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来春から高校授業に「資産形成」導入。投資信託が教材、金融機関のお得意様を育てる狙いか=原彰宏

2022年度から高校授業の家庭科で「資産形成」の授業が始まります。その目的が、純粋に「お金のことで騙されないように基礎体力をつける」というのであればよいのですが、どうやら投資信託の金融商品を取り扱うとのこと。それが金融庁が中心となって行われることから、どうも少し違った思惑が見え隠れしているように思えてなりません。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年3月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

家庭科で「資産形成」の授業が始まる

以前、当メルマガで、高校授業に関して、2022年から「現代社会」という授業科目を廃止して「公共」という科目を設けることをご紹介しました。「公共」では、法律や経済の仕組みに加え、社会保障の現状などを学び問題点を理解することを目的としていると説明されています。

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18歳から選挙権が与えられることで、高校生にも広く、倫理、政治、法、経済の視点から社会と接することを学ぶものとして設けられたものとしています。

そしてさらに、2022年度から始まる新しい高校授業があります。

それは家庭科における「資産形成」の授業です。2022年度から成人年齢が18歳に引き下げられることが背景にあるようです。

成人になれば、あらゆる社会での契約ごとが自由意志でできるようになります。

知識がないままに契約を交わすことで、いろんなトラブルに巻き込まれることになりますが、なかでも金銭トラブルはあとを絶たず、その仕組も年々巧妙になってきています。

こういった金銭トラブルに巻き込まれないように、高校生のうちに金融リテラシーを高めておこうというのが、家庭科授業での「資産形成」カリキュラム導入の狙いとなっています。

授業で「投資信託」の金融商品を説明、何か裏がある?

純粋に「お金のことで騙されないように基礎体力をつける」というのであればよいのですが、どうやら授業で投資信託の金融商品を取り扱うようで、それが金融庁が中心となって行われることから、どうも少し違った思惑が見え隠れしているように思えてなりません。

穿った見方なのかもしれませんが、「資産形成」イコール“資産運用”というテンプレートがあるように思えるのです。

老後資金準備には資産運用が必要というロジックが“伝家の宝刀”のように語られていますが、それは金融商品を買わせる「セールストーク」であるという側面もあることを、しっかりと意識しておかなければならないと思います。

果たして生徒に教える側が、そのことを、きちんと意識しているのかどうかに疑問が残ります。

おそらく、学校の先生は資産運用には精通していない人が多いように思います。金融庁が作成したマニュアル通りに、授業を進めていくと思います。

そこにはきっと自身の経験から出る言葉はなく、日々変動するマーケットの状況を解説する技量がないままに、金融商品が語られるのではないかと思います。

金融商品ありきではない授業を、期待したいですね。

なぜなら、金融庁が学校の先生に「資産形成」の授業の進め方を指導するわけで、そうなると金融商品解説において、ほんとうの意味でのデメリットを、どこまで率直に語られるのかが気になります。

Next: 教師はデメリットを正確に伝えられるのか?マネー教育を行う意義とは



教師はデメリットを正確に伝えられるのか?

資産運用は頭を使うもので、しっかりとした勉強と訓練が必要だということを、果たして金融庁は指導してくれるのでしょうかね。

おそらくこのようなことを考えているのはごく少数で、私だけかもしれませんが、前提として、世の中の「資産運用」に関する考え方が正しいのかというところから見直すべきで、そのような認識を高校生に植え付けることが良いのだろうかという疑問を投げかけたくなります。

・長期投資は本当に有効なのか
・分散投資は、どのような局面でも有効なのか
・そもそも老後資金準備に資産運用は絶対に必要なのか
・投資信託を買えば、老後資金は準備できると言えるのか

どうも「公共」といい「家庭科の資産形成」といい、授業から、学校教育から、若者は、「大人の事情」「大人社会の都合」を押し付けられているような気がしてならないのですがね…。

