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国葬、統一教会騒動で支持率デッドクロス。世論を敵に回した岸田政権の早すぎる終焉=山崎和邦

安倍元首相の国葬と統一教会問題で、岸田内閣の支持率は40%に落ちた。不支持率は40%に上昇した。株価で例えれば、ついにデッドクロスを迎えてしまい、短命政権に終わる可能性が高まった。岸田首相はどこで失敗したのかを改めて整理したい。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年9月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。

プロフィール:山崎和邦(やまざき かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴61年、前半は野村証券で投資家の資金を運用する「セルサイド」、後半は自己資金で金融運用する「バイサイド」、晩年は現役研究者と、3つの立場で語ることを信条とする。2022年85歳で国際コミュニケーション学博士号を取得。

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安倍元首相の国葬に反対する4つの理由

こういう現象が生じている今、再び国葬について是非述べたい。

筆者は国葬に敢えて反対するわけではないが、反対か賛成かのいずれかを選べと言われれば、当初から反対の方に回っていた。但し、敢えて大騒ぎして反対するほどの意思もない。

反対の理由は極めて単純で

1:動機が不純である(最大派閥である安倍派のご機嫌をとるためということがミエミエであった)。

2:国葬の本来の意義にそぐわない。

3:決め方が軽率だった。おそらく国民の大半が反対するであろう(その理由は筆者と同様であろう)。

4:但し、軽率さを伴うが「突破力」は認め、その突破力を理念の確立や政策の遂行に向けてもらいたいから、筆者は大騒ぎするほどの反対はしない。

以上である。

内閣支持率40%、不支持率40%のデッドクロス

おそらく国民の7割~8割は反対だろうと思っていたが、その背景もあって内閣支持率は40%に落ちた。不支持率は40%に上昇した。支持率・不支持率をグラフ化すれば、40%になったところで「デッドクロス」が起きたというのが先週前半である。

英国ロンドンでは、バッキンガム宮殿に向かう人々が、花束や国旗を持って群れをなしているというし、雨上がりのその日の夕方にバッキンガム宮殿の上に虹がかかったという写真も新聞に出ている。一方で日本はどうだ?国葬反対のデモの写真が出ている。プラカードには「国葬は安倍元首相の神格化だ」などとある。

ところで、筆者は国葬には特に強く反対しているわけではないが、最初から岸田内閣の軽率さにはビックリした。いきなり国葬を決めるのは、手続きの上で違法ではないかもしれないが、その軽率さには驚いた。同時に、その突破力で政策決定と遂行力に見たかった。

なぜ安倍元首相だけ国葬になるのか?

国葬は元々君主制を支える最高の儀式であって、日本では天皇および天皇制を支えた者に対するセレモニーである。だから、吉田茂は国葬でも良かったと思う。彼はマッカーサーと相談して「国体の護持」と称する天皇制を残し、その方が人心を落ち着かせると見て、GHQと内密に相談して、米ソの対立が激しくなって、日本の存在が地政学的に重要になってくるまで講和条約を7年間伸ばし、日本列島の米・英・中・ソへの4分割を避けたし、多額の賠償金をも避けた。その点では、国葬にしても違和感がなかった。

しかし、安倍元首相だけを何故国葬にするのか?たしかに、彼はフローの点から見れば、大いに功績はあった。沈みゆく日本経済を立て直した。年金の原資となるGPIFの資金を40兆円に増やしたし、国富も増やしたし、株式時価総額も2倍以上にしたし、主力企業の創業以来の好業績を6年間続けたし、雇用も増やした。そういう意味で、フローの面では大いに功績はあったし、個人的には筆者もおそらく読者諸賢も、株式投資を通してその恩恵に預かったはずだ。

だが、君主制を支える最高の儀式である国葬が、何故安倍元首相なのかは非常に軽率さを感じた。フローの面では、たしかに戦後の日本に大いに貢献したことに関しては、六本の指に入ると思う。所得倍増計画を10年の予定を7年で達成した1)池田勇人。その後継者である2)佐藤栄作。そのために戦後初めての赤字国債を発行して、日本のインフラに大きな貢献を果たし、第二の昭和恐慌と言われた昭和40年不況を脱して、当時史上最長の「いざなぎ景気」へつないだ3)福田赳夫。

