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なぜ日経平均は3万円を嫌うのか?待てど出てこぬ岸田政権の具体策、消費増税で「分配」すれば一気に株価上昇へ=山崎和邦

なぜ日経平均株価は3万円台を嫌っているのか?3万円に届きそうで届かない状況が続いている。原因は岸田政権の具体的な経済対策が見えてこないからである。岸田首相が属する宏池会の流れから、「成長と分配」を実現するための有効な政策を考えたい。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2021年11月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

なぜ日経平均は3万円を嫌うのか?

日経平均は3万円台にあと100円というところまで来て届かない。

2月の3万700円、9月の3万700円、この7ヶ月おいたダブルトップを大きく抜ければ、これは史上最高値4万円~5万円を目指すとしても、政策の適宜を得れば理屈なしとは言えない。

それは「新資本主義」の序曲となる、まさしく「新資本主義の序曲としての青春期相場」となるであろうが、3万円に乗せることをなぜそう嫌うのか。「意地でも3万円は付けない」と言っているように見える。

25日線との乖離は1%台、騰落レシオは80%台、いずれも決して「買われ過ぎ」の状態ではない。なぜ高値圏のレンジ相場を脱し得ないのか。

FRBは量的緩和の縮小を決めた。来年は最低2度の利上げがあるだろう。これは織り込み済みである。また、世界の景気回復が予想通りには行かないが、回復するということもまた織り込み済みである。しかも、我が国の来年3月期決算は、大幅な驚異的な増益が進んだ。これも織り込み済みである。

コロナの第6波は来るか?来たとしても、それに対応する体験知は積んできた。制度も進んだ。これも織り込み済みである。

岸田政権の具体的な政策待ち

だとすれば、なぜ日経平均は3万円を嫌うのか。

これは1つに岸田政権の経済政策にある。「新しい資本主義」という宏池会伝統の経済重点主義の具体策が、今ひとつ見えてこない。

宏池会の先輩、池田勇人元首相のように「10年でGDPを2倍にする。意訳して所得倍増計画」というように具体化していない。小さな政策をチマチマと並べてみても、それは「新しい資本主義」としてのインパクトは少ない。その政策に対応する個別の銘柄が反応するに過ぎない。

田中角栄元首相の「列島改造論」は具体的で、明確だった。本当は列島改造相場ではなくて、その前年の円ドル相場の急変に対する危機を収めるために放出された過剰流動性の相場であったのだが、これを「列島改造」に置き換えたところに田中角栄の言葉の力があり、株式市場も素直にそれに従い、初年度の47年は1年間に大発会から大納会まで日経平均は90%以上も値上がりした。

1年間で90%というのは珍しい(しかし、20年3月19日の1万6,500円台から21年2月の3万700円までは日経平均は86%上昇した。これは仮称「コロナ相場」の青春期と壮年期を二幕いっぺんに演じたのであろうと当メルマガでは述べた)。そうすれば、9月の3万700円をもってコロナ相場の老年期相場が終焉の幕引きをしても良い。

ただし、その幕引きは鮮明ではなかった。そのまま岸田政権相場につながった。

この辺のメリハリが今ひとつなかったことが、3万円寸前まで来て高値圏の保合相場を呈しているひとつの原因でもあり、大きな原因は、岸田政権の経済政策が断定的に明確ではないことだ。

ひとことで言えば、政策待ちというところであろう。

Next: 岸田政権の基本的な価値観は、分配よりも「成長」にある



岸田政権の価値観の基本は「成長」にある

どんな経済政策にも価値観が伴う。価値観が伴わない経済政策はない。岸田政権の分配と成長との好循環は成長に重点がある。岸田政権の価値観の基本は、格差問題解消ではない。成長にある。

これが宏池会の伝統的な経済重視である。経済政策への後押しのために分配政策が必要だという文脈である。

分配という価値観だけに絞れば、与野党とも今回の選挙ほど分配々々を連呼した選挙もなかった。その結果、国債を発行して国民にお金を配ることまでが分配であるかのような認識が広まったと思う。

