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ゆうちょ銀行株の売り出しは買いか?すぐ売れば儲かる?長期投資家が見るべきリスク、他のメガバンクとの比較も=栫井駿介

今回は、株式の売り出しが行われようとしているゆうちょ銀行についてです。その売り出しに応じて買うべきかどうか考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜ今?ゆうちょ銀行の売り出し

日本郵政が保有している傘下「ゆうちょ銀行」株の一部を売却するとの報道が出ています。

日本郵政は27日、保有する傘下ゆうちょ銀行株の一部を国内外で売り出すと発表した。タームシートによると、国内外のオーバーアロットメントを含めた売り出し総数は10億8900万株、売り出し総額は約1兆3000億円となる。

※参考:日本郵政がゆうちょ株一部売却へ、総額1.3兆円-比率65%以下に – Bloomberg(2023年2月27日配信)

この売り出しがなぜ今なのでしょうか。

まず、2007年に小泉政権での郵政民営化方針により株式会社化しました。

2015年にようやく上場しましたが、現在は日本政府を親会社に持つ日本郵政が89%の株式を持っていて、実質的には政府の孫会社という状態です。

そこから、日本郵政の持株比率を50%未満にして、本格的な民営化を目指しています。

また、タイミングとして、足元で日銀の金利の上昇期待があり、銀行株が上昇しています。

ゆうちょ銀行も例外ではありません。

ゆうちょ銀行<7182> 日足(SBI証券提供)

日本郵政や証券会社は当然高い時に株を売りたいので、売り出しには千載一遇のチャンスがやって来たと言えます。

ゆうちょ銀行を分析

このゆうちょ銀行を買うべきかどうか。

長期的に考えるならば、企業のファンダメンタルズを見る必要があります。

<業績>

ゆうちょ銀行<7182> 業績(SBI証券提供)

これが業績の推移です。

全体的に横ばいかやや右肩下がりの印象です。

銀行のビジネスモデルでは、低金利下では苦しい状況となってしまいます。

だからこそ、今回の金利上昇による業績の回復期待で株価が上がっている側面があります。

銀行のビジネスモデルとしては、お金を預かってその預かったお金を貸し出したり有価証券に投資したりして金利収入を得る、というものです。

よって、銀行は”お金を預けてもらう”ことが重要になるわけですが、その点ゆうちょ銀行には強みがあって、ATMは全国に約31,700台、郵便局は約24,000店もあり、貯金は約190兆円も集まっています。

その190兆円を運用するわけですが、ゆうちょ銀行はこれまで政府系の銀行ということで、ほぼ国債によるかなり手堅い運用を行ってきました。

しかし最近では、外国の投資信託や債券への投資を増やして収益を上げようとしています。

Next: 今後の成長余地は?長期投資が見るべきリスクとメガバンクとの比較



<今後の成長>

今後の成長余地はどうでしょうか。

足元で金利が上がっていて、10年国債の金利の上限値が0.25%から0.5%となったので、単純に考えると債券からの利息が倍になってもおかしくない。

支払うべき預金金利に関しては、今はマイナス金利の状況下でギリギリまで下げているので急に上げる必要はなく、利ざやが取りやすくなります。

よって、このまま金利が上がるのであれば収益の改善が期待できます。

さらに、外国証券等のリスク性資産への投資やコストの削減を行い、収益を上げようとしています。

<リスク>

リスク面を考えてみます。

今は将来への不安からか、実は全体の貯金自体は増えています。

しかし、大きな流れでは「キャッシュレス化」が進み、現金を預けたりおろしたりすることが減ってくると考えられ、預金(=投資資金)を今のように確保できるか疑問です。

また、リスク性資産への投資を増やすということは、そのまま”リスクが増える”ということにもなります。

金利の上昇が期待されていますが、結局そこまで上昇しない可能性も考えられます。

<長期投資家としての見方>

ゆうちょ銀行に対する筆者(つばめ投資顧問)としての見方は以下になります。

成長性や資本収益性が低く、それなりのリスクはある。

配当を目的にするにしても、もっと安定性が高くて利回りが良い会社があるのではないかと思います。

メガバンクと比較

他のメガバンクと比べてみましょう。

PERが高いということは一般的に「成長性がある」ということですが、ゆうちょ銀行が他行に比べて成長性があるのか疑問があります。

ROEを見れば分かるように、ゆうちょ銀行は収益性が非常に低いのです。

その結果、配当利回りが高い、逆に言うと株価が低いということになっています。

また、前期の配当利回りと比べると、ゆうちょ銀行は変わらずで他行は上がっています。

配当は安定こそしていますが、成長余地が無いため、配当目的であったとしても他の銘柄を探した方が良いと考えます。

Next: 買っていい?すぐ売れば大丈夫?「かんぽ生命」の例が参考になる



買っていいのか?すぐ売れば大丈夫?

では、実際に証券会社から勧誘があった時に、応じてよいものなのでしょうか。

売り出しの際には、一般的に基準となる株価から2%~4%のディスカウントがあります。

単純に考えれば、ディスカウントで買ってすぐ売ればそのディスカウント分が儲かることになります。

株価は動くので一概には言えませんが、基本的には有利とされています。

2021年の統計で、売り出しで買って受渡日の始値で売った場合の勝率は65%、平均騰落率は1.3%と、プラスとなっています。ギャンブルとしては”悪くはない”といったところです。

ただし、注意しなければならないのが2019年のかんぽ生命の例です。

売り出しということは、売りが増えて株価は下がるのが一般的です。

しかし、かんぽ生命の時には逆に上がってしまい、条件決定日から受渡日にかけて大きく下がって、その後も下がり続けるという、売り出しで買った人にとっては大損となったことがありました。

それを踏まえて今のゆうちょ銀行の株価を見てみましょう。

ゆうちょ銀行<7182> 15分足(SBI証券提供)

3.91%”上がって”います(原稿執筆時点:3月1日)。

かんぽ生命の二の舞にならないか心配なところです。

そもそも、株のプロである証券会社の人たちが売ろうとしているということは、今が高い時であると考えられます。

そこであえて買いに行くことはないのではないかと思います。

まして、成長性も期待できない銘柄ですし、銀行株は全体的に上がっているので、今は『売り時』です。

長期的に考えて、買う理由はないということになります。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by: Terence Toh Chin Eng / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年3月5日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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