あるいは、ストばかりやっている組合員が50万人もいて、50兆円の赤字を出していた日本国有鉄道を民営化して、100年前に松永安左エ門がやったように、いくつにも分社して寄らば大樹の陰の巨大赤字を一人前の企業として機能させた。電電公社も民営化した。たばこ産業も民営化した。国のかたちを全く変えた。これが4)中曾根康弘である。郵政民営化したのは5)小泉純一郎である。これによってIT業界が発展し、IT技術が発達し、携帯電話が発達した。

こういう偉大な先人たちと比べて、フローの面では一大功績があったことには間違いない安倍元首相だけが何故、国葬なのか?

「子供たちに(国葬を)押し付け、信じ込ませるのは教育とは正反対のものです」と言うのは元文科省事務次官の前川喜平氏である(しんぶん赤旗、9月11日号)。

文科省事務次官と言えば、民間会社なら生え抜きの社長であるから「子供たちに押し付け信じ込ませる教育」というようなことに関しては、最も詳しいはずである。官僚は国内の許認可関係を通して、海外では大使館に駐在する官僚を通して、国内外の情報が全て官僚に集まる。大学卒業から数十年、霞ヶ関で担当分野を専門にやってきた者である。

ちなみに、その官僚をダメにしたのは安倍内閣の菅官房長官だった。長期的・構造的に見れば、日本の弱体化はそこに発していると筆者は思っている。

Next: 岸田首相を短命に終わらせる旧統一教会叩きへの違和感



岸田首相の短命説

日本の首相はその地位を維持するためには、1)国政選挙に影響する国民世論、2)自民党総裁選に影響する党内世論、この二つのバランスを保つことに歴代の首相は腐心してきた。岸田首相は党内四番目の派閥の長に過ぎない。歴代政権の中でも弱い部類に入るだろう。特に、清和会(安倍派)が他の派閥より圧倒的に多い。

国葬をいち早く決めたのは、彼らのご機嫌を取ることがおそらく岸田首相の主目的であったろう。フローの面からだけで言えば、安倍元首相の功績は大きい。その意味で筆者は必ずしも国葬には反対ではなかったが、その軽率さ・そのホンネがミエミエである点、これに対しては最初から筆者は「後で大騒ぎになるだろう」と見ていた。

党内世論と国民世論の間に差があったことにより、首相候補であっても首相になれなかった例がある。最近の例としては、石破茂氏や河野太郎氏の例である。首相候補ではあったが、首相にはなれなかった。党内基盤の弱い首相は党内の異端児として、党の外の国民世論の受け皿となり得る

。金権政治で退陣した田中角栄の後は「クリーン三木」を売り物にした三木武夫元首相がその例である。その三木元首相もやはり党内世論は低かったので、各種改革案に対して党内世論の反対にあって、妥協せざるを得なくなって国民世論の支持率を急落させた。

岸田首相が国民世論と党内世論のどちらを優先すべきかと言えば、当然国民世論であろう。党内基盤の弱い首相にとっては国民世論が頼みの綱である。第四派閥の長に過ぎない岸田首相は、国民世論の支持を失った時に政治生命を失う。ところが、国葬問題・「新しい資本主義」の曖昧さの問題・旧統一教会の問題等で国民世論が低くなっている。本稿が軽率にも岸田政権短命説を9月11日号で述べた。これはその辺のところを背景としたものである。

旧統一教会叩きへの違和感

旧統一教会は大いに問題のある教団であると筆者も思う。しかし、旧統一教会のやってきたことは、安倍元首相暗殺者の行為に対する原因にはなっているが、暗殺を呼びかけたわけでも教唆したわけでもない。

