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2024年最大のリスク「アメリカの分断」は日本に何をもたらすか?世界10大リスクと影響を解説=原彰宏

毎年恒例、新しい年が始まると、アメリカの調査会社ユーラシア・グループが「今年の10大リスク」を発表します。何と言っても11月にある米大統領選挙、それと地政学的リスク…。やはり、ユーラシア・グループも、最大のリスクとして「アメリカの分断」を挙げ、11月の大統領選挙に向けて政治的な分断がさらに深まり、地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性があると危機感を示しました。日本語訳をもとにそれぞれ紹介しながら解説します。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2024年1月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

2024年最大のリスクは「アメリカの分断」

毎年恒例、新しい年が始まると、アメリカの調査会社ユーラシア・グループが「今年の10大リスク」を発表します。日本語訳をもとにそれぞれ紹介しながら解説します。

NHKの日本語訳をもとに、ランキング形式で「10大リスク」を見ていきましょう。

1位:アメリカの分断
2位:瀬戸際に立つ中東
3位:ウクライナの事実上の割譲
4位:AIのガバナンス欠如
5位:ならず者国家の枢軸
6位:回復しない中国
7位:重要鉱物をめぐる争奪戦
8位:インフレによる経済的逆風
9位:エルニーニョ現象の再来
10位:分断化が進むアメリカでビジネスを展開する企業のリスク
※参考:ことし最大のリスクは「アメリカの分断」 米調査会社 – NHK(2024年1月9日配信)

今年は特段の説明を加えなくても、タイトルでその内容がわかるものばかりで、日頃から大きく話題になっているものばかりですね。

補足が必要と思われるものを、ざっくり付け加えていきますと……

<3位:ウクライナの事実上の割譲>

もし、アメリカ大統領がトランプ氏になれば、今のウクライナ支援は大幅に削減します。欧州でも「ウクライナ支援疲れ」なる表現が出てきています。

いまウクライナでは弾薬などが足りません。戦争を終わらせるには、ウクライナ側で、ある程度領土がロシアに取られるのも仕方がないと諦めることになるというものです。

アメリカなどの支援が滞る事態となり、ウクライナの領土が事実上、ロシアに割譲される可能性があるということで、このリスクが3位にランクされています。

<4位:AIのガバナンス欠如>

企業がほぼ制約を受けないままさらに強力なAIモデルなどが開発され、政府のコントロールを超えて普及する可能性があるとするのです。

<5位:ならず者国家の枢軸>

ロシア、北朝鮮、イランというならず者国家が、ロシアによるウクライナへの侵攻以降、協力関係を深め、既存の制度や原則を弱体化させようとしているということです。

<7位:重要鉱物をめぐる争奪戦>

重要鉱物の生産地は一部地域に偏り、各国政府は価格変動を増大させるなど保護主義的な措置をとる可能性があるとするものです。

これは経済にとってはかなり重要で、日本でも「経済安全保障」の問題がクローズアップされてきています。特に、日本ではエネルギーも含め地産地消の概念が重要になってきています。日本メーカーが、モーターなどのレアアース(希土類)使用を減らす技術の開発を加速させています。電気自動車(EV)用モーターに欠かせない磁石では、プロテリアル(旧日立金属)などが現在主流でレアアースの一種「ネオジム」を原料に使った磁石からの代替を狙っています。

デンソーは、鉄とニッケルのみで構成しレアアース(希土類)が不要な磁石を5〜10年内に実用化する方針を示しました。まずは小型モーターでの採用を目指し、将来は電動車用モーター向けの実用化を視野に入れるとのことです。レアアース採掘では中国が約7割のシェアを握り、各国の経済安全保障を脅かしています。各社は中国依存脱却とともに使用量を減らすニーズも拡大するとみて実用化を急いでいます。

<8位:インフレによる経済的逆風>

この表現の通り、インフレに起因する高金利が、世界経済の成長を鈍化させているというものです。

<9位:エルニーニョ現象の再来>

異常気象によって、食糧難、水不足、物流の混乱、病気の流行、政情不安などをもたらすというものです。

何と言っても、1位の「アメリカの分断」が今年の最大のリスクです。

Next: 米国の敵は米国?リスク1位「アメリカの分断」は世界に何をもたらすか



米国の敵は米国…

高齢で不人気の現職バイデン大統領と、おそらく共和党候補になるであろう有罪判決及び係争中の裁判をいっぱい抱えているトランプ氏の争いで、トランプ氏若干有利の下馬評は、世界中が固唾をのんで見守っていることでしょう。

米国の分極化と党派対立は歴史的な高水準にあり、「政治システムの機能不全は先進工業民主主義国の中で最もひどい」とし、大統領選挙がこの政治的分断を悪化させると指摘しています。

2位の「瀬戸際に立つ中東」に関しては、イエメンの武装組織フーシ派の紅海での商船への攻撃が、貨物保険料の高騰、サプライチェーンの混乱、原油価格の上昇などにつながり、米国を含む世界経済にとってのリスクになるでしょう。

イスラエルのユダヤ人はホロコースト以来最悪の暴力にさらされた後、自分たちが世界的に孤立し、憎しみの対象にすらなっていると感じている一方で、パレスチナ人は自分たちが大量虐殺に遭っていると考えており、和平の見込みも脱出の機会もないといえます。

イスラエルがパレスチナ自治区ガザでジェノサイド(大量虐殺)を行っているとして、南アフリカがオランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提訴しました。

