トヨタ自動車は5月12日、2021年3月期(2020年4月~2021年3月)の決算発表を行いました。その決算を受けて、株価はなんと上場来高値を更新するという非常に好調な内容となっています。なぜ、このコロナ禍で上場来高値を達成するような状況になっているのか。その決算の詳細を分析するとともに、これから一体どうなっていくのか。その見通しを示したいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
自動車は「高級化」へ
トヨタ自動車<7203>の株価チャート見ますと、上場来高値を更新するというところです。
実はここ最近、ずっとレンジ相場で6,000円から8,000円といった辺りをうろうろしていたのですが、ついにそれを抜けつつあります。
何故このようになっているのかというと、業績が好調だということがあります。
直近で発表された業績は減収だったのですが、これはコロナ禍なのでやむを得ない部分もあって、すでにそれは織り込み済み。大切なのはこれからです。
トヨタが発表した予想によると、売上高はほぼ最高水準ということで、利益もほぼ最高水準です。
ちなみにトヨタというと、業績予想はかなり保守的な数字を出すということが知られているので、この保守的な予想が少しでも上振れするようなら、おそらく最高益を達成する可能性が高いということを予期するものでした。
それを受けて株価は上昇し、上場来高値というところになっています。
1台あたりの純利益が上昇している
では、なぜこのコロナ禍で最高益に近いような水準を達成できるのか?というところを見ていきたい思います。
実は、減収となった今期の決算を見れば、その予兆というのが読み取れます。
販売台数は、895万台から764万台(−14.6%)へと減少しました。ところが売上高を見ますと、29.8兆円から27.2兆円に減りはしたのですが、−8.9%の減少に留まっています。
販売台数が14.6%の減少に対して、売上高8.9%の減少に留まった。これで何が言えるのかというと、1台あたりの販売単価が上昇したことになります。
実はそれと同じことが日経の記事も書かれていまして、1台あたりの純利益は22.6万円と、これは2年前から4.8万円も上昇しているというところになります。
つまり、トヨタが売っている車の価格が1台あたりでどんどん上昇しているということが言えます。
Next: 「高級化」に成功しつつあるトヨタ。ダイムラーやBMWの座を奪うか?
「高級化」に成功
では一体どんな車が売れているのかというと、今流行っているのがSUVです。
トヨタで言いますと、ラブフォーやハリアーといった、高級感があり、その一方でスポーティなモデルが非常に大きく売れています。そして、これらの車は普通の乗用車に比べると、少しお高めの水準になっています。
こうやって高めの車が売れることによって、販売台数はそこそこながら、売上の単価が伸びているということになります。
すなわち、これは「高級化」が起きているということになります。
トヨタの高級化がどれぐらい進んできているのかというと、次のグラフを見ればわかります。
1台あたりの純利益が、あのベンツを売っている会社のダイムラーが35.3万円、それからBMWは32万円、そしてテスラが20.1万円、フォルクスワーゲンが15.4万円というところになっています。
トヨタは、世界販売台数では一二を争うフォルクスワーゲンの15.4万円というところに近かったのですが、この単価が上昇したことによって、どんどんダイムラーやBMWなどの方に近づいていっていると言うことができます。
実は同じような傾向が読み取れるのが、このグラフでは一番低い数字となっているのですが、フォルクスワーゲンも同じような傾向が読み取れます。
フォルクスワーゲンは実は色んな車のブランドを持っているのですが、それぞれの売上高と利益の推移比較です。
普通の「フォルクスワーゲン」と名のついた乗用車に関して、売上高では圧倒的に一番多いのですが、実はほとんど利益を出せていません。
一方で、大きな利益を稼いでいるのが、売上高では3番手となるポルシェです。このポルシェが実は、フォルクスワーゲンの利益の半分ぐらいを叩き出しているということになります。
次に多いのがアウディです。こちらもSUVが中心のどちらかというと高級化路線ということになります。
すなわち、車を売るにあたってこれから利益を上げていこうと思うなら、どちらかと言うと高級路線に舵を切った方がいいのではないかということが想定されます。
皆さんも自分の立場になって考えればわかるのではないかと思います。
