コロナ禍で世界のサプライチェーンはズタズタに壊れました。コンテナ便の運賃は異常な上昇をみせており、2022年にはすべての商品にインフレが及ぶと思われます。私たちは1970年代に起きたオイル・ショック級のインフレを覚悟しないといけないでしょう。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2021年9月8日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
国際サプライチェーンにコロナ直撃
21世紀の世界の産業は、部品と製品のサプライチェーンで深く結ばれています。「近代国家の枠を超えるサプライチェーン」が、21世紀の産業の構造変化でした。
産業、つまり製造と小売・流通が、国際サプライチェーンに変わったのです。人的なサービス業のみが国内産業となりました。
国際サプライチェーンでの部品・商品調達と、生産の障害になったのが、今回のコロナ危機です。
日本の企業の多くは、東南アジアと中国で生産しています。SONYやパナソニックのAV機器も、多くが中国製造です。米欧の企業も同じです。中国の工業は世界の約40%の商品は生産しています。
中国版アマゾンとも言えるアリババのサイトを見ると、日本のマーケットプレイス「楽天」をはるかに超える商品の多さがわかるでしょう。
当方も海外に個人輸出する「Ali-Express」で、オーディオ機器を買うように変わりました。価格は、およそ3分の1です。日本人の多くは、中国の工業生産の大きさを知りません。品質がよくないという定評があります。確かに、選別しないと「100均品質」も多い。50%くらいでしょうか。
多くは、3分の1の価格だからといっても、品質は3分の1ではない。中国の工業が、物価の上がらない21世紀を作ってきたのです。
先端のオーディオ機器は、素子がIC回路であり、品質の問題は、ほとんどありません。日本製を超えたものも多い。買って使ったことからの評価です。
ドイツのメーカーでも、中国生産が日本よりはるかに多い。われわれは、量的緩和というアベノミクス幻想の中で、約10年も、アジアの変化(発展)を見ていなかったのです。
<アジアの流通網を襲ったデルタ株>
東南アジアの部品や製品の生産が、デルタ株の蔓延で休業、または停止しています(※筆者注:中国では、1人でもコロナ患者が出ると全員PCR検査を行い、港湾の出荷作業や工場は停止されます)。
2020年のアルファ株では、アジアでは感染が少なかった。インド発のデルタ株が、日本、韓国を含むアジアでの感染を増やしました。
アジアの感染は、デルタ株により新たなステージに乗ったのです。
ロイターのサイトで、21年6月末からの、アジア諸国の新規コロナ感染数の急増を見てください。
工場とコンテナ港の休業がわかる数値です。テレワークでは、コンピュータで金融と事務作業はできても、工場とコンテナは動きません。人が集まる「エッセンシャルワーカー」の世界だからです。
<サプライチェーンの分断>
2011年の東日本大震災(工場の震災)のときと同じ「部品と生産のサプライチェーンの分断」が国際的に起こっています。
トヨタと自動車会社の減産がこれです(2021年9月40%減産:トヨタ)。世界中のメーカーが、トヨタと同じようにアジアの工場の、休業の影響を受けています。
ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン…食品、衣料、部品、機械、家電、AV、木製品、化学製品。世界の工場に広がったジャストインタイムの仕組みは、サプライチェーンの障害に脆弱です。日本の家電やAVの多くは、中国での製造であり、日本と世界に輸出されています(三角貿易)。
コロナが兵器とすれば、それは、世界中がつながったサプライチェーン網の物流を破壊する、高度なものだったのです(※筆者注:新型コロナ人工説は、中国は否定していますが、その遺伝子配列から有力です。生物兵器説の検証はできずに否定されています。武漢研究所、またはCCP=中国共産党からの内部告発がない限りは不明のままです)。
<メディアの報道はない>
経済新聞は、日本メーカーの、アジアの生産委託工場の様子は報じません。海外ニュースとしては、外信の翻訳しかしていないからです。
特派員の常駐も、アジアには少ない。衣料のSPA(専門店製造直売)が進出しているミャンマー(人口5,400万人)ではゼロ。中国の特派員ニュースには検閲があります。
減産の原因は、アジアのデルタ株です。
Next: コンテナ運賃は6.6倍に高騰。日本の物価上昇は始まっている?
