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ビットコイン急落で韓国の若者らが借金地獄に。無謀な投機の裏に損失回避バイアス=栫井駿介

直近でビットコインの価格が3割下落し、仮想通貨市場は大変に厳しい状況になっています。この損失の影響を大きく受けているのが、韓国の若者だと言われています。なぜ韓国の若者がそれほどビットコインに熱中しているのか。今回はその背景を中心に、投資についての考え方をお伝えしたいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜ?韓国で仮想通貨投資が過熱

日経新聞に記事が出ています。

ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)の価格急落が韓国の若者を直撃している。少額から始められる手軽さから大学生の4人に1人が投資するほど過熱しているが、突然の急落で含み損を抱えた人が出ている。借金して投資している若者も多く、相場が回復しないと破産者が続出しかねない。

出典:仮想通貨が急落、韓国の若者直撃 借金投資で含み損も: 日本経済新聞(2021年5月28日配信)

実は韓国では、特に若者の間で仮想通貨への投資熱が非常に高まっています。

日本でも投資している人は多いとは思いますが、韓国ほどではなくて、韓国で言うと若者に関しては、4分の1の人が投資しているということです。

皆さんの周りと比べると、かなり高い割合ではないかと思います。

この取引金額というのがなんと、韓国の株式市場の取引金額を超えるぐらい、韓国内で増えているということですから非常に驚きです。

これだけ取引が増えたということで、実は韓国ではビットコインが国際価格に比べて2割ほども高い「キムチプレミアム」というような状況にもなっています。

これは資本規制の関係で、韓国のウォンで取引する部分と、それ以外の通貨で取引する部分が、韓国内で盛り上がり過ぎたためにうまく連動できず、価格差が生じてしまっているという状況です。これをキムチプレミアムと言います。

そう言った状況を避けるために、韓国内でビットコインとか世界的に取引されているものだけではなくて、キムチコインなど韓国国内だけで流通する仮想通貨なども盛り上がりを見せているといいます。

「お金を借りて(借金して)」暗号資産に投資している

実際に韓国で取引されている暗号資産のほとんどは、ビットコインなどではなくて、それ以外のアルトコインと言われるものだそうです。

しかし、若者が熱中しているという話でしたが、若者はそもそもお金は持っていません。それでもたくさん取引が行われているということは、借金をして行っているということです。

2020年の統計ですが、家計負債の割合が全体では8%増えたということなんですが、20代・30代に限ると、これが17%増えているということです。

コロナ禍ということもありましたが、これだけ増えているというのは、仮想通貨の取引の為に借金をしているのではないか?というのが、日経新聞の記事でも書かれています。

Next: 儲かっているのはひと握り。なぜ危険な取引をしてしまう?



儲かっているのはひと握り

しかし、5月に入りましてこの仮想通貨が非常に大きく下落していまして、ビットコインに関しても3割も下落するということで、多くの投資家が損失を被っている状況です。

韓国内の5月頭のアンケートでも、52%の人が損をしているということでしたから、そこからさらに下がっているので、実は今、大半の人が損失を被っているのではないかと思われます。

実は一方で、韓国内ではものすごく成功した人なんかもいて、短期間で何億円も儲けた人というがYouTubeで動画を配信していたりして、憧れの的になっているような人もいます。

しかし結局、結果としては半分以上の人が損失を被っているということで、これだけ価格変動リスクの高い資産ですから、そういった状況になってしまうのは歴史から見ても「さもありなん」です。

では、なぜそれほど危険とわかっているのに、そんな取引をしてしまうのでしょうか。そこには、韓国が抱える闇、韓国の社会背景というものがあります。

なぜ韓国の若者は「無茶な投資」をするのか?

結論から言うと、韓国は特に若い人にとって、もはや希望がなかなか見出しにくい社会となっているということが挙げられます。

韓国というと、経済成長をこれまで遂げてきたのですが、実はそこで生まれたのは巨大な格差ということになります。

まず、大学生の就職率で言いますと、文系大学に関して言えば、就職できるのがわずか56%となっていて、半数近くの人は就職ができないということになっています。

そして、もし就職できたとしても、就職先にも格差が存在します。

実際に韓国の株式市場を見てみると、なんと上場している大企業の3割がサムスンによって占められています。残りの大きなところも、ヒュンダイといった財閥ということになります。

すなわち、韓国においては、サムスンなんかの財閥に就職できれば勝ち組ですが、そうでなかったら、もはや有象無象の負け組というような形なってしまいます。

韓国の受験戦争なんかもテレビで見たことがあるかと思うのですが、サムスンに入るために必死にやっていますが、数には限度がありますから、そう上手くいかなかった人は落ちぶれていくというような状況になっています。

就職できない若者たちに「住宅価格の上昇」が追い討ち

就職率56%というと、日本の比ではないです。日本でも8割・9割は就職するということになりますから、それだけ韓国の若者にとっては、先が見えない状況なのです。

そこに追い討ちをかけているのが、住宅価格の上昇です。

特に人口が集中するソウルに関して見れば、マンション価格がこの2020年までどんどん上がりまして、5年前のおよそ2倍になっています。

その価格を見ると9億1,200万ウォンが平均価格ということですが、これがどれぐらいの金額かというと、東京の約1.4倍ということになります。

東京もかなり高いですから、簡単に言うと、普通のマンションに入ろうと思うと、1億円ぐらいの金額を積まないと入れないといった状況になっています。

これが何によって起きているのかというと、ある種、投機的な動きが絡んでいます。

Next: なぜ韓国の住宅価格は高騰した?日本も他人事ではない



なぜ韓国の住宅価格は高騰した?

