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なぜ日本は衰退途上国になってしまったのか?30年間で日本を弱体化させた“ゆとり教育”と“円高”という米国の悪巧み=山崎和邦

約30年前、日本1990年には国際競争力は世界2位だったが、今では22位まで落ちている。この30年間で、日本はひたすら弱体化する衰退途上国に成り下がってしまった。要因は日本を貶めるために米国主導で導入された“ゆとり教育”と“円高”、そして官僚を操れなかった政治家の拙さがある。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年11月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。

プロフィール:山崎和邦(やまざき かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴61年、前半は野村証券で投資家の資金を運用する「セルサイド」、後半は自己資金で金融運用する「バイサイド」、晩年は現役研究者と、3つの立場で語ることを信条とする。2022年85歳で国際コミュニケーション学博士号を取得。

日本は衰退途上国なのか?

安倍元首相が2012年12月に「日本を取り戻す。経済を取り戻す」を標榜して、立ち上がった。ところが、今の日本は衰退国家の一群に居ると言われそうな状態になっている。

安倍政権の間に経済が活性化したにもかかわらず、何故こう言われるかというと、財源無き財政出動を繰り返し、公的債務が累積していることによる。このことに対して心配する向きは非常に多い。しかも、国の将来を憂える青壮年層ではなくて、どちらかというと高齢者層に多いような気がする。

「言って言いっ放し、責任はない」という評論家筋の動向を見ていても、そうである。2年前に流行ったMMT理論の基本は、自国で通貨を発行できる国は、いくら通貨を発行して財政赤字をつくっても、ハイパーインフレになる心配もないし、デフォルトの心配もないのであって、内閣参謀参与の筆頭だった浜田紘一博士(イェール大学名誉教授)なども、大いに一理あるなどと言って賛成していた。

米国インフレで崩れたMMT神話

しかし、米国は1980年代の伝説のFRB議長ポール・ボルカー以来の強烈なインフレになった。したがって、MMT理論の基本は崩れたということになる。このままの状態で行けば、日本は金融市場から不信任を突きつけられてもおかしくないというのが「財源無き財政出動」批判論者の言い分である。

そしてまた彼らにとって好都合なことに、財源無き財政出動の典型であった英国のトラスが1ヶ月半で辞任せざるを得なくなった。ポンドは史上最低に陥り、株式市場の反乱にも遭って、たまらず辞任した。これもまた財政規律論者の格好の例えとなった。

トラス政権交代と財政規律は確かに結びついてはいる。MMT理論を相手にしなくなった。そして日本の公的債務の巨大さを批判ばかりすることが増えてきた。しかし、批判だけでは物事は進まない。やはり、安倍元首相が言ったように「日本を取り戻す、経済を取り戻す」を具体的な策で進めなければならないだろう。

「動画」でも何度も述べたし、本稿でも何度も書いたが、大国の衰亡は敗戦によるよりも経済の衰亡から始まる。古代ローマ史以来、ほとんど例外ない。古代中国王朝も、中世欧州王朝も、現代の旧ソ連の解体も例外ではなかった。

株主ばかりに配慮し社員は雑に扱う日本企業

日本企業は、株主に対する配慮は真剣になってきている。盛んな自社株買いなども、その端的な例である。しかし、社員に対する配慮(賃上げ)への動向は希薄である。「分配と成長の好循環」は空念仏になりつつある。

トヨタは決算と同時に500億円の自社株買いの計画を発表した。同様に、自社株買いは今年の国内勢の買い越しの最大のものになっている。

結構なことではあるが、大幅な賃上げをした企業に買いが集まるという雰囲気を、株式市場がつくり出すことが望ましい。そうすると、岸田政権の進め方も容易になる。賃上げ促進税も可能になる。

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この30年間に日本が弱くなった三つの背景

日本経済が高度成長を維持して、日本企業が世界を席巻する勢いの時は、日本型の長所を認める論考が多かった。特にアメリカ発の日本型経営の賛美が流行った。これに対して、90年以降は川に落ちた犬を叩くが如く、日本型を否定する経済システムと捉える議論が圧倒的に多くなってきた。そして、最近は財政規律に対する批判が一種の流行になっている。それを脱するにはどうすれば良いかということはあまり論じられていない。

筆者は日本経済にかつての成功をもたらした、基本的な長所が失われているような感じがする。決して懐古主義に陥っているつもりはない。しかし、過去の良いところは大いに参考にして、歴史に学ぶべきであろう。日本国民に固有の基本的な長所が、この30年間で失われたわけではない。また、日本人がこの30年間で急に馬鹿になったわけでもない。

ただし、国際的な客観基準で調べる国際競争力の日本の順位は、90年には世界2位だったが、今は22位になっている。これは筆者のひがみかもしれないが、レーガン時代に日本を弱体化させる策略をめぐらしたことによる面があるような気がする。

1:1985年のプラザ合意である。円高で日本を弱らせる方法である。

2:「ゆとり教育」と称する「手抜き教育」である。

人のいい日本はやすやすと乗っかった。後者は日本側で気がついて途中で修正したけれども、元通りになったわけではない。手抜き教育を受けた者が、今の教育者になっている。これも多少は影響がある。アメリカにしてやられた。アメリカは、今では日本は強くあって欲しいと願っているが、過去にそういう経緯があった。

官僚イビリで弱体化した日本

大きいのは日本発の自ら撒いた種だ。官僚を冷遇した。内閣人事院を作って、盛んに官僚の幹部をいじくった。菅(すが)元総理は、安倍内閣の官房長官として高級官僚を盛んにイビッた。したがって総理になっても官僚は支持しなかった。1年で止めざるを得なかったのは自ら撒いた種だ。

