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なぜオリンパス株だけ下落?日経平均バブル後高値圏なのに売られている3つの理由=栫井駿介

日経平均に採用される銘柄が大きく上昇している中で、オリンパスは数少ない下落銘柄となっています。しかし、オリンパスというと、内視鏡で世界トップのシェアを誇り、優良企業とみなされています。優良企業のオリンパスがなぜ今下がっているのでしょうか。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

優良企業なのに…

まずはチャートを見てみましょう。

直近6ヶ月のチャートですが、オリンパス(青線)は6ヶ月前から18%ほど下げています。一方で日経平均(ピンク)はプラス15%となっています。セクター全体が下がっている可能性もあるので、同業他社と比べてみると、富士フイルム(緑)は日経平均を上回る21%のプラスとなっています。

なぜオリンパスだけが下がっているのでしょうか。

オリンパスは2011年に不正会計が発覚し、一時は上場廃止になるのではないかと言われるまでになりましたが、そこから一念発起して、ここまで復活と成長に舵を切ってきました。

元々は顕微鏡の事業から始まった会社で、やがて内視鏡の分野に進出していきました。内視鏡の分野はうまくいっていましたが、不祥事以降はそこをさらに強化する動きとなっていました。

さらに、「バリューアクト」という海外のファンドが、いわゆる”物言う株主”として助言を行い、オリンパスの経営はますます良くなっていきました。

バリューアクトのやり方として『選択と集中』というものがあります。収益性の低い事業を売却して、収益性の高い事業に資金を投入してその部分を大きく伸ばし、資本収益性や営業利益率を高めようとするものです。

オリンパスというとデジタルカメラの印象があるかと思いますが、すでにデジカメ事業は売却しています。直近では祖業である顕微鏡事業も売却していて、内視鏡や治療器具の医療分野に特化しようとしているのが今のオリンパスの動きです。

オリンパス<7733> 業績(SBI証券提供)

その結果、売上高はそれほど伸びていませんが、営業利益は大きく上昇してきました。

医療分野はそもそも景気に左右されにくい安定した事業であり、さらにオリンパスは海外の売上が8割を占めていて、アメリカや中国で使われることにより、ますます市場を拡大していくことが見込まれます。

よって、長期的にはかなり有望な会社であると思えます。

しかし、日本株が上昇している中でオリンパスだけが冴えないという状況となっています。

Next: なぜオリンパスだけ下がる?3つの不安要素



オリンパス“だけ”下がる理由

<要因その1:そもそも割高だった>

まず考えられることは、単純に株価が割高だったからではないかということがあります。

PERを見ると8.1倍とあり、逆に割安なのではないかと思ってしまいます。しかし、このPERは気をつけて見る必要があります。なぜなら、今期は「特別利益」が計上されているからです。

オリンパス<7733> 業績(SBI証券提供)

このように、当期利益が営業利益より大きくなっている時は、何か特別な事情があったと考えるのが自然です。PERは今期業績予想の数字から算出しているものですが、当期利益が営業利益を上回っているということで、何か一時的な利益が発生していると考え、基本的にはそこを調整する必要があります。

今回の件は、顕微鏡事業の売却益が含まれているため、当期純利益が営業利益を上回ることになりました。オリンパスの当期純利益は3,360億円ですが、顕微鏡事業の売却益である「非継続的からの当期利益」2,210億円を差し引くと、1,150億円となり、これが実質的な当期純利益となります。

PERは【時価総額÷当期純利益】という式でも求められるので、時価総額2兆7,907億円÷当期純利益1,150億円で、約24.2倍という数字が今のオリンパスの実質的なPERとなります。

24倍となると、安いというわけではなくなり、株価のピーク時には実質PERは30~40倍あったものが24倍程度まで下がったということで、調整の範囲とも言えるわけです。

大きく上がりすぎていたから少し下がったというのが、今回の下落の理由の1つではないかと考えられます。

<要因その2:目の前の不安要素>

目先の環境が芳しくないということもあります。

今期の業績予想が減益の予想となっています。その理由として、顕微鏡事業を売却し、その分の利益が無くなってしまうことに加え、コストがかさんでいることもあります。

前期も調子が良かったわけではなく、円安の恩恵で利益が大きくなっていただけに過ぎず、円安の影響が無かったとしたら減益になっていたということです。

目先で万事うまくいっているわけではなく、勢いが無くなってきているところがあります。
それを投資家が機敏に察知して、オリンパスを買わなくなっていることが考えられます。

<要因その3:バリューアクトの動き>

3つ目の理由として、バリューアクトの動きがあります。

バリューアクトは『選択と集中』が主な戦略ですが、このやり方で一時的には収益が上がるのですが、改革が終わってしまうと急な増益が見込めるような局面ではなくなってしまいます。

今回は売上高は減っている中で営業利益率だけが上がっている状況で、これはコスト削減によって利益を増やしてきたということです。ただ、コスト削減には限界があり、当面はこれ以上のコスト削減によって利益を増やすことは難しくなってきます。

できることは終わったのでバリューアクトはそろそろ売りを考えているのではないかと多くの投資家が思っているのではないでしょうか。

もしかしたらバリューアクト自身も今売っていて、その売りが下落を呼んでいる可能性もあります。

これは想像の域ですが、コスト削減によってこれまで無理な動きをしてきた可能性も考えられます。改革の時に買って、改革が終わったら売り抜けるというのがバリューアクトの常套手段となっているので、もう売っていてもおかしくありません。

Next: オリンパスは買い?売り?長期投資家が取るべき戦略



どうする?オリンパスの株

特に、オリンパスの株を持っている方は不安になっていると思います。そういう方はどう考えればよいでしょうか。

オリンパスの事業はかなり盤石で、需要が確かにある医療分野で、内視鏡で7割のシェアを持っていますから、そのシェアを維持していけばおそらく順当に業績を伸ばしていける会社です。
それに対してPER24倍というのはかなり妥当な水準です。長期で見れば今の株価でも不安の無い状況です。

細かいことを気にしなければ、このまま持ち続ければよいのではないかというのが私の意見です。

一方で、目先の業績が急に上がることもありませんし、コスト増によって厳しい局面も出てくると思われるので今から入るタイミングでもないと考えます。

他の日経平均銘柄と比べて出遅れているからといって、上がるかというとあまりそういう状況ではありません。いま持っているのであれば、一部だけ売るという選択肢もあるかもしれません。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Claudio Divizia / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年5月26日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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