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業績不振「無印良品」は中国と一緒に沈むのか?株価下落に3つの要因、長期投資家が注目する“2030年計画”も=栫井駿介

無印良品を展開する良品計画<7453>の第2四半期決算で厳しい結果が出ました。これを受けて株価下落も歯止めがきかない状態です。このまま成長は止まってしまうのでしょうか?業績不振に陥った原因と、長期投資家が見るべきポイントを解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

良品計画に見る長期投資の本質

春は気温が上がり、新しい出会いなど自然と気分が上がる季節です。何かとワクワク、希望を持って新たな目標を立てた方は私だけでは無いはずです。

そんなふわふわした気分の中、苦しい状況にある企業があります。無印良品を展開する良品計画です。4月14日、良品計画が第2四半期決算を発表しました。

<22年上期実績>

<22年下期・通期 下方修正>

上期実績は厳しいものになりました。営業利益は前期比約20%、純利益は前期比約28%の減益。さらに通期での見通しも営業利益は約15%、純利益は約6%の下方修正となりました。

これを受けて株価下落も歯止めがきかない状態です。

良品計画<7453> 日足(SBI証券提供)

半年前に約2,500円をつけた後にズルズルと下げ続け、現在は1,200円前後。投資家の皆様も胃が痛い状態だと思います。

しかし良品計画を分析すると投資の本質が見えてきます。長期投資の本質とは何か?私たちは何に投資しているのか?

良品計画を題材に一緒に考えて行きましょう。

Next: なぜ良品計画は苦戦している?経営を圧迫する3つの要因



良品計画が苦戦する3つの理由

なぜ良品計画は苦戦しているのでしょうか?

そもそも良品計画は、大きく分けて以下3種の商品を展開しています。

1. 衣類・雑貨
2. 生活雑貨
3. 食品

あなたはこの3種の商品のうち、どれを買う頻度が多いでしょうか?

恐らく(3)の食品という方が多いと思います。一方、(1)の衣類はどうでしょうか。

IR資料を読むと、良品計画が不振に陥った1つ目の理由は、「国内衣類・雑貨の販売不振」と、それらの在庫処分のための「値下げ」と言えそうです。

一方、海外はどうでしょうか?

まずセグメントの構成比を見てみましょう(良品計画のセグメントは商品ではなく、販売地域ごとに分かれています)。

出典:21年度8月有価証券報告書より作成

売上の約30%を東アジア事業(中国)が占めている事が分かります。

その東アジア事業(中国)の業績は以下の通りです。中国のゼロコロナ政策の影響もあり、前期比約4%の減収となっています。

業績不振に陥った理由の2つ目は、「東アジア(中国)の不振」と言えそうです。減収割合で示すと少なく感じますが、売上が他の海外事業に比べ大きくなっておりダメージは大きいものと推察されます。

Next: 業績不振の理由、3つ目は?社長が見据える2030年の無印良品とは



そして、もう1つ見逃せない点があります。下記の表の一番下の欄「人件費」が前年同期比で35億円(約13%)の増加となっています。

良品計画が不振に陥った3つ目の理由は、「人件費の増加」です。

人件費増加の主な理由は賞与の増加と前期計上したコロナ助成金の影響とのことですが、「人材育成にお金をかける」ということは今後の大きなポイントになります。

ここまでまとめると、「22年上期業績は厳しく、通期の見通しも下方修正」となりました。

その理由は、次の3つです。
1. 国内衣類・雑貨の不振と在庫処分のための値下げ
2. 東アジア(中国)の不振
3. 人件費の増加 

堂前社長が見据える2030年の無印良品

大変きびしい状況ですが、良品計画の経営者は何を見ているのでしょうか?

良品計画の代表取締役社長は、堂前宣夫さんです。マッキンゼーでキャリアをスタート、その後ファーストリテイリングへ入社し、現在は良品計画の経営改革に取り組んでいる最中です。

堂前社長の2030年までの目標は、前期21年8月期の決算資料に記載されていて、「自立した店長を育成する。自律的な組織風土をつくる」、そして「今期はまず、採用・育成を強化し、人材・組織をプロ化します」と発表しています。

先ほど、業績不振の理由の1つに人件費増加を挙げました。経営方針を見ると、思惑通りに費用を使っているとも考えられます。

さらに堂前社長は「全国津々浦々にむけて、出店加速。年純増100店舗の力を身につける。生活の基本を支える基本商品を完璧に完成する」としています。

つまり、「2030年までに全国津々浦々で私たちの生活の基本の存在となる」ことを目標にしています。具体的な策として、スーパー隣接店を展開するという案があります。

前述の無印商品が取り扱う3種の商品を見て、「食品は買ったことがあるな」と思った方は多いのではないでしょうか?

現状、衣類は不調ですが、食品は好調です。2030年にはスーパーの隣に無印良品が出店し、日々のおかずに無印のカレーが並ぶかもしれません(私も食べましたが、マトンのカレーが美味しかったです)。

店舗拡大に必要なのは「人材育成」

ただし、小売業では店舗拡大をする際に必ず必要なものがあります。それは「店長」です。

直近の決算では、厳しい状況であることは確かです。さらに店舗拡大と人材育成を同時に行うことは困難を極めます。

それでは、無印良品はこのまま終わってしまうのでしょうか?

無印良品の最大の強みは「ムジラー」とも呼ばれる根強いファンです。アンチブランドというブランドを愛する人たちが全国へ広がる……そんな世界を見ている事業計画だと思います。

Next: 良品計画は「買い」?長期投資家はどう判断すべきか



企業の「成長と価値」に投資できるか

再度まとめます。「22年上期業績は厳しく、通期の見通しも下方修正」となりました。

理由は次の3つです。
1. 国内衣類・雑貨の不振と在庫処分のための値下げ
2. 東アジア(中国)の不振
3. 人件費の増加

一方、2030年までに以下を成し遂げると言っています。
・店舗拡大し全国の生活の基本を支える
・店舗拡大へ向けて人材育成をする

改めて、長期的な業績と株価の推移を見てみましょう。

良品計画<7453> 月足(SBI証券提供)

過去10年間、売上は綺麗な右肩上がり(20年8月は半期決算)ですが利益がついて来ず、株価も下落中です。PERは22年4月19日現在で11.8倍となっています。

私たち、つばめ投資顧問が掲げる長期投資は目先のトレンドや株価ではなく、企業の成長と価値を見て投資判断します。

あなたにとっての企業の価値はいったい何でしょうか。企業の何に賭けていますか?どんなストーリーを想定しているのでしょうか?そこを考えることが、長期投資の難しさであり、楽しさだと思います。

最後に良品計画が掲げる2030年までの数値目標を見てみましょう。

今期に下方修正した売上高予測は4,700億円、営業利益は380億円となっています。

良品計画が掲げる2030年の目標と長期投資の相性はどうでしょうか?このあたりは投資家によって見方が分かれるところであり、皆さん自身で考えて納得して判断していただきたいと思っています。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Heng Limr / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2022年04月19日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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