いま、ウクライナ戦争に関連して非常に多くのことが起こっている。ウクライナの即刻のNATO加盟はないことがはっきりしたが、NATOを巻き込みたいゼレンスキー大統領がなりふり構わない状況になっている。大戦争になるのを回避するためには、ウクライナを説得してロシアとの政治交渉につかせる方向への転換しかないと思う。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
ウクライナのNATO加盟はまだ先か
いま、ウクライナ戦争に関連して非常に多くのことが起こっている。
まずリトアニアのビリニュスで開催されている「NATO首脳会議」だが、ウクライナの即刻のNATO加盟はないことがはっきりした。ウクライナについて条件が整い加盟国が同意すれば、加盟に向けた正式な手続きを始めるとし、加盟の時期は決められなかった。この条件とは、ウクライナ戦争の終結のことである。戦争終結のメドはまったく立たないので、当面はウクライナのNATO加盟の可能性は低い。
ウクライナのNATO加盟が実現するまでの期間、NATO諸国は一致して軍事支援を提供し、アメリカは、現在イスラエルに提供しているような手厚い軍事支援をウクライナに与える方向性で検討している。
一方これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、議論されている声明の中で、ウクライナのNATO加盟や招待について時期が示されていないのは「前代未聞でばかげている」と強い不満を表明。ウクライナの「招待」にも条件がつけられているとし、「ウクライナをNATOに招待する用意も、加盟させる用意もないようだ」と指摘している。
周知のようにNATO条約の第5条には、集団安全保障の規約がある。ウクライナのNATO加盟が即刻承認されると、NATO軍がウクライナ戦争に直接介入することになる。ロシア軍とNATO軍の交戦は第3次世界大戦の引き金になる危険性がある。このためネットでは、7月11日が第3次世界大戦の開始を告げる日となるのではないかとのうわさが出回っていたのもこれが理由だ。
少なくとも、そのような可能性がなくなったことは歓迎すべきことだ。ポーランドやリトアニアを始め、東ヨーロッパ諸国を中心にして、ウクライナの即時加盟を支持する声が一定程度あったからである。
NATO首脳会議後の情勢
では、NATO首脳会議後にはどのような情勢になるのだろうか?
いま信頼できる軍事系のシンクタンクで、その分析が行われている。やはり今回のNATO首脳会議は、情勢のひとつの転回点になった可能性がある。スペインの著名な軍事系シンクタンクの「Ejercito」の分析が、シンクタンク系の分析の中でも代表的なものだ。「Ejercito」の分析を要約した。
・同盟国への依存度が高いウクライナは、あらゆる手段を使って同盟国に圧力をかけ、中長期的な軍事・経済支援だけではなく、NATOの即時加盟を求めている。
・しかし、ロシアとの本格的な衝突を回避したいアメリカを中心としたNATOは、即時加盟を受け入れるわけには行かない。これまで通りの支援を継続するだけだ。
・一方、NATOは兵器不足に直面している。戦争介入もできず、またウクライナへの兵器の供給が十分にできない状態はロシアにとってすこぶる有利である。ロシアは現在の4州の占領を続け、勝利を宣言することができる。
・他方ウクライナは、ロシア軍の全面的な撤退を和平交渉の前提にしている。ロシアがこの条件を受け入れる可能性は皆無だ。和平交渉が実質的にできないことになる。
・NATOにとってこれはジレンマだ。兵器の十分な供給も確保できず、また支援を継続してもウクライナが勝利する可能性はほとんどない。反対に、ロシアが弱体化する兆候はない。このままの状態だと戦争は膠着状態となり、ロシアの4州占領が確定してしまうだろう。
・この状況に陥るのを回避するためには、NATOはウクライナを説得して、ロシアの全面撤退を条件にするというこれまでのロシアとの和平交渉の条件を低くし、現実的な交渉を行わなければならない。
これが「Ejercito」などの軍事系シンクタンクの見通しだ。
ウクライナの反転攻勢が始まってからすでに5週間になるが、目立った成果はない。ロシア軍の防衛線の外側にあるロシア軍が「セキュリティーゾーン」と呼ぶ緩衝地帯の集落を奪還できたに過ぎない。他方、ウクライナ軍の損害は非常に大きく、西側が供与した最先端の戦車や戦闘車両の損失が目立っている。
こうした状況なので、ウクライナはNATOに対して勝利が可能であることを証明できなかった。これがいわば災いとなり、NATO首脳会議以降に想定される弱気の状況となって現れている。
Next: ヨーロッパでは極右勢力が台頭。バイデン政権は方針転換に動く?
