昨晩のNY市場は、主要11業種が上昇する全面高を演じた。これは金利低下がもたらした相場だが、景気鈍化を見込んで株価が上がるという矛盾した状況だ。両手を上げて喜べる状況にはない。(『新天地の株式投資日記』)
※本記事は有料メルマガ『新天地の株式投資日記』2022年10月4日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月分無料のお試し購読をどうぞ。実際に配信されたサンプル号もお読みいただけます。
プロフィール:新天地
祖父の影響で子どもの頃から株の売買を行う。証券会社で自己売買業務を経験後に退社、現在はデイトレーダー。メルマガでは主に脱初級・中級者向けに、東証・NYの市況(市場雑感)、相場の考え方、取引手法などを解説。一般に書かれることが少ない空売り戦略や取引アルゴリズムに関してもプレーヤーの立場から丁寧にフォローする。
ほぼ全面高のアメリカ株
アメリカ株は大きく上昇した。主要11業種すべてが上昇するほぼ全面高の相場になった。ダウは一時900ドル上昇したものの、さすがに急激な戻りを受けて退け間際にやや上げ幅を縮小している。
まず「長期金利が下がった」から株が上がった。
参考アメリカ国債10年物金利日中足
先週4.0%に近づいた長期金利は一気に3.6%台に落ちた。なぜ金利が下がったかというと
1「イギリスが最高税率の引き下げを取りやめると報道されたことで英国のインフレ刺激や国債増発懸念が一旦収まりイギリス、ひいては欧米の金利が下がった」。
2さらに「国連(の貿易開発会議UNCTAD)がFRBや欧州の中央銀行に対して(発展途上国などに景気に悪影響を及ぼす)金利引き上げ金融政策を再考するように求めた」ことで利上げペースが落ちるという思惑から各国の金利が下がった。
3アメリカの景気指標(PMIや住宅販売)が押し並べて弱い数字が出たために金利が下がった。
この三つが挙げられる。債券市場はプチセリングクライマックス(金利は上昇)のような債券の売られ方をしていた面もあった。そこに相次いで「債券高の材料」が出たこと、四半期代わり債券市場にも新規資金が入ったことで一気に金利低下がもたらされた。
また、10月新四半期入りで新しい資金が入ったタイミングで株式にも押し目買いの動きが出たこと、先週末まで大きく売られていた反動が出たところで株価が上がったのは日本と同じだろう。
参考NYダウ日足
ダウは大きく下げた後で大陰線と大陽線からなる「たすき線」を描いて目先反発のローソク足。 ただし昨日はまだ「いわゆるネックラインまでの戻り」で、この後どこまで行くのか慎重に見守るべき場所になる。
市場予想を大きく下回った景況感
サプライ管理協会(ISM)が発表した製造業購買担当者景況指数が50.9と市場予想よりも低下。これはパンデミック直後の2020年5月以来ということで予想以上に景況感が冷え込んだ形になる。さらに新規受注が47.1、雇用が48.7と重要指標で予想よりも大きく50を下回った。これが金利の低下をもたらした面は大きいだろう。
加えて8月の建設支出は前月比ー0.7%と「住宅ローン(超長期金利)の上昇が目に見えて効いている」ことを示した。
今までなら「FRBプット」が働いて金利を抑制させるような数字が出てきた。ただFRBは「景気を悪化させてでもインフレ率を2%に下げるのが一番の政策目標」としているわけで、両手を上げて金利低下と言い切っていいのか?マーケットの模索は続く。
Next: 相場が上昇した場合は時価総額の大きい銘柄を買え
相場が上昇した場合は時価総額の大きい銘柄を買え
売買代金常連組はいつものように「相場上昇した場合は時価総額の大きい銘柄を買え」という動きで上昇。(ただし後述のテスラを除く)
アップル3.1%高、マイクロソフト3.4%高、アマゾン2.6%高、メタは2.1%高。
参考メタ日足
メタはやや上昇に力強さを欠いた。
半導体ツートップはエヌビディアが3.1%高、AMD4.3%高となった。半導体はロジックツートップが引っ張る形でSOX指数が3.7%高と上昇率としては今年最大級の上げになっている。
