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海外勢が追従?バフェットの“日本買い”に乗っかる日本株投資術。S&P500の「次」として注目される日本市場=岩崎博充

米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏の日本株“追加投資”が世界中の注目を浴びている。日経新聞のインタビューに答えて「日本株買いをさらに増やす」と表明するやいなや、世界中の有力新聞などがバフェット氏に続けといった論調で、日本株を再評価する動きが出たからだ。

実際に、東京証券取引所が4月20日に発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家が4月10日〜14日の1週間で日本の現物株を1兆494億円買い越したそうだ。この週はバフェット氏の日本株再評価のニュースが流れた時期にあたり、その効果が出たものと分析されている。

バフェット氏とは、いったい何者なのか。その投資戦略とはどんなものなのか..。バフェット流投資術の基本を再確認する。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

伝説の投資家だが、いまだに大きな影響力

バフェット氏と言えば、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズと並んで世界3大投資家として知られている人物だ。個人資産額は1,097億ドル(約14.5兆円、米誌フォーブス発表)で世界第6位。世界最大の投資会社「バークシャー・ハサウェイ」の会長兼CEOであり、筆頭株主としても知られている。92歳という高齢にもかかわらず、いまも第一線で活躍する投資家である。

このバフェット氏が、最近になって12年ぶりに日本を訪問。日経新聞や朝日新聞のインタビューを受けて、日本株への投資を追加すると明言したことから、一気に世界中の投資家の注目を集めた。すでに保有している5大総合商社への追加投資だけではなく、商社以外の日本株への投資も示唆したことから、にわかに日本株が注目されたわけだ。

5大商社というのは、伊藤忠商事、丸紅、三井物産、三菱商事、住友商事だが、総合商社は輸出入の貿易ビジネスや国内の卸売りなど、総合的な事業を幅広く展開しており、さらに鉱業や農業、流通小売りまで、幅広い産業に投資を行っている。

そんな総合商社に、バークシャーが投資していると最初に発表されたのが2020年8月。2022年11月には保有比率を引き上げており、今回のインタビューでは、すでに保有比率が7.4%に達しており、将来的には最大9.9%まで追加で買い増す可能性まで示唆した。

こうした動きに対して、米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、バークシャーの日本投資が成功していると報道。「バフェット氏の『日本買い』大成功」(2023年4月13日、日本版配信)の中で、同社が投資を開始して以降、5社の株価は平均で2倍以上に上昇していると指摘。日経平均株価やS&P500種指数の同期間の上昇幅は、いずれも20%程度の上昇にとどまる。そのうえで、最後は「投資家はバフェット流投資に追随するのが賢明かもしれない」と締めくくっている。

なぜバフェットが「日本買い」?

バフェット氏が、日本の総合商社への投資を始めたのは、新型コロナウイルスのパンデミックのさなかだが、ロシアの侵攻はまだ起きていない。いずれ資源価格の高騰が訪れることを、この時点で予見していたかのように見える。資源そのものやその生産、流通企業に幅広く投資している総合商社に対して、バフェット氏が注目したことも今なら納得できるわけだ。

実際に、三井物産はブラジルの資源大手「ヴァーレ」などに出資しており、純利益の6割を資源で稼いでいる。こうした投資行動はバークシャーにも似たものがある、とバフェット氏もインタビューで答えている。5社とも、確実なキャッシュフローを生み出し、3%程度の配当利回りを維持している、とウォール・ストリート・ジャーナルも指摘する。

バフェット氏は、こうした日本の総合商社のトップとも面談しており、将来的にはバークシャーが日本の総合商社と組んでビジネスを展開する可能性さえ指摘されている。もともと商社株は多岐にわたる事業を抱えすぎていて、現代の経営スタイルとしては非効率と評価されてきた。海外の投資家からは長い間敬遠されてきた銘柄のひとつだ。バークシャーの大量保有がわかって以降、海外投資家の注目が集まるようになったわけだ。

Next: 「S&P500」への投資の次は日本株か。商社株以外にも投資対象を物色している



「S&P500」への投資の次は日本株か

バフェット氏といえば、米国を代表する株価指数S&P500を活用したインデックス運用を個人投資家に勧めたことで知られている。バークシャーが発行している「株主への手紙」(2013年)の中で、プロではない投資家は「10%の現金で米国短期債を買い、残り90%の現金でS&P500に連動するコストの低いインデックスファンドに投資するのが良い」と提案したことが話題になった。実際に、1965年から2014年のS&P500の年収益率の平均は「9.9%(配当含む)」に達する。