ヨーロッパの極右勢力の台頭
さらに、こうしたNATOの弱気な状態に拍車をかけているのが、ヨーロッパ諸国の状況だ。
ウクライナ戦争とヨーロッパの不況により、EUやNATO諸国で、将来政権交代がある可能性もある。ウクライナ戦争と過剰な国防費に対しては、イギリスの労働党のような左派と、ドイツのAfDやフランスの国民戦線のような右派が反対している。
フランスの拡大した暴動以降、フランスでもその他のヨーロッパ諸国でも、移民排斥を主張する極右の台頭が一層著しくなっている。もしフランスのマクロン大統領が早期に退くようなことでもあれば、極右「国民戦線」のルペン党首が大統領に就任する可能性がある。
総じてどの国でも極右は、反EU・反NATOである。プーチンの主張する多極型の世界秩序を支持しており、ウクライナ支援にもかなり消極的で、ロシアとの政治交渉による決着を優先している。
インフレと不況、そして国内の不安定さに疲弊した国民は、右派と極右の主張に引き寄せられている。彼らの政治的な影響力が強くなるにしたがって、NATO諸国がこれまでのようなウクライナ支援を継続するのは難しくなるだろう。
さらに、これらの要因に加え、アフリカや中東からの移民による社会不安は、最近のフランスの暴動のように、社会がかき回されれば安定した統治を危うくする例となった。NATO諸国は、ロシアに脅かされるのではなく、国内の脅威に対処しなければならなくなる。
つまり、ヨーロッパの国民は、ウクライナの戦争が自国の安全保障を損ない、経済的大混乱を引き起こしていることに気づき始めているのだ。
フランスの暴動は、ヨーロッパではすべてがうまくいっていないという警告の一撃になった。この暴動は、同化していない北アフリカや中東のコミュニティーに対処するフランスの大きな問題に関係する内政問題とみなされるかもしれないが、暴動はヨーロッパにおける深いフラストレーションとヨーロッパの政治が極右にシフトしていることを表している。
それに加えて、多くのヨーロッパ人が長い間、アメリカからより独立したヨーロッパを望んできたという事実もある。実際、マクロンとパートナーであったドイツやイタリアでさえ、NATOにつながらない欧州司令部の設立を約束していた。アメリカの支配から自由になりたいという国民の支持もある。ウクライナは、ワシントンの命令に従うように彼らを追い詰めた。したがって、ワシントンにいわば強制された格好のウクライナ支援に対するヨーロッパ国民の反発はある。右派や極右の台頭とともに、この反発が表面化する時期に入った。
バイデン政権は方針転換に動くか?
こうした状況で、これまでかたくなにロシアとの政治交渉を避け、ロシアの弱体化を目標にしたウクライナ戦争の長期化を推進してきたバイデン政権だが、「NATO首脳会議」とタイミングを合わせるような形で、ウクライナの方針を転換させる動きも見せている。
周知のようにバイデン政権は、アメリカの世界覇権の永続化を目標にする「外交問題評議会(CFR)」が実質的に作った政権だ。閣僚の大半が「CFR」のメンバーである。「CFR」は、軍産複合体と金融産業、そしてネオコンが結集した組織である。
この4月に国連安全保障理事会出席のためにニューヨークを訪れていたロシアのラブロフ外相に、「CFR」のリチャード・ハース会長が会っていたことが、7月に入ってから分かった。ハース会長は4月以降もほぼ毎月ロシアと接触し、ウクライナ戦争の落としどころを探っている模様だという。
バイデン政権の対ロシアと対ウクライナ政策を実質的に立案している機関である「CFR」の会長が、ロシアと直接接触するということは、バイデン政権が方針を転換し、ロシアとの政治交渉でウクライナ戦争に決着をつける方向に転換しつつある可能性も示唆しているかもしれないと大きな話題になっている。
Next: ウクライナはサボリージャ原発の攻撃を計画していた?
