米国による制裁で「消えた」ファーウェイのスマホですが、ここに来て復活の兆しが見られます。独自のOS「ハーモニー」を作り上げ、同社はウェイボー公式アカウントでは「供給は大幅に改善されました。今年はファーウェイのスマホが帰ってきます」という宣言を行いました。ハーモニーOSとはどのようなもので、どこまで普及する可能性のあるものなのでしょうか。今回は、ハーモニーOSとファーウェイの巻き返しについてご紹介します。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年5月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
ファーウェイスマホに復活の兆し
今回は「ファーウェイ」スマホの復活についてご紹介します。
2021年は、ファーウェイのスマホ事業にとって散々な年となりました。散々というより「消えた」といった方が正確かもしれません。米政府による制裁で、米国企業がファーウェイに特定技術を輸出することを制限したため、Androidのグーグルアプリ群だけでなく、肝心のスマホチップの生産ができなくなりました。
当面は、在庫のチップを使い製造をしていましたが、じゅうぶんではなく、生産ができずに出荷数が落ちていきます。Counterpointなどの出荷統計では、「その他」に含められてしまい、「ファーウェイ」の項目が消えてしまいました。
しかし、ファーウェイのスマホは死んでいません。すぐさまハーモニーOSを発表し、Androidに頼らないスマホ生産を始めました。米政府の制裁のねらいは、大方の予想通り5Gにあったようで、4Gのみ対応のチップであれば米クアルコムから入手でき、それで新製品を発表しています。
そして、4月27日には、ウェイボー公式アカウントで、「供給は大幅に改善されました。今年はファーウェイのスマホが帰ってきます」という宣言を行いました。
ハーモニーOSとはどのようなもので、どこまで普及する可能性のあるものなのでしょうか。
今回は、ハーモニーOSとファーウェイの巻き返しについてご紹介します。
「消えた」ファーウェイのスマホ事業
2021年、最もひどい目に遭った中国テック企業と言えば、ライドシェアの滴滴(ディディ)です。当メルマガの2021年11月配信号「vol.098:なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム」でご紹介したように、アプリの配信停止処分を受け、事実上の営業停止となり、大きな打撃を受けました。特に深刻だった2021年第3四半期には、306億元(約6,040億円)の巨額赤字を出し、企業価値は2,800億元(約5.5兆円)も縮小しました。
もうひとつ大きな打撃を受けた企業があります。ファーウェイのスマホ事業です。ファーウェイはスマートフォンだけの会社ではないので、あまり目立ちませんが、スマホ事業は「消えた」と言ってもいいほどです。
Counterpointが発表している出荷台数シェアをみるとはっきりします。中国市場では圧倒的な強さを誇っていました。1強+Nと呼ばれるほどでした。それが2020年になって急落をし、2021年Q2を最後にグラフから消えます。Counterpointのシェアの数値は、上位数社を記載し、数字が小さい場合は「その他」にまとめられてしまいます。つまり、ファーウェイはその他大勢になってしまったのです。
※参考:China Smartphone Market Share: By Quarter: Counterpoint Research(2022年2月15日配信)
同じく世界市場でも、ファーウェイは強いサムスンを追撃するポジションにいましたが、2020年になって急落をします。そして、2021年Q1を最後にグラフから消えます。
このような事態になったのは、米政府の規制というより排除・制裁の影響です。グーグルがGooglePlay、GoogleMap、YouTube、Gmailなどのグーグルアプリ群=GMS(Google Mobile Services)の提供を停止し、それだけでなく、肝心要のチップの供給も受けられなくなり、スマホの製造そのものがほとんどできなくなってしまったのです。
多くのアナリストがファーウェイはスマホ事業を放棄するのではないかと見ました。それも当然です。チップがなければスマホの作りようがありません。
しかし、ファーウェイはあきらめず、スマホ製造を細々と続け、ハーモニーOSという独自OSを引っ提げて巻き返しを図っています。
Next: そもそも「バックドア」問題はなかった?制裁を受けた理由とその後
なぜファーウェイは制裁を受けることになったのか?
