東芝は今、経営が混迷を極めていて、ついに非上場化しようとTOBがかけられています。このTOBに応じるべきなのか、それ以前にもう売ってしまうべきなのか、個人投資家としてどう動くべきか考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
現状に至るまでの経緯
まずは簡単にこれまでの経緯をまとめます。
- 2015年:不正会計問題
- 2016年:米原発関連会社ウェスティングハウスで巨額損失
- 2016年3月:東芝メディカル売却
- 2017年8月:東証2部降格
- 2017年12月:エフィッシモなど「物言う株主」への第三者割当増資
- 2018年:テレビ・PC事業から撤退
- 2021年1月:東証1部復帰
- 2021年4月:英投資ファンドCVCが買収提案(1株5,000円とされる)
なぜ非公開化?~「物言う株主」から逃げろ~
東芝は、エフィッシモなどの「物言う株主」から逃れたいということで、今回のTOBの動きになっています。
物言う株主たちの目的は、東芝の株価を上げて高く売り抜けることです。
彼らは、瞬間的にでも株価が上がるように様々な要求をしてきます。
実際に大株主なので経営陣も無視することはできず、株主総会でも物言う株主の提案が通ってしまうような事態になっていました。
このように、東芝は物言う株主によって身動きが取れない状態だったのです。
東芝は昔から国や日本産業界において大きな力を持っていて、このままではいけないということで、“日本連合”といった形で日本産業パートナーズというファンドを通じて東芝の再建に乗り出しました。
一般の人たちから株を買い取り、上場を取り下げ、まずは経営陣や株主を安定させてから再建しようという動きが今回のTOBです。
現在の株主構成は、海外投資家がおよそ半分を占めています。
つまり、海外投資家の声が大きくて東芝の経営陣はやりたいようにやれないというのが現状です。
正直、今こうして非上場化を目指すのであれば、2017年に東証2部に降格してあと1年で上場廃止になるという時点でいっそ廃止にしてしまって、じっくりと立て直していけばよかったのではないかと思います。
Next: TOBは成立するのか?東芝株を持っていたらどうすべきか
TOBは成立する?
<現在の株価とTOB価格>
物言う株主が入ってきた2017年から今までの間に実は株価は上がっています。
物言う株主は2,800円くらいで買っているので40%ほど上がっていることになります。
ただ、不正会計が発覚する前と比べるとマイナスが大きいです。
今回のTOBの価格は4,620円です。
3月29日の終値4,422円からすると4.5%の開きがあります。
一般的なTOBだと、「サヤ寄せ」といって、TOB価格にピッタリかわずかに(1~2円)低い株価になります。
それなのに4.5%の開きがあるということは、それだけ“不確実性がある”ということです。
TOBが開始されるのが、少なくとも4か月後になるので、その4か月の間に何があるか分からないということです。
TOB価格より安ければ儲かるという普通のTOBとは別物として考えるべきだと思います。
<TOB成立までのハードル>
- 各国競争法や投資規制法の手続きを終えられるか
これに関しては、大きく妨げるものは無いので難しくはないと思います。
- 東芝の取締役会および特別委員会が応募推奨を出せるか
東芝の取締役会には投資ファンドも入っていて、もっと高く売りたいという思惑があるので、取締役会の回答は現在「保留」となっています。
- 株主がTOBに応募するか
今の価格で物言う株主たちがTOBに応募するのかということも懸念点としてあります。一方で、この問題もかなり長引いているので、いい加減手を引きたいと考えている投資家も少なくありません。ただ、このTOBの契約は(違約金はあるものの)解除することが可能なものとなっていて、TOB自体が行われないというリスクも存在します。
- 対抗TOBが出てこないか(=ポジティブなケース)
株主にとってはポジティブなケースとなりますが、日本産業パートナーズが4620円という価格を提案しているところをもっと高値を提示してくるところが現れるかもしれません。
物言う株主はそれを期待し、動いている可能性もありますが、希望的観測に過ぎないとも見られます。
- 政府、産業界、物言う株主、経営陣の様々な思惑…
東芝は内外に様々な問題があり、とてもややこしい状態となっています。そもそもこの東芝の問題は経営陣の社内抗争を発端としていて、今もなお「派閥」が存在すると思われ、新たないざこざが発生する可能性もあります。
上記の問題が6ヶ月以内にまとまらなければ、TOB不成立のリスクも残っているという状況です。
あなたが東芝の株主なら
今、東芝の株を持っているとしたら、TOB成立まで保有し続けるべきでしょうか、すぐに売ってしまうべきでしょうか。
<保有し続ける理由>
- あと5%高く売れる可能性(TOB成立が前提)
- 対抗TOBでさらに上がる可能性
- TOB不成立でも今後成長する可能性
<すぐに売却する理由>
- TOB不成立で株価下落・不安定化
- TOB成立したとしてもそれまでの4か月間は資金拘束されてしまう
Next: 東芝株、すぐ売る?様子見?長期投資のプロの見解は
私の意見
あと5%高く売れる可能性はもちろんあるのですが、いい加減売ってしまった方が良いと思います。
昔からの株主にとっては損切りになってしまうかもしれませんが、このまま持ち続けてもいいことはないと思われますし、むしろ今は5年前と比べれば株価は上がっています。
今ならほぼ確実にこの価格で売れるので、今こそ出口戦略を取るべきではないでしょうか。
そして、その売却して得た資金をもっと成長性のある良い銘柄に移し替えて、今後の資産増加を目指すべき、というのが私の意見です。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2023年4月1日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。