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実は「少子化」は短期的にはメリットが大きい。焦って外国人労働者・移民を受け入れると最悪の事態に=塚崎公義

少子化は、短期的にはそれほど困ったことではありません。それでも、長期的には国が滅んでしまう国難なので、万難を排して対策すべきです。(経済評論家 塚崎公義)

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プロフィール:塚崎公義(つかさき きみよし)
経済評論家、元大学教授。東京大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)、久留米大学商学部教授を経て2022年に定年退職。現在は経済評論家として執筆活動を行う。著書に『よくわかる日本経済入門』『大学の常識は、世間の非常識』『老後破産しないためのお金の教科書』など。

少子化は、短期的にはそれほど困ったことではない

「少子化」が進むとして、日本経済に何が起きるのか、考えてみましょう。

最初20年間は、子育てのコストや労力がかからなくなるだけで、働く人も稼ぐ人も減らないので、大した影響は無いはずです。

育児用品の産業や教育産業は困るでしょうが、日本経済全体としては団塊の世代の介護や医療に労働力を割く必要がある時期なので、助かるはずです。育児用品の生産は減っても介護用品の生産は増えるので、労働者が産業間を移動すれば良い、ということですね。

20年経つと、労働市場に新規で参入する人が減りますから、労働力不足が深刻化するかも知れません。もっとも、それも過度な懸念は不要でしょう。医療等の進歩によって健康寿命が伸びれば、元気な高齢者が働くことができるので、労働力不足を補なってくれるでしょう。

労働力不足ですから、高齢者でも仕事を探せば簡単に見つかるはずです。高齢者が働くことは、収入の面のみならず、社会との接点を保ち、社会貢献しているという意識も持てることなど、様々なメリットがあるでしょう。

元気な高齢者が働いて税金や年金保険料を支払ってくれれば、財政の負担も減るでしょう。その頃には団塊の世代に対する年金の支払額も減っているでしょうから、その面でも財政の心配はそれほど大きく無いかも知れません。

そもそも、労働力不足は困ったことではない

「不足」という言葉には困ったというニュアンスがありますが、労働力不足は困ったことではありません。企業経営者にとっては困ったことでしょうが、労働者や日本経済にとっては素晴らしいことなのです。

労働者は、失業の心配がありません。今の仕事を失ってもすぐに次の仕事が見つかるでしょうから。

次に、非正規労働者の待遇が改善するはずです。正社員はともかくとして、非正規労働者は待遇を改善しないと必要な労働力が確保できないし、下手をすると他者に引き抜かれてしまいますから。

ブラック企業もホワイト化するでしょう。ブラック企業を辞めた元従業員が簡単に仕事が見つかるなら、残った従業員を繋ぎ止めるためにはホワイト化せざるを得ないからです。

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「外国人労働者の受け入れ」は解決策にならない

労働力不足ならば、企業は省力化投資をするでしょう。飲食店が皿洗いのアルバイトを見つけられなければ自動食器洗い機を買うしかありませんから。

それによって、日本経済全体の効率性が高まっていくことは、好ましいことでしょう。

高い時給の払えない非効率的な企業から従業員が抜け、高い時給の払える効率的な企業に移動することになれば、これも日本経済全体としては効率化することになるでしょう。

財政の面でも、労働力不足は良い影響をもたらすかも知れません。今は「増税して景気が悪化して失業者が増えるといけないから増税反対」という人も多いのですが、景気が悪化しても失業が増えないならば、そうした反対が消えて増税が容易になるかも知れないからです。

もしかすると、「労働力不足で賃金が上がってインフレが心配だから、増税して少し景気を冷やした方が良い」と考える人さえ増えてくるかも知れません。

労働力不足なら外国人労働者を受け入れれば良い、という人がいますが、筆者はそうは思いません。企業経営者にとっては望ましいことかもしれませんが、労働者や日本経済にとっては、労働力不足がもたらす上記の恩恵が得られなくなるからです。

長期的には日本が滅びる国難

このように、短期や中期での悪影響はそれほど深刻ではなさそうですが、長期で見れば日本という国が滅んでしまいかねませんから、文字通りの国難と言えるでしょう。

したがって、少子化対策は100年先のことを考えて万難を排して積極的に取り組むべき課題だと思います。

「これから生まれて来る子には手厚い児童手当等を支給する」と確約し、保育園も待機児童が出ないように整備し、保育士が不足しないように保育士の給料を引き上げる、といったことには費用を惜しむべきではありません。

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日本人が絶滅する未来も…

筆者は高齢者ですが、年金を増やすより少子化対策に注力して欲しいと考えています。天国から日本が滅びるのを見るのは嫌ですからね。

ただ、「遠い将来の日本より今の自分の生活」と考える人も多そうなので、筆者の思いを多くの国民が共有してくれるか、心配です。

人口が減っていくならば外国人の「移民」を受け入れれば良い、という人がいますが、筆者はそうは思いません。日本人の人口が減っていき、それを移民で補うとすると、数千年後には「日本人は絶滅したけれども日本列島に大勢の移民が住んでいる」ということになりかねません。

それは、筆者の望む将来の日本の姿ではないからです。

(筆者注:本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。)

Image by:kapinon.stuio / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年8月23日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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