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日経平均4万円の夢は破れた。日本株の下値は固いが、上値は誰が買うのか?=矢口新

私はこの10年間、日経平均は4万円に到達すると言ってきたが「撤回」する。10%への消費増税に次ぐコロナ禍、「欲しがりません。勝つまでは」と際限のない自粛を要請する政策、タガが完全に外れた政府の累積赤字と債務残高などを鑑みると、前言を撤回せざるをえない。日本株の下値は固い。だが、上値は誰が買うのか?(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年5月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

89年バブル崩壊の原因はどこにあったのか?

1989年末にピークをつけた日本株が崩壊した要因としては、政策金利の引き上げや、不動産融資に対する総量規制などがよく知られている。

とはいえ、需給面での株式の「持ち合いの解消」や、信託銀行の年金運用部が保有していた株式の「代行返上売り」も、実弾の株売りが出たという面ではもっと深刻な要因だったと言える。

なぜなら、利上げや景気後退懸念で売った株式がどこかで買い戻される可能性は、低いとは言えないが、「持ち合いの解消」で売った株式が、買い戻される可能性は極めて低く、年金の「代行返上売り」で売られた株式が買い戻されるにはGPIFによる再投資を待つ必要があったからだ。

株式の持ち合いとは一種の政策投資で、グループ企業などがその結束を深めるためにお互いの株式を互いに保有し合うことだ。これは日本市場への一種の参入障壁だと見なされ、解消への圧力が高まっていた。

金融機関はいまだに市場全体の5割を所有している

政策投資とは、対象企業に対して主に営業的な関係を強化する目的で株式を購入することで、金融機関が今でも全体の約5割に相当する30兆円超を保有しているとされる。

日本取引所グループが発表している株式の投資家別売買動向によれば、2005年1月から2021年4月にかけて、信託銀行は1.9兆円の買い越し、生損保は7.9兆円の売り越し、都銀等は5.8兆円の売り越し、他金融は2.0兆円の売り越し、投資信託は1.2兆円の売り越しだった。

信託銀行が買い越しなのは、GPIFなどの年金勘定が含まれているためで、自己勘定では相当量の売り越しだと見ていていいだろう。

このことは、我々の資産を運用している機関投資家は、軒並み売り越しで、買い保有で運用する年金を含めてさえ、総額15兆円の売り越しなのだ。また、個人投資家はこの期間に47.1兆円も売り越している。このことは、それ以前にそれ以上を買い越していたことを意味している。バブルとは言え、中身のある株式保有があったのだ。

Next: 大手金融機関がすべの持ち株売却を決定した



大手金融機関もすべての持ち株売却決定

5月13日、三井住友トラスト・ホールディングスが、大手金融機関として初めて持ち合いなど政策保有株をすべて売却すると発表した。今後、同行保有の約1兆4000億円(時価ベース)が時間の問題で全額売却される見通しとなった。

一方、2005年1月から2021年4月にかけての買い越しは、プライマリー市場にからむ証券自己勘定を除けば、事業法人が23兆円の買い越し、他法人が4.7兆円の買い越し、外国人投資家が31.9兆円の買い越しだ。加えて、日銀が36.1兆円買った。

自社株買いを含む事業法人の買い越し額は、2019年に4.2兆円と盛り上がりを見せていたが、コロナ以降は急速に萎み、むしろ売り越し基調となっている。また、日銀はこの4月と5月で701億円しか買っていない。

日本株の下値は固い。だが、上値は誰が買うのか?

日本株の下値はまだ固い。下がると年金が買えるようになるし、日銀に暴落を静観する選択肢があるとは思えないからだ。

しかし、上値を誰が買うのか? 年金は株式保有比率を守るために上値を売ってくる。コロナ後の事業法人の余力は限られている。日銀は現状のレベルですら買ってこない。ここに金融機関から最大30兆円を超える政策投資の解消売りが出てくるとなると、外国人投資家ですら荷が重いのではないか?

