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「ウクライナ侵攻」あってもなくても株価暴落?リークされたバイデンの切り札“4つの経済制裁“でさらなる資源高騰へ=高島康司

欧米とロシアはウクライナをめぐり睨み合ったままであるが、ロシアへの経済制裁の内容の一部がリークされた。それを見るとバイデン政権は、欧州へのガス供給を独占するロシアからの報復制裁を恐れ、標的を絞った精密な制裁を検討しているようだ。こうした経済制裁は、発動されなくても、発表されただけで市場に大きな混乱を引き起こす可能性がある。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)

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対ロシア制裁が引き起こす経済危機の危険性

対ロシア制裁が経済危機の引き金となる可能性について解説したい。そのような可能性が大きいならば、我々も備えなければならないだろう。

15日、ロシア国防省は、ロシア軍がウクライナに近いベラルーシで行っていた訓練を終了し、今後は通常の配置に戻ることを発表した。

同省の首席報道官であるイーゴリ・コナシェンコフ少将は、軍の責任者たちが公開したビデオの中でこのニュースを伝えた。ロシア軍はベラルーシとの共同訓練「ユニオン・リゾルブ」を、2月20日までの予定で実施している。撤収した部隊は元いた基地に帰還する。

これは緊張緩和を示唆する動きかもしれないが、米バイデン政権はそのようには見ていない。

15日、バイデン米大統領は、ホワイトハウスで演説し、ロシアのウクライナ侵攻はなお起こり得るとし、一部部隊をウクライナ国境近辺から撤収したとするロシアの主張についてはアメリカはまだ確認していないと述べた。バイデン大統領はロシア軍の多くの部隊が依然としてウクライナを脅かす態勢にあると指摘している。

そうしたなか、ウクライナのゼレンスキー大統領の発言が注目されている。ゼレンスキー大統領はバイデン政権が戦争のパニックを煽っているとして非難していたが、今回は一転して16日にもロシア軍の侵攻があるとした。

だが、ゼレンスキー大統領の首席補佐官の顧問を務めるミハイロ・ポドリャクは、その後のテキストメッセージで、大統領の発言は皮肉として受け止められるべきだと説明。侵攻が行われ得る日として言及されている「具体的な日程」について、ウクライナとしては依然として懐疑的だと述べた。

同国政府当局者は、ロシアによる大規模な攻撃のリスクは低いとの見方を繰り返している。

このように、ロシア軍のウクライナ侵攻の可能性が完全には消えないまま、外交交渉が続いている。

次第に明らかになる落としどころ

こうした状況で、ウクライナ問題の落としどころが次第に見えてもきている。

日本ではまったく報道されていないようだが、シンクタンク系の分析記事などを見ると、いまロシア、ドイツ、フランス、アメリカ、イギリスなどの関係国では、水面下で次の3点が検討されている。

Next: 現実的な落とし所は?水面下で交渉が続く3つの事柄



<1. ミンスク合意の順守>

2015年にロシアとウクライナは、ドイツとフランスの仲介で「ミンスク合意」を締結した。東部ウクライナの分離・独立を要求している親ロ派へ大幅な自治権の付与し、ウクライナ政府と親ロ派は完全に停戦するという内容だった。この合意は順守されてこなかった。ロシアはこの完全な履行を求めている。ドイツとフランスも基本線は了承。

<2. 極超音速ミサイルをポーランドとルーマニアに配備しない>

極超音速ミサイルの開発ではロシアと中国が先行しているが、アメリカの「レイセオン社」が開発に成功。ロシアはこのポーランドとルーマニアへの配備を警戒している。ロシアは配備しないように要求。バイデン政権は水面下で交渉に応じている模様。

<3. ウクライナがNATOには加盟しないことの確約>

ウクライナはロシアの喉元にある。ウクライナがNATOに加盟し、ここにNATO軍が駐留することになると、これはロシアにとっての安全保障上の脅威となる。ロシアはウクライナがNATOに加盟しないことの確約を求めいる。

この3つだが、(1)と(2)に関しては、なんらかの妥協点が見いだせそうな状況だ。15日に行われたウクライナのゼレンスキー大統領とドイツのショルツ首相との会談で、ゼレンスキー大統領は、東部親ロ派に特別な地位を与えるための憲法改正を提案する用意があるとした。これは、「ミンスク合意」のひとつである東部親ロ派への大幅な自治権認定という合意事項の実行に向けた一歩となる。また(2)についてもバイデン政権は、交渉の余地があることを認めている。

しかし、もっとも困難なのは(3)である。ウクライナのNATO加盟は同国の国家目標でもあり、NATOも強力にこれを後押ししている。簡単には妥協できない。

しかし、ウクライナとNATOの双方に少し違った雰囲気も出てきた。イギリスのBBC放送の番組に出演したウクライナの駐英大使は、ロシア軍の脅しに疲れ、ウクライナ政府にも、またNATOにもウクライナのNATO加盟断念を主張する声があることを紹介した。

この声がどのくらい強いのか分からないが、アメリカの威信を傷つけない方法であれば、実現可能かもしれないとしている。

簡単には経済制裁を発動できぬ欧米の苦悩

このように、ロシアと関係国の間で妥協が成立し、緊張が一気に緩和する可能性はある。しかし、今回の問題を契機にロシアを徹底して抑えたいバイデン政権は、いまも緊張を煽っており、ロシア軍のウクライナ侵攻がなかったとしても、経済制裁を発動する可能性がある。

では、それはどのような経済制裁になるのだろうか?

