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大型成長銘柄「リクルート」はまだ買いか?米国事業は絶好調、和製グレートグロース株の底知れぬ実力=栫井駿介

日本の成長銘柄の代表格「リクルートホールディングス<6098>」について分析します。成長銘柄、特にグレートグロースと呼ばれる、大型であっても成長を続ける企業というと、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)などに代表される米国株にしか目が向いていない人が多いのではないでしょうか。確かに日本企業の中には、そういった規模が大きくて、かつ成長を続ける銘柄というのは必ずしも多くありません。しかし、そんな中で気を吐いているのが、この「リクルート」です。今からでも買いなのか?を検討します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

実はアメリカで稼いでいた!

まだ第1四半期の決算が終わっただけですが、早くも通期第4四半期までの業績予想を上方修正するということを行いました。

営業利益に関して、期初予想としての営業利益の予想が1,800~2,450億円だったところが、わずか3カ月で2,700~3,400億円と、何と39~50%も上方修正するということを行いました。

なぜこんなにも上方修正を行えたのかというと、その要因が「indeed」です。このindeedという就職情報検索サービスが、ものすごい伸びたわけです。それが特にどこで伸びたのかというと、米国市場における採用競争の過熱というところにあります。

このindeed、斎藤工さんと泉里香さんが出演するCMで有名です。日本でCMをやっているのですが、実はメインの売り上げは米国というところになっています。この米国が今景気が非常に好調です。

「ISM製造業景況指数」と呼ばれる米国の景況感を表すものがありますが、直近でおよそ60くらいあります。この数値が50を超える好景気と言われていまして、一方で50下回ると不景気という風に言われています。

最近では昨年の3月ぐらいにコロナショックでものすごく下がったのですが、その後、一気に持ち直し、今ますます景気の過熱感があるということになっています。

アメリカというと、日本よりも早くワクチン接種が進んだので、それによってどんどん人々が動いて、さらには物の生産も活発になってきています。

物の生産やサービスが活発になるということは、当然そこに従事する人材が必要というところになります。

特にアメリカですと、一時的に景気が悪化した時に、「レイオフ」と言って、すぐに人をクビにするところがあります。それは逆に言うと、必要な時にはいつでもすぐに採用したいという動きがあります。

それで、人がとにかく今足りないから取らないといけないというところで、使ったのがこのindeedというところになってきます。

リクルートがやっているアメリカの事業というと、あまりピンとこないかもしれません。

日本におけるリクルートというと、リクナビ、ホットペッパー、そしてじゃらんやゼクシィといったものをやっている会社だと、認識している人が多いのではないかと思います。

しかし、実際に最近の業績、第1四半期に限った業績を見てみますと、なんとHRテクノロジー、すなわちindeedにおける利益が、なんと第1四半期では一気に稼ぎ頭になってきました。

しかも、そのうち売上の77%は米国におけるものということになっています。

リクルートとは、もともと日本国内を中心とする会社だったのですが、いつの間にかここで見る限り、半分以上を米国で稼ぐような会社に様変わりしてしまったという風に言えます。

こういった動きを受けまして、多くのアナリストなどにとっても、予想外の出来事でしたから株価が上昇しています。

リクルートホールディングス<6098> 日足(SBI証券提供)

この1年間を見ますと、これまでも上昇を続けてきたのですが、直近でもこのを業績予想の上方修正を受けて一気に20%ぐらいも上がるという動きになっています。

Next: なぜ、ここまで成長できたのか?リクルートの歴史に答え



なぜ、ここまで成長できたのか?

こういった米国のindeed事業が非常に好調だということで、意外性を持たれた方も多いのではないかと思います。ここで改めてリクルートの歴史について振り返ってみたいと思います。

リクルートというと1960年に大学新聞広告社として創業しました。これはいわゆる大学新聞に企業から広告を募って、人材募集をして、就職先を掲載しているといった事業から始まったものです。

それがやがては同じ情報誌を扱うということで、今で言う、じゃらん、それから中古車のカーセンサー、それから結婚のゼクシィ、飲食のホットペッパーなど、様々な情報誌を創刊することで勢力を拡大してきました。

さらには2011年から海外人材会社を相次いで買収とあります。実はこれには契機がありまして、リクルートというと結構大きい会社だったのですが、長い間非上場でした。なぜ非上場だったのかというと、リクルート事件というのがありまして、これは国会議員に上場直前の未上場株を渡す、いわゆる賄賂というものを配ったのではないかということが言われていましたから、そういったこともあって、なかなか上場できない会社でした。

