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菅首相の初訪米は「決断せず笑顔ふりまき帰国する」が正解。米中対立激化で中立国家化に日本の活路=江守哲

バイデン政権で「米中対立」は激化した。世界が二分されるなか、日米首相会談の結果を中国は固唾を呑んで見守っている。日本は選択を迫れることになるが、中立的な立場を模索すべきである。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年4月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

バイデン政権「中国封じ込め」に本腰

中国の動きに世界が我慢できなくなってきているようである。

米中外交の失敗で、中国の対米政策はさらに強化されようとしている。一方、バイデン米政権も、いまのままではまずいと感じ始めているようである。

結局、トランプ政権時よりも厳しい対応を迫られている。状況はかなり不利になっているといわざるを得ない。

その焦りが見え始めているのが、今の米国の内情である。時事通信社の報道によると、米上院外交委員会の指導者らは8日、中国が世界的に影響力を拡大していることに対抗するため、人権促進や安全保障支援などを柱とした超党派による法案を公表したという。そのうえで、14日に審議を行うとしている(※編注:原稿執筆時点2021年4月12日)。

「2021年の戦略的競争法」と題したこの法案では、中国に対抗するための一連の外交的、戦略的対策の権限を付与する方針である。中国との経済的な競争だけでなく、ウイグル族などイスラム系少数民族に対する扱いや香港での反政府デモの抑圧、南シナ海での挑発的行為を含む、人道的、民主的価値観を推進する内容となっている。

法案では「インド太平洋地域における米国の政治的目的を達成するために必要な軍事的投資を優先する」とその重要性を主張している。さらに、米議会が連邦予算を中国と対抗するための戦略的責務に「沿ったもの」にする必要があると訴えている。

また、予算も大きなものになっている。2022-26年の会計年度に、同地域に軍事援助として計6億5,500万ドル、インド太平洋海上安全保障構想と関連プログラムに計4億5,000万ドルを拠出するよう推奨している。米国の本気度がうかがえる。

また、台湾が「インド太平洋地域における米国の戦略に必須」であり、「協力関係を強化する必要がある」としている。そのうえで、「米当局が規制なく台湾当局と交流できるようにすべきだ」としている。

中国は台湾を自国の領土と見なしているが、それを完全に無視した内容である。

同盟国を巻き込むアメリカ

米国は同盟国に対して、「中国の攻撃的で積極的な態度を抑制するように促すべきだ」と主張している。

そのうえで、米政府の各行政組織と機関に、中国との戦略的競争に関する政策を担当する高官を設けることを提唱し、「全ての連邦行政組織と機関は、中国との戦略的競争が米国の外交政策の優先事項であることを反映する構造にしなければならない」としている。

その他、中国の軍事設備を置く国に対する支援を制限するとし、中国の広域経済圏構想「一帯一路」が、中国の安全保障を推進し軍事アクセスを拡大するためのものであると指摘している。

このように、今回の法案は具体的かつ強硬な内容になっている。放置すれば、大きな問題になりかねないぎりぎりの判断ということなのだろう。

米国が日本や豪州、インドを巻き込んで、対中包囲網を構築しようとしているのも、まさに焦りの象徴といえる。

しかし、その動きは中国にすでに見透かされている。

Next: バイデン政権に大きな焦り。中国の出方次第で有事に発展か



中国を逆なでするバイデン政権

このような状況の中で、中国の怒りを買うような行動に出ているのが米国サイドである。

台湾と外交関係を結ぶパラオのウィップス大統領が、ヘネシーナイランド駐パラオ米大使がサプライズで同行したうえで訪台した。外交関係国を次々に奪うなど対台湾包囲網を強める中国に対抗するため、台湾の外交活動を支援していくバイデン政権の意思を鮮明にしたといえる。

現役の米大使が台湾を訪問するのは、1979年の米台断交以来で初めてという。メディアは大使を「陰の主役」として、滞在中の動向を詳細に報じている。これはある意味では、歴史的な出来事である。

