安倍政権が掲げた「一億総活躍」「働き方改革」などを推進する内閣官房の4分室が、衆院選後にひっそりと廃止されました。その成果は総括されず、メディアも結果や進捗を報道していません。ずいぶんと無駄に税金が使われてしまいました。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年11月22日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
安倍政権の看板政策「一億総活躍」「働き方改革」はどこへ行った?
「一億総活躍」「働き方改革」……安倍政権の看板政策を推進した内閣官房の4分室が、衆院選後にひっそりと廃止されました。
キャッチフレーズがやたら多かった安倍政権。内閣改造の度に、新しい看板政策が登場しました。ふと気がつけば、「そう言えばあれはどうなった?」と思わせるものばかりです。
内閣府に独立した推進室を作り、わざわざ担当大臣まで置いたにもかかわらず、その実情なり進捗状況が、まったくわからないでいるものばかりでした。
最後は「ゴミ溜め」のように、内閣官房室にひとまとめにされ、組織図の上では、官房副長官の下に「分室」のように位置づけられてしまうのが、今までの「通例」です。
「IT推進」という看板も、内閣官房室に“溶け込んで”いますね。
廃止された安倍「キャッチフレーズ」推進室
そして、衆議院選挙が終わり、とうとうその存在が消滅されたものが出てきました。以下、4つの分室が廃止となっています。
・一億総活躍推進室
・働き方改革実現推進室
・人生百年時代構想推進室
・統計改革推進室
皆さんは、これらが消滅したのをご存知でしたか?テレビなどでは一切、扱われることのない話題ですからね…。
妙に耳に残っている、繰り返されたキャッチフレーズは、まさに安倍政権での「やってる感」演出。
さすがに「女性活躍」は残っていますね。「少子化対策」も看板には掲げていますが、今まで何をやってきたところなのでしょうね…。
でもね、これらにも多額の税金が使われていたのですよ。
あの仰々しい立派な木製の表札も、私たちの税金で作られたのです。いつも思うのですが、あの書体、なかなか格好良いですよね…。
「すでに基本的な方針を策定して期間が経過し、各府省で具体的な施策を実施している」……松野博一官房長官は12日の記者会見で、4つの分室を廃止した理由を淡々と説明したと報られています。
政策の転換ではない……んー、実際はどうなのでしょう。
Next: 「一億総活躍推進室」「働き方改革実現推進室」は何を残したのか?
GDPは増えなかった「一億総活躍推進室」
「一億」の意味は“あらゆる人”、それは元気なお年寄り、退職してもなお働く意欲がある人、専業主婦などなど、とにかく今働いていない人たちを指すとしていました。
「一億総活躍」を安倍総理(当時)が唱えたときに、当メルマガでも、政策検証記事を書いています。
この「一億総活躍社会」を女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、誰もが活躍できる社会……と定義していました。そう言えば安倍総理(当時)は、しきりに「再チャレンジ社会」という表現を使っていましたね。
要は、日本人全員で働いて、日本のGDPを押し上げようというものでした。
人口減少の日本において、どうしても労働者の数を増やさないといけないということから出た政策で、そのためには女性にも高齢者にも、障害者の人にも働いてもらおうというのが、「一億総活躍」の意味なのですね。
もうひとつ、1億人全員で、社会保険料を支払って制度を支えようというものだと理解しています。年金保険料を支払う絶対数を増やそうという狙いもあったようですね。
2016年に「ニッポン一億総活躍プラン」を安倍総理(当時)が策定、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の推進や非正規雇用の待遇改善をうたったものでした。
「一億総活躍国民会議」なるものがありました。担当大臣・首相を含む閣僚13人と有識者15人から構成されたものでした。
果たして、1億人が社会に出ていって、その後、日本のGDPは押し上げることができたのでしょうか…。
「働き方改革実現推進室」 の成果はあったか?
一億総活躍プランの働き方改革を担当した分室「働き方改革実現推進室」も廃止されました。以下などを施策を行うとされていました。
<同一労働・同一賃金の実現>
非正規雇用の待遇改善を図るためにガイドラインの策定等を通じ、不合理な待遇差として是正すべきものを明示。また、その是正が円滑に行われるよう、労働関連法の一括改正。
<長時間労働の是正>
仕事と子育ての両立、いわば、女性のキャリア形成を阻む原因である長時間労働を是正するために、法規制の執行を強化するとともに、労働基準法については、36(サブロク)協定の在り方について再検討を開始。
<高齢者の就労促進>
65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業等に対する支援等の実施。
2018年の「働き方改革法案」では、「高度プロフェッショナル制度」というのも話題になりましたね。「ご飯論法」でおなじみの法政大学の上西充子教授(労働問題)は「働く人を守る労働法の枠外での働き方を広げ、過労死ラインを越える長時間労働につながりかねない」と問題提議をしていました。
Next: 安倍政権は何を残した?成果ゼロで「やってる感」を演出した推進室
やっている感だけ演出した「人生百年時代構想推進室」「統計改革推進室」
<人生百年時代構想推進室>
同じく廃止された「人生百年時代構想推進室」は、幼児教育無償化に加え、働く人向けの教育訓練の充実や高齢者雇用の促進を掲げていました。
首相官邸のホームページには、「一億総活躍社会実現、その本丸は人づくり。子供たちの誰もが経済事情にかかわらず夢に向かって頑張ることができる社会。いくつになっても学び直しができ、新しいことにチャレンジできる社会。人生100年時代を見据えた経済社会の在り方を構想していきます」と書かれています。
ただし、ホームページには「最終更新日:令和元年5月30日」という日付記載とともに「このページは、過去の特集ページを保存しているもの)であり、掲載情報は、更新されておりませんので、ご注意ください」と赤字で注意書きがされています。まさに「廃墟」と化しています。
※参考:人生100年時代構想 – 首相官邸ホームページ
<統計改革推進室>
最後に「統計改革推進室」です。2018年に発覚した統計不正問題を受け、各府省で統計を点検する「分析的審査担当」を約30人配置していたもののようです。
ただ配置しただけで、効果の検証や改善策について何ら説明もなかったようで、多くの統計で失われた信用は回復できていないのが現状です。
そもそも改ざん、隠蔽、破棄(シュレッダーは笑えましたね)など、政権への不信感と信用をなくしたのが、相次ぐ「統計の嘘」の露呈でしたね。
で、この推進室は何をしてきたのでしょう。審査の結果は公表されているのでしょうか。分析的審査により改善された成果は発表されているのでしょうか。
というよりも、もう役割は終えたと言えるのでしょうか…。
以上、次から次へと「やってる感」のオンパレードでした。それがいろいろ追求される前に、人知れず、こっそりとその痕跡をかき消されていったのです。
これは岸田政権の「反安倍姿勢」と言えるのでしょうか。それとも、「安倍援護」になるのでしょうか。
森友・加計・桜問題も「手仕舞い」とされるようですからね…。
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