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いよいよ上場「成城石井」は人気化確実か。高くても売れる3つの強み、上場後のリスクと成長戦略とは=栫井駿介

2022年度に上場予定の成城石井について分析します。成城石井は、今ローソンの子会社になっていますが、上場申請したところです。その中身を見てみたところ「なかなか筋がいいぞ」と思える事業の状況でした。この記事では、上場が注目される成城石井を分析し、来るべきIPOで「買うべきなのか」ということについて考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

成城石井が新規上場(IPO)を申請

成城石井は現在、ローソンの子会社になっています。しかし9月9日のニュースで、上場を申請したと報じられました。

通常、上場を申請してから承認が下り、実際に上場に至るまで、3ヶ月から6ヶ月程度かかると言われています。現在は9月ですから、12月~3月あたりの上場になるのではないかと考えられます。

ちなみに時価総額は、2,000億程度を見込んでおり、結構大型株のIPOと言えると思います。

皆さんも、成城石井はご存知かと思います。特に東京の都心部にお住まいの方は、馴染みが深いのではないかと思います。

高級スーパーで、少し高級な商品や外国のものを買おうと思ったら、普通のスーパーではなく、駅前などを中心にある成城石井に行くなどで、利用する方も多いと思います。

ある意味セレブ御用達みたいなところもあります。

沿革

成城石井が、今どういう経営状況にあるのかということを見てみたいと思います。

創業は1972年。名前にあります通り「成城」、世田谷区の成城学園。高級住宅地なのですが、ここで石井さんという方が食品店、スーパーとして創業しました。

もとから高級志向というのがあって、価格競争に身を置くのではなく、お金をある程度かけてもいいから、お客様にいい食品を届けようという思いがあって創業されたのです。

それから地道に店舗を増やしていって、成長してきました。

やがて創業家の石井さんが退くという時に、少しうまくいかなくなってしまいます。後継者の育成に失敗して、株を牛角を運営するレインズインターナショナルに売却するという動きが起きます。

これが2004年です。

そこで、牛角のレインズが何をしたかというと、当時30店舗程度だった成城石井を一気に100店舗ぐらいに拡大しようと目論んだのです。

しかしこれまで地道にやってきたところから、一気に100店舗にしようとするわけですから、なかなかうまくいかないわけなんです。

結果、業績が低迷してしまいます。

レインズ、元々この牛角も拡大志向があるのです。

牛角の運営や、当時あったコンビニのam/pmなども買収したのですが、結局うまくいかずにレインズインターナショナル(レックスと名前を変えました)をアドバンテッジパートナーズという投資ファンドが買うというような流れになりました。

良かったのは、成城石井をアドバンテージがちゃんと経営改革できたということです。2007年に大久保恒吉氏(コンサル出身)という方が、それまで無理に拡大させようとしていた成城石井を原点回帰ということで、改めてきちんと食に力を入れる会社にしようと立て直して経営改革に成功。

そして2010年に生え抜きであった原氏が社長に就任しました。

一方でアドバンテッジパートナーズはファンドですから、それを売ってリターンを上げるということを行いました。2011年に三菱系のファンドである丸の内キャピタルが、アドバンテッジパートナーズから成城石井を420億円で買収しました。

さらに丸の内キャピタルもファンドですから、2014年にさらにローソンに今度は550億円で売却するという動きになりました。

こういった経緯がありまして今、成城石井はローソンの傘下で事業を行っているということになります。

成城石井をローソンが550億で買収した。

この上場申請に至っては、2,000億円で上場を検討ということなので、かなり上手くやっているのではないか。価格にして4倍近い価格になっていますから、上手く経営してきたのではないかということが、数字から見てとれます。

Next: 店舗数・業績の推移は?投資家が注目すべきは驚異の営業利益率



店舗数推移

実際に、店舗数を見ていきましょう。

ローソンが2014年に買収した後、2016年からの数字があります。当時120店舗だったのが徐々に増えてきて、今では169店舗。

業績推移

そして業績を見ますと、売上高も右肩上がり。利益もそれに沿って上がってきています。

営業利益率比較

特色があるのは営業利益率です。

スーパー、特に食品スーパーというと普通は価格競争が結構激しくて、利益率が1%・2%っていうのが当たり前の世界です。しかし成城石井はその中において、なんと直近で10%以上の利益率を誇るという、かなりの優良企業だと言えるわけです。

時価総額2,000億というのも、かなり現実味のある数字・利益を上げています。

成城石井の直近利益率10.31%に対して、業界最大のイオンのスーパー(GMS部門)は赤字です。マイナス0.07%の営業利益率です。

食品スーパーに限定してもライフやバローHDで2.98%、2.89%。3%弱です。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス。こちらもイオン系ですが、1.69%。

業界の中で頑張って高い利益を出している。比較的、低価格のスーパーの中で頑張って業績を上げている、高い利益率を出している埼玉のヤオコーが4.48%です。

利益率だけみれば、なんと成城石井はその倍以上ですから、やはりかなり優良であるということが見てとれるわけです。

Next: なぜこんなに利益率が高い?成城石井「3つの強み」と人気の理由



成城石井の強み

いったいなぜ、そんなに優良なのか?利益率が高いのか?