「CFR」は、「フォーリンアフェアーズ」という外交誌を運営している。アメリカの外交政策を知るには、「ニューリパブリック」、「フォーリンポリシー」、「フォーリンアフェアーズ」の3つがあるが、この雑誌はその中心的なものである。
7月7日、この「フォーリン・アフェアーズ」に、「ウクライナをNATOに加盟させるな」という論文が掲載された。この論文は、バイデン政権の方針転換の示唆かもしれないと注目されている。
※参考:Don’t Let Ukraine Join NATO | Foreign Affairs(2023年7月7日配信)
上記(※日本語訳タイトル「ウクライナをNATOに加盟させるな 同盟拡大のコストは利益を上回る」)は無料の記事なので、読むことができる。ヌーランド国務次官やブリンケン国務長官、そしてサリバン補佐官など、ワシントン内部にいるウクライナ戦争の強硬派を説得するような内容になっている。
ウクライナはサボリージャ原発の攻撃を計画?
ウクライナの反転攻勢がうまく行かず、ウクライナの勝利がまったく見えない中、ウクライナの焦燥感は強まっている。勝利のためには、なにがなんでもNATO軍を巻き込み、派兵させることが戦略になっていた可能性がある。
7月の始めまで、ウクライナ南部にある「サボリージャ原発」をロシア軍が攻撃する可能性があるとウクライナ政府は警告していた。しかしながら、「サボリージャ原発」はロシア軍が管理しており、ロシアがこれを攻撃するとは考えにくかった。そのようなとき、次のような記事がロシアの「タス通信」に掲載された。
レナト・カルチャ事務局長顧問は、軍による攻撃は7月5日夜に行われる可能性があると述べた。ウクライナ軍は7月5日夜、南ウクライナ原子力発電所から7月3日に持ち去られた放射性廃棄物入り弾薬をザポリツィヤ原子力発電所に投下し、攻撃を試みる。この声明は、ロスエネルゴアトム総局長の顧問であるレナト・カルチャアが、彼が受け取った情報を引用して発表したものである。<中略>
「7月5日、夜間、暗闇の中、ウクライナ軍は高精度長距離兵器と無人(ドローン)神風ドローンを使ってザポリツィヤ原発を攻撃しようとするだろう」と彼はロシア24TVチャンネルで語った。<中略>
彼らは7月3日、南ウクライナの原発から持ち出された放射性廃棄物を積んだ軍需品をウクライナ軍の飛行場に空輸する計画だ。「放射性廃棄物投下の有事計画では、放射性廃棄物が詰まった弾頭を搭載した精密なトーチカUミサイルを使用する。この狂気を止めなければ、大きな不幸が起こるだろう」とカルチャアは強調した。
これに先立ち彼は、ウクライナが火曜日の夜、ザポリツィア原子力発電所に電力を供給するドニエプル送電線を停止させたと述べた。ZNPPのユリイ・チェルニチュク所長によると、電力供給は14:00までに復旧し、原発は正常に稼働しているという。
ちょうど、この攻撃が行われるとされていた7月5日、ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は、「人為的な大災害が起きる危険性は下がってきている」と発言した。
FOXニュースのコメンテイターとして著名なナポリターノ判事が主催する「JudgingFreedom」という番組にゲスト出演したCIAの元バルセロナ副支局長のラリー・ジョンソンによると、ウクライナは「サボリージャ原発」を攻撃してこれをロシアのせいにし、それを口実にウクライナ戦争へのNATOの介入を実現しようと計画していたという。
これを事前に察知したバイデン政権は、ウクライナに強力な圧力をかけ、この計画を放棄させたという。この計画が実行されていたら、上の記事で指摘されていることが、現実に起こっていたかもしれない。
Next: 原発攻撃まで計画……どうしてもNATOを巻き込みたいゼレンスキー
NATOを巻き込みたいゼレンスキー
ウクライナが「サボリージャ原発」の攻撃を計画していたと聞くとにわかに信じられないかもしれない。しかし、7月10日に行われたウクライナ現地メディアとのインタビューのゼレンスキー大統領の発言を見ると、NATOを巻き込むためには、ウクライナはどんなことでもする可能性があることがよく分かるはずだ。
