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ゼロコロナ失敗…中国経済はあと何年で崩壊する?外国企業の“中国離れ”と不動産バブル崩壊を経てどこへ向かうのか=栫井駿介

これまで中国経済は成長を続けてきました。しかしその裏にあるのは、決して輝かしい経済成長とは言い切れません。目先中国でゼロコロナ政策が行われて、一部では反対するデモが起きています。今後、中国はどのような経済をたどるのか?世界にどのような影響を与えるか?ということを、改めて考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

ゼロコロナ政策の失敗

2022年の頭に「ユーラシアグループ」というコンサルティンググループを主催するイアン・ブレマー。
ここが出している世界の重大リスクのトップにあがったのが、中国ゼロコロナ政策の失敗。
※参考:2022年10大リスク – ユーラシア・グループ(pdfファイル)

中国では少しずつ緩和の動きもあるのですが、公共交通機関に乗るために陰性証明が必要など、まともな経済状態を送れる状況ではありません。

それに対して抗議活動の声が広がっています。
単純にコロナ反対ということではなく、習近平国家主席の退陣デモという今まででは考えられないことが起きているのです。

国家主席として異例の3期目。
もはや永久皇帝化している習近平氏。
当然批判をしたら、何かしら危険な目に遭うというのは目に見えています。

そのリスクを冒してでも抗議の声が上がっています。
ゼロコロナの失敗が際立っている状況です。

中国経済はどのように成長してきたのか?

そもそも中国経済はどのように成長してきたのか?
その要因は何だったのか?
そしてこれからどうなるのか?

中国のGDPは、1980年代ずっと地を這っていました。
1990年代に少しずつ増え、2000~2010年から一気に成長が加速。

2010年には日本を追い越し、2028年頃には米国を追い越して、世界最大のGDPを誇る国になると言われています。

成長要因① 文化大革命からの復興と改革開放

成長の一番の大きな要因は、文化大革命からの復興と改革開放。

中国は社会主義国家です。
社会主義国家というと、旧ソ連に代表される「国がこういうふうに生産をやるんだよ」「農業をやるんだよ」と指導をして、5ヶ年計画の中で経済を動かしていこうとするものです。
それを中華人民共和国が設立された1949年から、忠実にやってきたわけです。

それを建国の時からやってきたのが「建国の父」とされる毛沢東。
この人は経済政策として、大躍進政策を行ったのですが、これが大失敗でした。
飢饉が起きるようなこともありました。

その時期、中国経済は正直全くと言っていいほど成長せず、餓死者もいっぱい生む世界。
世界最貧国の一つでした。

<文化大革命>

毛沢東が一時期トップの座から退き、新しく政権を担っていた劉小奇氏らが一部資本主義的な動きを取り入れようと考えて政治を行っていました。
しかしそれを気に食わなかった毛沢東は、文化大革命という権力闘争を起こし、多くの人を粛清、殺してしまったのです。

<改革開放>

中国はますます荒廃して、本当にボロボロな状態でした。
しかし毛沢東が亡くなって、大きな動きを行ったのが鄧小平氏。
鄧小平氏が行ったのが改革開放です。

資本主義の考え方を取り入れたり、外国資本を呼び込んだりしたのが1978年からです。

これによって中国経済は成長。
成長というよりは、どん底から這い上がってきました。

改革開放による成長が、これまでの高い中国の成長率を支えている大きな要因です。

<毛沢東への回帰?>

習近平氏の動きを見てると、もはや毛沢東への回帰なのではないか?(と思われます)

例えばそのアリババ集団のようにすごく成長してきた民間企業を叩きます。
今回の中国共産党大会でも、経済に強い李克強氏を権力の座から外して、自分の思想を政治の中核に据えようという動きを行っているのです。

