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なぜ行政文書の信用は地に落ちた?アベノマスク単価黒塗り「違法」判決も政府の隠蔽体質は変わらず=原彰宏

新型コロナウイルス対策として政府が全国に配った「アベノマスク」の行政文書で、単価や枚数の「黒塗り」は違法として大阪地裁が開示を命じました。国会では、放送法解釈を巡る総務省の行政文書が話題となっていますが、一連の政府の姿勢はいったいなんなのでしょう。長期安定政権の“おごり”なのでしょうか。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年3月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

アベノマスクの単価「黒塗り」は違法

安倍総理が「これで国民の不安がパッと消える」と言われて国民全員に配布したガーゼマスク、いわゆる“アベノマスク”について、現在ある裁判が行われています。

新型コロナウイルス対策として政府が全国に配った「アベノマスク」の行政文書で、単価や枚数を黒塗りにした部分の開示を大阪地裁が命じました。

原告は憲法学者の上脇博之・神戸学院大教授、被告は「国」です。

大阪地裁判決に対し上脇教授は「単価を非開示にしたこと自体が常識ではありえない。当然の判決だ」と述べています。

原告が請求した45件すべての文書の公開を認めており、ほぼ完勝といえる判決だと報じています。

国の主張にはおかしな点があった……そもそも「アベノマスク」とは、市中でマスク不足が社会問題となっていたことを受けて2020年4月に全戸配布を表明した布マスクのことで、配布終了は1ヶ月遅れて6月でした。

ところが、配布時にはすでに市場では不織布マスクの供給が戻り始めていて、“今さら”という感覚が漂っていたのに加え、非常に小さいマスクであったことが話題になりました。

介護施設や妊婦向けを含めた約2億9,000万もの布マスクを調達し、2021年度末までに少なくとも約502億円を投じました。

厚生労働省の調査では、検品対象の15%に当たる約1,100万枚が不良品であったそうです。国は2022年、余った約7,100万枚を希望者に配って在庫を処分しました。

マスク配布に関して17社と随意契約……上脇教授は2020年4~5月、事業を所管する厚生労働省と文部科学省に、納入業者との契約文書などの公開を請求しましたが、開示された文書は、発注枚数や単価が黒塗りだったとのことです。

一部の文書には「マスクの単価が税込み143円」と、黒塗りし忘れたとみられる記載もあったそうですよ。

それでも実際はいくらで他の契約はどうなのか、価格や業者決定のプロセスも分からないままで、上脇教授は文書45件の黒塗り部分の開示を求め、2020年9月に大阪地裁に提訴しました。

それから2年半近く経って出た今回の判決文では、徳地淳裁判長は「公にしても、国の利益や企業の競争を害する恐れはない」などとして、国側の主張をことごとく退けたのです。

東京新聞は、1つずつ国側の主張が覆った事例をあげています。以下、記事よりその内容を抜粋します。
※参考:アベノマスク黒塗り文書の開示 大阪地裁が国に命令 地裁が一蹴した国のトンデモ主張とは – 東京新聞 (2023年3月2日配信)

<主要部分を“黒塗り”にしている理由(政府見解)>

・営業ノウハウが明らかになると競争に不利
「企業の営業ノウハウ、アイデアが明らかになって、同業者との競争上不利になる」という政府側の論理なのですが。これを判決は、マスクの需給バランスが崩れた特殊な状況下での各企業の調達能力を推認できる可能性はあるとしつつ、「その程度の漠然とした情報が、各企業の競争上の地位を不当に害するとは考えがたい」と一蹴しました。
→ 不当に害するとは考えがたい

・同様に事態で売値のつり上げが可能になる
「同様の事態が生じた際に、売値のつり上げが可能となる」という政権側の主張も、「談合による違法なつり上げでない限り、いわば自由競争の範囲内」と否定されました。その上で「単価が事後的に公開される前提の方が信頼維持の観点から企業に自制心が働きやすく、談合を防ぐことができる。売値のつり上げを避けるには、むしろ単価金額の積極的な開示の方が有益」と正反対の判断を示したとのことです。
→ 積極的な開示のほうが有利と判断

・政府と取引する企業がなくなる
いや、随意契約だったらどこの企業も国と取引したいと思うでしょう。むしろ随意契約だから、国が随意契約により購入する物品代金や単価は、税金の使途にかかる行政の説明責任の観点から開示の要請が高いと、判決で明確にしています。

国側としては、岸田首相は、控訴については適切に判断するとコメントしているようです(編注:原稿執筆時点2023年3月12日。国は情報開示を命じた大阪地裁判決を受け入れ、控訴を断念。地裁判決が確定しています)。

