マネーボイス メニュー

2023年、日本株は上がるか?「買い手が見えない。ボラティリティは高い」と言える根拠=矢口新

今年の日本株は上がるか?投資家が集まる新年会で、私は「日本株の買い手が見えない。ボラティリティは高い」と発言したが、その根拠を補足しながら解説したい。(『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』矢口新)

【関連】会社員はやっぱり損?国民年金「月5万円」維持へ厚生年金で穴埋め、それでも今の高齢者を「ズルい」とは言えぬワケ=矢口新

※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2023年1月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

「日本株の買い手が見えない。ボラティリティは高い」

先日「投資の学校」主催の新年会があった。締めの講師連の一言で、私のようにデータをもとに発言している優秀な講師が、「今年のボラティリティは低い、日本株は上がる」と言った。その直後に話した私は(よせばいいのに?)「日本株の買い手が見えない。ボラティリティは高い」と、同氏を真っ向から否定する発言をした。

私が、ボラティリティが高いと述べた根拠は、インフレ、景気後退懸念、不良債務懸念、金融正常化、財政規律・増税リスク、地政学的リスク、各国の社会不安の高まりなど、株価下落の要因が満載なのに対し、市場に滞留している資金は未だに膨大で、買い材料には反応してくると思われるからだ。

そのまま私は2次会に出ずに帰宅したので、同氏の根拠は知らない。しかし、私は付け加えるべき点を、付け加えなかったことに気付いた。同氏や新年会に参加してくれた人たちに付け加える代わりに、ここに私の根拠を述べておきたい。

付け加えるべき点は、「下げれば買い手がいるが、この水準よりも上には(日本株の買い手が見えない)」だ。そして、見方によれば、ボラティリティは高くない。

私の見方は基本的に長年変わっていないので、同じことを繰り返すことになるが、下げれば年金が買いだす。また、もっと下げれば日銀は買い支える以外に選択肢がないというものだ。一方で、上げれば日銀は買わないし、年金は売ってくるのだ。そして、そうした年金の動向が支配的な市場ならば、短中期は別として、日本株の中長期的なボラティリティは高くない。

その根拠は、日本取引所グループが公表している投資部門別売買動向にある。これは年間の数値なので、短期的な売買の数値はゼロとなってしまい、多くは長期的な売買の数値だけが残る。つまり、朝買って昼過ぎに売る人の売買はゼロ。期初に買って期末に売る人の売買はゼロ。買い戻し前提の空売りはゼロ。結果的に来年にまで持ち越すような売買だけが記録として残るのだ。

参照図1:投資部門別売買動向(出所:日本取引所グループ、2005年~22年)

ここで、左端の証券自己は無視していい。証券会社は発行市場との関係で自己勘定に残っているだけで、買い手として保有している訳ではないからだ。

左から2番目の信託銀と都銀等を比較してもらいたい。日本の信託銀行を合わせた2022年3月末の銀行勘定総資産は136.8兆円で、メガバンク1行にも及ばない。それなのに、株式市場での存在感は100行近い全銀行よりもはるかに大きい。これは信託勘定のためで、具体的にはGPIFに代表される年金勘定のためだ。つまり、ここでの売買は年金のものだと見ていていい。

信託銀の2007年までの大幅な売り越しは、02年4月1日以降からの年金代行返上売りが続いてきたことを示唆している。08年から11年までの買い越しはGPIFによる再投資によるものだ。12年と13年の売り越しは、株価上昇で株式保有比率を超えたための調整売りだ。そのため、GPIFは14年10月に運用方針を見直し、株式比率を12%から25%へとほぼ倍増させた結果、18年まで買い越しが続く。ところが株価上昇で19年に25%に届いてしまい、以降は株価が上げれば売り、下げれば買いと25%維持の調整を繰り返している。

次の生損保、その次の都銀等は基本的に売り越しを続けている。これは超低金利政策による運用難のためで、昔買った株式の益出し売りで、決算の数値を押し上げていることを示唆している。

事業法人は買い越しが続いているが、これは自社株買いが主な要因だ。個人は巨額の売り越しが止まったところ。外国人はここ8年間売り越し基調でいる。日本銀行は巨額の買い越し。他はあまり大きくない。

Next: 異次元緩和は続いている?日銀のいつもの「マインドに訴えかける」手口



直近2年間、売り手は投信・年金で、買い手は事業法人だけ

これを株価が急騰し始める直前の2012年からのチャートに、兆円単位の売買だけの売りを上部に、買いを下部に重ねてみた。

参照図2:投資部門別売買動向(出所:日本取引所グループ、兆円単位:2012年~22年)

これで見ると、直近2年間は投信・年金が売り手で、買い手は事業法人だけだったことがわかる。

異次元緩和は続いている?