もっとも、バフェット氏が1965年に経営権を獲得したバークシャーの株価上昇率は、22年まで年平均で約20%に達しており、S&P500の9.9%を大きく上回る。市場が過小評価している銘柄に対して投資することが多く、たとえばロシア侵攻の影響でS&P500が18%(配当込み)もマイナスに沈んだ22年。同社は約785億ドル(約10兆円)を株式投資と事業投資に投じている。こうした割安株への積極的な投資行動によって、同社が保有する上場株ポートフォリオは3,087億ドル(2022年末現在、約41兆3,000億円)に達している(日経新聞23年4月13日「バフェット氏再起動上、市場変調 積極投資に転換」より)。

もともとバフェット氏の投資戦略の基本は明確で、コカ・コーラ、アメリカンエキスプレス、アップル、シェブロン、バンク・オブ・アメリカといった手堅い銘柄を長期間保有するスタイルだ。米CNBCのインタビューでも「日本の商社株は10年から20年保有する予定」と応えている。「成長性」「キャッシュリッチ」「割安」といった要素が揃っていて、さらに事業内容が理解しやすい銘柄に投資する傾向があると言われている。

最低でも10年保有、今後も最大9.9%まで追加投資?

今回のインタビューで投資家を驚かせたのは、「商社株以外にも投資対象を日本で探している」といった趣旨の発言があったことだ。日本に対しては、長い間否定的だった同氏だが、米国と対立する中国のリスクの高まりに対して、中国から日本に鞍替えしつつある、と考えられる部分もある。さらに、最近のシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行破綻の金融危機は「まだ終わっていない」とも発言している。不安定な金融環境の中で、比較的安全な日本を選んだとも考えられる。

いずれにしても、金融システムが比較的安定していて、割安な日本株を今後も探していくことは間違いない。例えば、5大商社の時価総額は最大でも7兆円程度。41兆円のポートフォリオを持つバークシャーなら丸ごと買えない金額でもない。ちなみに、5大商社の時価総額は次の通り(23年4月28日現在)。

・三菱商事…7兆3,177億円
・伊藤忠商事…7兆1,193億円
・三井物産…6兆5,323億円
・丸紅…3兆2,609億円
・住友商事…3兆375億円

Next: 本当に商社株は上昇するのか?バフェットが追加投資を決めた背景



本当に商社株は上昇するのか?

バフェット氏が日本株への追加投資を決めた背景には、資源価格の高騰などで総合商社の業績が向上したことが上げられる。三井物産の23年3月期(国際会計基準)の純利益は1兆800億円になるとの見通しが発表されており、同社の純利益1兆円越えは初となる。三菱商事も、同期(同)の純利益予想を1兆300億円から1兆1500億円に上方修正。ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー、資源価格などの価格高騰が追い風になった。

バフェット氏が日本の5大商社株に追加投資を決めたことが、世界中の投資家の注目を集めたわけだが、実はバークシャーはその投資資金を全額自腹で賄っているわけではない。円建て社債を発行することで、世界的に見て金利の低い円資金を、そのまま日本株に投資している。4月17日に決めた円建て社債の起債では、発行総額1,644億円に達する。すでに、同社は19年から毎年円建て社債を起債しており、その発行総額は1兆2,000億円に達している。割安な商社株に1%程度の低い金利で投資すれば、3%の配当を得られるため、差額で2%程度の利益が出ることになる。

長期的に見た場合、総合商社の業績がこのまま好調さを保てるかは不透明と言わざるを得ない。バフェット氏も、今後は商社以外の日本株に追加で投資していく方針を示しており、銀行株・不動産・鉄道株といった日本独特の経営基盤で、独特の技術を持つ企業が投資対象になるのではないかと報道されている。

一方、東京市場に注視し始めたのはバフェット氏だけではない。米大手運用会社の「ブラックストーン」のスティーブン・シュワルツマンCEOや「KKR(コールバーグ・グラビス・ロバーツ)」の創業者であるヘンリー・グラビツ氏が3月に相次いで来日している。東京証券取引所が1月に行った「純資産倍率(PBR)」が継続的に1倍を下回っている企業に対して、改善に向けた努力を促す方針を発表したが、東京市場の変化ととらえた海外投資家が増えたのが一因ではないか、とも報道されている。

日経平均株価が、史上最高値を記録したのが1989年12月の大納会。3万8,915円はいまだに超えられない高い壁になっているが、とりあえずバフェット氏に乗ってみるのも悪い選択肢ではないかもしれない。

image by: Krista Kennell / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年5月1日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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