米国政府は、2019年度国防授権法に基づいて、米政府機関がファーウェイなどの製品を利用している企業との契約を禁止するという措置に出ました。ファーウェイ排除です。
その理由は、情報の安全保障の問題でした。ただし、日本で盛んに報道された「ファーウェイの機器がバックドアを通じて個人情報を収集し、中国に送っている」などと米政府は言っていません。
このような歪んだ報道に対して、ファーウェイジャパンは抗議声明を出しています。
※参考:日本経済新聞およびテレビ東京の報道に関する当社の見解(2019年1月16日配信)
このメルマガをお読みの方にとっては常識だと思いますが、スマホはそもそも個人情報を収集するデバイスです。アップルも個人情報を収集していますし、グーグルも個人情報を収集しています。スマホメーカーも個人情報を収集していますし、アプリも個人情報を集していますし、ファーウェイも当然個人情報を収集しています。しかし、それは使用前に明示的な断りがあり、多くの場合、サービスの利用改善に使われます。目的外の使用をしない限り、問題にする人はほとんどいません。
米国政府が問題にしていたのは、「ファーウェイは中国政府と密接な関係にある」という点です。
この密接な関係が何を表すのかまでは明言されていませんが、指摘をされているのは「中国インターネット安全法」の存在です。この28条は「ネットワークプロバイダは、公安機関及び国の安全機関のため法により国の安全及び犯罪捜査の活動を維持・保護し、技術サポート及び協力を提供しなければならない」となっています。
この訳はジェトロのものを引用させていただいていますが、ネットワークプロバイダーというのは「ネット運営者」のことで、ファーウェイなどテック企業のほとんどが該当をします。つまり、中国政府や関連機関が、国家安全や犯罪捜査を行うときは、テック企業はサポートして協力しなければならないというものです。
つまり、国家安全上の問題がある、日本や米国の個人が中国に対してテロを計画している疑いがあるので、ファーウェイが持っている外国人の個人情報を提出してほしいと要請をされたら、法律の文面上は、ファーウェイは個人情報を提供せざるを得ないのです。この構造が問題なのです。
日本を含めた民主的な国では、裁判所による令状が必要となり、裁判所が適法であるかどうかを判断するというプロセスがありますが、中国にはそれがなく、政府機関の思惑だけで個人情報を提出させることが可能な体制になっています。
ファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)CEOは、この問題を指摘されて、「ファーウェイは個人情報を守る。政府から渡せと言われても渡さない」と答えていましたが、やはり無理があります。それはファーウェイが中国の法律を守らないと言っているのと同じだからです。任正非CEOの意図は、万が一そんな事態が起きても、ファーウェイは抵抗するということだと思うのですが、現実には難しいのではないかと思います。
ただ、この構造が問題であるというのであれば、中国製の電子機器、アプリのすべてにあてはまります。シャオミ、OPPO、vivoすべてそうですし、TikTokも問題になります。実際、TikTokは2020年8月に運営元の字節跳動(バイトダンス)との取引を禁する大統領令が出されました。
中国が先行する5G技術を止めるのが狙い
ファーウェイの問題もTikTokの問題も、中国では「酔翁の意は酒にあらず」という故事成語が使われました。酒に酔っている翁は酒ではなく、別の目的があるのだ、真意は別のところにあるのだという意味です。