それは非常に不穏な動きと言えます。

もし習近平氏が毛沢東への回帰だとするならば、もう一度社会主義の思想、やり方に戻るということです。

Next: まだ先進国とは言えない?GDPの成長を支えているのは不動産



成長要因② 人口ボーナスと外国資本

成長要因として人口ボーナスがありました。

1982年の人口ピラミッドを見てください。
15歳から19歳以下の層がすごく大きくなっていることがわかります。
ピラミッド型になっているということは、これから働き盛りの人たちが増えて、彼らの労働や商品によって経済が成長します。

1982年から近年までは、またその層が活躍することによって自然と成長するのです。

必ずしも中国が特別素晴らしい経済政策をとっていたわけではありません。

中国は世界最貧国でしたから、そこに旨味を見つけたのが日本の企業でもありました。
中国に工場を建設することで、彼らを安い労働力で雇えます。
しかも日本からも近いということで、世界の工場として中国を発展させてきました。

成長要因③ 不動産を軸とする資本形成

成長要因の3つ目は、不動産を軸とする資本形成。

中国は実は不動産の私的所有というのを認めていません。
不動産は全て国、中国共産党のものです。

ではなぜ不動産ビジネスが生まれるのか?

政府が不動産の使用権を民間に売り渡すことによって、成り立っています。
それで何が起きるかというと、売り渡してお金が入ると、地方政府を中心とする人たちは豊かになります。
さらに払下げを受けた民間は、それをどんどん転売することによって、豊かになってきました。

彼らが中国の経済を支えていました。
しかし実態を見ると、不動産が素晴らしいものかというと、必ずしもそうは思えません。

例えば、私は上海から南京に向けて高速鉄道で行ったのですが、その間は砂漠と何もない荒野です。
ところが駅の近くになると急に(この写真のように)高層ビル群が現れます。

しかしその実態としては「(マンションの)中には人が住んでいないんじゃないか」

上海で中心部にこういったマンションがいっぱい建っています。
日本で言うならば、いわゆる公営団地みたいなイメージでした。
これがなんと普通の部屋で1億円を超えるようなものなのです。

【参考】GDP内訳

実際に中国のGDPを見ても、総固定資本形成というのが43%を占めています。
住宅とかを建てることによるGDPの押し上げ効果が非常に大きかった。

それに対して、中国で少ないのが個人消費です。
個人消費は国内の実体経済を反映するものだと思うのですが、これが39%しかありません。

すなわち中国は、国の中での需要というのは実はあまりないのです。
一方でGDPの成長を支えているのは、不動産になります。

GDPで日本を追い越して、アメリカにも追いつくという勢いですが、人口考えるとまだまだです。
日本の人口が1億2,000万。中国が14億ですから、1人当たりGDPが10倍あってもおかしくありません。
これがわずか3~4倍というところです。

まだまだ中国は貧しくて、国内消費が成熟していない国ということ。
いわゆる中進国、先進国ではまだないのです。

Next: 向上心の無い「寝そべり族」が問題化、一人っ子政策の弊害は多い…



これからの見通し

<改革開放>

実は習近平氏の根本にあるのは、鄧小平の復讐と毛沢東礼賛。

これは習近平の生い立ちにあります。
簡単に言うと習近平の父親が鄧小平にいじめられて、一時は投獄されたり、市中引き回しにあいました。
国家の反逆者だということで、プラカードを掲げられて殴る蹴るの暴行を加えられる。
幼い習近平はそれを見ていました。

一方で、かつて習近平の父親の命を救ったと言われているのが毛沢東でした。
そういった経緯があって、習近平はとにかく鄧小平の実績をこの世から抹消したいのです。

そんな中で国内企業をまず潰します。
それからGDPが世界二位になったことで、米国からは非常に警戒されています。

だからトランプ政権下では、中国の製品を一部輸出入をしないということもあり、大きな企業が育ちにくいのです。
大きな企業、(例えば)アリババなどが成長し、世界的企業が出てきたら中国は、先進国に仲間入りできる可能性がありました。
しかし習近平自らその芽を摘んでしまいました。

なぜか?

