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韓国「物流スト」終了で見えた世界最凶労組の内部分裂、4兆ウォンの損害を誰が埋める?政府の強攻策を国際労働機関は問題視

韓国で起きた物流ストライキについて解説する。12月9日には労働組合でストを続行するかしないかの総投票があり、賛成多数で終了した。問題は民主労総がここまで完全敗北を屈したことは初めてだということ。そして、スト終了の総投票から組織の内部分裂が明らかになっている。(『 2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 』)

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※本記事は有料メルマガ『2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済)』2022年12月13日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ガソリンスタンドにガソリンが無い…!? 物流ストの被害額は4兆ウォン以上

11月24日から12月15日の15日間、民主労総の下部組織で、韓国の貨物運転手などで構成される「貨物連帯」が物流ストライキを行った。被害額はトータルで4兆ウォン以上(日本円にして4,188億円)という天文学的な損失となった。

問題は、この4兆ウォン以上の損失を「誰が払うのか」だ。

6月にも起きたストライキは企業が損失を埋めることで決着した。とはいえ、6月の損失は1兆6,000億ウォンぐらいだった。今回はほぼ2.5倍もある。

さらには、貨物連帯が物流ストをやめたからと言って、このまま「お咎めなし」なんてことは韓国の国民が許すはずもなかろう。何しろ、物流ストで首都圏中心に全国100ヵ所以上でガソリン不足が発生した。

約2週間後に組合員が業務に復帰してガソリンを運んできたからといって、「次から気をつけてくださいね」で済むわけもなかろう。もちろんガソリンは受け取りはするだろうが、休業を余儀なくされたガソリンスタンドからすれば、ぶん殴ってやりたい気持ちだろう。

組合側としては、ストを起こしたものの要求通りの待遇を得られないまま終了し、誰が見ても完全敗北である。

責任転嫁が好きな韓国では、まもなく「上層部が悪い」と言い出すだろう。もちろん上層部は、先にスト続行の是非を問う総投票を行って、責任を組合員になすりつけている。

そして、この総投票が面白いのでくわしく見ていこう。

スト終了の総投票で見えてきた内部分裂

まず、筆者が総投票について知ったのは12月9日の朝の速報記事だった。ちょうど、物流ストを伝える動画を作成していたので慌てて追加したのだが、まさに急転直下の展開だった。

その前日には、業務開始命令が鉄鋼・石油化学に出されたり、命令を拒否したセメント業界の組合員が告発されていた。総投票の時点で、スト継続が困難であったことは言うまでもない。政府の強攻策が貨物連帯の組合員を追い詰めていった。

そして迎えた総投票である。

このとき、2万6,144人の組合員のうち13.7%が投票に参加し、うち61.8%がスト終了に賛成、37.6%が反対した。なんと2万6,144人の13.7%だから約2,500人ぐらいか。その2,500人の6割が賛成なので、1,250人の投票でスト終了である。

つまり、残り2万人以上の組合員は総投票にすら参加していない。そして、これは明らかにボイコットなのだ。なぜなら、上層部が組合員に責任を押しつけるために総投票をいきなり始めたからだ。

Next: 世界最凶の労働組合が完全敗北、そしてなぜかユン氏の支持率が急上昇



世界最凶の労働組合が完全敗北

朝鮮日報に次のように報じている。

民労総内部の論理では重要な決定を下す際には最初に内部の承認手続きを経るはずだが、今回は「スト撤回を決めるので組合員が承認してほしい」ではなく、「スト撤回かどうか組合員が投票で決めてほしい」となったからだ。貨物連帯組合員の間からは「責任を下に押しつけた」などの批判も相次いでいる。9日に行われたスト撤回投票の投票率は13.67%と伸び悩んだ。そのため「組合員たちは貨物連帯の現執行部を事実上ボイコットした」とまで言われている。

出典:韓国の物流スト、異例の自主的終了…前例なき「政府への完敗」-Chosun online 朝鮮日報(2022年12月10日配信)

このように上層部は組合員に責任を押しつけ、ほとんどの組合員はボイコットした。

では、何故ここまで組合員は消極的だったか。毎月のようにストを行う彼らが敗北する光景など筆者は今まで見たことがなかったが、完全敗北とは驚いた。前述の記事の続きをさらに一部抜粋する。

労働団体などからは「1995年11月に民労総が発足して以来、今回のように政府に完敗するのは前例を見いだしがたい」などの声も出ている。民労総が政府の原則対応に押され、自らストを撤回するケースはこれまでほぼなかったからだ。

出典:同上

つまり、1995年11月から27年間、負け知らずだったのだ。だから、労働貴族とまで言われていた。

民主労総の組合員は66万人ほどいるわけだが、代表企業にあの現代自動車がある。世界最凶の労働貴族を抱えている最凶の労働組合である。

それが完全敗北したわけだから、これはもう前代未聞である。

さらには政府が手打ちとして出していた安全運賃制の3年延長も再検討となり、もう飴ももらえない可能性が出てきた。民主労総の上層部はまさにパニックである。

民労総は当初、貨物連帯ストを通じて黄色封筒法を成立させ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権による労働市場改革に反対する力を結集する計画だった。しかし貨物連帯がストを撤回したため、民労総では闘争の原動力そのものが失われ、今後の方向性を最初から決める必要まで出てきた。

出典:同上

なぜかユン氏の支持率が急上昇?

民主労総の野望はここにきて完全修正やむなしと。次にまた物流ストライキをしても、業務開始命令を出されたら、また同じ結果になるのだ。

ただ、政府も業務開始命令を出すには問題がある。それは韓国の裁判所がそれを認めるかどうかの判断が出ていない。

さらに、国際労働機関(ILO)からは韓国政府の強攻策は「結社の自由に違反」するという文書が通達されている。政府は矮小化しているが、ストライキ権を封じ込めるやり方であることはいうまでもない。

もっとも、韓国では国際法や法律よりも、国民情緒法が優先される。しかも、今回の件でユン氏の支持率は38%まで急回復した。誰が見ても物流人質にストされたら迷惑このうえないためだ。

このように韓国では今後、政府を相手取ってストライキをすることは難しいと言える。民主労総がここからどう出るのかはわからないが、黒幕の野党と北朝鮮はユン氏に敗北したことになる。

これで政治的なストは終わりを迎えるだろうか。韓国の裁判所が「政府の業務開始命令は憲法違反」などと判断したら笑えるのだが……。

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  • 534回「ガソリンスタンドにガソリンがない」ー韓国物流ストが招いた悲劇!(12/4)

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2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 』(2022年12月13日号)より一部抜粋・再構成
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