ファーウェイの場合は、5G技術が先行をしているため、これをなんとか止めたいという意図があったと中国では解釈されています。また、TikTokについては、トランプ大統領の個人的な報復ではないかとも言われました。
本当かどうかはわからない話であり、完全な余談となるため、ご興味のある方は話半分でお楽しみください。
Next: どうやって事業を継続した?ファーウェイを窮地に追い込んだ禁輸措置
ファーウェイを深刻な事態に追い込んだ禁輸措置
ファーウェイの問題は深刻です。2019年5月には米商務省産業安全保障局(BIS)がファーウェイをエンティティリストに入れました。これは取引制限リストです。
米国企業は、このリストに登録されている企業とその企業と取引のある企業に、指定された技術を輸出、移転をする時は、あらかじめBISに申請をして許可を得る必要があります。事実上の禁輸措置で、規制というよりも制裁です。
これにより、グーグルはGooglePlayやGoogleMapなどのグーグルアプリ群=GMS(Google Mobile Services)のファーウェイへの提供を停止します。
ご存じのように、中国ではグーグルのサービスへのアクセスが許されていないため、中国向けスマホでは大きな問題になりません。元々、ファーウェイは独自のアプリストアなどのHMS(Huawei Mobile Services)を搭載し、EMUI(Emotion UI)と称して販売をしていました。
しかし、海外向けスマホでは問題が生じます。GooglePlayがないのですから、アプリを入れる方法がありません。ファーウェイのアプリストアは中国製アプリが中心となるため、海外在住の中国人ならともかく、私たち日本人も使いこなせなくなります。
さらに2020年8月には規制が強化され、携帯電話のチップも製造ができなくなりました。これがファーウェイにとって最大の問題です。
ファーウェイのスマホの革新技術は、独自開発のSoC(システムオンチップ)「麒麟」(Kirin)です。この性能が素晴らしいために、ファーウェイのスマホは性能の面で他社スマホを上回り、売れていたのです。Kirinは、ファーウェイ子会社の「海思」(ハイスー、ハイシリコン)が設計を行い、台湾の積体電路(TSMC)が製造をしていました。TSMCは最大の顧客がアップルで、アップルシリコンであるM1などを製造している非常に技術力の高い半導体メーカーです。
Kirinを製造するということは、ファーウェイ関連会社と取引があるということになり、TSMCは米国製の製造装置やソフトウェアを買うことができなくなります。実際問題として、半導体の生産ができなくなりますから、TSMCはKirinの製造をやめて、ファーウェイとの関係を切る必要が出てきました。
ファーウェイはしばらくはすでに納品されたチップを使ってスマホを製造できますが、それ以降どうするのか。中国の国内企業が半導体を生産することもできません。そこも米国の製造装置などを売ってくれなくなるのですから、立ち行かなくなります。アナリストが、ファーウェイはスマホ事業を放棄することになると予想するのも当然なのです。
しかし、ファーウェイはスマホ事業を継続しました。そして3ヶ月後に、独自OS「鴻蒙」(ホンモン、ハーモニーOS)を発表するのです。
なぜ、こんな短期間で独自OSを開発することができたのでしょうか。そしてチップはどうやって手に入れるのでしょうか。このハーモニーOSで、再びファーウェイは以前の座を取り戻すことができるのでしょうか。
Android端末はどう生まれる?