習近平氏は世界的な企業を作り上げる、世界経済で一番になるということよりも、大事なのは中国共産党の一党独裁を守ることだからです。
その流れの中で(経済に強い)李克強を権力から排除したという動きがあります。

<人口問題>

人口ボーナスで経済成長してきたのですが、人が増えすぎたということで、一人っ子政策が1979年にスタート。

数が減るっていうのはもちろんなのですが、一人っ子ですから甘やかされます。
わがままに育てられ、小皇帝化。

それまでは、日本の高度経済成長期のように勢いよく取り組んできた人たちが、中国の成長を支えてきました。
しかし一人っ子で小皇帝となった人たちは、そんな意欲もありません。

高学歴でも望む仕事に就けず、安い賃金で働かされ続けるので

「そんな状態はいやだ」
「そんなことするぐらいなら、家で最小限の生活・最小限のコストで生きて、寝そべっているだけの方がいい」

という思想が中国の中で広まりつつあります。

一部国内の報道でも話題になりましたが、「寝そべり族」と言われるものです。
こういった動きが起きています。

ですから人口問題というのも、決していい方向に働かないと思われます。

<不動産>

本来は消費主導。
国民を豊かにして消費主導に変換し、不動産問題を軟着陸させるべきでした。

これもやはり上手くいっていない。
まだまだ国内の消費は増えないですし、むしろ習近平としては「贅沢は敵だ」みたいなことを言って、派手な消費を抑え込みます。

裏にあるのは債務問題。
不動産を買うときに必ず出すのが債務、借金です。

不動産価格が下がると、借金が返せなくなり、経済の混乱をもたらす。
富裕層が没落してしまう可能性があります。

Next: ゼロコロナ政策失敗……習近平政権への影響は?



ゼロコロナ政策失敗……習近平政権への影響は?

ゼロコロナ政策失敗で、習近平政権どんな影響があるのか。

一部では習近平政権転覆への第一歩みたいなことも言われています。
私はそうなるとは思っていません。
というのも、今少しずつ緩和している。

もう少し長いスパンで見ると、習近平政権になるまで中国は成長を続けてきました。
そこで育った人たちは、中国共産党を「経済政策としてはうまくやった」と支持はなお高い。
したがって、転覆というのは現実的ではないと今の段階では感じます。

ただしこのあとゼロコロナが続けば、企業の中国離れが加速する。

中国におけるサプライチェーンのリスクです。
ゼロコロナが続くと、工場が止まる可能性があります。

労働者は、さきほど寝そべり族にあったように、いい仕事につけて、頑張っても良い給料がもらえません。
やる気を失って、やがてじわじわと国内経済が衰退していくというシナリオが読めます。

中国の流れを考えるならば、それまでに衰退して、そして大混乱。
そのあとでもう一回復活する可能性があります。

もちろん何十年スパンの話です。
そうなるまでは、正直あまり期待できない。
中国経済はどちらかというと、後戻りをしている段階ではないかと思います。

すでに起こった未来

将来というのは、そこに起きている変化を観察すれば、その先にある変化というのはおよそ見通せる部分があります。

それが人口問題であったりするのですが、人口問題が最も重要であるといったのが「マネジメント」という本の作者でもあるピーター・ドラッカーです。
この方が出している本の中に「すでに起こった未来」があります。

ここに書いてあることを読み上げると

「重要なことは既に起こった未来を確認することである。
既に起こってしまい、もはや元に戻ることのない変化。
しかも重大な影響力を持つことになる変化でありながら、まだ一般には認識されていない変化を自覚しかつ分析することである」

今回は中国経済の話でしたが、これは投資についても常に言えることだと思います。
企業や経済におけることを観察して、観察しただけでまだ足りなくて、それを分析します。

分析して自分なりの知見を得ることによって、そこから何が起きるのかということは、おのずと見えてくるところがあります。

ぜひ皆さんも、経済人あるいは投資家として、目先あなたの周りで何が起きているかということを考えて、将来の見通しを立てて、あなたの行動に繋げていただければと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2022年12月19日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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