は、黄河の中原から現在の広大な版図へ拡大するまで、周辺弱小国を統合してきた歴史を持つ。秦の始皇帝以来、連衡を組んで相手を恫喝して震え上がらせてきた。中国は、この悪しき恫喝の歴史を踏み台にして、今や外国まで恫喝するようになった。「田舎大国」という誹りを受ける理由である。欧州でも、すこぶる評判が悪いのだ。
日本が、中国の威嚇に屈するはずがない。中国は、日本が対抗姿勢をさらに強めるという逆効果を計算できないのであろう。気の毒な国である。
こういう経緯からも、日米首脳会談の成果に関心が向けられている。
中国の「ワクチン外交」は失敗に終わるか
一説では、米国が日本へ大量のワクチン供給を約束するだろうという見方もある。米国は、ワクチンの大増産体制を敷いており、いずれ過剰生産に陥る。そこで、日本への供給体制を築き、日米一体化を世界に向けて発信するというのである。
中国は、「ワクチン外交」を展開し、新興国の協力を取り付ける戦術に出ている。だが、ワクチン生産能力が限られ、国内のワクチン接種すら大幅に遅延している。1回目と2回目の接種間隔を最大8週間に延ばせるとのガイドラインを出しているほどだ。
欧米のワクチンでは、メッセンジャーRNA(mRNA)ベースの接種間隔が3~4週間である。中国は、いかにワクチン供給が遅れているかを示している。
中国が、「ワクチン外交」で失敗すれば、国威発揚は空念仏に終わる。習近平氏は、パンデミックの汚名をそそぐべく、「マスク外交」を始めて大失敗した。不良品が多く、各国から返品騒ぎが起こったのである。
今度は、名誉回復で「ワクチン外交」に力を入れた。これも供給体制が整わず、価格はロシア製の2倍。かつ、ワクチン医療情報を開示しないことで、疑念を持たれる始末だ。現状では、ワクチン外交も失敗の烙印を押されている。
Next: 凶暴化して台湾・尖閣諸島を狙う? 習近平の対応に2つの見方
習氏の対応に2つの見方
以上のように、習氏にとっては対外政策で深みにはまった感じが強い。
日米首脳会談で、日米が一段と結束する体制ができあがれば、インド太平洋戦略の「コア」が不動という印象を中国に与えるであろう。習氏が、これを冷静に受け入れるのか。さらに凶暴化して、尖閣諸島と台湾へ軍事威嚇を強めるのか。現状では、判断不可能である。
2つの相対立する見方がある。
1)中国国内で、元老から習近平の猪突盲進に危険信号が出ている。いずれ、習氏の行動は沈静化するという合理性を強調する見方である。
2)最近のEU(欧州連合)と中国が、新疆ウイグル族の人権弾圧をめぐり、互いに報復し合っている。EUは怒って、昨年12月末に署名した対中国の総括投資協定について、EU議会が審議棚上げで対抗している。習氏は、経済的な損失でも躊躇なく決断する、どう猛性を強調する見方だ。
上記の通り、2つの見方がある。新興国が覇権国へ対抗する際、(1)のような合理的判断に基づく行動を期待できない。日本が、米国と太平洋戦争を始めた状況は、現在の中国の置かれた状況と寸分違わないことに注目すべきである。
日本は、満州撤兵をめぐり米国と対立した。米国は、経済制裁として対日輸出禁止(石油・鉄くず)を科した。山本五十六連合艦隊司令長官は当初、「米国から石油を買いながら戦争できるか」と対米戦争を否定していた。だが、陸軍は満州撤兵を拒否して、開戦を急がせた事実がある。
中国へ上記の事情を当てはめれば、日中の置かれている事情は瓜二つである。
中国は、国際法上で所有権のない南シナ海と尖閣諸島の領有権を主張する。南シナ海では、他国領有の島嶼を占領し埋め立て軍事基地にしている。戦前の日本が、満州へ軍事進出したケースと同じだ。中国は、占拠を既成事実化している。米国艦船が、南シナ海を航行すれば非難して、公海自由の原則を否定する行動に出ている。
これは、中国が南シナ海を「内海」扱いしている証拠である。
中国は海洋国家へ楯突く
米国は、こういう横暴な振る舞いを絶対に見逃さず、必ず「軍事処置する」国家である。
それは、米国が海洋国家であることだ。中国は、こういう海洋国家の歴史を知っておくべきだろう。日本も海洋国家としての歴史を持つ。
中国は、典型的な大陸国家である。大陸国家は、主観的・排他的という特性ゆえに、海洋国家との共存が困難な面を抱えている。海洋国家の国家戦略は、国際的な関わりの中で国民的生存・繁栄を手にする生き方だ。国際的な協調があって初めて、自国の平和と繁栄が確保されると認識している。
世界では、日本、米国、英国などが典型的な海洋国家として位置づけられている。インド太平洋戦略は、海洋国家の日米が主軸となって、大陸国家・中国の海洋進出の防波堤になろうとしている。
中国が、大陸国家の特色である「主観的・排他的」というドグマに染まっている以上、日米などと摩擦を起こさずに共存できる可能性は、残念ながら極めて低いといわざるを得ない。
インド太平洋戦略は、海洋国家と大陸国家の歴史的な摩擦現象である。これが、発火して火災になるか、小競り合い程度で終息するか。ひとえに、中国の出方一つに掛かっている。
Next: 米国は繁栄し、中国は衰退する。習近平は未熟な半導体で対抗できるか?
