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日本の首相「7割が世襲」の異常。政治を“家業”にして特権を独占する世襲議員の闇=神樹兵輔

7月10日は参議院議員通常選挙の投票日です。日本の政治家は石を投げれば「世襲議員」にあたると言われるほど、政治家の身内が議員となります。なぜ、世界にもまれにみるほどの「世襲」が行われているのか?この選挙のタイミングに投票者に考えてもらいたい「世襲議員の闇」に迫ります。『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』)

※本記事は有料メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月4日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:神樹兵輔(かみき へいすけ)
投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。

石を投げれば「世襲議員」に当たる

今回のテーマは「世襲議員が日本を滅ぼす!」です。

まもなく第26回参議院議員通常選挙の投票日(7月10日)を迎えます。よいタイミングなので「世襲議員の闇」についてえぐっておきたいと思います。

日本の国会議員数は710名(衆院465名・参院245名)ですが、3人に1人が世襲議員です。

衆院の自民党に限れば4割が世襲なので、石を投げれば大抵当たるでしょう。

それほど日本は、世襲議員だらけなのです。

米国では、上下両院議員で5%以下の世襲比率です。

ここでいう世襲議員の定義は、議員本人と配偶者の3親等内に国会議員、地方議員、地方首長などがいた場合です。

世界でも突出して、世襲議員の比率が高いという「奇観」を呈しているのが、この日本なのです。

総理大臣の世襲率は70%

世襲議員は当選しやすく、若くして選ばれるため、政権与党内でも早く出世できます。世襲議員同士の身びいきや、親の七光りもあって、注目度も高くなりがちです。もちろん、見識や能力、適性といったことは、へったくれも問われません。

「一族」の保身と利権の維持が第一義の目的となっているわけで、「家業」としての政治家継承ですから、政治への志(こころざし)そのものが異質性を帯びています。

社会人としてのスタートからして、自力で道を切り開くことなく、端(はな)から一般国民をなめている存在なわけです。

しかし、こうした世襲議員ばかりが増殖してきたのが日本の国会の実態なのです。

そのせいか、我が国の首相も、脆弱なボンボン世襲だらけです。

平成元年(1989年)~令和3年(2021年)の32年間を見ても、19人の総理大臣が輩出されましたが、世襲でない首相はたったの6人しかいなかったのです(宇野宗祐、海部俊樹、村山富市、菅直人、野田佳彦、菅義偉)。

つまり総理大臣の世襲率約70%という異常さで、ものすごい「醜怪状況」を世界に晒しているのです。

ところでこれは、国会議員だけに限った事情ではありません。

地方議員も世襲だらけだからです。

ただし、世襲に限らず、地方議員そのものが「痴呆議員」となっている実情については回を改めて記したいと思います。

Next: 「知っている顔がいい」世襲議員を生む「ザイアンスの法則」



世襲議員をはびこらせてきた「ザイアンスの法則」

もっとも、ひとくくりに世襲議員はみんなケシカランーーとは切り捨てられません。

「選挙」というフルイにかけられた「選良」という存在であり、なんたって、日本国民が選んだ存在なのですから。

では、日本の有権者が世襲議員をことさらに好む理由は何なのでしょうか。

どうやら、心理学でいう「ザイアンスの法則」に適った現象といえそうです。

ザイアンスの法則とは「人は見知らぬ人には冷淡に接する。人は会えば会うほど好意的になる(単純接触効果)。人はその人物の人間的側面を知るとより強い好意をもつ」という人間心理の法則なのです。

地元で見慣れた顔であればこそ、親近感を覚えるのです。これと類似性があるのは、顔が知られたタレント候補の場合でしょう。

なぜ政治家は自分の議席を身内に譲るのか?

いっぽうで、自分の議席を息子や娘といった身内に譲り、世襲議員を続々と誕生させていく側の論理は、どういうことなのでしょうか。

今回の参議院選挙でも、自民から11人、立民から2人、維新から2人、公明からa人、社民から1人、無所属から2人と合計19人の世襲候補がいるのです。全体の3.5%に相当します。

今回の参院選挙では、一見少なく見えますが、昨年10月の衆院選挙では、131名もの世襲候補がいたのです(全体の23%)。出すほうも出すほうですが、恥ずかし気もなく出るほうも出るほうでしょう。