成城石井に行かれたことある方ならわかるかもしれません。先ほど言いました通り、今展開しているのが都心と、少し関西地方にも出てるかなというところです。

地方の方は、もしかしたらご存知ないかもしれませんが、やはり良いスーパー、高級スーパーに行こうと思ったら、まず頭に浮かぶのがこの成城石井です。

<強みその1:商品開発力>

強みとしては、まず商品開発力です。プライベートブランドは結構出しているんですが、(着目すべきは)それを自ら作っているという点です。

例えばイオンとかだと、プライベートブランドって、要は安売りだったりします。同じ商品をイオンの看板を貸してあげるから、安く作ってよということでメーカーにお願いして、それを広告宣伝コストなどを省いて安く売るというのが多いです。

しかし成城石井の場合は、とにかく高いお金をかけてもいいから、良い食品を提供したいということなのです。そのためにいいプライベートブランドを開発して売っています。

実際に成城石井の商品開発というのは、一流のレストランのシェフが商品開発に携わっています。

彼らに言わせれば、普通のレストランで商品を提供しても、せいぜい100人ぐらいにしか提供できない。しかし成城石井を持ってすれば、何千人に一気に提供できる。だからやりがいがあるんだということらしいです。

それは成城石井がすごく良いものを提供するというモチベーションに立っているからできることだと思います。

<強みその2:セントラルキッチン>

それを実現する仕組みとして「セントラルキッチン」があります。

きちんとした工場でいいものを作って、それを(都心中心の)限られたところに新鮮なままお届けする仕組み。ドミナント戦略とも言いますが、そういった仕組みを作り上げているのです。

<強みその3:バイヤー>

さらにはバイヤーです。

先ほど海外の商品なども結構売っていると言いました。とにかく「いいもの」を提供する為、その見極めを行って、価格競争に陥らず「いいもの」をとにかく提供する。

そこにこだわっているからこそ、他のスーパーにはない10%という利益率を達成できるわけです。実際に、成城石井に行ってみた方ならわかると思うんですが、決して商品は安くありません。

Next: 400円のポテトサラダが飛ぶように売れる?客をファンにする商品力



同じものを高く売れる!ポテトサラダの例

例えば「ポテトサラダ」431円(税込)があります。普通のスーパーだったら、200円程度で売られているかと思います。それが431円です。

「高いんじゃないか」「やはり成城石井、お高くとまってるな」と感じるかもしれません。実はこれが評判が良いのです。

なぜかと言うと、機械を使っていないのです。人が手で皮をむいてそこに旨味を閉じ込める。

逆に言うと「そこまでしないと美味しいポテトサラダは作れない」というこだわりを持って作っているわけです。当然高いんですが、どういうところに成城石井が出店してるのかというと、都心の(まさに成城から始まっているのですが)セレブが多い場所、駅前、それから高級マンションが近いところに、どんどん出店しているわけです。

当社のアナリスト佐々木くんが、実際に見た話を紹介します。成城石井に来ているおばちゃんが、他のお友達にすすめてるのだそうです。

「このポテトサラダは自分は真似できない。」「美味しいからぜひ買ってくれ」と口コミで勧めている現場を目の当たりにしたというのです。

おそらくサクラではないと思います。そういった現場を目の当たりにするぐらい、この成城石井の商品は素晴らしいという状況なのです。

さらに言えば、これだけ創業から同じポリシーのもとやってきたが故に、多くの人(特に都心に住む人)にとって

「成城石井=高級スーパー」「ちょっと高いけど、美味しいものが食べられる」というポジショニングが確立しているということなのです。だから、少しいいものを買いたいと思ったら、成城石井の看板を見て、そこに飛び込むという動きができているわけです。

コロナ禍の巣ごもり需要が追い風に

これが大きく花開いたのがコロナ禍です。

コロナ禍で、外食がなかなかできなくなりました。自宅で食事を取るケースが多くなりました。

しかしなかなか作ったりするのも大変だということで、世の中テイクアウトが流行ってきました。一方で、それまでテイクアウトをやってなかったお店が、いきなりテイクアウトをやろうと思っても、テイクアウトにふさわしい良いものを作るいうのは、なかなか簡単ではありません。

(それらのお店と比較して)成城石井に行ったら美味しい惣菜が食べられるということになれば、みんな自宅で食べるために、近くにある成城石井に行くというのは、自然な流れとして考えられるわけです。

実際に先ほどの業績のところに戻りますと、コロナ禍(2020~2022年)で売上高が大きく伸びて、利益率も向上しています。

まさに「時代が、ようやく成城石井のコンセプトに追いついてきた」というところもあるのではないかと思います。やはり素晴らしい企業というのは、こうやって同じポリシーを貫いて、そこをひたすら磨きをかけることをやっている。

