「スルガ銀行問題」が再燃しているとの報道が出ました。今回はそれに端を発して、投資について私見を述べます。この問題は、不動産業者が悪質なのは言うまでもありませんし、スルガ銀行も不正を行っていたので、悪いに決まっています。しかし、ここでは「誰が悪いか」といったわかりきったことには触れず、「投資家の心得」という視座から考えていきます。(『Prof.サカキの市況展望 プラス 教授に質問!』榊原正幸)
※本記事は有料メルマガ『Prof.サカキの市況展望 プラス 教授に質問!』2021年6月20日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:榊原正幸(さかきばら まさゆき)
会計学博士、税理士、マネー評論家。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授、東北大学大学院経済学研究科教授を務めた経験から「MOTO教授(元・教授)」の肩書きで活動。資産形成のノウハウを発信し、60歳前後でリタイアする「21世紀の日本を生き抜く方法」を自らの経験と株式投資のプロの視点から提唱している。
スルガ銀行問題とは
先週の『WBS(ワールドビジネスサテライト:テレビ東京系列のニュース番組)』で、スルガ銀行問題が再燃していると報道されました。
2018年の前半に「かぼちゃの馬車」というブランドで不動産賃貸物件を個人投資家に売りつけた業者がいて、それを買うために組む銀行ローンで、スルガ銀行が融資資料を改ざんしてまで貸し付けたという事件です。
そして、その「かぼちゃの馬車」は「サブリース」という方式を採っており、それは要するに、個人投資家はお金を借りて、その物件を買うだけで、あとは「35年間、家賃収入を保証する」
ということを売りにしたものでした。
その家賃保証は、契約書の細かい文字をよく読むと、2年か3年で家賃が見直しになる契約になっていて、2年か3年後に「家賃を下げます」ということになり、社会問題にまで発展しました。
個人投資家は、無理なローンを組んでいたため、家賃を下げられてしまうと、収支が赤字になり破綻に追い込まれてしまうわけです。
不正融資は「かぼちゃの馬車」だけじゃなかった
このスルガ銀行が、今度は「かぼちゃの馬車」ではない普通の不動産投資物件でも「融資資料を改ざんしてまで、無理な貸し付けを行っていた」というのが、今回の事件内容です。
3年前の「かぼちゃの馬車」の時の不正融資の総額が「1,100億円」だったのに対して、今回問題となっている不正融資の総額は「4,400億円」とのことで、今回の方が問題の規模が4倍も大きいのだそうです。
WBSに出てきた「被害者Aさん」は、顔は映らず、声も変えてありましたが、服装の雰囲気と話し方から推定するに「35歳前後?」というかんじの若者でした。しかも、物件購入時における実際の預金通帳の残高は、まさかの「347円」でした(筆者注:347万円ではなく347円です。目を疑いたくなります)。
そういう人が「2億円」もの融資を受けて「一棟もの」を買ったが、少しあとになって不動産鑑定士に鑑定してもらったら、「7,520万円」と査定された……というお粗末極まりない話なのです。
その物件を勧められた時には、「数年後には2億1,000万円や2億2,000万円になる」と言われたのに……とのことで、本人曰く「騙された~」とのこと。それもまた、あまりにもお粗末です。
Next: スルガ銀行だけの問題にとどまらない。おいしい話に潜む罠
「利回り保証」はありえない。スルガ銀行問題とは別の事件も
このスルガ銀行問題の再燃とは別に、「貸倉庫に投資すると『年間15%』の利回りが得られる」といって資金を集めた男が、詐欺容疑で逮捕された事件も、最近起こったようです。
「年間15%」というのが、数字として「いかにもありそうな高さ」であることが巧妙なだけに、いやらしさが増します。
それに何といっても、やはり“利回り保証”などというものは「あり得ない」と考えなければなりません。
私も「株式投資で年率10%」を「目標」としてはいますが、これはあくまでも「目標」であって、決して利回り保証などとは考えていないですし、それはあり得ないと思っています。
それに、たとえば仮に、10年間にわたって株式投資で「年率7%」の利回りが達成できたとしても、その場合の各年の利回りは、たとえば「5%・8%・6%・10%・15%・-3%・0%・8%・17%・4%」というようなかんじになり、これら10個の利回りの単純平均を取って「7%」と考えます。
このように、各年の利回りはブレるのが現実です。良い年と悪い年があり、「平均すると7%になる」という感じです。
ですから、株式投資においても不動産投資においても、「7%の利回りを保証する」などということは、決して現実的ではないのです。
不動産投資も株式投資も、「投資」なのですから、不確実性は付きものですし、将来のことまで約束できるはずがないのです。
「楽して稼げる」などという甘い話はない
これらの事件に対する私の意見を、まずは箇条書きにします。
1. 勉強せずに儲けようなんて無理だし、不勉強すぎる!