提訴後の2021年11月、会計検査院がアベノマスクの調達平均単価は約139円だったと明らかにしましたが、単価の詳細や契約の経緯は今も不明のままです。

あれ?黒塗りされていない部分で「143円」という数字があったような…。

Next: 特例の随意契約で調達。首相官邸からのトップダウンで強行された…



官僚の思いつきのまま首相官邸からのトップダウンで強行

本来、行政機関が行う公共事業は会計法によって競争入札することが原則とされているのですが、アベノマスクは緊急性が存在するとして随意契約で調達されました。

「随意契約」とは、工事などの発注や物品の調達に際して、競争入札の方法ではなく、それ以外の方法で選定した者と契約を締結することで、公共契約において用いられる用語です。

“例外的”に行われた事業のプロセスを国民が検証するには行政文書が開示されなくてはなりません。

情報公開法は原則として情報公開を義務とし、非開示とする場合は、国に同法が定める非開示事由の主張立証責任を課しているのですが、今の状況では、知られては困る重要事項の“隠蔽”と取られても仕方がないですね。

東京新聞記事では、2022年6月28日、厚労省・経産省・総務省の職員で構成された合同マスクチームの実務上の責任者である厚労省医政局経済課・課長(当時)に対する証人尋問が行われ、マスク調達を担う合同マスクチームは全世帯向け1億枚以上、介護施設向けにも1億枚以上を追加で調達しなくてはならなくなったことを、発表直前まで知らされていなかったことを明らかにしています。

アベノマスク全世帯向け配布事業は経済産業省出身の佐伯耕三首相秘書官が、「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と安倍晋三首相に進言したことから始まったと、当時も話題にはなっていましたね。

なんかバカにされているような表現ですけどね。

現場との実現可能性の検討など一切行われず、官邸官僚の思いつきのまま首相官邸からのトップダウンで強行された事業であったことが、合同マスクチーム責任者の法廷での証言から明らかになったと、記事にはあります。

その布マスク自体にも、カビや汚れ、虫の混入といったこともありましたっけね。

福島の無名会社が受注して話題になったが……

随意契約と言えば、アベノマスク配送に関して、福島市にある企業の存在を思い出します。

福島の無名会社『アベノマスク4億円受注』の謎」という、東洋経済の記事があります。

記事には菅官房長官(当時)の記者会見で「布製マスクを納入した事業者は、興和、伊藤忠、マツオカ、ユースビオ、横井定の5社であります」という発言が載っています。

この中で、一般には聞き馴染みのない会社「ユースピオ」。これがその記事の主人公です。ホームページもないし、NTTの番号案内にも登録されていないペーパーカンパニーと噂されました。

福島市の中心部から外れたプレハブ風の長屋にこのユースビオ社の事務所があるようで、郵便受けの社名は白いテープで隠されていて、窓には、公明党山口那津男代表のポスターが貼られていたことが』話題になりました。そのことで、創価学会との関係が噂されましたね。

Next: アベノマスク関連の文書も捏造か?もはや信用できない行政文書



アベノマスク関連の文書も捏造か?

冒頭で紹介した東京新聞の記事では、法定審理中の政府側のおかしな対応にも触れています。

・情報開示がなされていない
・黒塗り文書
・国側が業者とやり取りした電子メールを廃棄
・アベノマスク1枚あたりの調達単価に55円以上の開き
・すべての見積書や契約書の日付が同じ

何かがおかしい…。

国会では、放送法解釈を巡る総務省の行政文書が話題となっています。これまでも森友問題において公文書の改ざんが大問題となりました。

一連の政府の姿勢は、一体なんなのでしょう。長期安定政権の“おごり”なのでしょうか。

そもそもアベノマスクを作るのも配布するのも、すべて税金が使われています。1世帯に2枚ずつ配布し、調達費・配送費で500億円以上かかったのは前述のとおりです。

さらには、送料10億円という報道もあります(2022年2月4日東京新聞)。
※参考:アベノマスク「送料10億円」の衝撃 在庫8000万枚 「不織布」なら街で3倍の量は買えるのに… – 東京新聞(2022年2月4日配信)

2022年には余った8,000万枚について、その保管費用として9億円以上、さらに介護施設や自治体に”アベノマスク”を配りましたが、その配送費用に約5億円かかったとされています。それでも残った30万枚については、再資源化することになっています。

報道によれば、契約内容を明らかにしようとしている裁判では、当初国側は業者とやりとりしたメールは存在しないとしていましたが、2022年7月の裁判で一転、メールが100通以上見つかったことを明らかにしました。

これについては、裁判所が業者に対して「メールが残っていませんか?」と照会をかけたところ「残っている」という回答があったことから、出さざるを得なくなったとみられていると報じています。

こういった国側の後ろ向きな姿勢について、裁判長は「本気でやっていただきたい。心証に影響を与えうる」と異例の厳しい発言をしているそうですよ。

国が持っている情報は国民の財産。国民の税金でやっている政策であることを踏まえると、たかが単価かもしれませんが、政策決定のプロセスはできうる限り明らかにすべきで、それを求められたら真摯な態度で臨んでほしいものですね。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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