米国も英国も「増税」でのコロナ財源確保を発表するなど、世界は財政拡大一辺倒から変化しつつあります。そんななか、日本の首相候補の高市早苗氏は「サナエノミクス」として積極財政を打ち出しているようす。コロナ禍からの回復が遅れているとはいえ、日本だけが財政拡大を続けても大丈夫なのでしょうか?(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
コロナ財源確保に米英は増税意向を表明
この秋は増税が世界の話題となるのでしょうか。金融市場、特に株式市場には嫌な感じです。
イギリスではジョンソン首相が来春以降、360億ポンド(約5.4兆円)の増税を行う意向を表明しました。首相は「公約違反だが、パンデミックは公約に入っていなかった」と述べています。
また、先ほど(日本時間13日朝)WSJ(ウォールストリートジャーナル)のアプリ通知が「(バイデン大統領が所属する)下院民主党、法人税を21%から26.5%へと引き上げる提案」と伝えて来ました。
WSJによると、民主党は500万ドル超の所得がある個人に対して3%分の税金上乗せを提案とも伝えています。
米英共に、コロナ禍による財政拡大一辺倒から、ワクチン接種が進む中で財源確保へと視点を移しつつある様子が窺えます。
一方、日本では自民党総裁選の中で各候補者の財政政策が注目されつつあります。ただ、「アベノミクス」を継承しつつ「サナエノミクス」を唱える高市早苗氏は積極財政(拡大路線)を明確にするも、他の候補は総じて玉虫色。
加えて「サナエノミクス」にしても、金融緩和の源である日銀はマイナス金利の限界に直面、国債・株(ETF)買入れによる量的・質的緩和にしても、追加購入額は既に減少しています。
「アベノミクス」下では、財政拡大と日銀による国債買入れが同時進行しました。その日銀が手を引きつつある中で、コロナ禍だからといって闇雲に財政拡大へと向かうのも危ういところです。
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限界を迎えている日銀の国債買い
日銀の国債買いといえば、日銀自身のバランスシートも、お腹一杯って感じです。資産に計上される国債保有残高は500兆円を超え、反対側の負債にある当座預金残高も500兆円超となっています。
ついでに、日銀のバランスシートを使った「金儲け」も限界がみえます。
低い金利でおカネを借りて、その金利よりも高い利回りで資産運用をすれば「金儲け」は可能です。日銀のバランスシートで言えば、当座預金の利回り(とゼロ金利の現金)よりも高い利回りで国債等を運用すれば利益が発生します。
ここで気になるのが当座預金という負債の利回りです。「マイナス金利」政策を日銀は採っていますが、当座預金残高に適用されるマイナス金利はごく一部です。
ざっと500兆円ある日銀当座預金残高のうち、約200兆円は+0.1%の利息が付いています。これは市中銀行に対する補助金みたいなものです。
また、今年7月時点で270兆円にゼロ金利が適用されています。てことで、マイナス金利(-0.1%)が適用されているのは残りの30兆円弱です。
これらを平均すると、+0.035%という値が出て来ます。日銀当座預金の「調達コスト」とも言えます。
一方、国債利回りをみると、10年債利回りは+0.04%。日銀の「調達コスト」とほぼ一緒です。
仮に「サナエノミクス」が発動されたとして、日銀は10年債よりも利回りが高い、20年債や30年債など超長期債を買わなければ、「金儲け」ならぬ「損確定」となってしまいます。
ついでに言えば、日銀が再び国債買入れを強化すれば国債利回りは低下します。日銀が日銀の「損確定」度を強化するという、おかしな話がまかり通ってしまいます。
下馬評では高市さんが新総裁・新首相になる公算は低そうです。しかし「サナエノミクス」登場なんてなれば、日銀がせっかく買入れを減少させてきたのに、いたずらに「損確定」リスクが露呈しかねません。
物凄く無責任ですが、どの国・政府共に「なぁなぁ」な雰囲気の中で財政政策を語ってくれた方が、市場にとっては好都合にみえます。
増税話や財政の限界は、そのまま景気停滞や株安を連想させます。市場金利や為替レートにも波乱要素が増えて来ます。
ここもとの米株安は、久しぶりに登場した金融・財政面での負の側面を意識し始めたことも示しています。気掛かりな週の始まりです。
今回のまとめ
・米英では与党から増税提案
・ワクチン接種の進展と共に財源確保へと視点が移りつつあります
・日本で財政拡大を続けようにも、日銀の国債買いは日銀自身の「損確定」を連想させます
『徒然なる古今東西』(2021年9月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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