私が2023年後半の注目銘柄として挙げているのがヤクルト本社<2267>です。なぜ今ヤクルト本社に注目するのか、解説したいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ヤクルトの創業と成長
まず、ヤクルトの成り立ちを見てみましょう。
とにかく多くの人にシロタ株を飲んでもらって健康になってもらおうと事業を進めてきた愚直な会社でもあります。
ヤクルトは味も良いですし、健康にも良いということで、飲んだことが無いという方はほとんどいないのではないかと思います。
ヤクルトとしては、この良い商品を海外にも広げていこうとしてきました。
代田イズムを実現化したヤクルトという商品を、『ヤクルトレディシステム』を用いて世界中に普及させてきたのがヤクルトの歩みということになります。
商品を海外に広めようとしたら、お店に並べようとするのが普通かと思いますが、同社はヤクルトレディのシステムをそのまま世界各国に、特に新興国に導入させていきました。
このシステムの良さとして、ヤクルトの良さを直接消費者に届けることができるということがあります。
そもそもの目的が「人々に健康になってもらう」というものであり、ただ店頭に並べただけでは良さが伝わらず類似品との比較になってしまうという問題を販売員が直接説明するという形で克服しました。
ヤクルトレディのもう一つの良い点として、まだまだ貧しい新興国で女性に職を与えることによって、彼女たちも豊かになることができることです。
ヤクルト・労働者・消費者の三方に利点があるということです。
もちろんこれは生半可な話ではなく、ヤクルトレディの教育から始めなければならないので長い時間がかかります。
ただ、それが一度普及した暁には、定期購入もありますし、何より良さが伝われば買い続けるお客さんが多くなります。
こうやって、特にインドネシア、フィリピン、メキシコ、ブラジルといった国に根付いてきました。
まだ業績は伸びる?
こうして近年の業績は右肩上がりに伸びています。
中期経営計画等でも常に新しいヤクルトを提供できる国を増やしていこうということで地道な努力を続けてきた結果、積み上がっていく形で業績を伸ばしてきました。
<「ヤクルト1000」>
特に大きく上昇しているのが2021年からですが、これは「ヤクルト1000」の爆発的な大ヒットによるものです。
これまでのヤクルト400よりさらに効果が高く、ストレスを緩和し睡眠の質を向上させるということで、口コミや芸能人の影響などでブームとなりました。
これがまさに日本での戦略ともマッチしているもので、つまりは高付加価値戦略です。
日本で数的にこれ以上ヤクルトを売るのは難しくなったところで、より良いものを少し高く売ろうということです。
今では供給が需要に追い付かないほど売れていて、それが業績にも表れています。
ヤクルト1000が全国で発売されたのが2021年4月ですが、そこからどんどん伸びてきて、しかも基本的に足りないので生産能力も拡大しています。
「作れば売れる」という状態で、しばらくは工場を作れば作るほど売れる状況が続くのではないかと思われます。
Next: 追い風だらけ?もう1つの興味深い動き「アメリカでの成長」
<アメリカでの成長>
もう一つ興味深い動きがありまして、私がヤクルトに注目したきっかけなのですが、アメリカに工場を建設するという話です。
ヤクルトの世界進出は新興国が中心で、アメリカはそこまで大きな市場ではありませんでした。
ところが今、アメリカでも伸びていこうとしています。
その理由の一つとして、アメリカにメキシコ系の移民が多いことが考えられます。
メキシコには既にヤクルトが入り込んでいて、子供の頃に飲んだヤクルトをアメリカでも飲みたいということでニーズがあったのではないかと思います。
実際にヤクルトの資料等にはヒスパニック系・メキシコ系の方々に売れているとあります。
最近ではウォルマートの店頭でも売られるようになったということです。
さらにヤクルトにとって幸運なことが、野球の大谷翔平選手の活躍です。
日本にもヤクルトスワローズというプロ野球球団を持っていますが、大谷選手の所属するエンゼルスのスポンサーにもなっています。
大谷選手がエンゼルスに入団する前である2009年からスポンサーになっていて、エンゼルスタジアムに広告を出していましたが、大谷選手の活躍によってメディア露出が増えているのは間違いなく、アメリカでのヤクルトの売上が2割増となっているようです。
知名度が高まるのは当然のこと、メキシコ系の移民の人たちにとっては懐かしくてついつい買いたくなる人も増えるのではないかと思います。
まだアメリカでは普及率が高いとは言えませんが、これが高まってくると、市場が大きいので成長余地もかなり大きくなるという想像ができます。
また、これまでヤクルトレディを通じて売っていたインドネシアなどの新興国において、コロナ禍ではヤクルトレディをうまく送り出すことができず苦しい状況でしたが、コロナ禍が落ち着いてきたことで息を吹き返すことも考えられます。
<値上げ>
このように、ヤクルト1000の大ヒットや大谷選手の活躍もあり、業績を伸ばしてきましたが、9月にヤクルトを値上げするというニュースも出ました。
値上げによって一時的に買わなくなる人も出てくるとは思いますが、基本的に値上げは利益率の向上を通じて業績に寄与します。
ヤクルト1000のヒットによって広告効果が高まり、ヤクルトのブランド価値も上がってきていると思われるこのタイミングでの値上げはある意味で絶好のタイミングだったのではないかと考えられます。
ヤクルト1000もまだまだ売るということで、また業績を伸ばすことができるのではないでしょうか。
値上げ率は20%と、もちろん原価の高騰で苦しんでいたところからの脱却ということもありますが、利益に対する貢献度も相当大きくなると思われます。
Next: 大株主に『ノルウェー政府』……今後も株価は上がるか?
ノルウェー政府も“優良”判定
ここで株価を見てみましょう。
ヤクルト本社<2267> 週足(SBI証券提供)
ヤクルト1000のヒットで大きく上がってきて、さすがに上がりすぎたということで、いま少し萎んでいる状況です。
これが例えば8,000円前後で落ち着いてきたら、少なくともPERで見た時には割高感もありませんし、値上げやヤクルト1000の増産で業績がまた伸びるということになれば、そのあたりで底を打つのではないかという想像をしています。
もちろん実際に株価がどうなるかは分かりませんが、それが外れたとしても長期的に安心して持っていられる銘柄であることは確かだと思います。
さらに良い情報として、大株主に『ノルウェー政府』が入っています。
ノルウェー政府というと年金基金です。
石油で儲かったお金を年金の運用にまわしていて、ノルウェー政府年金基金の運用はかなりオーソドックスかつ良い企業に投資してそれを長く持つという動きをしています。
そのノルウェー政府が新しく買っているということは、ノルウェー政府のファンドマネージャーのお眼鏡にかなったと言えるのではないでしょうか。
あわよくばこの買いが呼び水となって新たな外国人投資家の買いが入ることも期待されます。
今、ヤクルトは非常に面白い銘柄かと思いますのでぜひ注目してみてください。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2023年7月27日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。