そのリクルート事件が起きたのが1988年なんですが、そこから20年以上を経て、ようやくリクルートが上場するという機運が高まってきました。上場するには拡大していかないといけませんから、2011年から海外の人材会社を相次いで買収するということを行いました。

その中の1つとして、2012年には今説明してきたようなアメリカのindeed社を買収します。これで人材検索サービスというものを手に入れました。

これらの買収なんかもありまして、成長戦略を描いた上で2014年に東証1部に上場したというリクルートの歴史があります。

つまり、この会社の特徴としては、実は1つの物に留まっているのではなくて、次から次へと、どんどん新たな事業に手を出して成長をしてきたというところがあります。

そして、このindeedが非常に儲けているというのは、その内の1つが実を結んだ結果と言えるわけです。

もっと言えば、それを可能にしたこの資金力というのは、まさに古くからやっている情報産業に根差したものだという風に考えられます。

情報誌としては非常にシェアが高くて、例えば結婚式場というところになるとやはりゼクシィを買いますよね。

そういった中で利益率を高めて、お金をたっぷり持っている中で、indeedだったり、海外の企業を、それなりの高い金額を払ってでも買うことができたわけです。

Next: 最大の強みは人材教育。新規事業を成功に導く土壌がある



リクルートの強味

では、これらを踏まえてリクルートの強みというところを改めて考えてみたいと思います。

特徴と強みとしては、まず情報産業に軸足を置いているというところがあります。1960年創業ですから、実に半世紀以上に渡って、情報、特にライフスパンにおける情報を扱ってきました。もともと大学生の就職というところから始まったのですが、結婚や家を買う、車、日常に関していえばホットペッパー、旅行のじゃらん、とそういったところに取り扱う情報というのを増やしてきました。

もっと言うと、それをより効率的により情報が力を持つ時代になったのが、このデジタル時代というところになってきます。私が大学生の時は、よく駅前で分厚いホットペッパーの紙をお兄さんたちが配って歩いていたのですが、それが今やスマホになってから、コストは下げて、情報価値というものは上がってきたわけです。

デジタルシフトを早く進めたことによって、リクルートはさらに強みを増してくるとを同時に、お金もどんどん溜まってきたというところになります。

そして、ここの素晴らしいのは人材教育です。

実はこの会社というと、就活をしてる人なら聞いたことがあると思うのですが、リクルートに入ったからには、入ってから10年以内に辞めて独立しましょう、というような空気があります。

実際にリクルート出身で、独立していろんな企業を作ったという人は枚挙に暇がありません。そういった風土があるので、当然この10年間のうちに何かを自分でできることを見つけないといけないので、社内でやることは必死なわけです。

だからこそ、新たな事業に手を出すということができるのです。

近年は、これが少し拡大しまして、今では10年ですぐ出て行けというほどではないようなのですが、一方で若い人に新たな事業を任せて、それをやがては社内の1つの大きなを軸として育てていくという、そういった風土があると言われています。

こうやって様々な事業に手を出すしても、リクルートは巨大な企業ですから、先にやっていた会社があったとしても、後から乗り出して行っても、すぐにその先行企業を上回るような力、財力、知名度、ノウハウというのもをすでに持っているわけなんです。

もちろんそれだけではなくて、リクルートで有名なのが“ビル倒し”という営業力にあります。とにかくビルを一番下から上まで全部営業をかけるほどの強い営業に対する根気というものを、要請されるとも言われます。

そういった中で、様々な人材を中にも外にも抱えるというような状況になってきていました。

この強味というのは、簡単に崩れるものではないという風に考えます。

Next: M&Aの上手さは日本で指折り。GAFAMと同じ道を歩んでいる



さらにM&Aの能力が向上

さらには、今やM&Aが日本で指折りの上手い会社になってきたというところがあります。

実は最初から上手くいったわけではありません。2011年頃に結婚事業を海外展開をしようとして失敗しました。

しかし、その時の失敗を糧にグローバルでやるならM&Aを上手くやっていかなければいけないということで、失敗を糧に様々な企業を買収していきました。これが今の成長に繋がっています。

特にそれを発揮したのが、今回のindeedということになってきます。

この成長をどうやって見るのかというと、ひとつ役に立つのが、このアンゾフのマトリクスというものがあります。

もともと企業が1つの分野で事業を始めるとして、それを軸足に1つは製品軸というのがあります。例えばジュースを作っていたとしたら、次はお菓子を作ってみようかとか、製品の幅を広げていくことで、自分が取り扱える市場を増やしていくということです。