2. 楽して稼げるなんていう甘い話はない
3. 身の丈に合わない借入はダメ。不動産投資をするなら「頭金は50%以上」が基本
4. 個人投資家レベルでは不動産投資は、実はあまり儲からない
5. そもそも今の日本において、人生に「安定」なんて、ない
これらについて順番にコメントして参ります。
(1)勉強せずに儲けようなんて無理だし、不勉強すぎる!
不動産投資でも株式投資でも、勉強せずに儲けようなんて、土台、無理な話なのです。
不動産投資のことを少し勉強すれば、査定価格が「7,520万円」しかない物件を「2億円」も出して買うことは避けられるはずです。
「2億円」ものお金を投資するのであれば、最低限やっておかなければならない準備勉強というものも、かなりのものであるはずで、それをちゃんとやれば、査定価格が「7,520万円」しかない物件を「2億円」も出して買おうと思うはずがありません。
なお、話を不動産投資から株式投資に変換しても、同じことがいえます。
PBRが3倍もしたり、PERが30倍やそれ以上になっているような銘柄には、私は一切、手を出しません。そんな株価は「裏付けのない期待だけ」で成り立っているので、いつ崩れてもおかしくはないからです。「査定価格が7,520万円しかない物件を2億円も出して買う」のと、ほぼ同じことだと思うのです。
PBRが3倍もしたり、PERが30倍やそれ以上になっているような銘柄でも、「もしかしてうまくいったら、高くなるかもしれない」というのは否定できません。そういう銘柄も、現にいくつもありますから。
しかし私は、「もしかしてうまくいったら、高くなるかもしれない」だけのものに大金は投資できません。それが借金での投資であれば、論外ですし。
Next: 楽して稼げるなんていう甘い話はない。投資家が取るべきリスクとは?
(2)楽して稼げるなんていう甘い話はない
特に不動産投資の世界でよく耳にするのが「楽して儲けよう」という言説です。そんなものは、ありません。
一方で、不動産投資の世界には「センミツ」という言葉があります。投資価値がある物件は「千に3つ」しかない、ということから「センミツ」というのです。その「センミツ」を探し当てるのに「楽して」できるはずがありません。
私は株式投資に関して、これまで30年以上にわたって、机上の勉強(=理論)と実戦での経験(=実践)を積んできています。また、現在も常に勉強していますし、データも毎日更新して、市況も毎日分析しています。そして、リスクを取って、努力によってそれをリターンに変換しています。
このように、株式投資の勉強をして、努力を傾注をすることが、私は好きなので、苦にはなりませんが、決して「楽して儲けている」という感覚はありません。
投資の世界の公式は、「リスクテイク + 勉強と地道な努力 = リターン」です。リスクテイクは、リスクを取ることです。投資で稼ぐには、この公式しかないと私は確信しています。
(3)身の丈に合わない借入はダメ。不動産投資をするなら「頭金は50%以上」が基本
不動産投資の場合、投資した不動産そのものが担保になるからといっても、35歳くらいの若者で、貯金が「347円」の人が、全額融資で2億円もの物件を買ってはダメです。身の丈に合わない借入はダメに決まっていますよね。
それに、不動産投資をする人は、「不動産なら、借金で投資できるからレバレッジがかけられて、とてもいい投資だ」というようなことを言う人もいますが、バカ丸出しです。
「レバレッジがかかっている」ということは、「ハイリスク」なのです。こういったリスクをリターンに変えるには、上に述べたように、「勉強と地道な努力」を加えなければならないのです。そうでなければ、リターンには変換できません。「勉強と地道な努力」をしなければ、ほぼ間違いなく「ハイリスク」が発現します。
不動産投資をする人は、「借金で投資するのが当たり前」と思っている人が無数にいますが、そんなのはまったくの間違いです。
さらには、不動産投資をする人は、「フルローンが組めたらいいね」というようなことをよく言いますが、これもバカ丸出しです。
