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もはや長生きはリスク。インフレ時代でも老後資金を枯渇させずに平穏に暮らす方法=塚崎公義

老後資金が足りなくなったらどうしよう……という不安を感じている人は多いでしょう。老後資金に関する最大のリスクは、長生きしてしまうこと。最悪なのは、長生きしている間にインフレが来ることです。しかし「広義の保険」を検討することで、万が一の場合の困難を軽減できるかも知れません。(経済評論家 塚崎公義)

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プロフィール:塚崎公義(つかさき きみよし)
経済評論家、元大学教授。東京大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)、久留米大学商学部教授を経て2022年に定年退職。現在は経済評論家として執筆活動を行う。著書に『よくわかる日本経済入門』『大学の常識は、世間の非常識』『老後破産しないためのお金の教科書』など。

安心のために「広義の保険」をかけよう

地震が来て家が倒れたらどうしよう、と不安になった時、地震保険に加入することを考える人が多いでしょう。しかし、地震のリスクに備えるためには、保険会社と契約する以外にも多くの選択肢があります。

「家屋の耐震補強工事をする」「頑丈な家に引っ越す」といったことに金を使うことで、万が一地震が来た時に家が倒れずに済むかも知れませんから、これらも「広義の保険」と言えるでしょう。

老後資金が足りなくなったらどうしよう……という不安を感じている人は多いでしょうが、これに関しても「広義の保険」を検討することで、万が一の場合の困難を軽減できるかも知れません。

余談ですが、南海トラフのような巨大地震への備えとしては、「ドルを持つ」ということも選択肢でしょう。復興資材の輸入が激増すれば、輸入代金調達のドル買いがドル高を招き、輸入物価が高騰するでしょう。家が倒れなくても、インフレに苦しむことになりかねません。

そんな時にドルを持っていれば、それを高値で売って生活費に充当することができるでしょう。ドルを持っていることが「広義の保険」として役立つのです。

最も備えるべきリスクは長生きとインフレ

老後資金に関する最大のリスクは、「長生き」してしまうことです。

長生きは良いことなのですが、老後資金のことだけを考えれば、長生きしている間に老後資金が底を突いてしまうことがリスクなのです。

インフレもリスクです。老後資金を銀行預金で持っている時にインフレが来ると、預金が目減り(預金の金額は減らなくても、預金で買える物の量が減る)してしまうからです。

最悪なのは、長生きしている間にインフレが来ることですね。老後資金が底を突いた後も長期間にわたって高い生活費がかかり続けるわけですから。

Next: 全額預金は危険。「長生きリスク」にどう備えるべきか



長生きのリスクへの備えは、公的年金と労働

長生きのリスクへの最大の備えは、公的年金を大事にすることです。

公的年金は、どれほど長生きをしても最後までしっかり払ってもらえますし、インフレが来ても原則としてインフレ分だけ支給額が増えますから、老後資金の2大リスクにしっかり備えることができる、非常に心強い味方なのです。

サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)は、年金保険料が給料天引きなので問題ありませんが、自営業者等は年金保険料が未払いだと老後に年金が受け取れない場合もありますので、しっかり払うようにしたいものです。

主婦がパートで働く場合には、厚生年金に加入できるような働き方を選択することが「保険」という観点からは望ましいと言えます。サラリーマンの専業主婦も、子育てが一巡したら働きましょう。

サラリーマンの専業主婦が厚生年金に加入すると年金保険料の支払い義務が生じるので、それを避けようという人も多いようですが、それによって、離婚のリスク、夫が失業した場合に路頭に迷うリスク、等が軽減されます。

保険として重要であることに加えて、厚生年金に加入できるような働き方をすれば、損得の面でも女性の平均寿命まで生きれば元がとれるはずです。老後に受け取れる年金が充実して老後資金の不安が緩和されるでしょう。

長く働くことも重要です。寿命が延びた分だけ健康寿命も延びているとすれば、元気な間は働くことで「老後」を短かくすることができるからです。幸い、少子高齢化による労働力不足の時代ですから、高齢者でも探せば仕事が見つかるでしょう。

儲けるためよりインフレリスクを軽減するための運用を

老後資金を全額銀行預金で持っていると、インフレで目減りしてしまう可能性がありますから、資産の一部をインフレに強い株とかドルとかで持った方が安心ですね。

株やドルは値下がりするリスクがありますが、預金も同様にインフレで目減りするリスク資産なので、様々なリスク資産を少しずつ持とう、というわけです。

株やドルを買って儲けようとがんばると、リスクをとった運用になりがちですが、リスクを避けるためにインフレに強い資産を持とう……ということなので、欲張らずに「米国株の投資信託を毎月少しずつ積み立てる」などが良さそうです。

投資信託であれば、上がる銘柄も下がる銘柄もあるでしょうし、積み立てであれば高い時も安い時も買うことになるので、大儲けも狙えませんが、大損のリスクは避けられるでしょうから。

Next: 老後の借家住まいもリスクになりうる。強制的に“倹約する”方法も



老後は貸家より持ち家

「広義の保険」という意味では、老後の借家住まいを避ける、ということも重要です。長生きしている間にインフレが来て、高騰した家賃を延々と払い続けるようでは、老後資金が底を突いてしまいますから、それを避けるということです。

若い時に自宅を購入し、定年退職までの間に住宅ローンを完済する事が望ましい、というのが筆者の考えです。これには、保険という意味に加えて、もう一つのメリットがあります。

意思が弱くて金を貯める事が出来ない人でも、住宅ローンを借りていれば銀行が強制的に毎月の支払い分を引き落としてくれますから、残った資金で倹約した生活をせざるを得ないわけです。意思が弱い人は、他人に自分の行動を縛ってもらうことが有効ですから。

(筆者注:投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。)

Image by:Ground Picture / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年11月20日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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