世襲させたいのは、国会議員の身分があまりにも恵まれているからと言えるでしょう。

オイシイ果実は、身内に継承させることで、赤の他人には絶対渡したくないという一族の論理があるからなのです。

国家・国民のためというよりも、「一族の利権」確保の要素が、極めて強い動機になるからです。

なんたって、当選すれば、「高額報酬」「政治権力」「高待遇」がいっぺんに手に入ります。

国会議員は無税で政治資金を「個人資産」にできる

そして、なんといっても、世襲議員は当選しやすいから…という理由もあるでしょう。

選挙は、昔から「地盤(地元の後援会組織)」「看板(地元での知名度)」「カバン(資金力)」の3バンが大事といわれます。

地元利権を継承させたい支援者も多くいるので、応援体制も整っています。

特に強みは「カバン」でしょう。

政治家の政治資金管理団体は、無税で身内に引き継げるので、親から子への「無税での贈与や相続」も行えてしまうのです。

政治家は引退したらその政治資金は、国庫に返納させるべき性格の金なのにです。こんな不当な制度は禁止すべきでしょう。

2006年に「週刊現代」が報じて発覚した事件では、小沢一郎衆院議員(世襲2代目)の政治団体「陸山会」がゼネコンから得た6億円余の政治献金で土地を購入し、小沢議員の個人名義で登記していたことが問題になりました。

建前上、政治家個人への献金は禁止されていますが、政治資金管理団体経由であれば、巨額の個人資産の形成も容易に図れるゆえんなのです。

Next: あまりにもオイシイ国会議員の報酬リスト



国会議員の報酬は異常にオイシイ

では、国会議員の報酬のほうはどうなっているのでしょうか。

まとめてドカンと渡すと、あまりにも高額で目立つため、名目だけ複雑にして、分別して支給しています。

給与に相当する「歳費」が月額129万4千円で、年額で1552万8千円。

ゆえにマスコミ報道などでは、これだけを切り取って国会議員としての給与は年間たったの1,500万円程度などと、ヌケヌケと少なめに告げる人が多いゆえんです。

そしてボーナスに相当する「期末手当」が年間635万円。

ここまでの合計報酬だけでも2,187万円ですが、報酬はまだまだ別名目で支給されます。

「調査研究広報滞在費(旧名称は文書通信交通滞在費)」が月額100万円で年間1,200万円ですが、これは無税で使途の明細報告も不要です。

昨年10月31日の衆議院議員選挙では、1日だけ議員在籍でも月額分の100万円が支給されたので物議を醸しました。

手取りで年間1,200万円が受給できるというのは、サラリーマンの場合なら、年収2,200万円での税率40%が課されての手取り額と同等なのです。

日本の所得税は累進課税ゆえに、高額報酬であるほど税率が高くなります。無税で月額100万円とは、ものすごくオイシイ報酬なのです。

そして、法律など作らなくても、会派経由で入る「立法事務費」が年間780万円あります。

さらに国民一人あたり250円の税金徴収から年間320億円弱の「政党交付金」が、議員一人当たり年間4,400万円分も政党に配られるため、議員個人に対しても最低でも1,000万円ぐらいの「分け前」がもらえます。最低でもです。

ちなみに日本共産党は、支援していない政党にまで、税金を配るのは憲法19条の「思想・良心の自由」を踏みにじり、憲法21条の「結社の自由」を侵害しているとして、一貫して受け取りを拒否し、政党交付金の廃止を求めています。

この点についてはなかなか筋の通った、もっともな主張といえるのですが、共産党に配分される分の交付金が他の政党に分配されているという「矛盾」は残念なのです。

さて、ここまでの国会議員の報酬額を合計すると、年間で約5,000万円超に及びます。

2021年時点での東証一、二部上場企業の社内取締役の平均報酬額3,630万円を軽く凌駕しています。

参議院議員なら解散もなく、6年間の任期ですから、1期務めるだけで3億円が転がり込みます。みんな国民の税金です。

政治資金という名の「合法ワイロ」

この他にも口利きや利権にまつわる合法ワイロと呼ばれる「政治献金」が団体や個人から、議員が管理する政治資金管理団体に入ってきます。

ちなみに2019年の自民党の本部収入は約245億円で、うち政党交付金が72%、企業・団体からの政治献金が10%を占めています。

政党交付金の導入時(1994年)に企業・団体献金を廃止するはずだったにも関わらず、いまだに大企業などからの政治献金‘(団体献金)は廃止されておらず、団体献金枠を超えた金額を個人献金に偽装するなど、政治家が表向きの公約とは裏腹の歪んだ大企業優遇政策が行われるゆえんともなっているのです。