コンテナ便の料金は6.6倍に高騰
サプライチェーンの物流は国際コンテナ便に依存します。
料金は、2020年の1月は2,420ドルでしたが、2021年の1月は5,250ドル(58万円:へと3倍に上がっています。21年7月は更に上がっていて1万3,630ドルです(150万円:20年1月の5.6倍の料金:上海~NY:EAST BOUND:20ftの標準コンテナ)。上海からNYまで25万円というのが、通り相場の常識でしたが、今はその5.6倍です。
2020年1月:2420ドル → 7月:2,760ドル → 12月:4,100ドル →
2021年1月:5,250ドル → 7月:1万3,630ドル……
※参考:主要航路コンテナ運賃動向 – 日本海事センター
当初、コロナによる一時的な上昇かと思っていました。
しかし2021年7月には5.6倍に上がり、下がる気配がない。世界のコンテナ便の料金が同じ傾向です(※筆者注:原油のタンカー便は上がっていません。洋上備蓄が多くなっているためです)。
なぜ運賃上昇?
なぜ商品や部品を混載するコンテナ便の非常な高騰が続いているのか。
国内物流、出荷港、そして船舶に、コロナでの低操業と休業が増えたために、便が足りなくなったからです。
NYのコンテナ港(NJ州セコーカス)には、運ばれないコンテナが山積みです。2020年の11月から現在まで、9か月続いています。
船会社の利益は上がった。しかし、運航する便数は減った。
国際物流費の異常な高騰は、2022年の世界の物価上昇(製造物価の上昇)を先行して示しています。
状況改善の見通し立たず。デルタ株とその後の変異でコロナ危機は長期化
デルタ株は、解明されていない季節要因から、いったん10月には収束するでしょう。
しかし、ワクチンに耐性をもつデルタ株とその変異は、2021年11月末から、世界的な感染爆発を起こす可能性が高い。
蔓延がいつまで続くか、何回繰り返すか、予想できる人は世界中の専門家にもいません。ワクチン願望しかないのです。
2022年の、中国とアジアからの国際サプライチェーンはどうなるか予想ができない。2021年の12月からは、より大きなサプライチェーンの停止、つまり物流と生産の縮小になる可能性が高い。
これは大戦のとき以外には起こったことのない、「供給ショック」です。
平時に、需要に対して供給が下回る事態が長期化すれば、「石油危機並みの物価上昇」に帰結します。
Next: オイルショック以来のインフレが世界中で発生する
2022年のインフレ予想
経済の未来は、複雑であり確率的なものです。2021年冬にコロナ第6波が起こると、2022年の「高いインフレ率(20%か?)」となる確率は高まるでしょう。
コロナ危機に対して、すでに世界中でマネーが増発され、政府の財政支出は拡大されています。70%の人の所得は減っても、社会のマネーは十分にあり(預金の増加になっています)、需要力は大きい。
この点を考えると、FRBが「物価上昇は短期的」と断じたのは、机上論の認識間違いになります。
過去のように、戦争で工場が破壊された後のハイパーインフレまでは行かないでしょう。しかし石油危機(1973年と79年)並みのインフレは、相当な確率(70%)で想定できるでしょう。
コンテナ料金の長期高騰(事実)は、インフレに6か月先行する指標になるものです。世界のエコノミストは、国際コンテナ料金の長期高騰に気がついていません。
世界の自動車需要が増えている中での、トヨタの生産40%減の意味も、それ以外の産業領域で広範囲であることを解いていないのです。
インフレの本質は、物価上昇の形をとった「過剰になった信用通貨の価値の下落(マネーサプライの残高 × 流通速度 = マネー量)」です。
相対的な、通貨ペアのレートでは信用通貨の価値下落はわからない(ドル/円)。両方が下がれば同じレートだからです。通貨価値の下落は高騰した物価との関係で分かります。
20年間の「ディスインフレ」が一変する
21世紀の20年は、世界的なディスインフレの時代でした。通貨が下落した国で輸入物価が上がり、インフレになるだけだったのです。