日本にはCIAやKGBのような組織はない。全ての情報は官僚に集まる。国内は許認可関係を通して、海外は大使館出向者や現地駐在者を通して、全てが官僚に集まる、そして頭のいいアンビシャスな連中が霞ヶ関に集まった。

彼らを国費で東大を出させた。これを利用しない手はない。ほとんどすべては官僚の情報と知恵から出たと言って過言ではない。官僚をうまく使った総理が大仕事をした。吉田・岸・池田・佐藤・中曽根である。宮澤元総理は経済通で全てを分かっていながら、官僚の「先延ばし政策」に阻まれた。日本を悪くしたのも官僚であったといえるが、不良債権処理の遅れと「失われた13年」は、その官僚の介入を抑止できなかった宏池会の弱さにあった。

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黒田総裁の「最後の賭け」が財政インフレを起こす

グローバルなインフレで先進諸国の国民が苦境に追い込まれている。これは、コロナ禍を救うための緊急で大規模だった財政出動と金融政策が、大きな原因となったのであろう。

ウクライナ侵攻だけではない。原油高だけではない。経済政策の結果であると思う。単なる需給関係から来るインフレではなく、財務当局への信認低下が招いた財政インフレだという可能性が強い。

計量経済学的に実証されているわけではないが、ウクライナ侵攻と原油高を原因とする面よりも、過去の政策が原因だった可能性が大きいと筆者には思える。もしそれが本当で、財政政策主導でインフレが起きているとするならば、日銀が利上げに転じたとしても、それは景気が悪くなるだけであって、健全財政化に転ずるまでインフレは沈静化しない。

今のところ、日本のインフレは3%程度だから、欧米のような大きなインフレの波からは免れている。それはコロナ禍からの経済再開の遅れと需要回復の遅れが原因であると思うが、大きな問題はインフレに慣れていない世代が大多数となったことと、インフレは高度成長期のものであり、ある程度のインフレが経済を活性化させてきたのだという体験が全くないことにもよると思う。

「2%インフレ」は2013年春に黒田総裁が就任してからも一貫した経済政策の目標であった。それは安定的な2%インフレの目標達成が見通せないからとして「異次元緩和」を続けている。その結果として、大幅な円安が進んだ。異次元緩和の9年以上の継続にもかかわらず、「安定的な2%インフレ」の目標が達成不可能である。そこへ持ってきて欧米に激しいインフレが訪れ、日米の金利差と貿易黒字のために超円安が訪れた。

結果として、高めのインフレが継続すれば、インフレに慣れていない日本国民の半数以上の人々にインフレマインドが醸成され、広範囲な価格上昇につながる可能性はある。日本のゼロインフレという社会規範化したものが化石のようになって固まってしまい、「インフレは悪だ」という社会規範が永久凍土のように固まってしまっている。

ところで、ゼロ金利なしでは存続が難しい、収益性が低い企業が増えてしまったことに対する一つの処理の方法でもある。また、インフレ沈静を求める消費者(金利を高くすればインフレが収まると思っている)と金融緩和の期待を求める事業者との間で、日銀は板ばさみとなって動きがとれないように見えるが、黒田日銀は意図的に金融緩和を継続している。

とにかく「安定的なインフレ」を実現させて、日本経済を活性化させようというのが先決である。その結果、賃金の低迷や企業収益の悪化をサポートするために、政府は追加財政で対応し、日銀は金融緩和を続けるという枠組みがこれからも継続されるだろう。その金融と財政の協働は、インフレを確実に加速させて、円安を助長する結果となる。

日銀は金融システムの安定による経済と物価の安定、すなわち貨幣価値の安定を明文化された使命としているために、苦渋の選択として長期金利の上昇を抑え込もうとするだろう。その代償として、大幅な円安がもたらされる。

日銀が財政出動と協働するのは、究極的には国民の政権選択の結果と言えないことはない。財政・金融の結果として起きることは、究極的には政治の選択であったということになる──

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<山崎和邦の投機の流儀vol.544 11/6号>

■ 第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)全体像の中に個別の動きは旺盛
(3)10月いっぱいの日経平均の動き
(4)好決算銘柄に買い、東京市場のストックマインドは生きている。
(5)日本株の相対的強さは国内勢にある。
(6)著名な為替ストラテジスト7人への緊急為替アンケート
(7)FRBが0.75%ずつ、4連続の利上げ
(8)11月8日、米大統領中間選挙

■ 第2部:中長期の見方
(1)株を中長期持続計画で買う局面は、如何に判断するのか?
(2)財政規律の批判ばかりしていてもコトは治まらないし、始まらない。
(3)分配と成長の好循環」─財政規律の異常を解決する法はこれしかない。

(8)日本の「失われた30年」は、次に中国へ移る。
(9)米中間選挙ラリー中国経済の衰退─中華人民共和国そのものの衰退
(10)米国社会の保守対リベラルの溝
(11)財務官の先輩、後輩に酷評される黒田日銀総裁の破綻 
近年稀に見る

■ 第3部;読者との交信蘭

(1)T様との交信(10月30日受信) 
(2)論客H様との交信(11月1日着信)

[ 来週号に回すもの ]

〇我が恩師も、今もし在ればプーチンに暗殺されたかもしれない。

〇景気循環消滅論が登場することがあるから、幻惑されないようにしよう。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年11月6日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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