AndroidというOSは、その歴史から少し複雑な仕組みになっています。元々のAndroidは、オープンソースであるLinux(リナックス)をベースに開発が進められた携帯電話用OSです。オープンソースというのはソースコードを公開して、誰でも自由に使用ができ、誰でも開発に参加ができる仕組みです。多くの人の知恵と目を借りることで開発をするため、質の高い製品が生まれます。Linuxがオープンソースであるため、Androidもオープンソースになりました。この開発をおこなっていたのがAndroid社で、2005年にグーグルがこのAndroid社を買収し、開発が加速をします。
しかし、グーグルが開発をし、それを通常のソフトウェアと同じようにグーグルが所有をするというわけにはいきません。そこで、AOSP(Android Open Source Project)コミュニティーが立ち上がり、グーグルは開発した成果をこのAOSPに渡します。このAOSPのAndroidは今まで通りオープンソースとされ、誰でも自由に使用することができます。つまり、グーグルもオープンソースAndroidの開発に参加をする1メンバーとなったのです。
グーグルは、このAndroidに加えて、GooglePlayやGoogleMapといったグーグル開発のアプリ群GMS=Google Mobile Servicesを追加しました。GMSを搭載するにはグーグルと契約をして、1台あたり3ドル程度の使用料を支払う必要があります。GMSの契約をすると「Powerd by Android」のロゴが使用できるようになります。これが私たちがよく知っている「Android」になります。
一方、AOSPが管理をしているオープンソースのAndroidだけで、後は自社で改良をしたり、オリジナルのアプリ群をつけて製品化をすることもできます。この場合は、GMSの契約をしていないので「Powered by Android」のロゴを使うことはできませんし、一般的には「Android」とは呼ばれません。身近な例では、アマゾンが発売しているFireタブレットがその例で、「Android搭載」とは呼ばずに「FireOS」と呼んでいます。これは俗に「素のAndroid」「AOSP版Android」などとも呼ばれます。
中国では、ご存じの通り、グーグルのサービスが提供されていない/遮断されています。そのため、中国向けのスマホにとってGMSの契約をすることは意味がありません。
そこで、ほとんどの中国メーカーが、AOSP版Androidを使い、そこにオリジナルのインタフェースやアプリストアを中心としたアプリ群を追加し、オリジナルの名称をつけて販売をしています。ファーウェイの場合はEMUI(Emotion UI)という名前をつけています。
Androidを使えなくなったファーウェイ
しかし、国際版ではGMSは必須です。そこで、AOSP版AndroidにGMSの契約をし、「Android」として海外に販売しています。ファーウェイもこのような方式で国内版、国際版を展開していました。
ところが、米国政府の規制によりGMSの搭載ができなくなりました。国内版は今までと同じでも問題はないものの、国際版の販売には大きな障害になります。
ファーウェイとしては、海外の技術に頼るからこのような規制・制裁を受けるのだから、自分たちのオリジナルのOSの方が望ましいわけです。
そこで登場したのがハーモニーOSなのです。しかし、これだけの短期間で、OSの開発などできるものでしょうか。
Next: 制裁前から準備していた独自OS。ファーウェイ復活なるか?
制裁前から準備していた独自OS
実は、ハーモニーOSの起源は、2012年まで遡ります。ファーウェイがスマホ事業に本格参入をする時、「独自OSを開発する」か「Androidを採用するか」で議論がありました。最終的に、海外販売を考えAndroidを採用することになりましたが、独自OSも研究プロジェクトとして継続されました。そして、2017年にはカーネル(中核部分)の技術検証が行われ、2018年には基本的な技術検証は済んでいたのです。
2018年12月に、米中貿易摩擦に絡んで、ファーウェイの孟晩舟CFOがカナダで逮捕されるという事態になり、ファーウェイ排除が本格化をした時、おそらくファーウェイはAndroidの供給停止という事態も想定しただろうと思います。プランBであった独自OSが浮上をしてきて、2019年5月には「ハーモニーOS」の商標登録を申請しています。そして、GMSの供給停止が起こると、プランBを出してきたのです。
ファーウェイは、むしろハーモニーOSがあったから、スマホ事業を放棄しなかったのではないでしょうか。もし、このプランBがなければ、チップもGMSも手に入らない状況で戦うことは無理です。
業界関係者によると、中国でスマホ事業を維持するには16%以上のシェアが必要だとよく言います。この数字は理論的なものではなく、経験から生まれた数値なのだと思います。確かにvivo、OPPOは16%以上で推移をしてきています。シャオミはなかなか16%の壁を破ることができていませんが、スマホ以外に家電製品との連携があります。
ファーウェイにとって、海外でのセールスはしばらくの間断念するしかありません。だったら、ハーモニーOSで中国市場で16%を確保し、それから海外戦略を描き直すというゼロからの挑戦を始めたのではないでしょうか。
「ハーモニーOS」の実力は?
