日米欧の主要中央銀行トップを集めた国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が26日に閉幕しました。しかし、どの報道を見ても的外れな解説がされているため、金融知識がない人は混乱してしまうでしょう。今回はFRBのパウエル議長が語ったことの要点を3つにまとめ、どこよりもわかりやすくお伝えします。(『 角野實のファンダメンタルズのススメ 角野實のファンダメンタルズのススメ 』)
プロフィール:角野實(かどの みのる)
大学卒業後、金融機関に10年ほど勤務。独立して投資家の道へ。現在は企業経営者として活動、FX関連の執筆を多数行っている。
パウエル発言「3つの要点」
日米欧の主要中央銀行トップを集めた国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が26日に閉幕しました。投資家にとって重要なイベントですが、ほとんどの方は専門用語ばかりで非常にわかりにくいと思っている。もしくは、ハナからわからないから、それに類する記事を読もうともしない方が多いと思います。
またこれも非常に問題で、ほとんどの人がわからないような記事を発信して、何の罪悪感も持たない記者・メディアにも非常に疑問を感じます。
おそらく、私の解説を読めばわかると思いますし、ジャクソンホールでのパウエル議長の講演の意味というのが理解できると私は思います。
- 9月会合での利上げは慎重に判断する
- インフレは終息しつつあるが、現状のインフレ率は高すぎる
- 個人消費が旺盛なことを背景に利上げを行う可能性がある
個人的には、これが要旨になると思います。
「いずれインフレは終息する」と言っているだけ
まず、(2)から解説をしていきます。(2)の意味は、経済の原理原則として人は利潤を追求するものである、ということです。もっと平たくいえば、自分は損をしたくない、ということです。
それを解消するためには金利を年利で5.33%とし、インフレ率は7月で年間3.2%であったのです。この場合、現金を持っていれば、年間で5.33%の金利が付き、商品・株・不動産などをもっていれば、3.2%の値上がりが期待できたということを意味します。
どっちを持っていた方が「お得」かという問題で、答えは言うまでもなく、「現金や債券を持っていた方がお得」なのです。
つまり、インフレというのは物資の不足から起こるものと考えれば、現金の価値の方が、物品を持つよりもお得なのですから、人々は現金や債券を持つようになる。
そうなればいずれ「インフレは終息する」と言っているだけの話です。
Next: 金利など上げる必要がない?パウエル議長が世界に語ったこと
「金利など上げる必要がない」
そこで、9月は「金利(5.33%)> インフレ率(3.2%)」なのですから、(1)の「9月会合での利上げは慎重に判断する」の解説になりますが、金利など上げる必要がない、と言っているのです。
しかし、インフレは終息しつつあるが、(3)の「個人消費が旺盛なことを背景に利上げを行う可能性がある」で示したように、個人消費が旺盛であるから、そのお金を使って消費者が多くの物品を買う可能性がある。それによってインフレが再懸念される可能性がある、と言っているのです。
もっとわかりやすくいえば、コロナ禍のサプライチェーンの混乱によって起こったインフレは終息している可能性があるが、今度は好景気によって物価が上昇する可能性がある、と言っているのです。
そのことを理解できない記者や金融関係者が、本当に、星の数ほどいるわけです。この人たちは言っている意味がわかっていませんので、この人たちの解説も何を言っているのかさっぱり理解できないのです。
解説している人たちが議長は何を言っているのか理解できないのですから、それを読んでも余計にわからなくなるのは必然でしょう。
パウエル議長は「これから景気がよくなる」と言っている
そして、パウエル議長が「インフレ率3.2%は高すぎる」と言っているのも理解できない方が多いのでしょうが、これは単年で考えるからです。
たとえば、年利2%と年利3%の「3年後」をそれぞれ見てみると、よくわかります。
<年利2%の場合>
1年後 2年後 3年後
100 → 102 → 104 → 108
<年利3%の場合>
1年後 2年後 3年後
100 → 103 → 109 → 127
3年経過すれば、2%の場合は8%の上昇になりますが、3%の場合は27%も上昇してしまうのです。1万円だったものが3年後には1.27万円になるのです。
これはいくらなんでも、肌感覚で誰でも「インフレがひどすぎる」と感じるでしょう。8%であれば消費税ですので、「ま、こんなものか」と耐えられるインフレだと感じると思います。
パウエル議長はずっと「景気抑制的な政策を維持する」と言っているのですが、これを記者や金融関係者が「不景気」と言っているのにも驚きしかありません。
議長は「これから景気がよくなるから、それを抑制しなければいけない」と言っているのです。それなのに、それを「不景気だ」と拡大解釈しているのです(笑)。私からみれば、呆れてモノが言えない状態です。
私はずっと「景気が悪くなるわけがない」と言っていますが、「コンセンサスは不景気」なんてことは先月までありました。ちっとも議長の言っていることを理解していないと思います。
Next: バブルが起こる可能性も?パウエル発言をどう投資に活かすか
バブルが起こる可能性も?
パウエル議長の発言の真意は、(平たく、わかりやすく言えば、)このまま放置しておくと、バブルが起こる可能性があるよ、それを抑制するために金利を上げるよ、と言っているのです。
だから、その金利の上昇幅に対しては「リスク管理が必要だ」と言っているのです。
金利を上げ過ぎれば、景気を冷やし、株価の急落の可能性があるので、それを慎重に判断する、と言っているのです。それを「リスク管理」と言っているのであろうと思います。
現在、雇用も売り上げも株価も「バブル」と言うほど良い状態ではないのに、金利市場は9月の利上げを織り込もうとしています。
私には不思議としか言いようがないのですが、これはこれで市場がコンセンサスとしてやっているので、まぁ見ておくほかないよね、としか言いようがありません。
「これから景気がよくなる」という大宣言
要点は、サプライチェーンの混乱によるインフレは終息しつつあるが、今度は景気の過熱による物価上昇があるかもしれない。それを今後、FEDとしては対策していく……というように解釈して議長の講演内容を読めば、全体としてすっきりした内容になっています。
これを解説者が「ジャクソンホールは無風だ」「利下げはない」など明後日の方向を向いたようなことを言っているので、金融の知識がない人たちは混乱してしまうのです。
パウエル議長の発言は、これから景気がよくなる、という大宣言で、決して無風なんかであるわけがない、というのが私の解釈です。
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『
角野實のファンダメンタルズのススメ
角野實のファンダメンタルズのススメ
』(2023年8月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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