日銀は異次元緩和のETF購入により、日本企業の最大の株主となった。世界の中央銀行で民間企業の株式を保有しているのは日銀だけだ。

日銀の異次元緩和は続いている。12月20日の会合では10年国債の変動幅の上限を0.25%から0.50%に引き上げたが、黒田総裁はこれを「利上げではない」、「市場機能を改善することで金融緩和効果をより円滑に波及させる趣旨だ」と、金融緩和効果を狙ったものだと説明した。つまり、引き上げが金融緩和だと言うことだ。実際に、日銀のホームページでも長期金利の方針は「ゼロ%程度」のままだ。

参照図3:日本銀行ホームページより(2023年1月19日時点)

日銀によれば異次元緩和は続いているが、マネタリーベースの月間平均残高は2022年4月の6,830,731億円をピークに減少している。また、コロナ禍中に12兆円に倍増させたETF購入枠も維持したままだが、2年連続で11兆円以上使い残した。

つまり、事実上の引き締めは始まっているのだが、金利が上昇されては困るので、緩和は継続中だと得意の「マインドに訴えかけて」いるのだ。

日銀は日本国債を発行残高の5割以上保有している。20数年超低金利が続いてきたために、保有平均利回りが10年債換算で0.25%程度だとも言われている。つまり、0.25%で600兆円近く保有しているために、現状では巨額の評価損を抱えている。これが雨宮副総裁によれば、「1%の金利上昇で28.6兆円、2%で52.7兆円、5%で108.1兆円」に膨らむという。

つまり、0.50%での「指値オペ」は事実上のナンピン買い、1月18日会合での金融機関への「共通担保資金供給オペ」は、銀行にもナンピン買いの手伝いをお願いするというようなものなのだ。暴挙だと言っていい。

また、そうした資産に対する主な負債は1月18日時点では512兆円の当座預金だが、1%の金利上昇で5.1兆円の負債コストが増加する。金利上昇で債務超過になりかねないのは、一部の地銀だけではないのだ。

これが示唆しているのは、アベノミクスに付き合ったために、財務が大幅に悪化した日銀には、株価下落の評価損を受け入れる余地がないということだ。だからこそ12兆円の購入枠を維持したままでいる。

Next: 日銀に株価を買い支える余力なし?2023年の日本株はどうなるか



2023年の日本株はどうなるか

図2のチャートを参照に、これらを整理すると、2万4,000円を下回る水準では年金や日銀の買いが期待できる。ここから上げれば日銀は買わず、2万8,000円を超える水準では年金が売ってくる可能性があるということだ。

例年通りだと、株価を押し上げてくれる期待があるのは事業法人だけしかない。しかし、自社株買いが大きいということは、それより有効な資金の使い道が見つからないということを示唆している。日本の経済規模は1997年度に事実上のピークを付けているので、企業活動もそれなりでしかないのかもしれない。これは、税制改革など抜本的な政策変更がなければ、自社株買いが続く可能性が高いことも示唆している。しかし、それは株式市場が魅力的になったことは意味しない。つまり、現状のままでは、事業法人以外の買い手が期待薄かも知れないのだ。

世界はインフレ、景気後退懸念、不良債務懸念、金融正常化、財政規律・増税リスク、地政学的リスク、各国の社会不安の高まりなど、株価下落の要因が満載だ。個人の財布もインフレや住宅ローンの引き上げで、可処分所得が減ってきている。

そんな中で、日本株の高値を買う人がいるのなら、私こそ知りたいと思っている。

続きはご購読ください。初月無料です

【関連】30年ぶり賃上げがもたらす最悪の格差社会。恩恵のない弱者と年金生活者は物価上昇で火の車=斎藤満

<初月無料購読ですぐ読める!1月配信済みバックナンバー>

※2023年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2023年1月配信分
  • 今年の日本株は上がるか?(1/23)
  • リスク管理を忘れない(1/16)
  • 農業守ることこそ国防の要(1/10)
  • 昨年12月に中国で起きたこと(1/4)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は、矢口新氏のメルマガ『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』2023年1月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に 今月分すべて無料のお試し購読 今月分すべて無料のお試し購読 をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2022年12月配信分
  • 日銀の政策「正常化」は行き詰まりの露呈(12/26)
  • FTX創業者の逮捕と、暗号資産という「通貨」(12/19)
  • ゆがめられたコロナ対策(12/12)
  • 他生物に操られる(12/5)

2022年12月のバックナンバーを購入する

2022年11月配信分
  • FTXの破綻と、デジタル法定通貨(11/28)
  • 日本には有能で、創造的な起業家が多数いる(11/21)
  • 「戦争」に対する金融機関にいる人間の見方(11/14)
  • 英トラス首相辞任が投げかけた問題(11/7)

