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本当は怖くないテーパリング。いざ米緩和縮小が始まっても米国株は上昇へ=矢口新

パウエル講演で早期テーパリング懸念が払拭され、市場の不安感が和らいでいる。では、年内実施とされる米国の量的緩和縮小が始まった後はどうか?私は引き続き米国株は上昇すると見ている。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年8月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

無風で過ぎたジャクソンホール会議

先週のビッグイベントとされていた米ジャクソンホール会議はノーイベントで終えた。

パウエル米連銀議長による27日の講演では、量的緩和の規模縮小(テーパリング)について、年内開始に初めて自ら前向きな見解を示した。

これは予想通りで、もっと早いのではないかとの懸念が払拭された。

米国の経済政策は継続へ

米国のイエレン財務長官とパウエル連銀議長のコンビは、米国の弱者に合わせた経済政策を続けるとしている。財政面では個人への現金支給や追加刺激策など、金融面ではほぼゼロ金利と量的緩和による資金供給などだ。

その結果、労働市場は改善し失業保険継続受給者数はコロナ時のピーク2,507万3,000人から大幅に減少したが、それでもまだコロナ禍以前の約170万人より100万人以上多い286万2,000人もいる。

もっとも、これは求人と求職のミスマッチ要因が大きく、金融政策ではここからの改善はそれほど見込めない。とはいえ、デルタドロップと呼ばれる景気再減速の兆候が見られるために、まだ、テーパリングは早いというのだ。

発表を受けて1カ月近く売り込まれてきた米国債価格は反発し、ダブルボトムをつけた形となった。米株のS&P500とナスダックは2日ぶりの史上最高値を更新した。8月半ばに史上最高値をつけてから調整していたダウも上昇し、近日中に最高値を更新しそうな勢いだ。

NYダウ 日足(SBI証券提供)

テーパリングが始まった後の株価はどうなる?

では、テーパリングが始まった後はどうか?

私は引き続き上昇すると見ている。何故なら、株式投資は重要な「資金」運用の手段だからだ。

テーパリングが早まるのではないかとの観測は、複数の地方連銀理事たちが量的緩和継続の弊害であるインフレ懸念を指摘しているからだ。

Next: テーパリング後も株価上昇?アメリカ国民の困窮はまだまだ続く



住宅価格上昇で住宅ローン地獄へ

先週発表された米7月の個人消費でのPCEデフレーターは前月比+0.4%、前年比+4.2%だった。コア指数は前月比+0.3%、前年比+3.6%だった。

米第2四半期のGDP改訂値でのPCEデフレーターは前期比年率+6.5%、コア指数は+6.1%だった。米連銀のインフレ目標は年+2.0%内外での安定なので、いずれも大幅に上回っている。

もっと深刻なのは住宅価格の上昇だ。米7月の新築住宅販売価格中央値は前年比+18.4%の39万500ドルと、過去最高を更新した。中古住宅販売価格中央値は前月比-0.8%、前年比+18%の35万9,900ドルだった。

米第2四半期の中古一戸建て住宅販売価格中央値は前年比+23%の35万7900ドルと過去最高だった。183都市圏の約94%が2桁の伸び率となった。前期の89%から加速した。

価格が高騰した結果、住宅販売の伸びが鈍化、米7月の住宅着工件数は前月比7.0%減の年率153万4,000件となった。また、住宅ローンの1件当たりの平均金額が40万2,440ドルと過去最高を更新した。結果として家計の債務が急増している。

つまり、金融緩和政策による超低金利と資金供給を受けて住宅価格が急騰した結果、購入できない人が急増し、購入できた人も大きな債務を抱え込むことになったのだ。

家賃滞納者の急増

さらに深刻なのが、家賃を支払えない人々の急増だ。

「立ち退き禁止令失効で、南部諸州の借主たちが最も脆弱に。ほとんどの住居立ち退きに対する全国的な禁止令が7月末で失効したことで、将来的に低所得賃貸者たちの強制退去が広がりかねない段階に入った。特に南部諸州で大きな打撃となりそうだ。

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、パンデミック期間中の経済的困窮により家賃を支払えない何百万もの借主を保護するために、2020年9月に立ち退き禁止令を成立させた。CDCは支払猶予期間を3度延長した」