ごく一部の例外を除けば、不動産物件というのは、買った後は価値が徐々に下がっていきます。減価償却するのですね。
それに、家賃が下がり続けたり、空室が続くような時は、不動産物件の価値も大幅に下がっていますから、売ろうと思ったら、買い値の半分になっていたなんていうこともザラに起こります。
それでも売り抜けられるようにするためには、「頭金は投資総額の50%以上」が基本だと心得ておかなければなりません。
「それでは『ROC(Return On Cash)』が低くなりすぎる」などと言う不動産投資家もいますが、そんなごうつくばりの意見は無視しましょう。
なお、株式投資にも「信用取引」があり、証券会社から借金をして株を買うことができます。これは「期限」と「追い証」のリスクがありますし、高い利息もかかりますから、初心者や中級者が手を出してはいけません。株式投資で大損したり、破綻したりするのは、たいていは株式投資の初心者や中級者が信用取引に手を出して失敗したというのがお決まりのパターンです。そんな悲惨な話は、掃いて捨てるほど存在します。
初心者や中級者で、信用取引で成功する人は、ごく一部の天才的な人だけです。そんな天才は、信用取引なんかしなくても成功するのです。
特に、信用取引の「空売り」は御法度中の御法度です。「空売り」で失敗すると、損失が無限大になる可能性があるからです。信用取引でも、「買い」で失敗する分には「破産」ですみますが、「空売り」で失敗すると、「自殺」が待っています。
なお、上級者で、どうしても信用取引をするという場合も信用取引の取引上限は、保証として差し入れる担保の「1倍」までにしておかないと危険です。また、保証金のうち、500万円くらいは現金で保有しておかないと、不可避、かつ、急なロスカットに耐えられなくなります。
要するに、「借金による取引」というのは、「身の丈を超えてはならない」ということを肝に銘じておかなければならないのです。
Next: そもそも不動産投資は儲からない?安定を夢見る前に現実を見よ
(4)個人投資家レベルでは不動産投資は、実はあまり儲からない
「不動産投資は、実はあまり儲からない」というのが私の偽らざる実感です。手間が多い割りに、手取りの利回りは「2%とか3%」になってしまうことが多く、それなら株式投資の配当利回りだけでも、そのくらいの利回りは充分に獲得できます。
それこそ、配当収入だけであれば、不動産投資とは比較にならないほど「何もしなくても」獲得可能です。
もちろん、不動産投資のプロとして、有望な物件を誰よりも先に手に入れるルートを持っていて、膨大な借入をものともせず、大きな利益につなげることができる「才能のあるごく一部の不動産投資」なら大儲けもできるでしょう。
たとえば10億円で不動産投資をすれば、たとえ手取りの利回りが2%とか3%でも、2,000万円や3,000万円の手取り年収を稼ぎ出せますし、100億円の投資がきちんとできれば、手取り年収は2億円や3億円になります。
トランプ元大統領なども不動産投資で巨万の富を築き上げた1人です。でも、そういうのは「才能のあるごく一部の天才」のみがなせる技です。
個人投資家レベルでは、たとえば5,000万円の投資をしても、手取りの利回りが2%とか3%であれば、手取りの利益は年間で100万円か150万円ですし、それも利率が少し変動して上昇したら吹き飛んでしまいます。
なお、「手取りの利回りが2%とか3%」といっても、投資額をすべて現金で賄えばまだしも、借入で賄う場合は、よほど上手に投資しないと、「手取りの利回りが2%とか3%」でさえも、実現するのはなかなか難しいです。
運営経費や修繕引き当てや税金などで、手取りは、かなり削られるからです。
「不動産投資よりも株式投資の方が儲かる」というのが私の実感ですが、株式投資の利回りは不安定です。前述の例のように「10年間で平均して7%」の利回りを達成しようと思ったら、多年にわたる努力と研鑽が必要なのは言うまでもありません。
