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団塊の世代、2025年に全員が75歳以上に。医療・介護・障害福祉の報酬「トリプル改定」で“長生き地獄”は変えられるか?=原彰宏

「社会保障維持のために消費税は必要だ」国会議員や官僚の方々は口々ににこう叫びます。それなのに、消費税の全額が社会保障制度維持のために拠出されてはいないのです。医療制度だけは、資本主義の論理を超えて、税も含めて大幅に構造を変えていくべき時が来ているのではないでしょうか。どう考えても、高齢者の増加と労働人口の減少を見るかぎり、いまの保険制度では維持できないような気がするのですがね。そんなことはお構いなしに、2025年問題に向けて、医療・介護・障害福祉サービス等報酬の「トリプル改定」の議論が始まります。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年11月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

医療・介護・障害福祉サービス等報酬の「トリプル改定」とは?

政府は11月2日の臨時閣議で、事業規模37.4兆円の総合経済対策を決定しました。

医療関連では、2024年度の診療報酬、介護報酬、障害者福祉サービス等の同時改定(トリプル改定)を見据えつつ、「喫緊の課題に対応するため人材確保に向けて賃上げに必要な財源措置を早急に講ずる」と明記しました。

看護補助者等の離職を防ぎ、かつ全産業平均を下回る医療関連職種等の賃上げを継続的に支援する一方で、物価高騰対策では入院時の食費の基準が長年据え置かれたことに言及し、診療報酬の見直しに向けて年末の予算編成過程で検討することも盛り込みました。

診療報酬の改定は原則として2年に1回行われ、2024年度はこの改定の年にあたります。さらに2024年度は、診療報酬だけではなく、同時に介護報酬と障害福祉サービス等報酬の改定も行われるのです。

・診療報酬は2年に1回
・介護報酬や障害福祉サービス等報酬は3年に1回

これら3つが同時に改定されることは「トリプル改定」と呼ばれ、6年に1回の頻度であるため、注目度の高い改定となります。

<診療報酬>

・医療行為(診察、治療、処方など)を行った医療機関への対価

<介護報酬>

・要介護者・要支援者に対する介護サービスを提供した事業所への対価

<障害福祉サービス等報酬>

・障害者(児)や難病疾患の対象者に対する障害福祉サービスを提供した事業所への対価

報酬とは、保険者や市町村から(医療機関が)受け取る報酬のことを指します。大きな社会変革を前にした改定になり、大注目というわけです。

少子高齢化がさらに加速する

厚生労働省の資料によると、2025年度には『団塊の世代』がすべて75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護のニーズが急速に増大していきます。その数、約800万人だそうです。

厚生労働省資料によれば、2025年には後期高齢者の人口が約2,179万人にまで膨れ上がると推計されています。これは国民のおよそ4人に1人にあたります。

さらに世帯主が65歳以上である高齢者のみの世帯数は約1,346万世帯に達し、そのうち高齢者の単身世帯数は約645万世帯となる見込みです。

認知症の高齢者数も、約675万人に増加すると予想されています(発症率が一定で上がらないことを想定した場合)。

これに少子化をかけ合わせると、どれだけ大変な日本社会の未来予想図が浮かび上がってくることでしょう。

少子化が進むということは、納税者や社会保険料負担者である労働人口が減少するということになります。

それは日本が貧しい国になることに加え、お年寄りを社会が救えない国になるということでもあります。

さらに、2025年を過ぎて2040年にかけては15~64歳の生産年齢人口が急激に減少し、2040年には「団塊ジュニア世代」が65歳以上になります。

現役世代人口が減少して医療・介護保険制度の財政が厳しくなるだけでなく、医療・介護の支え手となる人材の確保がより一層難しくなることが予想されるのです。

いわゆる「2025年問題」「2040年問題」と言われるものです。

重要なので繰り返しますが、来年行われる診療報酬改定(トリプル改定)は、団塊の世代すべてが後期高齢者になる2025年を迎える「前年」にあたる重要な改定になるのです。

Next: 高齢者が増え、必要なサービスも複雑化。国民の負担はさらに増えていく



高齢者が増え、必要なサービスも複雑化

トリプル改定に向けて制度横断的な意見交換会がなされました。

医療側の「中央社会保険医療協議会総会(中医協)」と介護側の「社会保障審議会介護給付費分科会(介護給付費分科会)」

話し合われた内容は以下のとおりです。

・地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携
・リハビリテーション・口腔・栄養
・要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療
・高齢者施設・障害者施設等における医療
・認知症
・人生の最終段階における医療・介護
・訪問介護

医療・介護・障害サービスの包括的連携を中心とした「地域包括ケアシステム」を、改定の基本にしています。

※参考:【2024年度】医療・介護・障害のトリプル改定とは? – ファルマラボ(2023年10月16日配信)
※参考:2025年問題とは?医療・介護への深刻な影響を解説 – ファルマラボ(2022年2月14日配信)

このような話になると、医療給付費(保険制度から医療機関の給付するもの、窓口負担以外の診療報酬)が右肩上がりに増えてくるので、制度維持のために患者自己負担額を増やし保険料そのものを引き上げるという議論になります。

すべては、国民皆保険などの日本の医療制度維持のためです。

国民の負担はさらに増えていく

「高齢者の介護保険料、引き上げ検討」日経新聞(2023.11.3)
「後期高齢者、健康保険料上限14万円上げ改正健保法成立」日経新聞(2023.5.12)
「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」厚生労働省

これらのニュースが出るたびに、マスコミでも一応は騒いではいましたが、国民皆保険制度維持、社会保障制度維持の大義名分の前では、みんな渋々、自分自身を納得させてきたのではないでしょうか。

医療制度など、すべての国民の健康をケアする制度において、給付を必要とする高齢者の増加と保険料負担側の若年層の減少により制度の収支が成り立たなくなるという、一見当たり前の資本主義の論理なのですが、この資本主義の論理を、国民の健康を維持する制度に当てはめるのは最初から無理があるのではないでしょうか。

皆保険制度と資本主義の論理はなじまないのではないでしょうか。

小泉厚生大臣のときに導入した介護保険も、当時制度のあり方を、税方式でするか保険料方式でするかの検討がなされていました。

個人的には財政の問題もあるでしょうが、医療制度は税方式にすべきだと主張します。国が国民の健康を守るという姿勢を取るべきだと考えます。

制度維持のための収支バランスで、自己負担額を引き上げ給付を下げるというのは、制度の主旨に反するような気がするのですがね。

Next: 本当に無理なの?「社会保障維持のために消費税は必要だ」



「社会保障維持のために消費税は必要だ」

国会議員や官僚の方々は口々ににこう叫びます。「社会保障維持のために消費税は必要だ」。

しかし、元々消費税導入の目的は「直間比率の見直し」だったはずです。

日本は所得税や法人税などの直接税の比率が高いので、間接税である消費税導入が望ましいとするものですが、もうその比率も大きく改善されていて、間接税のウェイトは税収の多くを締めているはずです。

それに消費税は社会保障だけに使う「目的税」ではなく、プライマリーバランスの改善(国債発行に頼らない財政にすること)のための一般財源となっています。

消費税の全額が、社会保障制度維持のために拠出されてはいないのです。民主党野田政権での「税と社会保障の一体化」って一体何だったのでしょうかね。

医療制度だけは、資本主義の論理を超えて、税も含めて大幅に構造を変えていくべき時が来ているのではないでしょうか。

どう考えても、高齢者の増加と労働人口の減少を見るかぎり、保険制度では維持できないような気がするのですがね。そんなことはお構いなしに、2025年問題に向けて、トリプル改定の議論が始まるのです。

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