株式投資をするといっても、先ほど示しました通り、ほぼサムスンです。

なので、株で儲けを上げるというよりも、マンションを買えばどんどん価格が上がっているので、それを高値で売り抜けた方が利益が出る……というのが主な資産運用手段になっているワケです。

まさに日本のバブルの頃の土地転がしに他ならないのですが、それが続いた結果、マンション価格が上昇しました。

そして若い人、これから買いたいという人にとっては、手が出せる金額ではなくなってしまっています。ですから、もはや家すら買えないという、もともと希望がないところに、さらに追い討ちをかけられてしまっています。

それほど将来に関して希望が持てないので、日本も合計特殊出生率が低いと言われており、それでも1.4ぐらいですが、韓国に関してはなんと1を下回りました。

すなわち、これは子どもを産む人でも1人しか産まなかったり、まったく結婚できないまま生涯を終えてしまうということが少なくありません。

こうなっていくと人口もどんどん減って、高齢化が進むということですから、韓国の国力自体も衰えてしまうのではないかという懸念があります。

韓国若者の無謀は「プロスペクト理論」で説明できる

こういった状況で普通に若者が過ごしていたら、将来への希望を見出せません。

そこで、なぜ仮想通貨への投資(投機)に手を出してしまうのか?ということを説明するのが、「プロスペクト理論」というものです。

これはいわゆる行動経済学(心理を使った人々の行動を分析しようという学問)なのですが、プロスペクト理論に当てはめればよくわかります。

このプロスペクト理論で軸となるのが、損失に対する痛みを回避しようとすることなんです。「人は利益を出す喜びよりも、損失を被る痛みの方が大きい」ということです。

これを具体的に数字で説明しますと、いま仮に100万円を持っていたとします。これがあるクジを引いて、当たればプラス100万円、ハズレだったらマイナス100万円になるとします。つまり、当たれば200万円になるけれども、ハズレが出れば0円になってしまいます。

こういった取引の場合、多くの人はなかなかやりたがりません。失敗したら100万円の損失を被ってしまい、結果、0円になってしまう可能性があるということなので、やりたがらない人が多いということです。

一方で、いま100万円の借金を負っていたとすると、借金を負っているというのは損失ですから心理的な不安を大きく感じます。

すると何とかここから抜け出したいということを考えて、リスクの高い取引にも手を出してしまうという理論があります。

この結果、いま仮想通貨の取引をしたとして、うまくいったらプラス300万円、失敗したらマイナス300万円となってでも、プラスになったら何とか借金生活から逃れられる。しかし、失敗したら400万円もの借金を背負ってしまう取引でも、やりたいと思うわけです。

何故なら、損失を脱出できる可能性があるからというところです。

Next: 損失回避に潜む落とし穴。『カイジ』の世界はすぐ隣にある



損失回避に潜む落とし穴

これを韓国の若者に当てはめてみます。

何もしないでボーっと過ごしているだけでも、先の見えない苦しい生活しか待っていません。それだったら、もし大損を被ってしまったとしても、値動きの激しい仮想通貨で一攫千金を得ることができれば、幸せな生活が送れるのではないか……ということを夢見て、いま若者が借金をしてまで仮想通貨にのめり込んでいるという実態があります。

これを皆さん漫画でご覧になったことがあるかもしれませんが、まさに『カイジ』の世界です。

有名な「鉄骨渡り」のように、成功したら借金はチャラ、落ちたら当然死んでしまうというようなものすごくリスクの高い取引を、追い詰められれば追い詰められるほど、やってしまうということになります。

韓国の若者がビットコイン仮想通貨にのめり込む状況を、お分かりいただけましたでしょうか。

もちろん、このような取引をしてうまくいく可能性はかなり低いです。現時点で、韓国の仮想通貨で損をしている人が半数以上ということになっていますし、これから価格が下がれば、さらにその割合は高まっていくものと思われます。

やはり、リスクの高い取引あるいは目先の高い利益を求めようとすればするほど、投資の世界は不思議なもので、どんどん利益は逃げていきます。

堅実な皆さんに関しては、自分が取れるリスクをしっかり認識して、最悪の状況に陥ってしまわないように、将来のことを考えて、着実にやっていく。これが遠回りに見えますが、投資で成功する唯一の道だと私は考えます。

目先の欲に目をくらませてはいけません。リスクの高い取引というのは、必ずどこかで落とし穴があるものです。

それを心に留めて、一方でしっかりと勉強することで投資は着実に歩んでいけるものではありますから、ぜひ皆さんは幸せに資産を築いていただければと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年5月30日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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