また、ホテルの大宴会場で開く「政治資金パーティ」でもシコタマ稼げます。

議員になるとこんなにオイシイのですから、自分が勝ち取った議席は、能力や適性があろうがなかろうが、是が非でも自分の子息に世襲させたくなるわけです。

Next: 住居も交通費も無料。国会議員に認められた高待遇



国会議員は高額報酬以外にも高待遇がてんこ盛り

国会議員になると、オイシイ特典がまだまだあります。

国会議事堂傍の議員会館の家賃、電話代、水道光熱費はタダですし、地方選出国会議員なら赤坂にある議員宿舎(82平方メートル・3LDK)などは、相場の2割程度の家賃(12万6,000円)で住めます。

海外視察旅行代もタダ、JR全線のグリーン車乗り放題パスや、私鉄の無料乗車パスも支給され、地元選挙区との航空券の往復チケットも月に4回分タダで支給されます。旧名称の「文書通信交通滞在費」との重複もよいところでした。

さらに、公設秘書も3名雇え(第1秘書、第2秘書、政策秘書)、その給与の年間合計2,400万円から、強制的に議員の政治資金管理団体への寄付までさせている議員もいるので、国会議員はまさしく銭ゲバ状態なのです。身内や親戚を秘書にするケースも少なくありません。

人口が日本の2.6倍の米国の上下両院議員の総数は535議席ですが、議員個人に入る年間報酬額は、17万4千ドルだけです(1ドル110円換算だと1,914万円、1ドル136円換算だと2,366万円)。

ただし、立法経費を上院議員で約2億円分、下院議員で約1億円分まで計上してスタッフを雇ったりできますが、透明性は日本の比でなく高いため、議員個人のポケットに入れられる性格の金銭ではありません。

米国と比べ、日本の国会議員が、いかに曖昧で莫大な報酬をフトコロに入れているかがわかります。

それにしても、米国と比べて710名もいる日本の国会議員は多すぎでしょう。せめて半分の350名ぐらいにすべきです。

そうでないために、世襲やタレントでの「政党の員数合わせ」が幅を利かすのです。

こうした日本の国会議員の報酬額や数々の特権は、多数派の政権与党がお手盛りで法案を通過させ、成立させてきたからこそのオイシイお宝だったのです。

一族の特権を守るのが世襲政治家の第一義

選挙の時だけ、実現できない空疎な公約や耳触りのよいスローガンを並べるだけです。

ましてや、世襲議員は「家業」として国会議員を代々続けてきたのですから、一族で蓄積してきた資金力も盤石です。

「一族の特権」を守ることが第一義となるわけですから、シモジモの国民の声に対しても、聞く耳をもたないのは当然なのです。

エビで鯛を釣りたい大企業は、与党に政治献金を流し込み、大企業優先の規制緩和や、税金減額、補助金などを付与してもらう構図です。与党は、大企業対象に優先的に税金を大量にばら撒いてやるだけでよいわけです。

「GOTOキャンペーン」もそうでした。

自民党の幹部は、全国旅行業協会会長として、年間数百万円の政治献金を貰っただけで、たちまち1兆7千億円分の「GOTO予算」を組みました。

合法ワイロの政治献金の制度が許されているために、庶民の声は届かずに、大企業優遇政策が続けられ、肝心の国政は、米国の言いなりに従っていればよい、といったことにもなるわけです。

ちなみに米国で銃規制がすすまないのも、全米ライフル協会が政治献金を上下両院議員にバラ撒いているからです(銃の所持自体は米国憲法が保証)。

日本国民もシラケるいっぽうでなく、みんなが投票に行き、束になってガツーンと政治に風穴を開けてやる必要があるでしょう。

投票率が高くなるほど、政治の緊張度も高まります。

前回の参院選の投票率48.8%のような低投票率では、自公政権が喜ぶだけで、格差は広がり、消費税率も上がるいっぽうの未来となるでしょう。投票率が9割程度になれば、政治も変わるはずです。

いずれにしろ、世襲議員がこれほど跋扈できるのも、蓄積した資金力が潤沢だからですが、こんな代々の利権を継承することを目的化した議員を輩出していると、真に能力のある人が立候補しなくなります。世襲候補でないと、当選しにくいからです。

優秀な人材が政治を担わないと、日本の衰退と混迷は一層深まるばかりでしょう。

ますます国民の声を政治に反映できなくなるからです。

特権に胡坐(あぐら)をかき、利権口利きに走るばかりの世襲議員は国会から追放するのが、国民主権の回復につながるはずなのです。

選挙の時には、真剣に考えてから、貴重な一票を必ず投じたいと思います。

それでは、長くなりましたので今回はこのへんで。

次回は「悪名高き外国人技能実習制度は直ちに廃止すべき!」というテーマについて、鋭くえぐっていきたいと思います。

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  • 世襲議員が日本を滅ぼす!(7/4)

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※本記事は、神樹兵輔氏のルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月4日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読

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神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』(2022年7月4日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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