※参考:Eviction Ban’s Expiration Leaves Renters in South Appearing Most Vulnerable – WSJ(2021年8月1日配信)
※参考:Eviction Ban’s Expiration Leaves Renters in South Appearing Most Vulnerable(最低賃金労働者は、米国のどこに行っても家賃を払えない) – WSJ(2021年7月15日配信)
※参考:New York Is Pushing Homeless People Off the Streets. Where Will They Go?(ニューヨークはホームレスを街から追い出している。どこに行けばいい?) – The New York Times(2021年8月2日配信)

支払猶予期間は再延長されたが、米国の弱者に合わせた経済政策が、一面では弱者を追い詰め、新たな弱者を産む結果となっているのだ。

Next: テーパリング後も上昇か。「米株はバブル化しているとも言えない」



テーパリング後も上昇へ

繰り返しになるが、テーパリングがすぐに始まるわけではないと知って、金曜日のS&P500とナスダックは2日ぶりの史上最高値を更新した。8月半ばに史上最高値をつけてから調整していたダウも上昇した。

テーパリングが始まった後はどうか?

私は、引き続き上昇すると見ている。何故なら、株式投資は重要な「資金」運用の手段だからだ。

テーパリングが始まるまで、今後も市場を取り巻く「資金」は月間1,200億ドルと、コロナ最悪期の規模で増え続ける。テーパリングが始まっても、最大限に緩めている蛇口を「徐々に(テーパリング)」締めていくだけで、資金は溢れ続ける。

つまり、どこかで運用しなければならない。だからこそ、これまで債券価格は史上最高値水準まで買われ、株価は最高値を更新し続けてきたのだ。

※参照チャート:米連銀のバランスシート

ここで、インフレ懸念があり、利上げが観測されるようになると、債券運用が機能しなくなる。利上げなどの金融引き締めが始まると、今度は債券からの資金が株式に流れ込むことになるのだ。

日欧のマイナス利回りは言うに及ばず、米国債の1年0.06%、2年0.22%、5年0.80%、10年1.31%、30年1.92%でも、インフレ率を勘案すればすべてバブルで、利上げが観測されるようになるとすべて売られると見ていい。

一方で、代替投資としての不動産投資は価格が高すぎて実需が見込めないうえに、ホームレス急増という問題を抱えているため、ここからの伸びは限定的だと見るべきだ。

「米株はバブル化しているとも言えない」

テーパリングが始まるときは、デルタドロップが底なしとなる時ではなく、ダブルボトムとなる時だ。景気回復は株価を押し上げる。また、1972年からのデータでは、インフレヘッジは金ではなく、S&P500だったと証明されている。

また、最高値を更新中だとはいえ、米株はバブル化しているとも言えないのだ。

8月25日までの週に米株ファンドからは64億6,000万ドルの純流出となった。米大型株ファンドは47億4,000万ドルの純流出。米国の中小株ファンドも純流出だった。

また、信用取引の買い残も減少している。これは株式市場がまだ冷静であることを示唆している。

これを弱気の始まりと見ることもできるが、弱気でも株価が下がらなければ、また買われることになる。資金に余裕があるからだ。

一方で、オプション市場はコールが買われていて、こちらは強気だ。もっとも、デルタドロップやテーパリングを懸念して現物買いには慎重(資金流出や買い残減少)で、コールの買いはそれでも上げた場合のヘッジだとも見なせる。この場合は買い余力の温存を意味する。

自社株買いは増加中だ。特にバイデン政権によりM&Aに慎重にならざるを得ない大手ハイテクが積極的に自社株買いを進めている。デルタドロップで先が見通せない場合は、設備投資には慎重になるが、豊富な資金で自社株買いをすれば株価が上がり、株価連動の経営陣の報酬も増えることになる。これは投資家抜きの株価上昇要因で、コロナ禍までの米株上昇の主力でもあったのだ。

このように資金運用という観点から「テーパリングと米株」を見てみると、米株以外の他の何が買える?という妄想を抱いてしまうのだが。

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image by:r.nagy / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2021年8月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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