こういった企業こそが素晴らしい企業。長期投資にふさわしい企業だと言えるわけです。

このような流れで業績を拡大させてきて、いよいよ上場しようというところに至ったわけです。

Next: 上場後のリスクはないのか?長期投資家は成城石井をどう見るか



リスク

上場後のリスクもここで確認しておきたいと思います。

<リスクその1:コロナ特需終了>

リスクとしては、まずコロナ特需終了です。

今コロナ禍で業績が盛り上がったと言いましたが、当然アフターコロナ。コロナが終わるに当たって、特需的なものはなくなってくるということが考えられます。

これで少し業績が落ちる可能性が、もしかしたらあるかもしれない。逆に言えばローソンはコロナで業績がぐっと上がったときに「今だ!」ということで売り時を見計らったということも、少しは考えられるわけです。

これがリスクとしては残ります。

「社会がどれだけ成城石井のコンセプトについてきたかどうか」というところの見極めになるわけです。

<リスクその2:競争環境>

またリスクの2番目としては競争環境。

これは常にあるのですが、高級スーパーというコンセプトだけなら誰でもできるわけです。ライバルとして紀伊国屋とか、クイーンズ伊勢丹、あるいはデパ地下などもかなり近いと思います。

そういった競争環境はあるわけです。

ただ「高級スーパーといえば成城石井」というポジションを確立しているので、この点は結構強いと思います。

<リスクその3:出店リスク>

そしてリスクの3つ目としては出店リスクです。

これから成長していくためには、やはり店舗を拡大させていかなければいけません。ただ、無理な店舗拡大は、業績悪化の引き金となりかねません。

牛角のレインズが、無理に店舗を拡大させようとして、不振に陥った事例が過去にありました。ここのタガが外れると、ろくなことにはならないと考えます。

高級スーパーですから、どこでも出していいというわけではありません。やはりマーケットをしっかりと見極めていかなければならない。

そういう意味では、急拡大というのは難しいかもしれません。ただこれもまた、成城石井の感度を磨き続けることによって、じわじわと増やしていけるのではないかと考えられます。

Next: 北海道や九州にも展開する?予想される3つの成長戦略



成長戦略

成長戦略としては、今の話の延長線上になります。

<都心集中出店加速>

出店をしていかないといけない。

基本的にはこれまでのように、都心に集中出店していくことが考えられます。例えば都心部の成城石井の出店状況を見ると、当然小田急線の辺りから始まって新宿や、東京駅周辺には結構積極的に出店しています。

ただ、例えば品川の辺りなどは、まだほとんど出店できていません。あと高級マンションが多いと言えば、江東区豊洲の辺りとか、今晴海などの開発も進んでいます。

高級住宅街であまり出店していないところがあるのかなと思います。こういった観点でまだ都心の出店する余地は十分にあると思います。

<地方都市進出>

また今度は地方に進出することもあると思います。今、関東137店舗、近畿38店舗ということで、この辺を中心に出店しています。

まだ九州や北海道には出店していません。

基本的には大規模な都市が中心。人口密度が高いところが主なターゲットになってくると思います。

そういう意味では例えば福岡、札幌、仙台、などはまだ出店余地があるのではないかと思います。

もちろんまだ(成城石井が)認知されていない。九州に住んでいる人からしてみれば「成城石井って何?」という感じになるかもしれないので、地道な努力は必要だと思います。

しかし1回上手く出店してしまえば、高級スーパーとしての地位を確立していけるのではないかと思います。実際に対抗するようなライバルで、ぱっと思いつくところは特にありません。

ゆえに上手くやれば出店が成功するのではないかと考えられます。

<卸売>

そして3つ目の成長戦略の可能性として考えられるのが卸売です。

先ほど素晴らしい商品を提供していると言いました。これを成城石井の中だけでやるのではなくて、他の既存のスーパーなどに卸して売ってもらうというアイディアもあるわけです。

店舗を出すほどではないけど、商品を届けるにはそんなに支障がない場所なども考えられます。

例えば私は千葉の袖ケ浦に住んでいますが、あるスーパーに行って驚いたのが、あるコーナーがあってそこに成城石井の商品が置かれてるのです。「おいおいプライドも何もないな」とちょっと思ったんですが、とはいえそういった卸売事業をやっていると気づけたのが発見でした。

先ほど地方出店を話題にしました。

例えばまだ成城石井のことを知らない土地で、ある場所を借りて、まずは先に卸売で成城石井の商品の認知度を徐々に高めていく。そしていよいよ店を出店することになれば、リスクを下げながら出店戦略を担っていけるということが考えられます。

この成長戦略というのは、上場が承認されて、いよいよ上場するというときになったら、上場時の目論見書段階で紹介されることになるでしょう。それを楽しみに待っていたいと思います。

今年2022年度中に上場すると思われている成城石井。ぜひ今からチェックして、実際にお店も見ていただければと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Takamex / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2022年09月28日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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