参考エヌビディア日足
半導体ではマイクロン3.2%、インテル4.6%高、ラムリサーチ6.5%高が売買代金をいつもより膨らましているのが目立つ。
個別株も大きく上昇
全面高なので何を書くか迷うが、昨日はサウジなどが減産姿勢を示したことでWTIなど原油先物が上昇。
これで原油株も商いを膨らませて上昇している。
参考WTI日足
原油は4.8%高、一時6%以上高い場面もあって値動きが激しい展開が続く。
エクソンモービルが売買代金10位に入って5.2%高、12位にオキシデンシャルペトロリウム、16位にシェブロンが入ってそれぞれ4.2%高と5.6%高。
金利低下で個人消費関連にも物色が入った。昨日大きく下げたナイキが2.7%高と反発したほかビザ2.2%高、マスターカード2.1%高、コストコ1.1%高、ホームデポ2.8%高、ペイパル1.3%高、サービスナウ3.7%高。
長期金利は低下したものの(普通は貸出金利低下を嫌って売られる)銀行株も高い。金利低下で景気が持ち直す方向に動くという連想が働いた。JPモルガン3.1%高、バンカメ2.9%高、シティ2.1%高
テスラは一人負け
一方、テスラは一人負けで8.6%安。第三四半期の生産がアナリスト予想の中央値に届かなかった(直前に台数の下方修正をしてたアナリストはいたんだが)これが単なる一時的な販売低迷ではなく、サプライチェーン問題と景気後退リスクに伴う自動車業界のネガティブさではないかと受け止められ株価が大きく下がる結果になった。
昨日は全体に大きく戻したわけだが一度企業業績に翳りが出ればその銘柄は大きく売られる。そんな今の相場の現在地を示した値動きだと思う。
参考テスラ日足
なお第三四半期の納入台数は343,830台。アナリスト予想は358,000台だった。市場はこれを半導体や部品の不足に加えて「部品と製品ともに輸送がネックになりコストも増大している」と今の株の低迷原因である「アプライチェーン問題」「インフレコスト問題」という二大重要ファクターと捉えてより売りが増える結果になったと言える。
テスラの連想からリビアン3.1%安、ニーオ1.8%安、シャオペン1.8%安とEVスタートアップは安い。ただしフォードが2.4%高するなど「EVの生産低迷は中国が中心」でアメリカではまだまだ底堅いという見方も出てた。
Next: 景気鈍化を織り込み、株価が上がるという矛盾
景気鈍化を織り込み、株価が上がるという矛盾
景気鈍化を織り込んで株価が上がるというとても矛盾した動きになった。
もちろん「景気が悪いから金利引き上げ余地が減る」から株価が上がるという発想は、従来なら正解なわけだが、今回は「景気が悪くなってでも物価上昇を抑えなければならない」という命題がある。安直に予想より景気が悪化しているから金利が低下して株価上昇としてしまっていいのかは疑問が残るだろう。
国連の無茶振り
また、国連が欧米の中央銀行に「利上げだけで物価上昇を抑え込もうというのは間違い」と指摘してきた件。
国連はインフレ対策を利上げに頼れば景気が悪化する。そうなれば非先進国に負担が大きすぎると。
代わりに供給側のボトルネックを解決しろとかいうけど、それはOPECプラスと中国に言えよって話だし、いわゆる企業に対する在庫税なんてやったら、やっぱり企業業績悪化から景気は後退するし、商品投機を抑えろとかいうけど、それをするには金利上げるのが一番手っ取り早いわけで…。
国連も「わかってはいる」んだろうけどさ。言ってることに無理はある。
(筆者注:このメルマガは新天地の考え方を書いたもので、特定の銘柄及び指数に関する商品の売買を推奨または指示するものではありません。銘柄の値動きについては想定と違う場合もあります。投資される場合は読者の方独自の責任で
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行われるようお願いします。)
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