▼ハーモニーOSの公式サイト。ハーモニーOSの機能、デザインなどが紹介されている。
https://consumer.huawei.com/cn/harmonyos/
ハーモニーOSの最大の特徴は、「1+8+N」という言葉で表現されています。さまざまなデバイスに搭載することが可能なOSなのです。「1」はスマホで、あらゆる機器のコントロールセンターになります。8は「「PC」「タブレット」「スマートウォッチ」「スマートスピーカー」「スマートディスプレイ」「ワイヤレスイヤホン」「AR/VRグラス」「車載ディスプレイ」のことです。そして、Nは無数のIoT機器です。
実際は、まったく同じOSを異なるデバイスに搭載することはできないので、ハーモニーOSにはL0からL5までのクラス規格が用意されています。メモリサイズなどデバイスの仕様に合わせて適した規格のハーモニーOSを搭載することができます。
また、実質的にオープンソース化されているのも特徴です。開放原子開源基金(オープンアトムファウンデーション)を設立し、ファーウェイが開発したハーモニーOSをこの団体に渡し、事実上のオープンソース化を進めています。参加企業はハーモニーOSを改変して、自由に自社製品に搭載することができるわけです。
こうして、ハーモニーOSのエコシステムを構築していこうとしています。ファーウェイは「2021年中に3億台突破」という目標を掲げていましたが、2021年末にスマホが2.2億台、IoT機器が1億台を突破し、目標をクリアしています。
同じOSがさまざまなデバイスに搭載される最大のメリットは、デバイス間の連携です。
こんな例があります。ある男性がスマホで動画を楽しんでいます。家人が寝ているため、ワイヤレスイヤホンを使っています。しかし、大画面でテレビで楽しみたいと思い、動画画面を指でテレビアイコンの上に重ねて、ドロップします。すると、動画がテレビに移って、なおかつイヤホンはテレビに自動的に接続されるのです。
もうひとつの例がジムのトレーニングマシンです。ランニングマシンを使う前に、スマホをマシンにタッチさせます。すると、NFC(近距離無線通信)経由で一時的なペアリングが行われ、スマホに記録されているヘルスケアデータが渡されます。マシンはそれを元に最適なトレーニングプログラムを提案し、トレーニング中のヘルスデータをスマホに戻します。その場を離れると自動的にペアリングが解除され、プライバシーデータは消去されというものです。
また、PCでワープロで書類をつくっていて、出かける時にウィンドウをタブレットアイコンに送ると、タブレットで仕事の続きができます。デバイスのペアリングもタッチをするだけでNFC経由で連携できるという簡単さです。これは、そういう世界が実現されますという話ではなく、対応機器間ですでに実現されている事例なのです。
似たような機能は、アップルもAirPlay、ユニバーサルコントロールで実現をしようとしていますが、連携ができるのはアップルデバイスのみです。しかし、ファーウェイの場合は、ファーウェイのデバイスだけでなく、オープンソースのハーモニーOSを使って、家電メーカーなどがハーモニーOSを搭載または対応をすることができるので、連携できるデバイスが大きく広がる可能性があります。
グーグルもFuchsia(フクシア)というOSを開発中で、組み込みからPCまではばい広いデバイスで動作することが可能になると言いますから、同様の連携を考えているのかもしれません。
ある意味、ハーモニーOSは、アップルやグーグルの一歩先の世界を実現してしまっているのです。
Next: 課題は山積。ハーモニーOSは他メーカーを巻き込んで成長できるか?
課題は山積。ハーモニーOSは他メーカーを巻き込んで成長できるか?
