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なぜ増収増益なのに「ヤクルト本社」株は下がるのか。アナリストの功罪と長期目線での展望=栫井駿介

先日、ヤクルト本社を2023年後半の注目銘柄として取り上げましたが、その後決算が発表され、増収増益となりました。しかし、株価は大幅に下がってしまいました。なぜ下がったのか、そしてこれからの展望はどうなのか、考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

増収増益の発表後に下落?

先日ヤクルトを取り上げた記事がこちらです。

業績が明るく、長期的に期待が持てる銘柄としてご紹介しました。

【関連】2023年後半は「ヤクルト本社」株に注目。大谷翔平のおかげで米国で急成長!大株主にノルウェー政府も=栫井駿介

7月28日に第一四半期の決算が発表され、13%増収、15%増益でした。

出典:ヤクルト本社決算説明資料

この数字を見ると非常に好調に見えますが、一方で株価を見ると、決算が発表された直後に10%以上下落しています。

ヤクルト本社<2267> 日足(SBI証券提供)

増収増益にも関わらず、なぜここまで大きく株価が下がったのでしょうか。

その理由として、アナリストたちのレポートなどを見ると

ということが挙げられていました。

この中で確かに言えることは、中国での売上が伸び悩んでいるということです。

アフターコロナで盛り上がるという期待も打ち砕かれ、不動産価格の下落により富裕層の消費も落ち込むなど、中国のマクロ環境はかなり厳しい状況にあります。

中国におけるヤクルトの販売は店頭が9割ということで、ヤクルトは類似品と比べて割高のため、売れなくなっていると考えられます。

中国での売上の減少や今後の展開に懸念はありますが、増収増益であることに変わりはありません。

にもかかわらず株価が下がった理由は、簡単に言うと、市場やアナリストが勝手に期待しすぎていただけであると考えられます。

会社予想はクリアしているものの、アナリストの予想より10億円ほど利益が少なかったことで株価が下落したという側面があります。

株価は、アナリストの予想と連動する部分が大きいのです。

ヤクルト本社<2267> 週足(SBI証券提供)

ヤクルトの過去5年の株価を見ると、2022年から2023年にかけて大きく上昇しています。

これはヤクルト1000への期待によるものが大きいと思われます。

株価が上昇している局面では、アナリストは株価が上がっている理由を探すこととなり、その結果どんどん評価がつり上がっていく傾向があります。

ヤクルトの株価が上がっていたため、アナリストの業績予想が”上がりすぎていた”ということが実情だと思います。

決算発表後に株価が下がったため、今度は逆に下がった理由を探すことになり、そこに当てはめられたものが「中国の不調」だったと類推しています。

Next: ヤクルト株は買い?長期投資家の目で見ると…



「長期投資家」の目で見る

重要なことはこれからどうなるかということです。

株価は大きく動くもので、アナリストの評価も変わるものですが、『本当の企業の価値』というものはそう簡単に動くものではありません。

大事なことは、ヤクルトがその先何十年にもわたって利益を生み出していくことであり、私たち長期投資家としては目先の問題よりもヤクルトが全体として今後どうなっていくのかを見届けなければなりません。

それを踏まえて現在の状況を見てみましょう。

まず間違いなくあるのは、増収増益に大きく貢献しているのがヤクルト1000であり、とにかく生産が追い付かないということです。

一時はヤクルト1000が大ブームとなりなかなか手に入らないという状況でしたが、今ようやく人々に届けられるようになりました。

これはすなわち「作れば売れる」という状況です。

ヤクルトとしても、発売して以来増産を繰り返し、需要に少しでも追い付こうとしてきました。店頭販売の「Y1000」も同様です。

一方で、これは一時的なブームであって、じきにブームは去るという見方もあります。

だとすると重要なことはブームがいつまで続くかということです。

個人的な調べでは、コンビニやスーパーの棚を見るとY1000が売り切れていたり並んでいる数が少なかったりしていて、Y1000に対するニーズはまだ衰えていないと感じられます。

実際にIRの方に確認しても、今は作った分だけ売れる状況で、生産できる最大量を販売しているということです。

したがって、ヤクルト1000に関しては当面は懸念する必要は無いと思われます。

そこからさらに長期で考えるとどうでしょうか。

ヤクルトの素晴らしいところは『ヤクルトレディ』にあります。

国内の宅配と店頭の販売比率はおよそ半分半分ということです。

普段からやり取りしている人だったら、一度ヤクルト商品を買い始めるとその後なかなか断るとは考えにくく、継続的にヤクルト商品を買い続けると思われます。

つまり、このヤクルトのビジネスモデルは非常に粘着性が高いということです。

逆に、中国では店頭販売がほとんどということで、まだそれほど粘着性の高いビジネスを構築できておらず、だからこそ今回下落してしまったと考えられます。

これまでは中国の富裕層の消費の賑わいの追い風を受けていましたが、これからは地に足をつけてヤクルトらしさを発揮していく必要があると思います。

アジアの他の国においても、これまでコロナ禍でヤクルトレディの教育ができずに売上を伸ばせていなかったのですが、コロナ禍も収束してきたので、これからヤクルトレディをさらに育てて売上を増やしていくことが重要になってくるでしょう。

また、アメリカで非常に好調ということもあります。

2007年にまずアメリカの南西部に進出したのですが、なぜこの地域だったかというと、メキシコからの移民が多く住んでいたからです。

ヤクルトが先に進出して成功したところがメキシコであり、メキシコから移り住んだ人からすると懐かしくて買っていたということもあるのではないかと思われます。

同時にヤクルトはメジャーリーグのエンゼルスのスポンサーにもなっていて、今の大谷選手の大活躍によって広告効果も得られていると見られます。

このように好調なので、アメリカの東海岸の方にも進出しようとしていて、西海岸での深堀りと東海岸への拡大を同時進行で、アメリカでは今四半期10%伸びているということです。新しい工場も建設しようとしています。

Next: 中期経営計画の「年8.8%成長」は少し地味に見えるが…



世界の人々の健康に貢献し続けるヘルスケアカンパニーへの進化

長期投資という観点ではヤクルトがこれから何を目指すのかというところをもう一度確認しておかなければなりません。

国内では高付加価値戦略で、ヤクルト1000はまさにその1つです。

海外ではカバー人口の増加を目指すということで、今は39の国や地域に進出していて、人口カバー率は29.3%となっています。

少しずつながらこれまで様々な国に進出してきていて、今後も進出する国を増やすとともに、その中で深掘りしていき、ヤクルトレディや店頭での販売を通じて人々の生活に深く入り込んでいくという、とても時間のかかる話ではありますが、ヤクルトだからこそできる戦略であると思えます。

財務には全く問題が無く、こういった長期戦略ができる会社だということです。

日本のコカ・コーラになってもおかしくないですし、少なくともコカ・コーラよりは健康に良い気もします。

ヤクルトの業績を見ると、きれいに右肩上がりとなっています。

ヤクルト本社<2267> 業績(SBI証券提供)

ただ、その伸び率としてはそこまで大きいものではなく、2030年までの中期経営計画では年あたり8.8%伸びていくという計画です。

年8.8%というと少し地味に見えるかもしれませんが、これをずっと続けていくことはとてつもないことであり、ヤクルトはそれができる会社であって、長期投資の観点では評価が高いということになります。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年8月11日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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