ゼレンスキーは次のようなことを述べた。「NATO首脳会議」開催の1日前の発言だ。「TikTok」にアップされた。
「NATOはなにをすべきなのか?NATOはロシアに対して核兵器を使うことができる。(中略)ロシアに先制攻撃をして、ロシアがウクライナを攻撃すればどうなるか思い知らせるべきだ。我々はロシアが核兵器を使用するという可能性を除去しなければならない。『核兵器を使いたいのなら、思い知らせてやる』というメッセージを送る必要がある。NATOは圧力の使い方を再考しなければならない。核兵器を使用する優先順位を再考しなければならない」
要するに、NATOは核兵器でロシアを先制攻撃して、ロシアの核反撃能力を除去しなかればならないと言っているのだ。
このような発言が日本のメディアで報道されることはない。追い詰められたウクライナはどんどん過激になっており、コントロールが難しくなっている。そのようなウクライナであれば、「サボリージャ原発」を攻撃してもおかしくないはずだ。
そうした中、「NATO首脳会議」はウクライナのNATOへの早期加盟の可能性を排除し、既存の支援を長期で継続するという比較的に穏当な結論に至った。NATOも過激化するウクライナの対処に困っているはずだ。
大戦争になるのを回避するためには、ウクライナを説得してロシアとの政治交渉につかせる方向への転換しかないと思う。前述の「フォーリンアフェアーズ」の論文が示唆していたのは、これかもしれない。
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- 第642回 124人の退役将軍の公開質問状、なにが起こるか?希望の持てる日本製ワクチン、ウエスルマン博士の追悼記事(5/21)
- 第641回 失業していた方が収入がよい状況、これからなにが起こるのか?ハンク・ウエスルマン博士の追悼メッセージ(5/14)
- 第640回 これはトンデモ情報なのか?ワクチン接種者に近寄るだけで被害?プレヤーレンの警告するワクチンまとめ(5/7)
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- 第639回 食料価格の世界的な上昇はなにを意味するのか?前半、占星術が予見する5月11日、緊急事態宣言は終わるのか?(4/30)
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- 第634回 新型コロナウイルス第2世代の変異株か?ミャンマーは内戦化するのか?タイムスリップの経験(3/26)
- 第633回 ビリー・マイヤーの新型コロナウイルス警告、クレイグ・ハミルトン・パーカーの最新予言(3/19)
- 第632回 高齢者へのワクチン接種の有効性、変異株の最新情報、マイヤーの最新コンタクト記録(3/12)
- 第631回 新型コロナワクチンの危険性は?英科学者団体の公開質問書の警告(3/5)
- 第630回 バイデンのアジェンダは「グレーと・リセット」か?ロシアとの緊張 後半?的中しているホーグの2014年予言(2/26)
- 第629回 バイデンのアジェンダは「グレーと・リセット」か 前半?「国防情報局」が認めたUFOの調査(2/19)
- くにまるジャパン極出演(2/14)
- 第628回 少し見えてきた「グレートリセット」の具体的な中身、クレイグ・ハミルトン・パーカーのトランプ弾劾予言(2/12)
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」(2023年7月14日号)より一部抜粋・再構成
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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