問題は、家電メーカーやテック企業がハーモニーOS対応製品、対応アプリをどれだけ出してくるか、エコシステムが成長できるかです。ここでも、ハーモニーOSはよく考えられています。
ランタイム(アプリを動作させるプログラム)は、Androidとハーモニーの両方が搭載されています。そのため、Androidアプリも動きますし、ハーモニーネイティブのアプリも動きます。すでにAndroidアプリを配信している企業は、まずはAndroidアプリを配信しておいて、その間にハーモニーアプリを開発して置き換えていくことができます。
ハーモニーアプリの開発言語はJava/C/C++/JavaScriptなど一般的なものなので、開発体制によってはAndroidアプリのソースコードを大きく修正することなく、ハーモニーネイティブに変換することも可能になります。
さらに、開発環境も最先端で、「原子化服務」と呼ばれる仕組みが用意されています。これは「カメラ映像取得」「音楽再生」といった大きな機能のライブラリ(ハーモニーOSではアビリティと呼ばれる)が用意されていて、これを組み合わせることでアプリが開発できるというものです。積み木を組み合わせる感覚で開発ができる、いわゆるローコード開発が可能になります。
肝心のチップ供給はどうなった?
スマホに必要な、肝心のチップの供給はどうなったでしょうか。ファーウェイは現在、米クアルコムからチップの供給を受け、またKirinの製造も再開しています。
ただし、いずれも5G非対応のチップなのです。ですので、現在のファーウェイのスマホは5G通信非対応で、4Gになります。4Gチップであれば、BISの規制に引っかからないようです。
ここからも、米政府のねらいが5Gにあることが窺えます。
ただし、供給量はじゅうぶんではありません。そのため、ファーウェイは人気がなくて売れないのではなく、出荷台数が限られているので売れない、品薄状態が続いています。
4月27日、ウェイボーの華為終端(スマホ事業を担当)の公式アカウントで、余承東常務のインタビュー動画が公開されました。この中で、余承東常務は「いいお知らせがあります。私たちファーウェイのスマホの供給は大きく改善されました。今年はファーウェイのスマホが戻ってきます。ファーウェイのスマホが欲しいという方すべてにお売りすることができます」と、供給不足が大きく改善されたことを公表しました。
どのようにして、チップを確保したのか、現時点では細かいことは明らかにされていません。しかし、ここでも、相当の苦労があったことは想像に難くありません。
ハーモニーOSを武器にしたファーウェイの復活が始まろうとしています。
アップルと同じ土俵に立ったファーウェイ
面白いのは、ファーウェイは世界市場でのアップルと似たポジションになったということです。アップルも独自OSで独自の地位を確保していますが、PC時代は何度も経営危機を迎えています。さまざまなメーカーが参入できるWindows陣営の方が選択肢が多いため、消費者がそちらを選ぶからです。
その状況を変えたのは、なんといってもiPhoneのヒットです。iPhoneから入ったユーザーが、MacやiPadと連携をさせる利便性に気がつき、iPhoneに引っ張られるようにMacのシェアも増え続けています。MacとiPad、iPhoneの連携は非常に利便性が高いため、一度、このセットで使い始めてしまうと、もう二度とアップル以外のデバイスを使う気にはなりません。
ハーモニーOSもこの世界観をねらっていることは間違いありません。しかも、アップルとは異なり、オープン化されているため――
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- vol.052:定着をする新中国茶カフェ。鍵は「品質」「ネット」「アート」(12/28)
- vol.051:限界に達している独身の日セール。それでも記録更新をするアリババ(12/21)
- vol.050:系列化が進む中国主要テック企業(12/14)
- vol.049:自動車に関心を示し始めたZ世代(12/7)
- vol.048:中国電子産業の原点「山寨機」とは何だったのか?(11/30)
- vol.047:ライブコマース利用者の4類型と5つの対応策(11/23)
- vol.046:デジタル人民元の仕組みとその狙い(11/16)
- vol.045:SARS禍で生まれたEC。SARSで成長したアリババと京東(11/9)
- vol.044:貧困を撲滅するタオバオ村の成功例と失敗例(11/2)
- vol.043:スマートフォンサブブランド戦略はどのように機能をしているのか?(10/26)