ヨーロッパでは約60%の天然ガスの供給がロシアに依存している。以下がロシア産天然ガスへの依存度の高い国々である。

・北マケドニア:100%
・フィンランド:94%
・ブルガリア:77%
・スロバキア:70%
・ドイツ:49%
・イタリア:46%
・ポーランド:40%
・フランス:24%

もし欧米がロシアに経済制裁し、その報復にロシアが天然ガスのNATO諸国への供給を停止すると、大変なことになるのは目に見えている。天然ガス価格は5倍にも跳ね上がるという想定すらある。

ロシアからの輸出に代わる代替品がないため、ヨーロッパでは天然ガスが大幅に不足し、天然ガス価格の上昇に伴い、ヨーロッパ全域で大きな社会的・経済的不安が生じることになる。イギリスを始め、かねてからインフレに見舞われているヨーロッパ諸国の経済は破綻の危機に追い込まれる。むろん、その前にあらゆる市場の大幅な下落があるだろう。

Next: ロシアの反撃を最小限に抑えながら実施される「4つの経済制裁」



ロシアの反撃を最小限に抑えながら実施される欧米の経済制裁

こうした懸念があるので、ロシアへの経済制裁は、ロシアからの想定される報復のリスクをできるだけ抑えるようなものでなくてはならない。つまり、圧力を最大にしながらロシアの反撃を最小限に抑えて、中長期的にはロシア経済に大きな痛手を与えるという内容である。

これは欧米諸国にとってはジレンマであり、外科手術のような精密さを要求する。いまのところ、この制裁の内容は発表されていないが、CIA系のシンクタンク、「ストラトフォー(いまはRAINEに名称変更)」などが入手したリーク情報や分析から、その内容が見えてくる。

まとめると次のようになる。

<1. ロシアの金融部門に対する制裁を拡大>

アメリカ、イギリス、EUは、より多くのロシアの金融機関をブラックリストに登録し、ロシアがルーブルを米ドル、ユーロ、英ポンドなどの通貨に交換する能力を制限するような規制を課す。いま米議会で提案されているある法案は、ロシアの家計、年金基金、労働者にとって必要不可欠な「VTB」や「スベルバンク」などのロシアの3大銀行を制裁する。

<2. ロシアのエネルギー部門を制裁>

アメリカとEUは、ロシアの新規石油・ガスプロジェクト、特に欧米企業が参加している技術的に困難なプロジェクトへの融資、技術移転、その他の関連活動を制限する。ロシアの新しいパイプライン・プロジェクトと、将来の潜在的なパイプライン・プロジェクトに対して広範な制裁を課すこともできる。

<3. ロシアへのハイテク製品輸出を広範に規制>

ロシアは経済規模が大きいにもかかわらず、ハイエンドの電子機器、バイオテクノロジー、半導体、グリーンテクノロジーなど、今後数十年で戦略的に重要になる製品を生産・開発する広範なハイテク部門が存在しない。

外国製チップへのアクセスを制限する制裁措置は、ロシアの軍事・政府機関向けに最も普及している2つのプロセッサ、「エルブルース」と「バイカル」にも影響を与える。

<4. ロシア政府の要人や「オリガルヒ」への制裁>

クレムリンに近いと見られているロシアのオリガルヒ、プーチン大統領をはじめとするロシアの主要幹部に対する制裁。

2014年のロシアによるクリミア併合への対応の一環として、ロシアの財閥、「オリガルヒ」への制裁が実施されている。しかしすでに、「オリガルヒ」の多くがすでに何らかの形で標的になっているため、制裁には制約がある。

また、主要な「オリガルヒ」に対する制裁は、世界経済全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。アルミニウム大手を率いる、オレグ・デリパスカとルサルを標的とした米財務省の制裁により、2018年にアルミニウム価格が20%急騰した。その結果、その後1年も経たないうちにアメリカは最終的に同社への制裁を緩和する合意に達したが、それまでアルミニウム価格は上昇したままだった。

Next: ロシアへの経済制裁が引き起こす世界経済の大混乱



経済制裁が引き起こす相場の乱高下

これが、いまリークされたロシアに対する経済制裁の中身である。これはリークされただけで、もちろん発表されてはいない。また、こうした制裁が実施される前に、ウクライナの緊張緩和が大幅に進み、経済制裁の必要性がなくなるかもしれない。

しかしこうした経済制裁は、発動されなくても、発表されただけで市場に大きな混乱を引き起こす可能性がある。いまインフレが世界的に拡大している。アメリカの7.5%、イギリスの5.5%など40年、30年ぶりの高いインフレが続いている。その大きな原因のひとつは、エネルギー価格の高騰だ。原油は1バーレル、100ドルの王台を突破しようとしている。

そのような状況でこの制裁内容が発表されるとしたら、ロシアの報復制裁発動の懸念から、原油と天然ガスの価格は急騰することだろう。インフレ下の経済でこれが起こると、主要国の経済の先行き不安から株価はさらに暴落するかもしれない。

おそらくタイムラインとしては、北京オリンピックが終了し、ベラルーシでロシアが実施している合同軍事演習、「ユニオン・リゾルブ」が終わる2月20日がポイントになる。

この演習の終了でベラルーシからロシア軍の部隊が撤収するとウクライナ情勢では大幅な緊張緩和になるが、そうではない場合、緊張は継続することになる。するとすでにパニックになっているバイデン政権は、おもむろに上記の経済制裁の内容を発表するかもしれない。それが市場変動の引き金になる可能性はあるだろう。

注目しておかなければならない。

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