これに対し、中国外務省の趙立堅副報道局長は当然怒りを爆発させている。「いかなる形の米台の公的往来にも断固として反対する」とし、中国の戦闘機など延べ10機が同じ日に台湾の防空識別圏に相次いで侵入している。米台接近に対する警告とみられるが。いつものパターンではある。まだ一色触発には遠いが、徐々に問題になっていくだろう。

ウィップス氏は滞在中に、蔡英文総統や蘇貞昌・行政院長(首相)のほか、米国在台協会(AIT)台北事務所のブレント・クリステンセン所長(大使に相当)と面会したという。米台とパラオはほぼ同じ内容の報道文を個別に発表し、「民主的な自由で開かれたインド太平洋地域を共に推進していく」方針を確認したとしている。

これにより、米国は台湾の外交関係を守り、中国に対抗していく姿勢を前面に押し出した格好である。台湾と外交関係を結ぶ国は、パラオを含め15カ国に減っている。米国はトランプ政権下の昨年、台湾の国際活動を支援するための法律を成立させており、今後も台湾と外交関係国に米国を加えた「三位一体」の動きが増える見通しである。

大好きな日本を牽制?反撃に出る中国

このような動きに、中国も黙ってはいないだろう。

3月30日に開かれた日本とインドネシア両政府による外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)後、日本政府が「東・南シナ海情勢について、力による一方的な現状変更の試みに深刻な懸念を共有した」と発表した。これについて、中国外務省の華春瑩報道局長は、「最近の日本側の中国に対する否定的な動きに深刻な懸念を表明する」としている。

さらに「陰口を言って問題を起こすことやデマを流して中傷することをやめるように日本に要求する」とし、日本に警告を発している。中国は、日本が米国と連携して対中圧力を強化することを警戒しているのである。中国国防省によると、3月29日に行われた日中両国による防衛当局の会合でも、中国側は「最近の日本側の動きに強烈な不満と深刻な懸念」を伝えた上で「中傷」をやめるように求めている。

中国は日本が大好きである。これまでも、様々な面で日本に助けてもらっている。習近平国家主席はそのことを重視している。中国にとっては、「困ったときの日本」なのである。

しかし、菅政権が煮え切らない態度であり、それを懸念している。その点は、安倍前首相は上手くやっていたといえる。菅首相には荷が重いだろう。

Next: 選択を迫られる韓国。日本もまったく同じ立場にある



選択を迫られる韓国。日本もまったく同じ立場にある

一方、中国の王毅国務委員兼外相は、韓国の鄭義溶外相と福建省アモイで会談。北朝鮮のミサイル発射などで緊張が高まりつつある朝鮮半島情勢などを議論したもようである。

韓国は、北朝鮮の後ろ盾の中国に朝鮮半島情勢緩和に向けた役割を期待している。中国は中朝の友好関係を外交カードとして駆使し、米韓同盟強化にくさびを打ち込みたいと考えている。

両者の思惑が一致すれば、話は早いのだが、一方で韓国も米国側の立場である。韓国のこれまでのご都合主義はもはや通用しない。立場をはっきりとしなければ、米国にも中国にも相手にされなくなる。文大統領も頭の痛いところであろう。

中韓外相会談のタイミングは、米国で2日に行われた日米韓3カ国の国家安全保障担当高官協議とほぼ重なっている。韓国は安全保障を同盟国の米国に、経済を最大の貿易相手国である中国に依存しており、対立を深める米中両大国のはざまで板挟みの構図となっているのが実態である。

韓国側からすれば、「米中はいずれも重要だ。選択の対象ではない」との意見はもっともだろう。

しかし、いまや世界は二分されようとしている。これは日本も同じ立場である。日本も苦しい判断を迫られるときが必ず来るだろう。その準備を今からしておかなければならない。

世界は二分されようとしている

その中国も、各国の動きを注視し、警戒している。習近平国家主席はドイツのメルケル首相に対し、「EUとの関係が様々な課題に直面しており、EUが独立して正しい判断を下すことを望んでいる」としている。習主席はメルケル首相との電話会談で、「中EUが互いに尊重し、干渉を排除すべき」としている。