訴えを起こした南アフリカは、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区の「破壊」を計画しており、「国家の最高レベル」が立案に当たったと述べました。

一方のイスラエルは、南アの主張には「根拠がない」と述べ、ジェノサイドを行った者がいるなら、それはイスラム組織ハマスだと主張しました。

ICJの判事は今後、イスラエルがガザ地区での戦争において、「国民的、人種的、民族的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊」しようとしたかを判断します。

ユーラシア・グループの今回のレポートでは「はじめに」として

・3つの戦争が世界情勢を左右する
・ロシア対ウクライナは3年目、イスラエル対ハマスは3カ月目に入った
・そして米国vs米国の争いは、今にも勃発しそうだ

……と表現しています。

2024年の最大のリスクとしている「アメリカの分断」に関しては、こう表現しています。

今年は世界人口の3分の1が投票に行くが、前例のないほど機能不全に陥った米国の選挙は、世界の安全保障・安定・経済の見通しに多大な影響を与えるだろう。

その結果は80億人の運命に関わることになるが、発言権を持つ米国人はわずか1億6,000万人に過ぎず、さらに勝敗はほんの一握りの激戦州の数万人の有権者によって決定される。

民主党であれ共和党であれ、負けた側はその結果を不当なものと考え、受け入れようとしないだろう。

世界で最も強力な国が、自由で公正な選挙、平和的な権力移譲、三権分立による制度的チェック・アンド・バランスなど、基盤となる政治制度に対する重大な挑戦に直面している。

連邦の政治はとんでもない状況にある。

……冷静な分析ですね。

「10大リスク」の全文が読めるPDFはコチラです。
https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/Top%20Risks%202024%20JPN.pdf

「2024年10大リスク 日本への影響」というレポートもあります。
https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/Top%20Risks%202024%20Japan%20Addendum%20JPN.pdf

ここから、気になる箇所をピックアップして紹介します。

Next: 世界10大リスクは私たちの生活にも直結する?日本に対する記述も



日本に大きな影響を与えるリスクも

挙げられたリスクには、日本により大きな影響を与えるものもある。

特にNo.1(米国の敵は米国)とNo.10(分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク )は、米国と経済・安全保障上で緊密な関係にある日本にとって大きい。

中国は日本にとって最大の貿易相手国であるためNo.6(回復しない中国)も重要だ。

インフレと台湾に関連するその他のリスクも、最も縁起が良いともいわれる辰年を迎えた日本に大きな影響を与える可能性がある。

…このあと、1つ1つ細かく解説されていますので、ネットで見ることができるレポートをご確認ください。もう少しいくつか転載してみます。

リスクNo.1(米国の敵は米国)は、日本にとってもトップリスクだ。

1853年にマシュー・ペリー提督が東京湾に来航して以来、米国は日本人の心の中に大きな存在感を示してきた。

そして戦後、米国ほど日本の経済、政治、安全保障、ポップカルチャーに影響力を持ってきた国はない。

ということは、米国の政治システムに問題が生じれば日本にとってのリスクも大きいということだ。

…この表現、なんかうまく言い当てられているような気がしますね。

トランプ再選をある程度覚悟している東京・霞が関ですが、レポートでは次のように書かれています。

安倍晋三元首相は、黄金のゴルフクラブを贈ったり、ノーベル平和賞候補に推薦したりと、トランプをおだてることにたけていた。

しかし、安倍はもうこの世にいない。

そこで東京では、岸田文雄首相(あるいは将来の指導者)が安倍と同じようにトランプをうまく扱えるのかということが切実な問題となっている。

…そうですね。ご指摘は“ごもっとも”ですね。さらに表現は過激になっていきます。

安倍でさえ、トランプが日本からの鉄鋼とアルミニウムの輸入に関税をかけるのを止められなかった。

米国はまだ日本に対し貿易赤字が大きく(2022年には680億ドル)、第2次政権では貿易赤字を嫌うトランプの怒りを買うだろう。

日本は他の国々とともに、再び関税の対象となる可能性がある。

また、日本は現在、2027年までに防衛費をGDPの2%に引き上げる方向で動いているが、トランプはこれに満足せず、さらに引き上げるよう圧力をかけるだろう。

しかし、日本にはトランプに影響力をもつ道があるかもしれない。

トランプは中国に対して非常に強硬な姿勢を取るだろうから、日本のような重要な同盟国が
役立つと考える可能性がある。

…説得力がありますね。もう少し転載してみます。

日本は米国に対する最大の直接投資国である(2022年で7000億ドル以上)。また、米国を拠点とする日本の製造企業は、50万人以上の米国人労働者を雇用している。

その結果、リスクNo.10(分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク )は、日本にとって非常に重いものとなる。

全米で事業を展開する日本企業は、州ごと(カリフォルニア州やテキサス州など)に大きく異なる政策や規制に対処しなければならなくなる。

政治的な二極化もあり、今年は難しい年になるだろう。

1980年代〜1990年代の日米貿易戦争の後、日本企業は政府の支援を受けながら、関税の対象になるのを避けるために対米投資を急速に拡大した。

当時は賢明な行動だったが、今マイナスとなっている。

日本企業は米国の国内政治の対立に巻き込まれる恐れがある。

…なるほどね。そして、中国経済が立ち直らないことへの日本の影響にも触れています。

今年の「10大リスク」は、なんかイメージしやすい、本当に現実化しそうなものばかりで、恐ろしいですね。やはり今年は、荒れる1年になりそうな予感がしますね。

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