ですから、株式投資も決して楽して儲かるわけではありませんが、不動産投資よりは儲けやすい投資だと思います。くどいですが、「勉強をすれば」ですが。
株式投資の方が不動産投資よりは儲けやすい理由は、不動産よりも、株式の方が「リスク資産性」が高いからだと思います。この場合の「リスク」とは、「危険」という意味ではなく、「価格の変動率が高い」という意味です。ファイナンスの理論では「リスク」とは、「価格が動くこと」を意味します。
(5)そもそも今の日本において、人生に「安定」なんて、ない
終身雇用制度が崩壊し、大企業でも潰れる時代になって久しいです。公務員だって、地方財政は火の車のところが多いですし、パワハラやセクハラで辞めたくなることだってあります。
つまり、そもそも今の日本において、人生に「安定」なんて、「ない」と思っておかなければならないのです。
今の日本において、「安定」がなくなったからこそ、「安定」を求めたくなって、騙されやすくなってしまうのかもしれませんが、「不動産投資なら、安定的に利益が出せますよ」などというのは、まったくの虚言です。
もしそれでも「安定」を求めるのであれば、不動産投資や株式投資のことを「勉強する」しかないのです。
自分のアタマにたたき込まれた知識と経験は、誰にも盗まれませんし、増えることはあっても、減ることは滅多にありません。ボケない限り自分に宿った知識と経験は、「安定」しています。「安定」は、自分のアタマの中にしかないのです。
不動産投資が安定してるのではなく、「不動産投資のことを徹底的に勉強した自分の知識と経験」があるからこそ、安定するのです(もちろん、認知症になったら、それも失われますが、その時は人生も終焉を迎えているので、それは仕方がないことです)。
短い市況展望
日経平均のPBRとPERや株価チャートを総合的に勘案すると、8月末頃までに「24,600円」くらいまでの下落があってもおかしくはないと考えていますが、一気呵成に暴落するという感じではないかもしれないので、それまでにも短期的な戻りを狙った短期売買は可能かもしれません。
しかしながら、日経平均株価の趨勢的な方向性は、8月末頃までは下落基調が続くであろうと予想しています。
一方、ずっと下がり続けるというのも現実的ではありません。
今年の秋には、衆議院議員選挙があるので、9月の上旬が買い場になるでしょう。まさに「Sell in May and go away. And come back in September.」とか「節分天井、彼岸底」といった日米の相場格言通りの年になりそうです。
しかし、日経平均のPBRとPERから判断すると、戻り高値は「29,000円前後まで」といったところで、年内の30,000円超えは難しいと考えています。
よほど強い資産インフレになれば、話は別ですが。
今回の下落の後には、「コロナ相場も終わり、東京五輪も終わった通常の相場」が展開されていくことでしょう。それでこそ、私の本領が発揮できる相場だと思うので、ワクワクしています。
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- 号外「スルガ銀行問題に端を発して、投資について考えたこと」(6/20)
- 号外「買い注文は手控えながら、安値を待つ」(6/19)
- 第001号 PART2「目指せ! 60歳でハッピーリタイア」(6/1)
- 第001号 PART1 「どうなる?『東京五輪』」(6/1)
※本記事は有料メルマガ『Prof.サカキの市況展望 プラス 教授に質問!』2021年6月20日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
『Prof.サカキの市況展望 プラス 教授に質問!』(2021年6月20日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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