学生や子どもたちに行うマネー教育の意義とは

日本では、子どものころからお金に関することを教えない、いわゆる「マネー教育」「金銭教育」がなされていないので、資産運用に関して消極的であると言われてきています。

確かに、米国では小学校からカリキュラムとして「マネー教育」はあり、日本でもよく言われる「米国人は投資には子どもの頃から馴染んでいる」と言われてはいるようです。

ただマネー教育を、資産運用を行う障壁をなくすために行うものと捉えると、少し方向性が違ってきます。なにも、日本人に資産運用をさせるためにマネー教育がなされるわけではありません。

実際、米国みんなが資産運用をしているわけではなく、貯蓄が大好きな米国人もたくさんいます。

米国においては、確定拠出年金制度(米国では「401k」)が導入されたことで、資産運用に積極的な傾向が見られるようにあっただけで、それまでは米国においても、日本と同様に、貯蓄を好む人の比率は高かったのです。

お金の流れを知ることで、お金が増える仕組みを理解して、その上で投資手法を選択するというプロセスを踏むことが大事だと思います。

老後資金が足りないからとか、銀行に預けていてもお金が増えないからということでの、投資の動機づけは非常に危険です。

だいたい金融詐欺は、人々の「欲」への執着につけ込んでくるものです。しかも「“楽”して儲ける」という「楽”して」を強調しているのは、100%が詐欺です。

そういったことをきちんと教えてほしいものです。

Next: マネー教育と金銭教育は別モノ。リボ払いのデメリットも教えられるか?



「お金のしくみ」をどこまで教えられるのか

そもそもお金のしくみとは、お金の稼ぎ方であり使い方であり、税金や社会保険料の仕組みを知ることにあります。

そのなかに、金融商品を学ぶカリキュラムがあり、リスクを取ることの本質を理解する項目があって、その上で投資という手法があることを理解スべきだと思います。

お金のしくみを知る…。それは「お金の稼ぎ方」を知ることでもあります。さらに労働の対価となる報酬、その社会的意義を理解することも大事です。

労働収入を得る方法として正規雇用や非正規雇用があることも教えて欲しいですし、労働収入とは別にビジネス収入があることも、きちんと教えて欲しいものです。そこまでは無理でしょうか…。

できれば「副業とは何か」を教えることも、これからは必要かと思うのですがね。

そして「お金の使い方」があります。クレジットカードの仕組みや、リボ払いのメリット・デメリットをきちんと把握することが求められます。お金を借りるとはどういうことかを、しっかり学んで理解することが必要です。

本来なら、35年もの長期間お金を借りる「住宅ローン」は、商品先物以上にリスクがあるものだということを教えて欲しいのですが、国策が絡むので無理でしょう。

自動車ローンは利率から考えると非効率であるなんてことも言えないでしょうね。自動車は「コスト」であって「資産」ではないですからね。

それは住宅も同じで、この「コスト」と「資産」の概念を知ることのほうが重要なのですが、金融庁主導のカリキュラムなので、それは望めないでしょうね。

マネー教育と金銭教育は別モノ

老後資金に2,000万円必要とか、本当は3,000万円でも足りないとか、様々なことが言われますが、その資金を準備するのには、貯蓄では間に合わないから運用しようという風潮が形成されてきています。

そのために、高校の授業に「マネー教育」が導入されるとしたらどうでしょう。運用手法を理解するための「家庭科での資産形成」授業があるのでしょうか…。

確かに、何も知らないまま資産運用の世界に飛び込むということは、無防備で戦場に放り出されるようなものではあります。

まずは運用をするために備えなければならない基礎体力を高校生のうちから養っておこうという主旨は、一見正しいように思えるのですが、ちょっと違和感を感じてしまいます。

マネー教育と金銭教育は「違う」と考えます。

屁理屈のような論理で、勝手なイメージですが、「マネー教育」とカタカナを使った場合、どうしても資産運用の指南をすることを考えてしまいます。「金銭教育」となると、お金の使い方を学ぶというイメージで、クレジットカードの利用方法とか、借金の仕方を教わる感覚があります。筆者のまったくの勝手なイメージです。

余談ですが、銀行や郵便局で投資信託を販売するときは「あなたの大切な資産を守る、資産の運用」という表現を用いますが、(これも勝手なイメージですが)大切な資産を守ってくれると言うので、「絶対に元本が割れることはない」と思ってしまいそうです。銀行や郵便局という預金貯金の金融機関というイメージも、しっかりと乗っかりますね。

「資産運用」のほうが「投資」よりも軽く感じることはないですかね…。

Next: マネー教育は、将来の“金融機関のお得意様”を育てるため?