Next: 10年間言い続けた日経平均4万円説は撤回する



10年間日本株は上昇すると言ってきたが、撤回する

私はここ10年ほど日本株は上昇すると言い続け、ここ数年は4万円に到達する可能性に触れてきた。しかし、10%への消費増税に次ぐコロナ禍、「欲しがりません。勝つまでは」と際限のない自粛を要請する政策、タガが完全に外れた政府の累積赤字と債務残高などを鑑みると、前言を撤回せざるをえない。

とはいえ、日本株の下値の堅さと世界的なカネ余りを鑑みれば、上値はまだある。まだあるとは思うが、海外に引っ張られる形のあだ花でしかない。上げれば今度こそ中身のないバブルなのだ。盛り上がって急騰するようなことがあれば、利食いの売りを考えてもいいだろう。

繰り返すが、日本が再生できる道は1つしかないと見ている。抜本的な税制改革だ。詳しくは新著をお読みいただきたい。同書では、どうして金融機関が保有株式を売り続けているのかについても解説している。

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新刊情報:『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』

この記事の著者・矢口新さんの新著『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)が発表されました。65のグラフデータをもとに日本が衰退した要因を特定し、それを取り除くことで「日本が幸せになれるシステム」を提案しています。ぜひお手にとってご覧ください。

『日本が幸せになれるシステム』目次

まえがき:税収増が見込めない税制
第一章:日本を破壊した税制
1.税率を上げても増えない税収
2.消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
3.消費税は経済成長を止めた
4.アベノミクスによる成長率はほぼゼロ
5.いざなみ景気の税収面での貢献はネガティブ
6.世界経済のミラクルは、日本から中国に変わった
7.アベノミクス、真の成果は?
8.雇用形態の変容
9.世界から乖離していく日本の実質賃金
10.名目賃金のターニングポイントも消費増税と一致
11.1997年から資金供給量は11.2倍
12.日銀は「物価しか見ていない」
13.銀行の預貸ギャップが290兆円に
14.マイナス金利政策の導入
15.アベノミクスは金利市場を破壊した
16.民間から政府への所得移転
17.物価の推移
18.消費増税でディスインフレに
19.消費税では社会保障費を賄えない
20.借金頼みの財政
21.消費税導入は法人税率引下げとセット
22.法人税率引下げで得たもの
23.赤字企業も急増
24.消費税は売上から天引き
25.所得税
26.個人住民税
27.One For All, All For Oneの虚実
28.格下げ
29.膨らむ公的債務残高
30.ギリシャやイタリアは緊縮財政
31.日本は113カ国中、113位
32.純債務残高でみると?

第二章:つくられた貧富格差拡大
33.つくられた貧富格差拡大
34.貧富格差の拡大は止められる!
35.日本の税収推移
36.日本の税収構造
37.デンマークの税収推移
38.デンマークの税収構造
39.スウェーデンの税収推移
40.スウェーデンの税収構造
41.OECD内32カ国の政府支出
42.日本、デンマーク、スウェーデンの財政収支の推移
43.主要国の所得税率の推移
44.世界の法人税率の推移
45.財政黒字の国は一握り
46.通貨の価値

第三章:崩壊前夜の社会保障制度
47.日本の公的社会保障支出
48.社会保障費の内訳と財源
49.高齢者の年金依存度
50.国民健康保険
51.1人当たり医療費
52.政府の教育支出
53.社会保障関係費の推移
54.国民負担率の推移
55.ダイヤモンドになったピラミッド
56.日本人の死亡原因
57.厚生労働省の見積もり

あとがき:衰退から繁栄へ

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  • 相場はあなたの夢をかなえる:有料版 ー 誰のための社会保障制度なのか?(5/10)

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  • 知ってた? 日本の社会保障制度は崩壊を避けられない(4/26)
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  • 業界の慣例を鑑みれば、野村の大損失は避けられなかった?(4/12)
  • 野村はどうして2000億円を超える大損失を出したのか?(4/5)

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image by:Naresh777 / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2021年5月17日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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