米国は繁栄し、中国は衰退する
ここで、前述の2つの見方のうち、現状では習近平氏の強硬策が続くと見るほかない。
習氏が、「終身国家主席」を宣言した形である以上、台湾か尖閣諸島の奪取に出て「軍事的功績」にしなければ、終身国家主席は保証されないためである。
この事実を見逃していると、インド太平洋戦略は瓦解する。
山本五十六は、開戦に反対であった。習近平は、開戦して戦果を上げなければ、終身国家主席の座に納まっていられないのである。習氏の方が、はるかに切羽詰まった状況に置かれている。
ここから、中国はとんだ拙速の戦いを挑む危険性を秘めていると判断すべきだろう。習氏の場合、「米国衰退・中国繁栄」という民族主義に酔っている。これは、習氏側近の民族主義者に吹き込まれている結果である。まさに、大陸国家の「主観的・排他的」というドグマに染まっている証拠である。
米国が衰退し、中国は繁栄する。これを証明する客観的なデータは存在しない。事実は逆である。出生率のデータひとつを見ても、中国は衰退する運命に置かれている。米国は、その逆である。人口動態こそ、潜在的経済成長率を左右する根幹的なデータだ。
これを無視した議論は、単なる憶測であって経済予測とは言えない代物である。
半導体後進国が対抗する
人口動態のほかに、科学技術が潜在成長率を左右する。科学技術といえば、さしずめ半導体の存在が上げられる。「21世紀の石油」とか、「産業のコメ」とも言われるように、半導体技術の成熟・未成熟の差は経済力に圧倒的な違いを生む。
この半導体技術において、中国は未成熟である。米国は、世界最先端の成熟国である。
中国の半導体自給率は現在(2020年)、16.6%である。残りは、すべて輸入で賄っている。この状態で、米国と開戦したならばどうなるか。半導体輸入が杜絶すれば、中国の産業は動かなくなる。現有兵器は動いても、補給は続かないのだ。
中国の敗北は、時間の問題であろう。長期戦になれば、国内の不平不満分子が立ち上がる。習近平氏が狙った「終身国家主席」の夢は、敗北とともに消え去る運命だ。
日本が、真珠湾奇襲攻撃で制海権を握っていたのはわずか7ヶ月である。ミッドウェー海戦(1942年6月)で、日本海軍は大敗し米軍に制海権・制空権を奪われたのだ。以降、1945年8月まで敗退を続け、日本本土は焦土化したのである。
ここで、中国の半導体供給の実績と予測を上げる。単位:10億ドル。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2021年3月2日付)から引用した。
中国企業 外国企業 自給率
2018年: 36.845 216.213 14.5%
2019年: 34.455 183.476 15.8%
2020年: 39.227 196.794 16.6%
2021年: 44.932 223.320 16.7%
2022年: 52.779 241.747 17.9%
2023年: 65.096 259.736 20.0%
2024年: 84.213 274.752 23.4%
2025年:103.714 295.033 25.9%
2026年:123.787 311.011 28.4%
2027年:149.027 342.487 30.3%
2028年:175.839 370.585 32.1%
2029年:209.061 399.560 34.3%
2030年:247.056 431.297 36.4%
(資料出所:インターナショナル・ビジネス)
上記データによれば、2030年の半導体自給率は36.4%と3分の1程度である。この自給率予測には、米国からの半導体とソフトの輸出禁止措置がどの程度、反映しているか不明だ。現実は、これ以下の自給率になろう。開戦の場合、中国半導体供給は一層、急迫化するに違いない。
この状況は、日本が鉄鋼と石油という戦争に不可欠な素材を欠いて、長期戦に耐えられなかったと同様である。中国は、長期戦が不可能という結論になるはずであろう。
悪いことは言わない。米国と戦っても勝ち目はないのだ。
米は同盟国巻き込み防衛
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- 文在寅「天誅下る」 次期大統領選は野党勝利 政権交代で「被告席」(4/1)
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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。