- vol.042:EC「京東」のライフサイクル手法。ビッグデータ解析によるマーケティング(10/19)
- vol.041:休日消費に起きている変化。キーワードは即時配送、到家サービス、家族(10/12)
- vol.040:進化が止まらないライブコマース。自動車、マンション、ザリガニまでも(10/5)
- vol.039:すべての小売業は新小売になる。既存小売はどこまで新小売化を進めているか?(9/28)
- vol.038:プラットフォーム化するショートムービー。そのビジネス構造(9/21)
- vol.037:WeChatへの大転換を可能にしたテンセントと創業者のポニー・マー(9/14)
- vol.036:デジタル界の無印良品になりたい。中国製造業を変えた小米(シャオミ)創業者「雷軍」(9/7)
- vol.035:新中華圏が構築されつつある東南アジアITビジネス(8/31)
- vol.034:中国の人工知能産業は、米国にどこまで迫っているのか(8/24)
- vol.033:BATがBATである理由。トラフィック制御からの視点(8/17)
- vol.032:ソーシャルEC。次世代ECなのか、それとも中国独特のECなのか(8/10)
- vol.031:大量導入前夜になった中国の自動運転車(8/3)
- vol.030:コロナ終息後、中国経済に起きている5つの変化(7/27)
- vol.029:店舗、ECに続く第3の販売チャンネル「ライブEC」(7/20)
- vol.028:MaaSにいちばん近い企業。滴滴出行の現在(7/13)
- vol.027:中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?(7/6)
- vol.026:中国インバウンド客はいつ頃戻ってくるか?(6/29)
- vol.025:ポイント還元をむしゃぶりつくす羊毛党とその産業構造(6/22)
- vol.24:ゲーム業界から注目される女性プレイヤー。「彼女ゲーム市場」とは何か(6/15)
- vol.023:即時配送が変える小売業態。新小売と社区団購(6/8)
- vol.022 OPPO、vivoを生んだ歩歩高とその創業者段永平(6/1)
- vol.021 感染拡大で実戦投入された人工知能テクノロジーの数々(5/25)
- vol.020 経済復活の鍵は「ライブEC」。感染拡大から広がる新たな販売手法(5/18)
- vol.019 生き残りを賭ける飲食業。鍵は「外売」(デリバリー)(5/11)
- vol.018 ニューノーマル。終息後の新日常は、以前とどう変わるのか?(5/4)
- vol.017 アリババとテンセント。ECビジネスをめぐる衝突(4/27)
- vol.016 敗走するアマゾン、カルフール。理由はグローバルとローカルの衝突(4/20)
- vol.015 中高年にスマホ決済を浸透させた台湾庶民派スーパー「PX Mart」の取り組み(4/13)
- vol.014 1日で4.1兆円売り上げる「独身の日」は、どのように生まれたのか?(4/6)
- vol.013 1日で420億円の商品を売る。網紅の桁外れの販売力の仕組み(3/30)
- vol.012 広告メディアとしてのTik Tok。その驚異のコンバージョンの秘密(3/23)
- vol.011 人口ボーナス消失とZ世代。経済縮小が始まる(3/16)
- vol.010 中国テック企業は、新型コロナとどう戦っているか(3/9)
- vol.009 潜在顧客を掘り起こし、リピーターを育成するモバイルオーダー(3/2)
- vol.008 新小売戦略の要となったフードデリバリー「外売」(2/24)
- vol.007 ミニプログラム活用で新規顧客を獲得する店舗小売(2/17)
- vol.006 中国のEVシフトは成功なのか。それとも失敗なのか?(2/10)
- vol.005 第2位のECに浮上した拼多多とは何ものか?(2/3)
- vol.004 ファーウェイと創業者、任正非(1/27)
- vol.003 シェアリング自転車は投資バブルだったのか(1/20)
- vol.002 アリペイとWeChatペイはなぜ普及をしたのか(1/13)
- vol.001 生鮮ECの背後にある前置倉と店倉合一の発想(1/6)
『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年5月2日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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