本来、分配比率というものは経済成長への「貢献度合い」に応じて行われるものであり、立場上の強弱や政治的な要素も強く反映されることは事実である。この「貢献原則に基づいた分配」を「家計の必要原則に基づいた分配」にするということは「再分配」となる。

経済成長が実現し、そこへの貢献度合いに応じて分配されるならば、これは文字通りの「成長と分配との好循環」であるが、その貢献原則に基づいた分配を政府が介入するのは「再分配」ということになる。

岸田政権が掲げる賃上げ優遇税制は、賃金に直接働きかける分配政策である。安倍政権初期の時代に、政府は経団連等に賃上げを「お願い」していた「官製春闘」もこの類に属するであろう。野党が主張している減税や現金給付での国民の可処分所得を増やすことは分配ではなく、再分配となる。いかなる政策も価値観なくしては成立しない。

先富論的な新自由主義から「分配の自由主義」への転換は正論

毛沢東死亡後、鄧小平は「先に富める者から富んで行け、そうすればその余滴が国民全体に広がるはずだ」という意味で「先富論」を説いて回った。市場開放に移れば格差が生じることを先読みして「先富論」を説いて歩いた。それから半世紀近く後に、小泉竹中ラインの新自由主義による先富論が現実のものとなり、格差を拡大した。

岸田首相は明らかに「新自由主義からの転換」を標榜し、分配なくして成長なしを謳い始めた。家計が豊かになって消費が増えれば、GDPの6割を占める要素が増大するのだから間違いなくGDPは増えて経済成長する。これは理論的には間違いがない。

しかし、どうやって家計を豊かにするかが問題である。

偶然にも、習近平は1%の富裕者が全体の富の3割を占めているという格差を放置できずに「共同富裕」を言い出した。先富論ではなくて「共同富裕」としてみんなで豊かになろうという謳い文句ではあるが、これも突き詰めて考えれば、分配の問題に行きつく。

Next: 「分配なければ成長なし」の財源には消費増税で賄えばよい



「分配なければ成長なし」の財源に消費増税を

ひとつの方法は、企業の利益を大きくさせることであるが、企業の99%以上は中小企業であり、GDPの70%が中小企業である。よって中小企業の生産性を上げる対策が重要となる。これの具体策を考えることが1つであろう。

もう1つの観点は、大企業が数百兆円の利益剰余金を内部に溜め込んだままで、設備投資にも配当金にも従業員給与にも使っていないという状態を放置しないことだ。この状態をどうするかという問題である。手っ取り早いのは利益剰余金に課税する、または従業員に分配した企業は法人税を減税するということであろう。

分配の財源をどうするか。1つの案は、これは消費増税である。

IMFは日本に対して15%の消費税が望ましいと「おせっかい」を焼いている。15%は、諸外国から見て当たり前の相場であろうと筆者は思う。10%というのは大体、安すぎる。安倍政権時代の2度の消費増税(5%→8%/8%→10%)を行い、その2度とも、GDPの4半期統計はマイナスになった。

つまり、景気は「いったん足踏み状態」を2度起こした。それを恐れていては「改革」はできない。改革の1つは消費増税であろうと思う。

本論の趣旨とは違うが、結果的には同じことを京都大学大学院の諸富徹教授が述べている(ダイヤモンド・オンライン「『消費増税20%で所得を増やせ』京大教授が寝た子を起こす増税論を唱える理由」)。

「成長」に必要なのは中小企業に資する政策

成長のために必要なのは、徹底的な規制改革だろう。

中小企業の生産性を上げるための規制改革が必要で、企業間の健全な競争を促すことも必要だろう。日本では、中小企業は企業数では99%以上を占めるし、GDPで70%を占める。中小企業に資する政策を採らねば、全体のパイは増えない。

