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コロナ禍で税収「過去最大」は政府の罠。カネをばら撒けば当たり前、ツケはこれから国民が払う=矢口新

コロナ禍で経済は戦後最大の落ち込みとなったが、税収は過去最大となった。その理由を調べれば、消費税に頼りきった日本の財政が危ういことがよくわかる。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年7月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

2020年度の税収、コロナ禍で「過去最高」に

当メルマガの読者の方から、以下のようなご質問をいただいた。

「先日財務省発表の2020年度の国の一般会計の税収が、過去最高だった(60兆8,216億円)と報じられました。ぜひ、この件についてご解説いただきたくご連絡いたしました」。

この件について、日経新聞の報道から要点だけを抜粋引用する。

政府は20年12月時点で55.1兆円と見込んでいた。財務省は過去最高だった18年度の60.4兆円を超えるとみて精査している。想定より5兆円超上振れする。

各年度の税収は3月期決算企業の法人税収などが固まる5月分までを合算する。20年度は法人税が前年度比4000億円増の11.2兆円、消費税が同2.6兆円増の21兆円だった。所得税はほぼ前年度なみの19.2兆円で推移した。

なかでも8兆円とみていた法人税は携帯電話やゲーム、自動車、食品といった産業の業績が好調で、見込みより4割ほど増えた。米国や中国などの景気回復の恩恵もあり、製造業を中心に業績は底堅い。

消費税収も19年10月の消費税増税の効果が通年で表れ、過去最高となった。

飲食や宿泊など一部の業種で落ち込みが続く一方で国の税収が増えたことは、企業業績の回復が二極化し「K字」型で進んでいることを映す。

中小の事業者はもともと赤字で法人税を納めていない企業もあり、税収が減る要因になりにくかったという側面もある。中小の業績悪化の程度は税収に関する統計上は表れにくい。

出典:新型コロナ: 国の20年度税収、コロナ禍でも過去最高 60.8兆円に – 日本経済新聞(2021年6月30日配信)

財務省のホームページには、「我が国財政について」をまとめた16ページからなるPDFがある。私の新著はそこからいくつかの図表を引用・解説している。

1ページ目は、令和2年度一般会計予算の歳出内訳
2ページ目は、同歳入内訳
3ページ目は、財政収支(歳出、税収、公債発行額)の推移

などなどだ。その8ページ目には「総税収と法人税、所得税、消費税の推移」が見られる。

出典:財務省

この右端には、2020年度(令和2年度)一般会計税収の当初の見込み額が書かれている。それぞれ、総税収が63.5兆円、消費税収が21.7兆円、所得税収が19.5兆円、法人税収が12.1兆円とされていた。

ちなみに、2019年度の総税収は既に58.4兆円に下方修正されている。これは主に消費増税による景気後退を受けたものだ(消費増税効果はあるが、他の減収を埋めきれなかった)。

今回報道された2020年度の税収は60.8兆円で、想定より5兆円超上振れするとあるが、当初の見込みからは3兆円近く少ない。

このことは、コロナ禍により税収が8.5兆円減少すると想定していたものの、思ったほどひどくはなかったことを意味している。

Next: 戦後最大の経済の落ち込みなのに、なぜ税収は過去最大に?



戦後最大の経済の落ち込みなのに、なぜ税収は過去最大に?

どうしてか?

税収の大きい順に見ていくと、消費税収が21兆円と当初見込みの21.7兆円から、所得税収が19.2兆円と当初見込みの19.5兆円から、法人税が11.2兆円と当初見込みの12.1兆円からそれぞれ下振れした。

コロナ禍での想定は上記の日経新聞にある通りだ。当初見込みを敢えて付け加えるのは、平時に想定した見込みだからだ。2020年度に消費増税効果が通年に現れることはコロナ禍前から分かっていたが、それでも0.7兆円の減収となった。なぜなら、消費売上が落ちたからだ。

当初見込みから最も落ち込んだのは法人税収だ。コロナ禍は生き方やビジネス環境の大変化だ。大変化は被害と恩恵とをK字型にもたらすものだ。旅行・宿泊・飲食などは大幅に落ち込んだが、ネットやゲーム関連は恩恵を受けた。そのため、落ち込みはコロナ時想定の4.1兆円ではなく、0.9兆円で留まった。

実際、東洋経済によれば、ナブテスコが346.2%、ミズホメディーが150.3%、パソナグループが109.3%も最高益を更新している。また、キングジムは20期ぶり、アルペンと新光電気工業は15期ぶり、パソナグループは13期ぶりの最高益更新だ。

加えて、株式市場の堅調を受けた株式譲渡益課税による税収増があったにも関わらず、法人税収が0.9兆円減と最も見込みから遠かったのは、K字型の上振れした企業以上に、下振れした企業が多かったことを示唆している。

資金をばら撒けば税収が増えるのは当然

また、歳出総額が175.7兆円となったことも大きい。これだけの資金をバラまいたのだから、K字回復のように恩恵を受けるところが出てきたり、税収が過去最大となったことは驚くに値しない。また、このことは単年度の財政赤字が114.9兆円になったことを意味している。

出典:財務省

前の税収トップは2018年度(平成30年度)の60.4兆円で、歳出は99兆円だ。その前は1990年度(平成2年度)の60.1兆円で、歳出は69.3兆円だ。

つまり、28年かけて最高税収を0.3兆円更新したが、赤字は9.2兆円から38.6兆円に拡大した。その2年後に0.4兆円更新したが、赤字は114.9兆円となった。

この状況で、最高税収でない方が恐ろしい。

Next: 消費税が日本の最大財源となることの恐怖



消費税が日本の最大財源となることの恐怖

また、それよりも大きな問題は2020年度から消費税が日本の最大財源となったことだ。

消費税は安定財源だと言われている。以下のグラフを見ていただければよく分かるが、消費税には景気後退時にも下振れがなく、上振れは基本的に税率を上げた時に起きている。

出典:財務省

そこで少子高齢化における貴重な安定財源だとして、社会保障費の補助財源だともされている。

しかし、実はこれはまた恐ろしい事実をも表している。景気後退時にも容赦なく取り立てるということは、飢饉の時にでも年貢を納め続けるということなので、家計や企業経営に大きな負担をかけることになる。