車を持つことは、もはやステータスの表現
今、車を持つというのは、もはやステータスになりつつあります。都市部に住むお金のない若者は、車なんか買わなくてもやっていけます。
そんな中でわざわざ高いお金を払って買うような人は、やはりそれなりの見栄えのするものを買いたいと思うわけです。
だからこうやってポルシェが売れますし、実際にはそんなにお金を持ってなかったとしても、見栄でポルシェを買うという人も少なくないかもしれません。東京の街中に行くと、ポルシェなどは結構な数が走っています。それだけ車に求められるのは、もはやステータスということになります。
足元ではこの自動車業界は「電気自動車」の波が訪れていると言いますけれども、もちろん環境に優しいということはありますが、それだけで買いたいとはなかなかなりません。
例えばテスラが売れているのは、単に電気自動車だからということではなくて、やはり高級感といったところも少なからずあると思います。
逆にどうしても生活の足として自動車が必要だという人は、軽自動車などを買うことになるのでしょうけれども、そこはいよいよ価格競争の世界になってきますから、そこで利益を出すというのはなかなか難しいです。
しかし世の中的には、EVをたくさん作って電気自動車を普及させなきゃいけないというところになってきていますが、一方で電池の価格が高いというところで、それを難しくしているという側面もあります。
Next: 業界全体で加速する「高級化」路線。トヨタ株はまだ買える?
業界全体で加速する「高級化」路線
となると、いよいよ利益を稼ごうと思ったら、やはり「高級化」路線になります。
技術というのももちろんなんですが、いかに「カッコイイ」物を売るか、雰囲気や空気をいかに売るか……ということにかかってくるのではないかという風に考えます。
それでトヨタというと、ガソリン車はもちろん、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド、そして電気自動車もこれからどんどん出していくという計画をしています。
これらに単なる技術競争ではなくて、いかにかっこいい雰囲気という付加価値を付けられるかどうかが、トヨタの今後の鍵を握ってくるという風に考えています。
あらゆるタイプの自動車を出していますけれども、やはり高級化、クラウンだったりアルファードだったり、SUVのあたりでもそうですが、この辺のラインナップをどんどん増やしていくのではないかと考えられます。
トヨタ株はまだ買えるのか?
さて、このような高級化路線が上手くいったとして、トヨタの株価は上場来高値を更新しましたが、今からでも「買い」なのでしょうか?
今後の業績をシミュレーションした場合に、台数自体はそんなに増えないと思われるので、現状の30兆円ぐらいが続くのではないかなというところです。
それに対して、現状8%という営業利益率が、高級化によって10%ぐらいまで上がったとします。すると営業利益が3兆円。そして持分法利益なんかもありますので、経常利益3.6兆円で、これに対する純利益2.7兆円ぐらいという推測ができます。
これに対してPER10倍で時価総額27兆円、15倍で40.5兆円という数字が出ます。
競合のPERに関しては、フォルクスワーゲンが12倍、ダイムラーが10倍、BMWが9倍、GMが9倍、ホンダが10倍と、大体10倍から15倍程度というところになります。
現状トヨタの時価総額というところにあります通り、28兆円というところになってきます。
PER10倍ですから考えられる範囲の中には入っていると思うのですが、今後も上手く業績が伸びてきて、さらに今の自動車業界はPER10倍程度ですから、わりと慎重に見極められているのだという風に思います。
当然、それは電気自動車の普及によって競争が激しくなっているからだというところになりますが、そこをクルマの雰囲気だったり、安全性などは旧来の自動車会社が勝ってくるわけです。
この辺が評価されるようになると、今の28兆円というところから3〜4割のところまでは、十分に想定できるような状況ではないかと思います。
もちろん今後の競争のことですから、どうなるかはわかりません。けれども、持っておいて悪くないような状況であるという風に考えています。
今後の自動車業界からますます目が離せませんので、注目していきたいと思います。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年5月22日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。