ただし、干渉の内容については言及しなかったようである。中国とEUの関係は、貿易面で切っても切り離せない。お互いが重要なパートナーである。これもまた、両者にとって頭の痛い問題であろう。また、EUも所詮は寄り合い所帯である。話をまとめるのはかなり難しい。特に対中政策という難しい問題では、一枚岩になるのは困難であろう。

とはいえ、EUも中国の身勝手は行動は許せないようである。中国が新疆ウイグル自治区で重大な人権侵害を行っているとして、1989年の天安門事件以降で初めてとなる対中制裁に踏み切っている。

習氏は、二者間協力の健全で安定した発展を維持するため、中国とともに取り組むようドイツとEUに求めている。一方で、ドイツの政府報道官は、両首脳が新型コロナウイルスワクチンの生産・供給、経済的協力の強化、気候や生物多様性の保護に関する措置といった国際的取り組みについて話し合ったとしている。

このように、両者の関係はそこまで冷え切っているわけではない。むしろ、ビジネスパートナーとしては、お互いが重要な位置づけである。そのように考えると、EUは対米・対中において中立的な立場を貫くかもしれない。

Next: 最重要ポイントは「台湾」。日本もまもなく選択を迫られる



最重要ポイントは「台湾」

さて、米中対立に話を戻すと、やはり重要なポイントは台湾のようである。

時事通信者によると、台湾国防部(国防省)は7日、戦闘機12機を含む中国の航空機15機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表。このうち対潜哨戒機1機が台湾とフィリピンの間に位置するバシー海峡上空を南方に向けて飛行した。台湾空軍は軍機を派遣し、中国に対し警告した。

中国が台湾周辺で軍事活動を活発化させる中、米海軍はミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」が7日に「恒例」の台湾海峡通過を行ったと表明。中国は同駆逐艦の動きを追跡しているとし、米国は「台湾海峡の平和と安定を危険にさらしている」として避難した。

このように、中台の緊張が高まる中、台湾のジョセフ・ウー外交部長(外相)は、「中国による台湾侵攻の危機が高まっていると米国はみている」と発言している。そのうえで、「そうした事態になれば台湾は最後まで戦う」としている。かなり物騒な話になっている。

米国務省のプライス報道官は、台湾周辺における中国の軍事行動に懸念を示し、米国の台湾に対するコミットメントは揺るぎないとしている。

台湾自身の立場は明確だが、中国がそれを許さない。米国の対中政策も明確である。さて、このような中途半端な状況がいつまで続くのだろうか。

われわれ日本人には理解できない舞台背景があるのだろうが、この問題は世界の一大事に発展する可能性を秘めている。

日本もまもなく選択を迫られる

日本は他人事と考えていると、大変なことになるだろう。

米中が絡んでいるのである。まさに当事者である。どちらにつくのか、あるいは仲裁役になるのか。そろそろ立場を明確にする準備をしないと、間に合わなくなるだろう。

もっとも、菅首相がそのようなことを考えているようには見えないことが、最大のリスクかもしれない。

この問題は、日本が米国との関係を再構築し、アジアのみならず世界における中立国になる最大のチャンスであろう。資源もなく、軍事力もない国が米国の傘に入ってやっていけるのか。米国は以前のような不沈空母ではなくなりつつある。一方の中国は、順調に経済力と軍事力を付けてきている。

日本は無駄な抵抗はせず、中立的な立場を模索すべきである。もともと白黒をはっきりさせることができない国民性である。すべての国に良い顔をして、相手の立場を立てるのが向いている。

最終的な判断を下すのが政府であるとすれば、今の政権では心もとない。

「2021年以降は東洋の時代」と言い続けてきたが、早速、大きな山場が到来しているようである。政府による迅速かつ正しい判断を期待したいところである。

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江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2021年4月9日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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