習近平は終身国家主席の座を揺るぎないものにするため、レガシーとして「北京五輪」「台湾の統合」を是が非でも成し遂げようとしてます。しかしここに来て、人権問題をめぐって北京五輪のボイコットを表明する国が続々と出現。日本も決断を迫られる時期に来ています。(『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』澤田聖陽)
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投資に勝つにはまず第一に情報分析。「投資に勝つ」という視点から日常のニュースをどのように読むべきかを、この記事の著者で、元証券会社社長で現在も投資の現場の最前線にいる澤田聖陽氏が解説します。視聴方法はこちらから。
「1つの中国」崩壊へ
米国の超党派の議員団が11月9日と25日に2度台湾を訪問し、いずれも台湾の蔡英文統と会談しました。またバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の議員団も11月28日に台湾を訪問し、同じく蔡英文総統と会談しています。
これに対して、中国は強く反発し、非難する声明を出しています。
ご存じのように中国は、「1つの中国」という原則のもと、台湾を中国の一部であると主張してきました。
中国からすると、米国やバルト3国の議員団が行った行為は、「1つの中国」を否定し、分裂を煽る行為というわけです。
台湾との外交を許さぬ習近平
米国は、1972年に当時のニクソン大統領が中国を訪問し、国交を樹立しました。
その際に中華人民共和国政府を中国唯一の合法的な政府と認め、、台湾は中国の領土の一部とする「1つの中国」の原則のもと、台湾(正確に言いますと同時の「中華民国」)とは断交しました。
これに追随し、他の国も中華人民共和国を中国だとして国交を結び、台湾とは断交しました(日本も、田中角栄政権の時に中華人民共和国と国交を樹立し、台湾と断交しています)。
よって中国側の主張としては、台湾と外国的な交流を行うことは信義に反するというわけです。
この主張には、一定の説得力はあるような感じはします。
米国は上記のような経緯があるため、断交後も台湾と関係を続けつつ、台湾の位置づけに対しては「戦略的曖昧さ」と言われる、あえて明確にしないという立場をとってきました。
要するに、「1つの中国」という中国政府の意向は重視するけど、台湾は台湾であって、中国が台湾を併合することは望んでいないという立場をとってきたわけです。
中国も胡錦涛主席時代までは、韜光養晦(とうこうようかい)と言われる、あえて国際社会と衝突してまでも台湾の併合を望まない(少なくともその野心を表に出さない)という立場であったため、米国の「戦略的曖昧さ」は上手く機能していました。
しかし中国が経済力、影響力を増し、習近平主体制になって台湾併合に対する野心をむき出しにするにつれて、米国の「戦略的曖昧さ」が上手く機能しなくなってきています。
Next: 終身国家主席の座に必要?習近平が固執する北京五輪と台湾統合
習近平が固執する「北京五輪」と「台湾の統合」
中国の国家主席はもともと2期(10年)までという決まりでしたが、習近平体制になってその決まりを撤廃しました。
ただし、2022年以降も国家主席を続け、終身国家主席の座を揺るぎないものにするには、習近平主席は何らかのレガシー(歴史に残る実績)が必要と考えているようです。
習近平主席が考えているレガシーの1つが「北京オリンピック」で、もう1つが「台湾の統合」であると言われています。
中国共産党の内部分裂で経済悪化
中国共産党は実は内部は一枚岩ではなく、中国共産党内にも派閥が存在します。
習近平主席と一番反目しているのは「上海閥」と言われる前々任の国家首席であった江沢民氏を中心とするグループです。
上海閥は民間企業との結びつきが強く、アリババのジャック・マー氏も上海閥とのつながりが強いと言われています。不動産大手でその動向が注目されている中国恒大集団も、上海閥に近い企業だと目されています。
逆に習近平氏は、国有企業の多くを牛耳っている立場です。
共産党の本来の思想は、国家の管理による計画経済ですが、鄧小平氏以降の中国は「政治は共産主義、経済は資本主義」という改革開放路線を進めてきました。
その方針が習近平体制になって、徐々に共産党のもともとの考えである計画経済に修正されつつあるのではないかと感じます。
大手IT企業などの民間企業への締め付けが強化されていますが、その多くが上海閥などに近い企業と言われています。
習近平主席は自身と近くない民間企業の力を削いで、国有企業や自分と近い民間企業に併合させていくことで、反目する派閥の力を削ぎ、自身の権力基盤をより強力にしようと考えているように見えます。
もちろん、このような動きには副作用が発生し、中国経済の悪化を招きます。
個人的には習近平体制のこのような動きは、重度の副作用を招き、チャイナバブルの崩壊を招くと思っています。
ところが習近平主席は、コントロールできる範囲で収められると自信を持っているようです。この甘い見通しが、世界経済への重大な影響を及ぼさないか心配です。
しかし、現在の中国の体制では、行き着くところまで行かないと状況が変わることはないでしょう。
Next: 止まらぬ北京五輪「外交的ボイコット」の連鎖、日本はどうする?
止まらぬ北京五輪「外交的ボイコット」の連鎖
もう1つの習近平主席が考えているレガシーである「北京オリンピック」ですが、こちらはボイコットの動きが出てきています。
米国・英国・オーストラリアが外交的ボイコットの可能性を示唆していますし、カナダに至っては全面ボイコットまで検討しているようです。
直近での出来事で、中国の有名テニス選手であるポン・シュアイ氏がSNS上で張高麗元副首相からの性被害を暴露したことで、その後、消息不明になっていることも、各国の中国が人権を軽視する国だからボイコットするという流れを加速しています。
北京オリンピック(2022年2月4日~20日)まで2か月強となっていますが、複数の民主主義陣営の国が、少なくとも外交的ボイコットを行う可能性が高くなっているという状況です。
おそらく米国・英国・オーストラリア・カナダは、少なくとも外交的ボイコットを行うことはほぼ間違いないないのではないかと思います。場合によっては、全面ボイコットになる可能性まで否定できない状況です。
日本はどうする?
焦点になるのは、EUと日本の動きです。
欧州議会は、すでに中国が人権問題を改善する姿勢を示さなければ、政府代表や外交官が招待に応じないように欧州連合(EU)の機関や加盟国に求める決議を採択しています。
EUは最も人権に厳しい地域なので、今のままの中国政府の対応では、今後ボイコット論が高まってくる可能性が高いと考えます。
最後に日本はどうするのか?
日本も米国の同盟国であり、米国からの圧力もあるかと思いますが、今のところは外交的姿勢を明確にしていません。
日本は地理的にも中国に近く、経済的な結びつきもかなり強いので、経済的影響を考えて単純にボイコットしにくいということは理解できますが、逆に中国を利する行動を取れば、米国をはじめとする国を敵に回すことになります。
「前門の虎、後門の狼」といった状況でしょうか。
個人的な見方としては、米国が外交的ボイコットを行った場合、結局は日本もそれに追随せざるを得ないと考えていますが、日本政府としては重大な決断を迫られる局面を迎えており、ここでのかじ取りを間違えると発足したばかりの岸田政権にとっては命取りになりかねないと考えます。
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『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』(2021年11月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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