さらには、市場軸というのがあります。これは、例えば、最初は大阪だけで初めていたのだけれども、それを東京に進出するとか、あるいは次は東京から世界へ進出するとか、そういった地理的な拡大というのを目指して行ったりします。

リクルートこの流れにまさに沿っていまして、最初は就職情報から始めたところから、さらには国内の様々な情報というところで、じゃらん、ゼクシィ、ホットペッパー、SUUMOといったものに進出していきます。

そして、今度は国内だけでは留まらないということで、海外の様々な人材派遣会社を買収しました。

これは実はそんなに利益率も良くないですし、正直、私も上手くいっているとは思っていないのですが、ただ海外の人材というところに足を置いたところが大きくて、単に人材派遣をやるのではなくて、そこに培ったデジタル技術なんかも活かして、indeedの買収に至ったわけです。

このindeedを上手く成長させたことによって、リクルートは大きく成長してきました。

もちろんindeedがすべてではなくて、この下にあるような国内事業はまさに“キャッシュカウ”「金のなる木」とも呼べる事業なので、これらのお金を作る力が海外の買収というのを支えているのも、これもまた間違いありません。

お金もあるし、技術もあるし、そして海外での買収が上手くなったということは、今後も同じパターンで成長を遂げる力があるという風に見えるわけです。

これはまさにアメリカのGAFAMがやっていることに他なりません。たとえばFacebookで言うならば、Facebookを軸に、ワッツアップ、インスタグラムとか皆さんが知っているものをかなりの高いお金で買収することによって、自社の安泰というのを築いていきました。

Googleなんかも検索を軸に、そこで得たお金を自動運転とかそういったところの買収したり、YouTubeを買ったというのも大きいです。

そういった買収を続けることによって軸足を置きながら、関連事業を拡大していくということに成功しているわけなんです。

日本の企業はなかなかそういったことが上手くないのですが、リクルート関しては、それをする素地能力があるという風に十分に考えられます。

Next: 5年で株価4.5倍!今からでも「買い」か?



今からでも買いか? 今後の展望

では、リクルートがこれからどこに向かうのかというと、ひとつ私が期待しているのがAirPAYを展開する「Air」です。小さめの飲食店に行くと、オダギリジョーさんが出演するCMでも登場する手のひらサイズの機械で、カードを読み取ってもらったりしたことはないでしょうか。

これはコロナ禍でも、まさに進んできたのですが、キャッシュレス決済において個人のお店だと導入するのはもともと高額な費用が必要だったりと、なかなか容易ではありませんでした。

ところが、これをリクルートが「AirPAY」という形で、安く様々なお店に導入することによって、そのシェアを広げています。

もともとホットペッパーとかで小さなお店との繋がりというのは深い会社でしたから、これを皮切りに、経理システムとかPOSシステムとか、そういったものにどんどん入り込んでいくことが可能になっているわけなんです。

これはまだ収益事業とは言えないのですが、ここからどんどん安定収益事業を生み出してくるのではないかということが想像できます。

まさにコロナ禍というのは、キャッシュレス決済とかデジタル化を追い風に受けると言っても過言ではないありません。

では、リクルートはこれからでも買えるのかということについてです。

リクルートホールディングス<6098> 週足(SBI証券提供)

株価に関して過去5年のチャートなんですが、およそ4.5倍になるほど大きく伸びてきています。特にコロナで大きく下がった時からはもう2倍になっていると言うところです。

目先の上方修正がありましたから、その上方修正した業績に対してPER36.55~44.7倍と若干高めには見えるのですが、一方でEPS一株当り利益の年率成長率はこれ15%程度となっています。

リクルートというと上場した時から高い評価を受けていまして、PERは30数倍辺りで推移していました。

今後も成長が続くとしたら30数倍のPERが維持されるとしたら、このEPS成長率が年率15%ぐらいが期待できてもおかしくないかと思います。

もちろんどこかで躓く可能性もあるので確信を持って言えるわけではないのですが、良い会社であることは間違いありませんから、単純にPERが高いからといって敬遠するような企業でもないです。

今ほぼ上場来高値となっていますから、これより安い価格で買ったような人は利益確定するような状況ではないかなという風に思っています。

まだまだ余力が期待できる会社だと思いますし、株価の動向によっては私としても買いを検討したい会社であります。

もっとも、リクルートを買うというのももちろんアリですし、リクルートと同じような成長戦略を取っている会社を探すというのもアリかもしれません。

ぜひアンゾフのマトリックスというところは、長期投資をされる方は意識して見ていただくと、新たな銘柄の発掘に繋がるかもしれないということは申し上げておきます。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Piotr Swat / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年8月22日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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