その結果が景気回復の遅れと、総税収の減少に繋がってきた。

消費税は売上高に掛ける税金だ。言い換えれば種や籾の段階で、1997年以降なら5%を政府が徴収する。結果的にマイナス成長で秋の収穫が減り、実りに掛ける所得税や法人税、ひいては総税収が減ってきたのだ。

(消費増税は、景気後退、税収減だけでなく、ディスインフレ、赤字企業の急増、賃金の低下などとも強い関連性があることが分かっている)

また、安定財源で上振れは基本的に税率を上げた時に起きるということは、景気が回復しても大きな伸びはないということだ。このことは、日本の税収は今後も60兆円を大きく上回る見通しが立たないことを意味する。

つまり、100兆円を優に超えている歳出を半減させなければ、プライマリーバランスの黒字化が望めないことになる。

では、消費税率を引き上げればいいのか?それについては、以下の記事で解説したのでご覧いただきたい。

【関連】消費税「ゼロ」こそ日本復活最後の切り札。なぜ立民「5%」案は無意味か?小学生でもわかる3つの根拠がこれだ=矢口新

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『日本が幸せになれるシステム』目次

まえがき:税収増が見込めない税制
第一章:日本を破壊した税制
1.税率を上げても増えない税収
2.消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
3.消費税は経済成長を止めた
4.アベノミクスによる成長率はほぼゼロ
5.いざなみ景気の税収面での貢献はネガティブ
6.世界経済のミラクルは、日本から中国に変わった
7.アベノミクス、真の成果は?
8.雇用形態の変容
9.世界から乖離していく日本の実質賃金
10.名目賃金のターニングポイントも消費増税と一致
11.1997年から資金供給量は11.2倍
12.日銀は「物価しか見ていない」
13.銀行の預貸ギャップが290兆円に
14.マイナス金利政策の導入
15.アベノミクスは金利市場を破壊した
16.民間から政府への所得移転
17.物価の推移
18.消費増税でディスインフレに
19.消費税では社会保障費を賄えない
20.借金頼みの財政
21.消費税導入は法人税率引下げとセット
22.法人税率引下げで得たもの
23.赤字企業も急増
24.消費税は売上から天引き
25.所得税
26.個人住民税
27.One For All, All For Oneの虚実
28.格下げ
29.膨らむ公的債務残高
30.ギリシャやイタリアは緊縮財政
31.日本は113カ国中、113位
32.純債務残高でみると?

第二章:つくられた貧富格差拡大
33.つくられた貧富格差拡大
34.貧富格差の拡大は止められる!
35.日本の税収推移
36.日本の税収構造
37.デンマークの税収推移
38.デンマークの税収構造
39.スウェーデンの税収推移
40.スウェーデンの税収構造
41.OECD内32カ国の政府支出
42.日本、デンマーク、スウェーデンの財政収支の推移
43.主要国の所得税率の推移
44.世界の法人税率の推移
45.財政黒字の国は一握り
46.通貨の価値

第三章:崩壊前夜の社会保障制度
47.日本の公的社会保障支出
48.社会保障費の内訳と財源
49.高齢者の年金依存度
50.国民健康保険
51.1人当たり医療費
52.政府の教育支出
53.社会保障関係費の推移
54.国民負担率の推移
55.ダイヤモンドになったピラミッド
56.日本人の死亡原因
57.厚生労働省の見積もり

あとがき:衰退から繁栄へ

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2021年7月配信分
  • 自分の間合いで戦う勝負師(7/19)
  • #583 号外(7/14)
  • 売り買いの判断(7/12)
  • 「消費税が最大財源」が意味するもの(7/5)

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※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年7月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

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2021年6月配信分
  • 投機筋にできること(6/28)
  • 位置について、用意、ドン(6/21)
  • ビットコインが法定通貨に(6/14)
  • 貧富格差は税制で是正できる(6/7)

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2021年5月配信分
  • バイデン政権の狙い(5/31)
  • 株価4万円予想は撤回(5/24)
  • ゼロというポジション(5/17)
  • 誰のための社会保障制度なのか?(5/10)

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2021年4月配信分
  • #572 号外(4/30)
  • 知ってた? 日本の社会保障制度は崩壊を避けられない(4/26)
  • 投機とマーケットメイキング(4/19)
  • 業界の慣例を鑑みれば、野村の大損失は避けられなかった?(4/12)
  • 野村はどうして2000億円を超える大損失を出したのか?(4/5)

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  • 財政支援と、ユーロの限界(3/22)
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  • 米金利急騰?(3/8)
  • 最近の株価急落について(3/1)

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2021年2月配信分
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  • ビットコインが運用資産に?(2/15)
  • 地銀再編(2/8)
  • 株の大富豪量産の時代(2/1)

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2021年1月配信分
  • バブルの兆候(1/25)
  • 1人の人間でもできること(1/18)
  • 今が日本のコロナバブルの初動?(1/12)
  • 角を矯めて牛を殺すな(1/4)

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2020年12月配信分
  • 2021年はESG投資が本流か?(12/28)
  • マクロ寄生とミクロ寄生(12/21)
  • 75歳以上の医療費2割負担(12/14)
  • 核科学者殺害、イラン硬化(12/7)

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image by:r.nagy / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2021年7月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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