2022年11月のバックナンバーを購入する

2022年10月配信分
  • ドル円相場の見通し(10/31)
  • 日本は過剰債務の「深刻実態」を乗り切れるのか?(10/24)
  • 日銀の市場介入(10/17)
  • 不思議の国、日本(10/11)
  • 禁止はできるが、促進の強制はできない(10/3)

2022年10月のバックナンバーを購入する

2022年9月配信分
  • 先につながる投資手法(9/26)
  • 市場集中制とOTC市場(9/20)
  • 生き残ってこそ未来がある(9/12)
  • 1人の力(9/5)
  • 先週の主な経済ニュース(9/5)

2022年9月のバックナンバーを購入する

2022年8月配信分
  • 米連銀、「正常化」の手を緩めず(8/29)
  • 民主主義の危機(8/22)
  • ソフトバンク・ビジョンファンドが危険な理由(8/15)
  • 台湾問題と日本(8/8)
  • ライバルを叩く(8/1)
  • 先週の主な経済ニュース(8/1)

2022年8月のバックナンバーを購入する

2022年7月配信分
  • 貯蓄は必要か?(7/25)
  • ユーロドルのパリティ割れと、ドル円(7/19)
  • 安倍晋三元首相暗殺に思うこと(7/11)
  • 先週の主な経済ニュース(7/11)
  • 二者択一という不毛の選択:その1・その2(7/4)

2022年7月のバックナンバーを購入する

2022年6月配信分
  • 築城十年、落城一日(6/27)
  • 先週の主な経済ニュース(6/20)
  • 誰も見たことがない相場環境(6/20)
  • 財政健全化は、過去の遺物?(6/13)
  • これからの投資(6/6)

2022年6月のバックナンバーを購入する

2022年5月配信分
  • ロシアの苦戦と、戦争の壊滅的な拡大懸念のコピー(5/30)
  • ロシアはなぜNATOへの新規加盟を嫌うか?(5/23)
  • 先週の主な経済ニュース(5/16)
  • ドル円130円超えなのに、日銀はマイナス金利政策を継続(5/16)
  • 金融引き締め本格化(5/9)
  • 生保各社、ヘッジ外債圧縮か?(5/2)

2022年5月のバックナンバーを購入する

2022年4月配信分
  • 日本はロシアと戦争する覚悟があるか?(4/25)
  • 先週の主な経済ニュース(4/18)
  • 人々の生産能力を信頼しない税制(4/18)
  • パラレルワールド(4/11)
  • ウクライナ戦争、中国の対応(4/4)

2022年4月のバックナンバーを購入する

2022年3月配信分
  • 先週の主な経済ニュース(3/28)
  • 助けたい(3/28)
  • 目には目を歯には歯を、でいいのか?(3/22)
  • 報道バイアス(3/14)
  • ウクライナ戦争で、わが身を思う(3/7)

2022年3月のバックナンバーを購入する

2022年2月配信分
  • 先週の主な経済ニュース(2/28)
  • コロナ禍より大きかったコロナ対策禍?(2/28)
  • ロシアとウクライナ(2/21)
  • ユーロはいかに欧州を分断したか(2/14)
  • 非伝統的相場の終り(2/7)

2022年2月のバックナンバーを購入する

2022年1月配信分
  • 相場のメンタル(1/31)
  • ウィズ・コロナのリスクとリターン(1/24)
  • ウィズ・コロナのリスクとリターン(1/24)
  • 政府の財政収支黒字化見通し、27年度から26年度に前倒し(1/17)
  • メタバース内の私は、なりたい自分のコピー(1/11)
  • 資本主義は「機能する、しない」という不毛の理論(1/4)

2022年1月のバックナンバーを購入する

【関連】竹中平蔵、ブラック企業の生みの親。この男の「人材使い捨て」思想が日本の若者を今日も殺している=鈴木傾城

【関連】日本経済は「安倍投獄」で大復活する。国際競争力を取り戻す政権交代シナリオの核心=中島聡

【関連】仕事は60歳でスパッと辞めよ。人生100年は嘘、死ぬ間際に後悔しない「FIRA60(ファイラ60)」の人生プラン=榊原正幸

image by:Keisuke_N / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』(2023年1月23日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―

[月額880円(税込) 毎週月曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
ご好評のメルマガ「相場はあなたの夢をかなえる」に、フォローアップで市場の動きを知る ―有料版― が登場。本文は毎週月曜日の寄り付き前。無料のフォローアップは週3,4回、ホットなトピックについて、より忌憚のない本音を語る。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。