ディスインフレとは、価格が下がるデフレではなく、物価上昇が0%から1%付近と低い経済の状態を言います。米国の物価上昇もコロナ前は1%台と低かった。
この世界的な原因は、中国とアジアでの、出荷価格3分の1くらいの商品生産が増えたことです。この生産量は、世界の50%に増えているでしょう。中国とアジアは内需主導型ではなく、輸出主導型経済です。
たとえばマレーシアのGDPに占める輸出額は、69%と、異常なくらい高い。日米欧のメーカーが、工場を作って、現地人を雇用し、輸出しているからです。部品は他国から調達します。
中国と東南アジアの産業構造がこれです。約20年で、世界中に、網の目のサプライチェーン物流網が築かれたのです。
通信はインターネットとスマホ、物流はコンテナ。世界中で国内の価格が上がると、中国・アジア輸入が有利になるので、2000年代の20年間、企業が価格を上げることができないディスインフレの経済構造になっていたのです。
Next: 迫る供給ショック。次期首相は「インフレ」と戦うことになる
迫る供給ショック。デルタ株で危険な第6波が想定される
2021年の冬からは、デルタ株とデルタ株の変異によってコロナが長期化します。
・21年11月末からは第6波、
・22年3月には第7波が高い確率で起こって、工場、船舶、トラックの休業と操業の低下
これが、世界への商品の供給ショックになるでしょう。
麻生財務大臣は「戦争のように工場が破壊されなければ、量歴緩和では、ハイパーインフレは起こらない」と答弁しています(財務省の見解です:2020年の予算委員会)。
今回は、戦争ではない。コロナ危機による、アジアの工場と国際物流の休業です。すでに、戦争のときのような「供給ショック」になっています。
輸入物価の30%上昇は、商品原価の高騰であり、長期化すれば、時間をおいて約15%の店頭物価の上昇になって行きます。
次期首相は「インフレ」と戦うことになる
わが国の次期首相は、2022年から「長期化するサプライチェーン供給ショックによるインフレ」と戦うことになります。インフレは、経済学的には、市場の期待金利を上げます。国債価格の買いの価格が下るということです。
市場の金利上昇(国債価格の下落)のなかで、日銀のマネー絞りを行わねばならず、2022年の株価は下がり、リーマン危機より大きな金融危機に直面する可能性が高いでしょう(推計70%)。損な役割です。
20年間のディスインフレで、「茹でカエルの反対の冷えカエル」になった頭には、石油危機のときのようなインフレへのイマジネーションがない。
事実、高市早苗候補は、2022年からの経済予想がないままに、150兆円規模の、量的緩和を政策として掲げているのです。20年は、エコノミストの経済意識を変えるくらい長いからです……。
2022年のコロナによる国際サプラチェーン・ショックによるインフレを言う人はいませんが、NYのコンテナ港(NJ州セコーカス)と商品物流では、すでに起こっていることです。
金融縮小への出口がなくなったFRBと日銀
米国経済は石油危機後に似たスタグフレーションの入り口にある
前年比で28%上がった日本の輸入物価指数(21年7月)
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- 第三弾:米国大統領選挙の結果は出た(11/5)
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- 世界の政治・経済を決める大統領選挙の直近予想(10/14)
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- アフターコロナの政府財政とマネー(1)(6/10)
- 世界中が史上最大の経済対策費(6/3)
『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2021年9月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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