資源の移動が生産性の低いところから高いところへ移動することが望ましいことと同様に、人的資源も同じである。したがって、雇用制度を柔軟にして労働市場の流動性を高めることが必要であろう。

宏池会の2代目の大平元首相は、いくつもの研究会を作って構造改革・規制改革を志した。環太平洋連帯構想とか田園都市構想とか文化立国構想などがそれであり、諮問機関をいくつか設置した。宏池会初代内閣の池田内閣の時に第1次臨調、3代目の鈴木内閣の時に第2次臨調が設置され、土光敏夫氏が座長となって2001年の中央省庁再編が実現した。それから20年が過ぎた。

ここで宏池会5代目首相の岸田首相は、かつての鈴木内閣の81年の土光臨調の次を受けて第3次臨調を設立したらどうだろう。竹中平蔵氏のように「政策を売り歩く商売人の学者(これは筆者の言葉であるが)」も少なからずいる。

そういう人たちの頭脳を、資源の1つとして使いこなすことが必要であろう。

Next: 未来の「リクルート」「ソフトバンク」が生まれる規制緩和が必要



未来の「リクルート」「ソフトバンク」が生まれる規制緩和が必要

江副浩正氏は、リクルートホールディングスをつくった起業の天才のひとりであると筆者は思っている。工場もなしで、8兆円の企業をつくり上げた起業家のルーツである。リクルートコスモス事件で挫折したが、その志と、その遺伝子は8兆円の企業グループとなって成長した。

その後に、孫正義氏が出て巨大な企業を作った。江副浩正とか孫正義、製造業で言えば日本電産の永守重信氏、京セラの稲盛氏などの起業家も、昭和から平成にかけて出てきた。

彼らに対して規制を解除し、仕事をやりやすくし、リクルート事件の時は想像もできなかったような8兆円企業をつくった男が日本にいたのだ。

つまり、トヨタ・日立のような大企業にこれ以上の成長を求めるよりも、GDPの70%を占め、会社数では99%以上を占める中小企業の中に埋もれている種子を育てる方が、日本の経済を活性化するのではないかと思う。

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<山崎和邦の投機の流儀 vol.489 11/22号>

■ 第1部:当面の市況
(1)週明けは小安く始まろうが、下値は浅い。
(2)「日経平均、なぜ3万円を嫌う」か?
(3)業界代表銘柄の大型株の動きは、一日で消えてしまった。
(4)相場の急変に対する警戒感が2ヶ月半ぶりに和らいでいる。
(5)当面の市況および中長期の見方:日米、自社株による株高の違い 
(6)「新しい資本主義実現会議」が11月上旬に設置
(7)ただのキャッシュリッチだけでは評価されない。
(8)前項目の続きとして、株主還元のための自社株買いについて
(9)前項目の続きの続き
(10)FRBの金融政策

■ 第2部:中長期の見方
(1)政府は19日に経済対策を閣議決定したが、経済成長を押し上げる政策には新規案件は乏しい。
(2)中長期の見方:輸出好調だが、貿易収支不調
(3)株価だけではない。GDP動向そのものに、日本の出遅れが目立つ。
(4)インフレ懸念はあるか──過度な楽観も、過度な悲観も避けたい。
(5)当面の市況と中長期の見方:インフレを過度に恐れる必要はないと思う
(6)11ヶ月流入超となった投資信託
(7)COP26は、結果的には失敗に近い形で閉幕→エネルギー中期計画推進は消極化の恐れ
(8)COP26の行方と原発問題と東京電力

■ 第3部;岸田政権と株価動向
(1)どんな経済政策にも価値観が伴う。価値観が伴わない経済政策はない。
(2)確かに「分配なければ成長なし」であるが、その分配するためにはどうするか。
(3)「新資本主義」「成長と分配の好循環」というキャッチフレーズに対して、具体的な政策実現の道は何か。
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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2021年11月21日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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