マネー教育は、将来の“金融機関のお得意様”を育てるものにならないか…

話を戻して、マネー教育であれ金銭教育であれ、金融リテラシーを高めることが目的であって、その先には「金融トラブルに巻き込まれない」金融の基礎体力を身につけること、ストレートに表現すれば“金融詐欺に合わない”ようにするために、高校生にお金の知識を身につけてもらうのですよね。

だとすると、投資信託という商品は、かつて証券会では「証券会社のゴミ箱」と呼ばれていたことは説明するのでしょうか。VIP顧客の「損失補填の道具」として使われていたことは説明するのでしょうか。

なぜ、投資信託をここで持ち出したかと言えば、前述の通り、今回の高等学校学習指導要領(平成30年告示)において、高校生に、投資信託という商品を説明することが盛り込まれているのです。

家庭科の先生が裁縫や調理実習に加え、株式や債券、投資信託など基本的な金融商品の特徴を教えることになるのだそうです。2022年4月からです。

これまで家庭科でのお金に関する授業は「無駄づかいしない」「だまされない」など消費者目線の内容に偏りがちだったものが、新しい学習指導要領は、将来に備えた資産形成の重要性にも踏み込んだものとなり、金融サービスを利用する側の「投資家目線」からみた主な金融商品のメリットやデメリットのほか、生涯のライフプランやリスク管理についても言及することになったのです。

凄くもっともらしい表現でしょう。

電子マネーなどのキャッシュレス決済や仮想通貨、金融商品のリスクとリターンなど、具体的な題材も取り扱います。家庭科の先生が家庭科授業で金融商品を教えることができるように、金融庁は「出張授業」や教材づくり、先生を対象にした投資イベントなどを通じて準備を後押ししていくようです。

金融の専門知識がない教師も多いのでは?という指摘もありましたが、そこは金融庁がサポートを担当します。同庁の職員が学校に出向いて生徒に「出張授業」を行うのをはじめ、教材づくりや教師を対象にしたセミナーを実施して手助けします。

金融庁ではこれまでも職員が講師となり、資産形成などについて教える「出張授業」に注力し、国立大学付属の小学校や中学校、高校で生徒に教えたり、日本銀行などとも連携し大学で金融リテラシー講座を開講したりしてきました。今後はこうした出張授業を公立や私立の学校にも拡充する考えです。

どのような授業が展開されるのか、想像できますでしょうか。本筋と徐々にずれていく内容になっていなければいいのですけどね。

学校の先生が自身の資産形成を始めるきっかけづくりにもすると言っていますが、果たしてどれだけの先生が、自分自身で投資をするのでしょうかね。

そもそも、金銭教育とは、投資信託の商品を教えることなのでしょうか。マネー教育って、株式投資のイロハを教えることなのでしょうか。お金について学ぶこととは、資産運用を推進することなのでしょうか…。

学校での金銭教育って、生徒を将来の金融機関のお得意様にすることがではないですよね。すごくそこが心配になっています。

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※本記事は、らぽーる・マガジン 2021年3月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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  • らぽ~る・マガジン第462号(2021.3.29)「2022年4月から高校の家庭科授業で投資信託の商品解説される」(3/29)
  • らぽ~る・マガジン第461号-2(2021.3.23)「外交における日本の立場、「米国か中国か」の選択(追記)」(3/23)
  • らぽ~る・マガジン 第461号(2021.3.22)「外交における日本の立場、迫られる「米国か中国か」の選択…。」(3/22)
  • らぽ~る・マガジン 第460号(2021.3.15)「東日本大震災復興予算の使われ方、復興行政のあり方を検証」(3/15)
  • らぽ~る・マガジン 第459号(2021.3.8)「なぜ総務省は接待されるのか…。放送免許付与特権と報道の闇」(3/8)
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らぽーる・マガジン』(2021年3月29日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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