自民党は、正社員において「週休3日」を希望する人に、その理由を問わずに選択できるようにする制度を提案しています。言葉通りに受け取ると嬉しいことのように思えますが、その分、収入が減少します。選択が強制に変わりかねず、新たなリストラ手法ともなりそうです。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年4月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
選択的週休3日制
自民党は、一億総活躍推進本部・猪口邦子本部長を中心として、リモートワーク制度などを活用することで、正社員において「週休3日」を希望する人に、その理由を問わずに選択できるようにする制度を提案しています。
それを受けて政府は、坂本哲志一億総活躍相が「猪口試案」として検討する方向で調整をはじめました。
週休3日制を導入する理由として、自民党は「育児や介護、闘病など、生活と仕事の両立を図る観点」というものを強調しています。
この選択的週休3日制を導入することで、「多様な働き方」ができる環境を整えようとしたものです。
「働き方の多様性」に落とし穴
まさにこの「多様な働き方」という表現が“曲者”だと思われます。
この言葉が錦の御旗のように、次世代社会の象徴として扱われていますが、果たして、世間で言われているようなポジティブなものなのでしょうか…。
そもそも「働き方の多様性」がクローズアップされたのは、ブラック企業の存在で、サービス残業で労働時間が過剰に増えたことによる「過労死」が社会的問題となったことにあります。
「過労死」という働き過ぎて死ぬという概念は米国にはなく、この言葉はそのまま「karoshi…death by overwork」と表記して使われています。「karaoke」などと同じ使われ方なのですが、こちらは実に不名誉なものですね。
この「過労死」防止の政策が、永田町のフィルターを通れば「働き方改革」となるのです。
「overwork」をなくすことがゴールとなっていて、働き方を見直すという観点が「work life balance」へと繋がっていきます。
ここから「会社に縛られない働き方」という話に変わり、非正規雇用者拡充へと繋がっていったのです。
Next: 「働き方改革」で得するのは企業側。選択的週休3日制導入の本音とは?
「働き方改革」で得するのは企業側
働き方改革って、誰のためにあるものなのか…?
「work life balance」という、何となく明るいイメージのある風景は、お金がないと実現することはできません。「お金の余裕」がセットになっていると思いますが、現実としては「非正規雇用」という言葉のイメージは「貧困」という言葉が、ついてまわります。
むしろ、正規雇用でないことで「貧困」から抜け出せないというイメージになっていますが、コロナはさらに、正規雇用であっても「貧困」であるということを意識させました。
そして、重要な点がもう1つあります。
「正規雇用者だと簡単に首を切れないじゃないですか」……ある番組での、竹中平蔵氏のセリフです。
「会社に縛られない」というのは、正規雇用ではない「非正規雇用」になることを意味するようで、それは労働者にとってのメリットなのか、それとも雇用する側の方にメリットが大きいのかろいう「問い」が生まれてしまいます。
生活を充実させるためには非正規雇用の働き方を選ぶ、それが“多様性”を認めることだとしているのですが、なんだか、わかったようなよくわからないような理屈になっています。
これって、雇用者側にすれば「ラッキー」ということですよね。賃金を低く抑え、かつ、いつでも首を斬ることができる従業員が増えるわけですから。
従業員側にすれば、ワークライフバランスによる自由な働き方を実現するために、ある程度の収入減は覚悟しなければならないが、それも仕方がないということになります。
しかし現実としては、コロナによって、労働時間が増えても給料は多い方が良いという、過剰労働是正とは逆のことが起きていると思われます。
「多様な働き方」と「職場待遇」や「給与」は、どうも相容れない関係にあるように思えます。
これは永田町からは、どうしても見えない景色のようです。
選択的週休3日制導入の本音
果たして従業員側から見て、「週3日も休める」と喜ぶ人がどれだけいるのでしょうか?
おそらくは「その分給料が減る」と心配しているのではないでしょうか。
所得減は、家計を直撃します。もともと給与額が少ない若年層は、可処分所得(総支給額から、社会保険料や税金を差し引いた、いわゆる手取り額)は減り、場合によっては、アルバイトをしなければ暮らせなくなるかもしれませんね。
給料が減ってしまっては、生活が成り立たないんじゃないか…。
結局、副業するしかなくなっちゃうよね…。
このような声がSNS上では多いようです。
「選択的週休3日制」を民間企業で先駆けたのは、週休3日・4日制を導入したみずほフィナンシャル・グループです。ただし、みずほフィナンシャル・グループでは、この制度導入とセットで副業を解禁しています。
このことは、企業側からの本音としては、「会社1社では従業員の生活の面倒は見ることができないので、副業を認めるから自分でなんとかして…」というメッセージにもなるのだと思います。
実際、副業を認めるようになった企業が増えてきています。
大手企業の中でも、就業規則を変更して、従業員の副業を積極的に奨励するところも増えてきました。
つまり、従業員に多くの休暇を与えることは、働き方改革の一環を装った「企業側の都合」があるということになるようです。
それは他でもない、毎月の固定費である従業員給与額の削減にあります。つまり「コストカット」です。
Next: リストラ促進のきっかけに?「週休3日」が労働者の首を絞めていく
リストラ促進のきっかけになる?
企業のリストラ促進のきっかけになるのか…。.
人口減少社会となる日本においては、今後は労働者が減少することが予想され、企業としては人手不足が起きる可能性があります。
働き方改革の名のもとに、正規雇用者の勤務形態を、それこそワークライフバランスで勤務時間を制限し、そこに自民党案の「選択的週休3日制度」が導入されば、必要とする労働力不足を外国人労働者で補うことも考えられます。
テクノロジーの進化や、AI活用で、正規雇用者の労働時間にゆとりをもたせることができるのであれば、それはそれで理想ではあります。
その際の外国人労働者とは、“賃金の安い”外国人労働者になりそうです。
企業業績が悪化しても、正規雇用者を簡単に解雇することは、労働基準法ではできません。
週休3日制導入により、賃金を減らすことができることは、経営上メリットと判断して、「選択的」というよりも、強く従業員に勧めることも予想されます。
余剰人員が多い業種や職種によっては、「週休3日が可能なら、この際だから」と、一気にリストラを進める可能性も出てくることが危惧されるという見方もあります。
正社員を雇用せず、非正規社員の拡大につながりかねないなどの見方もあります。事実、コロナ禍での非正規雇用者の雇い止めが、大きな社会問題になっています。
夢や理想ばかりを言っていても、現実が苦しければどうしようもない……コロナは、人々の思いを、大きく変えてしまったのかもしれません。
自民党が提案している「選択的週休3日制度」は、働く時間が減る分、給料も減るよということで、給料が減ることの救済措置はありません。
「働き方改革」や「週休3日制」という言葉が示すイメージと、現実との違いを冷静に理解することが大事なのかもしれませんね。
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『らぽーる・マガジン』(2021年4月12日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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