一方、1979年のイラン革命はどうだったか?筆者は、その直前にパーレビ国王のもとに平和に治まっていたイランを、昔の超大国ペルシャを訪ねたいと思って旅行していた直後だった。ホメイニ師という宗教家が現れて、パーレビ国王を殺害はしなかったけれど、海外に追放した(欧米化していたパーレビ国王夫妻は端正なスーツを着こなして、欧米のごとくに国を去って行くときの挨拶は、全く欧米人めいていたものだった)。ホメイニ革命は、平和で静かな中東の大国イランを核保有した軍事国家に変えてしまって中東の問題児とさせ、ブッシュは「悪の枢軸」の一つと指定した。

この1979年のイラン革命の時の最高指導者ホメイニ師は、反対者のラシュディを殺害した者に莫大な賞金を払うという宗教令を出した。そういう意味で、イランの暗殺指示責任を追及されるのは、道理に合うと思う。

また、トランプが武装した支持者が議事堂に侵入して銃を所持した支持者によるデモも行われていることを承知の上でFBIは手を緩めたとか、演台の上からみんなで議事堂に行こうと煽った。そして連邦議会議事堂へ乱入が始まってから3時間は止めようとしなかった。トランプにこういうことへの責任は問われるべきだろう。

これに対して、筆者は旧統一教会を弁護するつもりはないし、大いに問題のある教団だとは考えているが、旧統一教会は首相の暗殺を指示しなかったし教唆もしなかった。この点は厳密にイラン革命のホメイニ師と区別すべきだと思う。

これは「最高扇動責任者トランプ」というコラムニストの一文を、週刊誌Newsweek日本語版9月13日号で、「暗殺の指示も教唆もしなかった統一教会を絶対悪とみなすことは、信仰の自由を妨げる一歩手前まで来ているような気がする」と述べていたことに、筆者は同感だったから敢えて述べた。

筆者は狙撃者を弁護する気は毛頭ない。しかし、安倍元首相暗殺事件は、政治の弛緩が招いた惨劇であり、奈良県警の責任でもあり、公安委員会の責任でもあり、ブッシュが狙撃されそこなった時の画像と比較すると、日本首相警護は全くなっていない、所謂平和ボケしていることは明らかである。

当時、最高責任者が直ちに辞職すべきだと思っていた筆者は、やはり早とちりだった。検証が済むまで、あるいは騒動が一応収まるまで辞職すべきではなく、彼らは特別な思いで辞職願の提出を我慢していたに違いないと思うので、筆者は早とちりを反省した。

誰も動かぬ新しい資本主義

菅首相が党内でもパワーがなく、「選挙の顔」には全くふさわしくないということであっさり見切りを付けられてしまった訳は、彼に「日本をこうしたい」というビジョンらしいビジョンがなかったこと、「ビジョン無き仕事人タイプ」という政治家であって、首相として不適当な人物であったからだ。

それを岸田首相はよく熟知しているから「新しい資本主義」というビジョンと理念を打ち出した。理念は何よりも大切だが、理念は理念でしかない。「理念無き仕事人」よりはマシであるが、菅政権が残した功績は、理念無き政治家はさっさと去るということであり、この教えを岸田首相は忠実に守ってはいるが、理念だけで経済も国防も動かない─

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<山崎和邦の投機の流儀vol.537 9/18号>

第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)1ドル140円なら、今期経常利益8%に増大
(3)所謂「7年周期説」というものがある。たまたま2022年は「7年周期説」の年に該当する。
(4)9月7日の円ドル相場は144円台
(5)9月の配当落ち分
(6)経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」以降、株式時価総額は世界で約700兆円を喪失、日本一国が吹き飛んだに等しい。
(7)8月、自社株買いが最高
(8)「孤高の日銀」と「景気を犠牲にしてでも金融引き締め覚悟のFRB」

■ 第2部:中長期の見方
(2)「株は悲観ムードの今こそ買い」
(5)日本の多くの政権が戦後の高度成長期を学んで、経済再生の方策を描いてきたのは間違いである。
(6)コロナ第7波にピークアウト感
(7)長期的な見方については、別の角度からの考え方がある。
(8)人材・人財・人罪・人在

(9)何故予見するのか?準備するためだ。
(10)「バフェット氏には逆らうな」

■ 第3部;超長期の見方
「週報」についての交信(9月13日、K様との交信)

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『山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年9月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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